野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

141 / 180

踏み込んで踏み込んだお話。



第138話 密談論風発 -前編-

「お見舞いに来たぞー!」

 

地下牢から帰って来た恭一は楯無の言葉に従って、ベッドで休んでいた。

傷を一刻でも早く癒すために。

そんな彼の元へ、放課後になって颯爽と現れた人物。

 

「おう、ラウラか」

「傷の具合はどうだー?」

 

何やら袋を抱え、ベッドの横までトテトテやって来る。

一体何を持って来たのか。

食べ物の匂いはしないようだが。

 

「パパも自室療養は暇だと思ってな! 手慰みにこんなモノを持って来たぞ」

「これは......?」

 

袋に入っていたのは大量のカラー粘土。

 

「我がドイツのゲーム『バルバロッサ』をしよう!」

 

カラー粘土で何かを作って当てていくゲームである。

上手く作りすぎては直ぐに正解されてしまう故、適度に分からない造形に仕立てるのがポイントらしい。

制限回数はあるが、質問もOKとの事だ。

 

「成程......折り紙は苦手だが、コネるのは得意分野だぜ」

「それじゃコネコネ開始だぞ~!」

 

恭一とラウラは其々床に座って粘土をコネていく。

 

「うむ......我ながら中々に見事なモノが......ファッ!?」

 

円錐状のナニかをコネ終えたラウラ。

隣りで既にコネ終えている恭一作の造形に驚愕ス。

 

「パパ!? そ、それは何だッ!? どう見ても嫁じゃないかッッ!!」

 

質問は何処へやら。

いきなり回答を求めるラウラ。

 

「ん? ジュリアナ東京風千冬さん」

 

ぴっちりボディコンを着た艶かしい千冬が扇子を持って踊っているの図。

ちなみに等身大である。

 

「す、凄いぞパパ! 嫁にソックリだ!」

「フッ......パパの事はコネコネマスターと呼んでくれ」

 

コネコネマスターしぶちー爆誕。

 

「でも何でこんなキワどい服装なんだ? コスプレというヤツか?」

「ああ、前世で一時流行ってたんだよ。師匠の踊りを見せさせられたなぁ......」

 

おっさんの見たくもないキレキレ腰振りダンスを思い出して、げんなりする恭一。

それからはゲームと云うより、ラウラのリクエストを恭一がコネる形となっていった。

 

「......なぁ、パパ」

「んー?」

 

今は彼女のリクエストでミニラウラをコネている。

そんな恭一の作業を横で眺めながら

 

「私はこの学園に来て本当に良かった。パパ達と過ごしている今がとっても楽しいんだ!」

 

急にどうした?

そう思ったが、恭一は茶化す事無く作業を続ける。

 

(今でも思う。もしVTSに浸食された後、パパと分かり合えてなかったら.....私は)

 

もし、目の前の父親となってくれた者と邂逅する事が無かったら、自分はどうなっていたのだろうか。

考えただけでもゾッとする。

おそらく何時までも他人を見下し続け、教官にも愛想を尽かされていたに違いない。

誰も寄せ付けず、孤独なまま試験管ベイビーのコンプレックスを抱えたまま、死んだように生きていたに違いない。

 

(笑う事無く、嗤い続けていただろう......でも―――)

 

「こんなに笑って過ごせるのは、パパや皆と居るからだ!」

 

顔を上げると、愛嬌したたる太陽よりも眩い笑顔。

 

「ソイツは僥倖」

 

恭一も釣られて笑みが零れた。

 

「......卒業しても、パパと一緒に居たいぞ」

 

今まで言いたくても言えなかった言葉を口に出す。

今まで聞きたくても聞けなかった言葉を。

 

自分はパパと呼んではいるが、厳密に言えば私達は赤の他人なのだ。

幾ら自分が慕おうが、その事実は変わり様が無い。

そう思うと胸が痛くなる、鼓動が激しくなる。

拒絶されるのが怖くて、嫌な顔をされるのが怖くて。

 

でも、何故だが分からないが、今聞かなくてはならない気がした。

 

「子はいつか親から離れると聞く......」

「ううっ......」

「大抵は結婚した時に離れるらしい、が......お前は千冬さんと結婚すんだろ?」

「う、うむ! そのつもりだぞ!」

「なら自然と俺も一緒に居るって事になるんじゃないか?」

「おお.....おお! そうか、そうだな!」

 

別にずっと一緒に居ろ、と言っても良かったのだが。

恥ずかしいのでヤメた恭一だった。

 

.

