野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

143 / 180

開幕は賑やかに、というお話



第140話 純粋なる暴威

「此処がそうなんか?」

 

ロケットから出た恭一の一言。

目の前には大きな洞窟、そして人工的に作られた跡が見て取れる穴。

おそらく入口なのだろう。

 

「拠点って云うからもっとこう......秘密結社的なよぉ......アレだ、織斑のワールド・パージで見た基地みたいなンを想像してたんだが」

 

唯の洞窟じゃ少しテンションも下がってしまう。

 

「それに関しては大丈夫だよ~」

「む?」

 

束もロケットから降りてくる。

 

「どういう意味だい?」

「この洞窟内を歩いて行けば分かるよん♪」

 

どうやら洞窟景観はあくまで、隠れ蓑と云う事らしい。

 

「はい、これ」

「おう!」

 

ソフトボールより少し大きい位の尺玉を束から受け取る。

 

「もうね。これを作ってくれって言われた時に察したけどさぁ......潜入する気ゼロだよね、キョー君」

 

ジト目で見てくる束だが、もう諦めたのか吹っ切れたのか、恭一と同じく少し楽しそうである。

 

「わざわざこっちから遊びに来てやったんだ。呼び鈴は必要だろう?」

「打ち上げ花火をチャイム代わりにする人なんてキョー君位だよ」

 

恭一は笑いながら、肩を回し背中を伸ばす。

傷の具合を確かめた処、暴れるのに支障は無さそうだ。

 

「んじゃ、ちょっくら行ってくる」

「はーい。気を付けてね~」

 

近くへ買い物にでも行くかのようなやり取り。

束もそれ以上は言わない。

生きて帰ってくるに決まっている。

そう信じているからこそ、必要以上に声は重ねない。

 

恭一の背中を見送った彼女はロケットへ戻り、先の準備に取り掛かった。

 

 

________________

 

 

 

「.......すげ」

 

暗がりの洞窟。

道中、何本もの道分かれはあったものの、特に何も考えずに突き進んだ結果。

あっという間に本基地が見える所まで辿り着いた恭一。

おそらく、今まで彼が散々口に出してきた豪運がやっと発揮されたのだろう。

そんな彼の前に現れたのは壮観たる日本独特の、石垣で積み上げられた城だった。

 

「スコールが作らせたのか? 良いセンスしてんなぁ」

 

顔だけ覗き込んで、扉らしき場所を確かめる。

立派な門構えの前には2人の女兵士の姿。

武器を持っていない処を見ると、ISを装備している事が分かる。

 

(こんな時間まで.....テロリストってのも大変だ)

 

時刻は既に3時を回ろうとしている。

しかし、この拠点に居る者達は少なくとも、入り組んだ洞窟任せにはしていないらしい。

 

(.....ううむ。どうする? 俺としちゃあ、どでかい花火で幕上げといきてぇ)

 

門構えの前に居るのは2人。

ISを展開されるのは良いが、銃やロケット的なモンでも出されたら困る。

主に爆音的な意味で。

 

(新聞配達に扮装したら、誤魔化せないかな?)

 

誤魔化せる訳が無い。

 

(だ、駄目だ。新聞持って来てないじゃないか)

 

そういう意味でも無い。

恭一は他にも集金、三河屋、デリバリーを思い付くも

 

「無理に決まってんだろぉぉおおおおッッ!!」

「なっ、何者だ貴様!?」

 

咆吼では無く、突如何かを叫びながら突進してくる者アリ。

 

「ハッハーッ!! 悪者だッ!!」

 

1人はISを展開する前に顔面に飛び蹴りを喰らい、壁に頭から突っ込み鮮血を吹き出すと共に意識を失う。

もう1人は瞬時に状況を察するや、後方へ飛ぶように下がりISを展開。

武器を召喚しながら、スコールに通信を送るが

 

「っ.....繋がらなっ......こひゅっ」

 

既に女の後ろへ瞬速し終えていた恭一は後頭部を掴み、横へと力任せに回した。

捻るのでは無く回す。

360度、目の前の景色が移り変わるの見終えた女は人形のように崩れ落ちた。

見張りの兵達を騒がれる前に無力化した恭一は、早速嬉しそうに尺玉を取り出し火を着け、上空へ投げる。

 

 

.......ドォォォォンッ!!

