野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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第141話 兵士の死に場所

「......IS部隊がやられたってよ」

「そう.....」

 

オータムの言葉にスコールは抑揚無く返す。

 

「驚かねぇんだな?」

「貴女こそ、予想通りって顔してるわよ」

 

オータムは面倒臭そうに前髪を掻き上げ

 

「女が強い世界、ISを纏った女は最強。この常識に唯一あの男は当て嵌らねぇモンスターなんだ。常識に囚われてるアイツらじゃ勝てねぇよ」

 

過去の自分もそうだった。

野郎を見下し舐めて掛かった結果がコレだ。

両腕と片目を失ったが、高い授業料だとは思っていない。

スコールと同じ機械義肢にコーティングされた事もあるが、自分は生きているのだから。

あの時エムの乱入が無ければ、自分は間違いなく殺されていた。

 

(まったく......アタシはまだ運が良い方だぜ)

 

「この調子じゃ大した傷も負わずに此処へ辿り着きそうだな」

「あら、それはどうかしらね」

 

それは微笑むと云うよりも、何処か快味を漂わせる笑み。

 

「オイオイ、残ってんのは野郎共だぜ? しかも一度渋川に返り討ちされたらしいじゃねぇか」

「ええ、そうね。ISも纏えない、この時代では弱者とされる男達ね」

 

だからこそ良い。

先に戦った彼女達と彼らとの決定的な違いがある。

彼らは決して渋川恭一を下に見ない。

何よりISが介入しない戦いに、全力で身を投じる事が出来る。

それは嘗て戦場を駆けた男達にとって、これ以上無い喜び。

 

(そうでしょう、ジョン・マッケンジー副隊長?)

 

 

________________

 

 

 

「......城の中に庭園たァ、贅沢してんなオイ」

 

辿って来た木の床でも鉄の床でも無い。

この部屋は室内でありながら、まるで外と同じ。

辺りの景観を楽しみつつ、砂利道をサクサク歩く。

人工的な池に架けられた橋の上まで来た恭一は、一休み。

 

「この池の水.....飲めっかな?」

「あまりお勧めは出来んよ、渋川恭一殿」

「......何処かで会ったか?」

 

橋の先に植えられた樹の後ろから、のっそり出て来た男をマジマジと見やる。

 

「ホテルで君に手痛い敗北を喫した者、と言えば分かるかな?」

「ああ、ぼんやりとだが覚えてンわ」

 

恭一は話に乗りながら、頭を働かせる。

 

この部屋に入って直ぐに、目の前の男からの視線は感じていた。

しかし、何故こうもあっさり出てくる?

コイツらは確か軍人崩れの筈......フェアプレー精神なんて柄じゃ無いだろう。

 

「敵を前に考え事かね?」

「敵と見做されているとでも思ってンのかい?」

「フッ......言い得ているッ!!」

 

恭一に向かって一直線に駆けて来る。

 

(何の工夫も無しに? そんな筈が無ェ!!)

 

嫌な予感と共に、恭一はその場を飛び上がった。

同時に橋が崩れ落ちる。

 

(成程、あのまま立ってりゃ池ン中へドボンだったって訳―――おぉ!?)

 

地中に潜んでいた兵士達が空中に居る恭一へ向かって、飛び掛る。

彼らの目的は唯一つ。

恭一を攻撃する事では無く、纏わり付く事のみ。

少しでも恭一の枷となる事を目的とした特攻だった。

 

「っ......ッ!!」

 

掴み掛かってきた来た者の頭を踏み台に、もう一度飛び上がる。

今度は向かってきた兵士目掛けて。

空中にて、恭一は自分に襲い掛かる兵士達の人中を正確に穿ち、喉を抉り、着地する。

と、同時に両腕を広げて全身を掴もうとする者の股間を下から蹴り潰した。

 

「うぉおおおっ!」

 

彼らを一蹴し終える直前、ジョンが雄叫びと共に背後から突っ込んでくる。

声に反応した恭一はすぐさま振り返り、ジョンの姿を目視。

突進して来る彼の手にはナイフ。

 

(間合いまで後―――いや、違うッ!!)

 

ナイフを振りかざしているのにも拘らず、この男からは突く気も切る気も、放る気すら感じてこない。

 

「気付いた時にはもう遅いぞ、渋川殿ッ!!」

 

(この距離なら外さない!)

 

低めから改造式スペツナズ・ナイフを発射。

時速80kmのナイフをどうする!?

顔面に迫り来るナイフをどうする!?

