野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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最終話 野蛮な男の生きる道

ド級の炎塊を前に恭一は何を思う。

 

(量より質でご挨拶って訳か? 確かに堪らねぇデカさだが、スピードが死んでいる!)

 

後方にバックステップ。

広い空間まで一気に下がった恭一、逃げる場所は四方無限。

回避を選択した恭一を前にスコールは笑う。

 

「ふふっ......質より量を選ばせて貰うわ」

 

指を鳴らし、同時に恭一の眼前で炎塊が炎球に割れた。

無数の炎球が恭一を襲いに掛かる。

対する恭一は素早く左腕を前に、右腕を脇元へ。

両足を広く構える。

 

「や、野郎ッ......真っ向から打ち破る気か!?」

 

炎に対して拳圧で挑もうとする姿に、オータムは声を上げる。

 

(アイツは其処まで自分の肉体に自信を持ってやがンのか!?)

 

普通の正拳突きなら無理だろう。

ならば、普通で無くなれば良い。

 

 

必要なのは加速に次ぐ加速。

足の親指から始まる関節の連動を足首へ。

その加速は留まる事を止めず、膝へ。

膝から股関節へ。

股関節から腰へ。

腰から肩、肩から肘、肘から手首の同時8ヵ所の加速。

 

更に―――

 

31個の骨片をジョイントさせた脊髄内、動作に関係する17ヵ所の各骨片までもフル可動。

可動部位全25ヵ所を同時加速させ、突き出される超加速の拳。

 

「ッッ!!」

 

繰り出された拳は周りを聾する破裂音を轟かせた。

音速を超え、迫り来る膨大数の炎球を小細工無し、真正面から拳圧で消し飛ばす。

 

「うわははは! どーでいッ! まずは俺の勝ちだ!」

「ええ、見事だわ.......まずは私の勝ちだけどね」

 

恭一の左胸が薄ら変色していく。

 

「うげっ......」

 

全て穿ち落としたつもりが、一つ消しきれず、彼の胸を焦がした。

 

「それにしても、熱くないのかしら?」

「熱い事は熱い......が、アンタの姪っ娘のおかげで耐性は出来たよ」

「ふふふ、成程ね」

 

スコールは再び指を鳴らし、彼女の前に炎の壁を展開させる。

 

「次は渋川君の番よ。私の防壁『プロミネンス・コート』......貴方に破れて?」

「折角のお誘い、無碍には出来ねぇってな」

 

腕をブンブン回しながら、炎壁の前まで歩み寄る。

その間、恭一は敢えて隙を見せてみるも、スコールからの応えは妖艶に微笑むだけ。

スコールの想いを解した恭一も、軽く笑ってみせた。

2人の間に生まれた不文律、眺めるオータムも理解し

 

(殺し合いってか寧ろ、比べ合い? 技と力の競い合いって感じだ。何よりスコールのあんな嬉しそうな顔、初めて見たぜ......)

 

少なからず嫉妬した。

 

恭一は炎壁の前で、先程見せたマッハ突きと同じ構え。

 

(......さっきと同じ正拳連打?)

 

だが、繰り出す拳の種類は完全に真逆。

力みを集中させ、加速に必要な弛緩を止める。

身体を極限まで硬直させ、加速に踊る関節を完全固定。

連打は不可能、己の全体重を上乗せさせる重拳。

 

―――剛体術

 

「ッッ!!」

 

炎壁に放たれた剛拳は、空気を打ち叩く轟然たる砲音を震わせ―――

 

 

 

「また私の勝ちね」

 

 

 

嗤うスコールを前に、打ち破る事成らず。

瞬間、彼女の手に炎剣が召喚され

 

「っ......ちぃっ!!」

 

瞬時に頭を切り替えた恭一も、胸に突き出された剣を間一髪で避ける。

 

「炎は無限の可能性を秘めているのよ、渋川君ッ!!」

 

恭一が避けた刀身が一瞬で鞭に変化。

炎を纏う鞭が恭一を見事に締め付けた。

 

「うあ゛ッぢぃっ!?」

「どう? レインの時とは違った痛みでしょう?」

 

焼かれるのでも、焦がされるのでも無い。

身体を締め付けられ、圧迫を受けるのと同時に焼かれるのは別格たる苦痛。

 

「拠点をこれ以上汚したく無いわねぇ」

 

恭一を引き摺りながら、最上階から壁を突き破った。

外観が洞窟に変わり、外へ出た事を示す。

空中で藻掻いても、彼を渦巻く炎鞭がそれを許さない。

 