 

 

夜の静けさを打ち破る雅な轟音に、煌びやかな花の火。

それは侵入者の存在を知らしめるに、十分過ぎる大音響。

 

「晩秋の候に花火ってのも、菊月らしくて良いねェ」

 

嬉しそうに見上げて笑う恭一。

そしてこの結果、彼の目論見通り、就寝を迎えていた者達の意識を飛び上がらせる事に成功した。

 

 

________________

 

 

 

「一体何が起こった!? あンだよあの爆音は!?」

 

中枢室へ飛び込むように扉を開け、やって来たオータム。

 

「監視カメラのチェックをお願い」

「ハッ!!」

 

どうやらスコールも今しがた来たようで、部下達に指示を出している処だった。

モニターに監視カメラの映像が流れる。

其処に映し出されたのは

 

「......渋川恭一?」

「なっ、何でアイツがこんな所に!?」

 

城の扉に備え付けてある監視カメラ。

その下でカメラに向かって、ピコピコと手を振っている恭一の姿が。

その姿が確認されるや、全ての監視カメラ映像が灰色の砂嵐に変わった。

 

「っ......何者かに内部のハッキングを受けましたッ!」

「んだとぉ!? この拠点をハッキング出来る奴なんざ居る訳ねぇだろ!!」

 

オータムは声を荒げるが、スコールも同意見である。

だが、それでも彼女には一人だけ心当たりがあると云えばある。

 

(......篠ノ之束も噛んでいる? いえ、それよりも今は―――)

 

顎に手をやるスコールのISに通信が。

確信を持って彼女は繋げる。

相手は勿論

 

『年を取れば人間目が覚めやすいって云うが、起きてたかい?』

「流石にこの時間じゃまだ寝てたわよ」

 

慇懃無礼な少年、渋川恭一からだった。

 

「どういうつもりかしら? 決戦の舞台は3日後でなくて?」

『嘘ついてメンゴ』

 

ケラケラ嗤う恭一。

最初からこうなる事を目的としていた口振りだ。

ディスプレイの向こうに映る少年は更に続ける。

 

『命を張った大喧嘩......最後まで立ってンのは俺かアンタ達か。言葉はそれだけで十分だろう?』

 

ゾクゾクゾクッ

 

彼の眼に己の血が猛烈に滾るのを感じる。

 

(鳥肌......? いえ、これが武者震いと云うモノなのね)

 

渋川恭一は一人だ。

それはディスプレイに彼が一人で映っているからでは無い。

レインが捕らえられた時の通信とはまるで貌が違う。

それだけで彼の本気が伝わってきた。

 

渋川恭一は1人で私達を刈り取りにやって来たんだわ!

 

「その喧嘩、受けて立つわ渋川君。私は今も貴方が欲しいという想いは変わらない......けれど、部下には敢えてこう命令しましょう......渋川恭一を殺せ、と」

『......今日は死ぬにはいい日だ。そう思わねぇか、スコール・ミューゼル?』

 

「うふっ.....うふふふ......あはははッ! あはははははッ!!」

『クックッ......だぁーっはっはっはっはっ!!』

 

静かに呟いた言葉の意味を知るスコール。

そして、当然其れを呟いた恭一本人。

2人はしばしの間、幼子のように声を出し笑い合った。

 

「上がってきなさい、最深部まで! 私は其処で貴方を待っているッ!!」

『......楽しくなりそうだ』

 

互いの通信が切れ、恭一の目の前に聳え立つ門が開かれた。

それはまるで、始まりを告げる様。

恭一は入口の前でゆっくり目を閉じ

 

「.......行くか」

 

再び目を開ける。

その姿は彼の内にある、何らかのスイッチを切り替えた仕草にも見えた。

 

 

________________

 

 

 

「貴女はどうする? 無理強いはしないわ」

 

無理強いするつもりはない。

オータムは一度、渋川恭一に手酷く蹂躙された事がある。

今でこそ頻度は減ったが、此処へ戻ってきた当初など、彼女は毎晩のように魘されていた。

彼女は代え難い恋人でもあり、戦力でもある。

オータムの不在は自分にとっても痛手になるのは間違いないが、それでもスコールは彼女に無理強いはしたくなかった。

 

「......アタシもスコールに付いて行く」

「そう......なら、もう止めないわ」

 

スコールは部下に通達する。

 

「相手は決して唯の少年じゃない。舐めて掛かれば貴女達に明日は訪れないでしょう......良いわね?」

 

「「「「 ハッ!! 」」」」

 

スコールの指示にて持ち場へ解散する部下達。

そんな彼女達の背中を見るスコールは人知れず、浅くだが溜息を付いた。

 

(言葉で促した処で、きっと彼女達は理解出来ていないでしょうね)

 

女は強く、男は弱いとされるこの時代。

『亡国機業』内でも当然、その風潮は存在する。

特に彼女達はISを装備しているのだから余計に、だ。

たった1人の少年が乗り込んできて恐怖しろ、と云う方が彼女達には難しいだろう。

どれだけ、スコールが注意を促しても。

どれだけ、オータムが動揺を見せても。

 