.

.

 

SDガンダム風なISを纏ったミニラウラが完成した頃

 

「私はそろそろ戻らねば......粘土は置いておくから、パパの暇潰しに役立ててくれ」

 

ラウラは部屋の扉を開け、振り返り

 

「また来るぞー!」

 

大きく手を振った後、満足そうに帰って行った。

 

「あっ......アイツが作った粘土の答え聞いてねぇ」

 

ミニラウラの後ろに聳え立つ円錐状の物体に目をやる恭一だった。

 

 

________________

 

 

 

次の日の放課後。

 

「待たせたね、恭一! 僕だよ~♪」

「待ってねぇようんこ野郎」

 

ジャンっ♪と可愛らしい効果音を立てて、見舞いにやって来たシャルロット。

そんな彼女に恭一は果てしなく辛辣だった。

 

「うんこうんこしつこいよッ!」

「あらお下品」

「恭一にだけは言われたくないよ!」

 

開幕早々うんこ祭り。

シャルロットも花の女子高生。

流石に何度もうんこ呼ばわりされるのは、普通に嫌な訳で。

 

「そんな事言う恭一には、コレあげないんだからね!!」

 

プンスカ怒るシャルロットの手には冷えた缶コーラが2本。

 

「折角、一緒に飲もうと思って買ってきたのに......僕1人で飲んじゃうもん」

「まぁまぁまぁまぁ! お待ちなさいな、デュノアさん!」

「な、なにそのキャラ」

 

コーラの魔力には抗う事すら、起こす気が無い恭一。

 

「デュノアって本当に貴公子だよなぁ、うん。貴公子の中の貴公子......もうアレだな、ロビンマスクだな!」

「え、えぇ......それってもしかして褒めてるつもりなの?」

 

恭一的には頑張った方らしい。

 

(今の言葉言われて誰が喜ぶんだろ.....ふ、普通女の子を褒めるのって可愛いとかそう云う事言うんじゃないの?)

 

何かもう、怒ってたのが馬鹿らしくなっちゃうや。

まぁ僕が恭一の足ツンツンしたのが原因だしね。

ここら辺が落とし処だよね。

 

「それじゃあ、もう僕の事うんこって呼ばない?」

「あらお下品」

「その流れはもういいよッ!」

 

.

.

.

 

「はい、乾杯」

「おう」

 

恭一はグイーッとシャルロットはコクコクと。

 

「ンまいっ!」

「フランスに居た頃はほとんどコーラは飲まなかったのになぁ」

 

IS学園に来て以来、恭一と親しくなって以来、よく飲むようになった。

それもその筈。

目の前の少年が飲んでいる姿は、とても美味しそうに見えてしまうのだ。

それまで喉など渇いていなかったのに、何故か喉が渇く。

気付けば自分も買いに走っている。

ある種の生コマーシャルと云った処か。

そして、それは彼女だけに起こっている訳では無い。

気付けば1人、また1人と自販機へ、購買へ走る生徒が多数目撃されていたり。

最近コーラの品切れが早いのはそれが原因だったり。

 

「お菓子も買ってきたよー」

「おお、コンソメパンチだ!」

 

早速、封を切ったポテチを皿に乗せ

 

「やっぱポテチはコンソメ味に限るよなぁ、デュノアもそうは思わんかね?」

「.........」

 

恭一の言葉に、シャルロットは応えない。

 

(あ、あれ? コイツうすしおの方が好きなんか? いや俺も嫌いじゃねぇが)

 

「......あの日も確かお菓子はポテトチップスだったよね」

「あの日だァ......?」

 

一体、何の事を言っているのか恭一は分かっていない様子。

恭一にとっては何でも無い日だとしても。

シャルロットにとっては忘れられない、今でも思い出してしまう分岐点。

 

「僕がデュノア社から送り込まれたスパイだって話した日だよ」

「......ああ、ンな事もあったっけか。随分懐かしく感じちまわぁな」

 

 

―――このまま流れに身を任せるのか。それとも立ち上がって見せるのか

 

 