「地面と水面、激突時はどちらの衝撃が勝るか知っているかしらッ!!」

 

スコールは炎鞭を撓らせ、恭一を光沢を放つ池へと投げ飛ばす。

高速で叩き付けられ、小石を撒き散らすが如く、跳ね上がった水飛沫の中に隠れた恭一の身体は、勢い良く沈んでいった。

 

「時速80kmで水面に激突すれば、水はコンクリートの固さに変わると聞いた事があるわ......是非、貴方の感想を聞いてみたいわね」

 

ゆっくりと水面に浮かび上がる恭一に、唇の両端を大きく弓ならせて話を続ける。

 

(つ、強ぇ.......スコールってこんなレベルだったのかよ)

 

同じく地上へ降り立ったオータムは、己の掌がじんわりと濡れているのに気付いた。

 

「私はねぇ、渋川君......この世界に蔓延している女尊男卑など、露程も興味無いわ。ましてやISが出る以前の男尊女卑もね」

 

何故だか分かる?

 

「ISが生まれる前から、気に入らない者は全て踏み潰してきたからよ」

 

強さに男も女も無い。

立ち塞がる者は叩き潰す。

誰の指図も受けない、自分の好きに生きる。

 

「自尊心が強いだけの馬鹿な男共は私に言ってきたわ」

 

ISが無ければ女は弱い生き物だ。

ISに頼っている時点で、女は卑怯な生き物だ。

ISのおかげで俺達の上に居られる事を忘れるな、と。

 

「そんな連中は残らず叩き壊してやったわ、生身でね」

 

すると、どうなると思う?

皆、同じよ。

彼らは決まって泣きながら許しを請うの。

 

自分が悪かった、許してくれってね。

 

「そんなゴミ共の末路はいつも一緒。このISで消し炭にして終わり」

 

詰まらない。

潰しても潰しても湧き上がる、満たされない日々。

私の人生はこんなモノなのか。

この世に生を受けた結果が、コレなのか。

退屈な時を過ごし、周りに合わせて生きていけと言うのか。

 

「そんなのはまっぴらゴメンよ! 下らない世界に甘んじる必要が何処にあると言うの? そんな世界、私が壊してやるわッ!!」

 

そのためには今よりも、もっともっと力が要る。

ISが力となるのなら、喜んで使おう。

戦力となる者が居れば、喜んで迎え入れよう。

 

「ISを頼みに吠える女は卑怯......貴方もそう思うかしら?」

 

池の中から首を鳴らし、ゆらりと立ち上がる恭一に、試すような視線を送る。

 

「ハッ......まさか。己に必要なら迷わず使うべきだ。ISだろうが、何だろうがな」

「うふふ、貴方ならそう言ってくれると信じていたわ」

 

現実主義者を気取る勘違いした有象無象とは違う。

だからこそ、私は目の前の少年が欲しい。

 

「世界を相手に喧嘩すンのが、アンタの生きる道ってか?」

「生きる道......ええ、そうね」

 

荒唐無稽だとしても、これが私の目指す道。

これが私の生きる道。

そしてその道には渋川恭一と篠ノ之束の存在が必要不可欠なのだ。

 

「貴方の眼を見れば分かるわ渋川君。貴方も私と同じ、この世界に不満を持っている。この世界を詰まらないと感じているッ!!」

「ああ、そうだな」

 

肯定の意を示す恭一にスコールの表情に艶が現れる。

 

「ならば私と来なさい! 共にこの世界を壊しましょう? 世界の全てと敵対する、そう考えただけでもワクワクしてくるでしょう? 全身の血が沸騰してくるでしょうッ!!」

 

―――小せぇなぁオイ

 

「......何ですって?」

「既に世界の頂きに居るモンがよ、わざわざ小物共を蹂躙して何が楽しいってんだ?」

 

「私の勘違いかしら......追い込まれている貴方から聞こえてくる言葉は、まるで自分こそが頂点に立っている。そう聞こえてしまうわねぇ」

「額面通りに受け取れねぇのは耄碌した証だぜ?」

 

恭一を見るスコールの眼光が刃に変わる。

 

(男でありながら何という空威張り、何という虚勢か)

 

「......一度、その身に刻み込む必要があるわね。私が上で貴方が下って事をッ!!」

 

彼女の猛る声と共に『ゴールデン・ドーン』の背から片翼の羽が顕現される。

羽の一枚一枚が炎翼と化したソレは、音を立てて硬化していき

 

「―――慙炎」

 

炎の刃となって、未だ池の真ん中に立つ恭一へ解き放つ。

炎刃群が怒涛に瞬迫する中、恭一はその猛威を見る事無く

 

(やっと精神に身体が追いついてきた)

 

―――こっからは、全開だッ

 

己が浸かる水面に向かって拳を叩き付けた。

 

「なっ!?」

 

即席で水壁を作った?