 

「こうするに決まってンだろッ!」

 

指で受け止め、そのままジョンに向かって投げ返そうと

 

「―――ッ!?」

 

恭一とジョンの間には、黒い筒が既に投げ出されている。

目の前の男は汗を垂らしながらも、覚悟を決めた表情を浮かべていた。

 

「言った筈だ少年。気付いた時にはもう遅い、と」

 

2人の間で起爆する改造式スタングレネード。

250デジベル以上の爆発音と150万カンデラ以上の閃光が2人を襲う。

突発的な目の眩み、難聴に耳鳴りなどと生易しいモノでは無い。

改造された事により望外な威力を放った事で、2人の三半規管は滅茶苦茶になった。

 

方向感覚の喪失は元より、指先すら痺れで思うように動かせなくなったジョンは倒れ込む間際、あらん限りの声で叫ぶ。

 

「今だぁあああああああッッ!!」

 

樹の上、池の中、地中にまだ潜んでいた者がジョンの号令を受け、飛び出し、フラついている恭一の元へ一斉に襲い掛かる。

 

(あれだけの衝撃を受け、尚も倒れないのは見事ッ! だがこの闘い、勝ったのは―――)

 

ぼやける視界の中、ジョンは再び汗を流す事となる。

 

.

.

.

 

(あの時にもっと疑問を抱くべきだった)

 

何故、自分の背後を取りつつもわざわざ声を上げる必要があったのか。

声を荒げて襲うなど馬鹿のする事。

訓練された兵士がそのような愚行を犯す筈が無い。

 

(あの男は全て狙っていた。叫んでわざと自分の位置を教え、わざとナイフを見せた)

 

スペツナズ・ナイフが俺に止められる事すら布石だったのだろう。

全ては俺の動きを、俺の感覚を奪うため。

自らを犠牲にしてまでも。

 

「ククッ.....」

 

これだから闘いはやめられない。

覚悟を宿した者との闘いはこれだから面白い!

 

恭一は痺れて力が上手く入りきらない両手で、何とかナイフを包み込み

 

「ッッ!! グッ.....ガァァァァアアアアアッッ!!」

 

刃先を己の左眼へと突き刺した。

 

「「「「 ッッ!? 」」」」

 

急な奇行に足を止めてしまう兵士達。

 

(き、気付けかッ! 感覚を取り戻すために敢えて激痛をッ!?)

 

「間を置くな! いけっ、いけぇ!!」

 

ほんの数秒だが、恭一にとってはこれで十分。

刃先に刺さった眼球を口に放り込み、啜る様に噛み砕く。

 

「んぐっ......プハッ......ご馳走さんッ!!」

 

迎撃するよりも討って出る。

襲われるよりも襲い掛かる。

縮こまった神経感覚共に喝を入れ、意識を覚醒させた恭一は、吼声を上げる。

傷の影響を物ともせず兵士達を無力化し終え、己の血を舐めながら、倒れているジョンの元まで歩み寄る。

 

(私の負けだな)

 

未だ満足に動けない彼は、既に己の死を受け入れている。

 

「殺される前に1つだけ聞かせてくれ」

「おう」

「何故、眼を抉る必要があった? 気付けなら他の部位でも良かっただろう?」

「喉渇いてたからな! あんま美味しくなかったけど、これも経験だろ! うわはははッ!」

 

一石二鳥だと豪快に笑う恭一だが

 

(フッ......なんとも嫌な一石二鳥があったものだ)

 

釣られて笑い

 

「このような時代に君のような者と戦えて良かった」

 

大の字に、仰向けとなる。

 

「さぁ、殺ってくれ」

 

恭一が頷くのを確認したジョンは

 

(ISが兵器として蔓延る世界だが、このような者と切磋琢磨出来る世になって欲しいものだ)

 

穏やかなまま、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

________________

 

 

 

「よぉ」

「..........貴方、その眼」

「男っぷりが上がったろう?」

 

待ち構えていたスコール、そしてオータムも少なからず驚きを見せた。

流石に無傷で此処へ来る事は無いとは思っていたが、片目を失くしているのは想定していなかった。

 

(そう......良き死に場所を得たのね、ジョン副隊長)

 

恭一が訪れる前から既にISを纏っていたスコールは嬉しそうに立ち上がる。

 

「此処まで来たって事は、日を改めるつもりは無いのね?」

「今が絶好調なんでな。帰ったら風邪引いちまわァ」

 

それ以上は互いに不要。

言葉の応酬など、後から付いて来る。

今は唯、この刻に身を委ねるのみ。

 

オータムを後ろへ下がらせたスコールは右手を空に向かって掲げる。

 

「最初から全開で行くわよッ!!」

 

掌から創造される火球を炎に、炎球を炎塊に。

小さな火球がどんどん膨れ上がっていく。

船上で見せた小さな複数の火球では無く、スコールの掌には一つのみ。

だが、その大きさは今までとはケタ違い。

 

(スコールがこんなにバカデカイ火球をひねり出す処なんざ、アタシですら初めて見たッ......す、すげぇっ!)

 

対する恭一も大いに笑う。

 

「出し惜しみを拒むその感性が......俺の血を滾らせるッ!!」

 

決戦の幕が今、開かれた。

 





(#゚Д゚)y-~~

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