嘗て、恭一から言われた言葉。

その時、シャルロットは何も言えなかった。

彼女が選んだのは、運命に抗わない事。

風に吹かれっぱなしの草のように、流れに決して逆らわない過ごし方。

 

結局、彼女の知られざる所で紆余曲折あり、境遇は劇的に変化した訳だが。

 

「たまにね、思い返しちゃう時があるんだ。僕は自由になれたけど......もしあの時、恭一の言うように立ち上がってたら、どうなってたのかなって」

 

シャルロットは今の環境を誰よりも喜び、謳歌している。

でもそれは自分の手で掴み取り、勝ち取ったモノでは無い。

気付けば自由になっていて、気付けばシルバーバーグ社に支えられていた。

まるでトントン拍子に。

 

今の自分は確かに強くなろうとしているが、その理由も済し崩し的だ。

『たんれんぶ』の皆と比べても僕の理由だけ、薄く思えてしまう。

 

僕は―――

 

「お前タイムマシーンでも作る気か? バック・トゥ・ザ・フューチャーか?」

「へっ? な、何で?」

「思い出に浸るのは分かるがよ、過去を引き摺って何になンだ? 戻ってやり直せるンなら話は別だけどよ」

「で、でも......」

 

恭一だって何度も思った事はある。

 

あの時、こうしていれば良かったんじゃないか。

あの時、ああしていれば未来は変わっていたんじゃないか。

悔やんでも悔やみ切れない選択など、前世から幾度あった事か。

それでも。

 

「俺達は過去へ戻る事は出来ねぇ......なら、前に進むしかねぇだろ?」

「前に......」

「過去なんざ関係ねェ。俺達が居るのは今。そして迎える先は明日。オメェさんは難しく考え過ぎてンじゃねぇのかい?」

「.....恭一」

 

『たんれんぶ』に入って、恭一と過ごす時間が増えて、分かった事がある。

恭一は乱暴な口振りのせいで、中々皆は気付いていないけど、悩んでいたらいつの間にか道を示してくれる。

多分、恭一自身も無意識なんだと思うけど、今だって立ち止まっている僕の背中を押してくれている。

 

(あの時、屋上で僕を嘲弄した恭一とはまるで別人みたい......っ......ち、違う!!)

 

「ムシャムシャ......んん? 喰わねぇなら全部喰っちまうぞ~?」

 

僕は......。

 

『...痛くないなぁ....境遇を嘆くだけのクソ雑魚ナメクジじゃあこんなもんかぁ?』

 

僕は一体今まで何を見ていた?

 

『オイオイ涙なんか流して、悔しいのかぁ? クソ貴公子様?』

 

何故あの時、恭一が僕を嘲笑った理由を今まで考えなかった?

恭一があんな態度を取ったのはあの時だけ。

他の誰かにも同じような事をしているのなんて、見た事が無い。

 

『なら俺をギャフンと言わせてみろよ、今のお前じゃ弱すぎて話になんねぇわ』

 

(僕に......発破を掛けるため.....?)

 

「ねぇ、恭一」

「サーッ......ムグムグッ......ぷはっ......なんだ? もう全部喰っちまったぞ」

「それは良いから! あ、あのね。昔屋上で僕を挑発したのって「覚えておりません」何で被せるの!? まだ最後まで言ってないよ!?」

 

恭一からすれば当然の事。

自分の意図が相手に気付かれる事程、恥ずかしいモノは無い。

彼女が何を言わんとしているのかを、いち早く察知した恭一は即座に否定するしか無かった。

 

「覚えてるよね!? 絶対覚えてるでしょ!」

「うっ......頭が......」

「嘘だよ! そんな都合の良い記憶喪失聞いた事ないよ!」

「そ、そんなに声を荒げるなって。ほら俺が買ってきたコーラあげるから」

「それは僕が買ってきたヤツでしょ! 何で其処も嘘付くのさ!」

 

恭一は中々に頑固な処がある。

バレバレなのに認めない事などしょっちゅうだ。

その事をシャルロットも良く知っている。

故に

 

「恭一ってさ」

「な、なんだよ」

「......とってもお節介さんだよね♪」

 

攻め口を変更する。

 

お礼なんて言っても恭一は喜ばない。

恭一への感謝の気持ちは僕自身が強くなる事でしか表せないんだから。

 