いえ、あれは壁なんて生易しいモノでは無いッ!!

 

さざ波一つ無かった静かな水面が、眼前に迫った炎刃を下から喰い破る水龍と化した。

巨大な水柱が、対峙する2人の視界から相手の姿を遮る。

 

(見事な切り返しと言いたいけれど、それは悪手よ)

 

視界不良の中で有利なのはISを展開している自分だ。

一方、彼には私の攻撃の出先が分からない筈。

 

スコールは再び炎鞭『プロミネンス』を召喚させ、恭一の身体目掛けて撓らせた。

 

「ふふっ、もう一度叩きつけて――――――ッ!?」

 

確かに鞭は恭一の身体に巻き付いた。

しかしそれは彼女が狙った雁字搦めでは無く、彼の突き出した右腕にのみ巻き付かれていた。

 

「捕まえられたのは、果たして俺かアンタか?」

 

恭一は両足を支点に、繋がれた右腕を前に出し、その場をグルグルとハンマー投げの加速時のように廻り出す。

鞭により、しっかり締め付けられた恭一の右腕と対するは、柄を握るスコールの握力。

其処へ遠心力も加わり、徐々に柄を握っている彼女の指先が

 

「馬鹿なっ.......は、剥がれて―――」

 

無理矢理離されたスコールは、そのまま壁に激突。

 

「ぐうっ......ハッ!?」

 

彼女の目の前には既に瞬速を終えた恭一の姿が

 

「まだよッ!」

 

恭一が攻撃に移るよりも早く、炎壁『プロミネンス・コート』の展開が間に合い

 

(彼にこの壁は破れない!)

 

安堵するスコールを前に、恭一は両足を僅かに開き、大地を踏みしめ

 

(悪いが、必殺させて貰う)

 

拳は造らず、両腕に螺旋を描かせる。

曲線を描き、曲線は円を描き、終には球廻と成す。

 

「―――円転自在にして、球転自在」

 

静かに、緩やかに、撓やかに。

己の左腕を捻じりながら引いていく。

 

「―――叩きつけるは『拳』に非ず『掌』なりッッ!!」

 

可動限界に達した捻腕を廻転させ、炎壁に掌を叩きつける。

衝撃を与えた刹那、もう一度踏み込み、捻りを加えた掌打を零距離から叩き込んだ。

 

 

九鬼流絶招壱式――― " 焔螺子 "

 

 

剛体術ですら打ち破れない頑丈な外部が立ち塞がるのなら、内部から揺さぶれば良い。

打撃では無く、波動を叩き込まれた『プロミネンス・コート』は、内からの衝撃が全体へ波紋していき、鏡の如く割れ落ちた。

 

「そん......なっ......」

「惚けてる余裕あンのかよ?」

 

壁を破壊する事が恭一の目的では無い。

あくまで狙うは彼女自身。

 

(ま、まずいッ!!)

 

炎鞭は自分の手に無い、なら火球を―――

 

「炎壁は無理だったが、アンタの土手っ腹はどうかな?」

 

ま、間に合わないッ!

だが、ISには絶対防御が―――

 

(本当にそれだけであの拳に耐えられるの!? く、来る―――ッ!!)

 

耐えるしかないッ、凌ぐしかないッ!

覚悟を決めたスコールは息を止め、思い切り歯を喰い縛る。

 

「いい貌だッ!!」

 

軸足に体重を乗せ、足の親指、親指の先にまで力を込め

 

「だッ......ラァッ!!」

 

今度こそ、一撃必殺の重みをその身に―――

 

 

―――乾坤一擲、剛体術ッ!!