故に、スコールはもう一度溜息を付いた。

 

(寧ろ、この闘いで期待出来るのは―――)

 

 

________________

 

 

 

自分達が侵入者を襲っているのか。

それとも自分達が侵入者に襲われているのか。

城内に響き渡る破壊音。

肉体がひしゃげた音に人体を支える関節、骨が破壊された事を知らせる音が鳴り響く。

少し遅れて断末魔。

 

1人、また1人と倒れていく。

短い悲鳴を上げて崩れていく。

 

同志の腕が足元まで飛んできた。

顔を上げる。

目が合った。

 

(コイツは一体何なんだ......)

 

.

.

.

 

城内に入った恭一を初めて迎えたのは『打鉄』を纏った兵士達だった。

恭一の姿を確認するや即、銃弾の嵐。

彼は背負っていたモノを前に出し、凶弾から身を守る。

 

「ッ!? や、やめろぉ!!」

 

彼女達が気付き、銃を撃ち止めた時にはもう遅い。

彼が盾として使ったモノは、門を見張っていた2人の兵士。

此処へ運んできた時には既に事切れていたのだが、彼女達にそんな事は分からない。

僅かな動揺を感じ取った恭一は、ボロボロになった死体を投げ付ける。

肉片を撒き散らしながら、彼女達の元へ。

 

「っ......」

「あっ、ああッッ!? あぁぁぁあああッッ!!」

 

動揺が大きく波紋した今が好機。

恭一は一気に駆ける。

 

(―――上ずるな)

 

死体に泣き付いている者の頭を踏み潰し、そのまま『打鉄』の密集地帯へ入り込んだ。

兵士達は急いで武器をブレード『葵』に切り替える。

 

「ッッ!!」

 

斜めから斬りかかってくる動きに合わせて、最小限に避ける。

すれ違い様に首を掴み、そのまま握り潰す。

 

血を噴き出して前に倒れ込む兵士。

 

「ひ、ひるむな! かかれェッ!!」

 

最小限に避ける。

右薙ぎをスライディングで潜る様に避け、相手の足を掴んで逆方向に曲げる。

骨の可動区域を超えた人体はISを纏っていようが、簡単に折られてしまう。

 

(―――昂るな)

 

やる事は同じ。

向かってくる者の攻撃を重なるように避け、潰す。

握った部分は何処でも良い。

何処を掴もうが、激痛を走らせる事が出来るのだから。

死ぬか生きるかはソイツ次第、そして―――

 

「死ねッ!!」

 

後方へ下がり、再びライフルで狙い撃たれる。

よりも前に足元に転がる兵士を蹴り上げ、盾とする。

空中に投げ出され、撃たれた兵士を足場に飛び上がった恭一は

 

(―――躊躇うな)

 

再びライフルを構える兵士の口に拳を突っ込み、舌を引き千切った。

 

(―――先にも後にも寄りかかるな)

 

脇腹を抉られ、這い蹲る兵士は目に飛び込んでくる地獄絵図を前に思う。

 

この男は一体何を思って、これ程の死体を次々に生み出しているのだ?

 

血を浴び続けている少年の今の精神は現世で培ったモノでは無い。

それは今よりも100年程前の事。

毎日24時間、狙われ続けたマフィアとの殺し合い。

何処へ居ても何をしていても、奴らとの抗争に終わりは無かった。

終わらせるには1つだけ。

自分の命を奪われるか、相手の命を奪うか。

少年に彼らを恨む気持ちは無く、単純に喰うか喰われるか。

それだけが、殺し合いの螺旋を生き残った少年を纏う全てだった。

 

城に入る前、一度目を閉じたのは思い出すためだった。

鬼を自ら称していた頃の自分の姿を。

残虐だろうが、残忍だろうが、他者を屠る事に己を賭したあの頃の自分を。

 

故に、今の彼からは怒りや悪意は感じられない。

在るのは純粋な殺意のみ。

それが彼女達を一層恐怖させる。

 

「わ、私達がっ.......私達がお前に何をしたッ!?」

 

確かに自分達はテロリストで世界を脅かす存在なのだろう。

だが、目の前のコイツに迷惑を掛けたか!?

此処までされるような事を私達がしたか?!

 

「貴様に何の権利があって―――ごふっ......あっ......」

「恨むならあの世から俺を殺しに来い」

 

この言葉を最後に、世界で最強な兵器を纏っていた筈の兵士達は崩れ落ちる。

 

「......喉渇いた」

 

恭一は周りを見渡した後、階段を上がっていった。

 





(#゚Д゚)y-~~

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。