 

 

「がっ......かは......っ.......う、うふふ.....」

 

(IS様々ね......生身なら貫かれていたでしょう)

 

鮮血を吹き出し、尚も笑うスコールはダラリと下げた右手に炎を溜め

 

「ッッ!?.......!」

 

前方をガードしながら、後ろへ飛び下がる恭一の前で握り潰し、ソレを爆発させた。

 

「す、スコールーーーッ!!」

 

爆炎煙の中、オータムが彼女に駆け寄るが、それを彼女は手で制する。

 

「言った筈よ、オータム。この闘いを邪魔する事は許さないと―――ゴフッ.....がっ......」

 

もしも、邪魔をするのなら貴女でも殺す。

 

そう言われて、オータムは動けなくなる。

スコールはゆっくりと上空へ上がって行った。

彼女の見下ろす大地には、既に次を待ち侘びている少年の姿。

 

「あれ位の炎爆じゃ、目晦ましにしかならなかったみたいね」

「お陰さんでな」

 

ふふふ。

嫌になるわね、全く。

幾度ダメージを与えようが、まるで弱味を見せてくれない折れない子。

ISを纏った私はたったの一発で、おシャカ寸前。

 

ああ、なんて楽しい。

 

「貴方を引き入れるのは間違いかもね」

 

全身に蝕んでいた餓えが、満ちていく。

 

「貴方とこうしている方が楽しい......本当に楽しいわ」

 

 

『君の渇きを潤せる相手は世界じゃない、キョー君だよ』

 

 

嘗て束に言われた言葉が頭を過ぎる。

 

(嘘では無かった......今の私は最高に――――――ッッ!!)

 

辺り一面を覆う眩い光の煌きが起こり

 

「.......正真正銘、これで最後よ渋川君」

 

彼女が纏う『ゴールデン・ドーン』全身を炎雷が包み込んだ。

 

.

.

.

 

「レインと闘ったのなら知っているでしょう? 私も彼女と同じ......全エネルギーと引き換えに、あるモノを顕現出来るのよ」

 

 

―――奉霊の時来たりて此へ集う、鴆の䄅属、幾千が放つ漆黒の炎

 

 

決して大きくない、然れど力強い言霊を経て、洞窟全体の大気が熱を帯びる。

上空に集った炎は炎を喰い、炎と化す。

2人の間で徐々に形を成していく。

 

「っ.......こいつァ......レイン以上だな」

 

火炎を撒き散らす髪に、豪剛とした長い角。

筋骨隆々とした威圧的な巨躯と、地獄から這い上がってきた鬼のような風貌で、恭一を威圧する炎の化身イフリート。

 

空高く、伸ばされたイフリートの両腕に炎が舞い踊る。

その炎は大きく、大きく、大きく、更に大きく。

開幕で恭一を襲ったド級の炎魂がまるで、小さく感じられる程の超ド級。

 

「洞窟内で太陽を拝む事になるたァ、夢にも思わなかったぜ」

「うふふ、寒い夜には丁度良いでしょう?」

 

既に色を失くしたISと共に在るスコールは、噛み締めるように囁いた。

 

「一つ聞きたい事があるのだけれど.......それは貴方を焼き潰した後に聞くとしましょうか」

「なら、俺は今の内に聞いておこう」

「......どうぞ」

 

地上にて、両腕を大きく広げる恭一。

 

「ソレを召喚すンのに、詠唱じみた言葉は必要だったのか?」

 

スコールの掲げた右手にイフリートが反応し

 

「そっちの方が雰囲気出るでしょう?」

 

 

―――轟炎煉獄

 

 

地に聳え立つ少年に向かって、振り落とした。

 

「うわははは! 違ェねぇッ!!」

 

(―――ッッ!?.......アイツ、まさか)

 

恭一から何かを感じ取り、息を飲むオータムを前に、己の両足を大地にめり込ませ

 

「押し返してやるッ!!」

 

迫り落ちてくる化け物級の炎塊に両腕を突き出した。

 

.

.

.

 

「ぐっ......がぁぁぁあッ......! ぐぅぅぅぅぅッ!!」

 

大地にめり込んだ足は更に深く、前に突き出した腕は押しのけられ、轟炎が身体全体に押し掛る。

 

「あっ、ぐっ......ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!」

 

レインの時と同じく、否、それ以上の灼熱が恭一を襲う。

 

(あー......これヤバいんじゃねぇか?)

 

束のナノマシンで無理矢理回復させたとは云え、レインとの激闘を繰り広げてから、まだ7日しか経っていない。

此処へ辿り着くまでにも怪我を負い、スコールにも散々ダメージを貰った。

 

恭一の身体が少しずつ傾いていく。

 

(死ぬ間際には好きな女の顔が浮かぶって云うが......熱いだけじゃねぇか)

 

彼を支えていた膝が大地に折れる。

 

 

《手助けがいるか、恭一よ》

 

じ、じじい......?

 

「出しゃばンじゃねぇ.....っ......殺すぞ.....!」

 

《カッカッカ! それで睨んでいるつもりかの? 諦めかけた野兎が》

 

もっぺん言ってみやがれ、クソジジイ。

 

「誰が野兎だ.......っ......誰がっ......ぐ.......!」

 

《確かにあの嬢ちゃんは強い......じゃが、ワシらの師匠よりも強いのかね?》

 

師匠より?

俺が、九鬼が一度も適わなかった師匠よりも?

 

 

「―――っ......ンな訳ッ.....無ェだろうがぁああああああッッ!!」 

 

 

気力豪声を上げ、己を焼き焦がす轟炎の塊を上空へと弾き飛ばした。

スコールの前に在ったイフリートの姿は既に消え失せ、迫り来る炎塊を前に

 

「ふふっ..........お見事」

 

敗北を受け入れた彼女は静かに微笑んだ。

 

 

________________

 

 

 

(逝かせてたまるかよッ!!)

 

「アラクネェッ!!」

 

スコールを襲いに掛かる炎塊の横から、ISを纏ったオータムが思い切り体当たり。

 

「なっ.....オータム!?」

 

進む力こそ強大だった炎塊は、横からの力で軌道を僅かに逸らされ、スコールの真横へ摺り抜けていき、洞窟壁諸共、地上の彼方へと突き抜けていった。

 

「どういう......つもりなのかしら?」

 

敗北寸前で邪魔をされたスコールは彼女に対し、溢れんばかりの殺気を叩き付ける。

しかし彼女はそんなモノ知らんとばかり、膝を突いている恭一に視線をやり

 

「これで良かったんだろ、渋川?」

「ああ。アンタなら汲んでくれると思ったよ」

 

スコールを抱え、満身創痍の少年の元まで降りて行った。

 

 

________________

 

 

 

イフリートから落とされた炎の前に、恭一はオータムに視線を送っていた。

一瞬ではあるが、それの意味する処は先程の通り。

 

自分が弾き飛ばした炎はアンタに任せる。

 

スコールを想うオータムだから感じ取れた視線だった。

 

「......随分、甘いのね渋川君。禍根は断っておいた方が貴方のためよ?」

 

今の彼女に闘う術は残されていない。

ISも使えず、肉体も恭一の一撃が尾を引き、未だ思うように思うように動かない。

 

「ンな事しねぇよ」

「あら......なら私はまた貴方を狙うわよ? そうねぇ、今度は学園を襲うのも良いかしら」

 

挑発的に笑ってみせる。

 

「ンな事もアンタはしねぇな」

「根拠も無く、やけに言い切るわね。私は貴方を―――」

 

「グダグダうっせぇなぁ! オメェらは黙ってIS学園に来りゃ良いンだよッ!」

 

「「 ハァ? 」」

 

いきなり何を言っているのかしら、この坊やは。

 

「わざわざ遠いとっからイチイチ面倒臭ぇンだよ! 俺も、アンタもだ!」

 

俺が闘りに行くのも、迎え撃つのも遠すぎてダルい。

近くに居れば何時でも闘り合える。

俺はIS学園を気に入っている。

なら、答えは簡単だ。

 

「お前ら教師になれ! それなら毎日闘り合えるぜ、うわはははッ!!」

 

(ねぇ、オータム......この子、馬鹿じゃない?)

(あ、アタシに言われても困るっての......)

 

「あ、あのね渋川君......私、テロリストなのよ?」

「あー......アタシもそうだぜ?」

 

「ンなもんヤメちまえ!」

 

いや、ヤメちまえって言われても。

 

「仮にヤメたとしても、学園の連中が黙ってる訳無いでしょう?」

 

私の存在を知る者が学園にも居る筈。

少なくとも専用機持ちは全員かしら。

 

「確かに楯無先輩はアンタの事知ってるなぁ」

「でしょう? だから―――」

「まぁ何とかなるだろ。俺、生徒会長だし」

「関係あるの? いえ、普通に考えて無理でしょう?」

 

駆け引きが上手いと思ったのは、気のせいだったのかしら。

 

「あーうっせうっせ、俺はもう帰るからな! 疲れたし、死にそうだし!」

「え、ええ。そうね......そうした方が良いかもね」

 

恭一を引き止める気など、今の彼女達には無い。

 

「気が向いたら何時でも訪ねて来い。そン時、アンタの道を小さいっツった理由を教えてやる」

 

そう言って出て行く恭一の背後から

 

「1つだけ今、教えて欲しい事があるわッ!!」

 

オータムに肩を支えられ、立ち上がるスコール。

 

「貴方が頑なにISの使用を拒む理由は何? 男の面子かしら? それとも、それが強者としての意地なの?」 

 

彼女の問い掛けに振り返り

 

「アンタにとってのISは?」

「力よ。当然でしょう」

 

スコールの言葉に頷くオータム。

対する恭一は大いに笑い

 

「ISってのはよ、宇宙を翔ける翼らしいぜ?」

 

唖然とする2人の前から立ち去った。

 

.

.

.

 

恭一の背中が見えなくなってから、大地に腰を下ろすスコールとオータム。

その背後から

 

「彼は行かれましたか」

「貴方は......」

 

2人に声を掛ける副隊長の姿。

 

「ええ。彼に言われましてね」

 

 

『変わっていく世界を、アンタはあの世から眺めるだけで満足か?』

 

 

「恥ずかしながら、もう少しこの世界を生きる事にしました」

「ふふっ......そう」

 

私もどうしようかしらね。

まずは身体のケアをして、その後は―――

 

 

________________

 

 

 

「っ......キョー君ッ!!」

 

ロケットから飛び出してきた束の前で、安堵から力が抜ける。

彼女に抱き止められる形になった恭一は

 

「恭一様のお帰りでぇ~」

「バカな事言ってないでッ! 早くカプセルの中に入って!!」

「.....ぁぃ」

 

怒られた恭一はシュンとなりつつ、治療装置の中へ。

 

「まぁた包帯男に逆戻りだなァ」

「自業自得でしょ、馬鹿キョー君」

 

非道い言われ様である。

それもその筈、束は見守る事しか出来なかったのだから。

彼の無謀で無茶な闘いっぷりを全て。

飛び出したい気持ちをひたすらに堪えて。

 

「学園に帰っても地獄だかんね」

「何でさ?」

 

暖かいベッドが待ってるじゃないか。

 

「『たんれんぶ』の皆に連絡しちゃった♪」

「.......ウッソだろ」

 

約束された地獄の存在を聞かされた瞬間だった。

 

「......夢の中で癒されてくるわ」

「はぁい、いってらっしゃ~い♪」

 

頭に何やら装置を付けた恭一はカプセルの寝台へ転がり、あっという間に意識を沈めた。

 

.

.

.

 

「よぉ......さっきぶりだな、武神」

「くふっ.....さっきぶりじゃて、狂人」

 

夏休みが始まった頃、束が恭一にプレゼントした発明品を覚えているだろうか。

自分と闘う事が出来る『夢でもし逢えたら君』である。

精神世界故に、既に全快姿の渋川恭一。

そんな少年と対峙するは武神、九鬼恭一。

 

「あれからまだ3ヶ月と言った処じゃが」

 

この世界に生まれ落ちて16年。

 

飯を喰らい。

気を喰らい。

嘲りを喰らい。

喜びを喰らい。

哀しみを喰らい。

そして愛を喰らった。

 

「脆弱だった狂い餓鬼が、よもや此処まで大きくなるとはの」

 

九鬼は目の前の少年を手放しで褒め称える。

 

「へっ、そりゃどうも」

 

 

渋川恭一という少年は平気で嘘をつく。

その相手は千差万別。

他人にも、敵にも、友にも。

愛する者にも嘘をつく。

 

 

世界一を自称しては居るが、それは恭一で在って恭一では無い。

九鬼であって渋川では無いのだ。

 

「そろそろ頂点に立たせろよ」

「押し退けてみンかい」

 

武神と狂者を歪みが彩る。

 

「聞いてみたかったんだがよ。アンタならさっきの闘い、何程で終わらせられた?」

「ん~......」

 

顎に手をやり、しばし考える。

 

「ワシなら2秒で釣り来るな」

「...............」

 

 

 

" ぶっ殺すッ!! "

 

 

" クハハッ、来ぉいッ!! "

 

 

恭一の生きる道はまだ始まったばかり。

 






ぬぅぅわぁぁぁん疲れたもぉぉぉんッ!!

これにて本編終わり! 閉廷、以上解散ッ!!


あ、そうだ。
アフターストーリー的なヤツは書く予定だゾ(多分)

修学旅行編だったり、まどっち編だったり。
イタリアのお姉さん編だったり。
4月に発売される11巻編だったり(#゚Д゚)y-~~

では、また!

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