「う、うるせぇやい!! だからテメェはうんこなんだよ!!」

「あーっ!! またうんこって言ったね!? 恭一の方がうんこじゃないかぁ!!」

 

高校生らしからぬ口喧嘩をする中で、日は暮れていった。

 

 

________________

 

 

 

「恭一さん、お身体の具合は如何ですか?」

「おう、セシリアか。大分良くなってきてるぜ? まだ包帯は外せねぇがよ」

「お肉ばかり食べられてもいけませんからね? 今日は私サンドイッチを作ってきましたの!」

「わーいうれしくなーい」

 

バスケットを嬉々と広げるセシリア。

恭一の声は届いておらず。

 

「傷というのは治りかけが一番禁物でしてよ。私がアーンして差し上げますわ!」

「わーいうれしくなーい」

 

されるがままの恭一。

抗う事をハナから捨てている恭一。

 

「ムグムグ......」

「どうでしょうか!?」

「ゲロマズい」

「なら、私にアーンをして下さいな!」

 

なら、の意味がまるで分からない。

自分で掴んで食べれば良いだろうが。

 

「.......ほれ」

「あ~......はむっ......ごっはぁ?! ま、マズいです.....でも幸せですわ......ガクッ」

 

アーンをされる悦びを知ったセシリア。

なお、上手い料理をアーンして、される事の良さには気付いていない模様。

 

.

.

.

 

「オメェほんと料理上手くなんねぇなぁ」

「.....面目御座いませんわ。愛情はたっぷり入れているのですが」

「あ、ああ......そういうのは今言わなくて良いから」

 

あら?

普段の恭一さんならスルーしますのに、何故今日に限って。

ハッ......この状況、2人きりではありませんか!

 

ちなみに2人きりなのは、当たり前と言えば当たり前である。

皆で一斉に見舞いに押しかけると、返って迷惑だろうと少数で行く事を『たんれんぶ』の皆で決めたのだから。

 

(ふふっ.....うふふ。ワールド・パージ以来、2人きりになる機会が中々無かったですが、これはチャンスなのでは!?)

 

そう思ったは良いが、相手は今怪我を負っている。

そんな彼を前にはしゃぐのも淑女として如何なモノか。

 

(ガンガン攻めるのとガツガツいくのは別物。無謀は勇無き者のする事也、ですわ)

 

「しっかしよォ......」

 

何か言いたそうな恭一。

 

「どうされました?」

「オメェほんと変わったよなぁ」

 

ラウラとシャルロット達の影響か。

ついつい恭一も初めてセシリアと会った時の事を思い出してしまう。

 

「わ、私がですか?」

「おうよ。覚えてねぇか? 俺達の初会話」

 

難しそうな顔で思い返すセシリアに

 

「まぁ! なんですのその間の抜けたお言葉! この私に声を掛けられただけでも名誉ある事でしてよ! それ相応の態度があるのではなくって!?」

 

「し、失礼ですわ恭一さん! 私、そんな物言いしてませんわよ!?」

「したんだよなぁ......」

 

結構インパクトがあったので、恭一はハッキリと覚えていた。

 

確か、俺はそんな彼女に、軽く謝ったんだっけか。

 

「ふんっ...これだから下賤な輩は困りますわ! オーッホッホッホッホッ!!」

 

セシリア直伝尊大なポーズ。

 

「ファッ!? な、何ですかその3流悪女が吐くような台詞わ!!」

「お前の台詞なんだよなぁ......」

「そ、それにッ.....私はそんな高笑いした覚えなど、御座いませんわ!」

 

両腕をブンブンと抗議してくる彼女に

 

「ああ、それは俺のアドリブ。何か楽しくなっちゃって」

 

まるで可愛くないテヘペロ。

 

「......喧嘩売ってますのね? 恭一さんは私に喧嘩を売っていると見做して宜しいのですね!?」

「買ってくれンのか?」

「ひぇっ......きゅ、急に殺気を放つのはヤメて下さいまし!」

 

話を戻して。

 

「あの頃の私は......恥ずかしながら、絵に描いた女尊男卑の人間でしたもの」

 

セシリアは三年前に事故で他界した両親の事を振り返る。

 

「私の母はお強い人でしたわ。名家に生まれた環境に胡坐をかく事を良しとせず、努力を忘れない真にお強い人。厳しいお人でしたが、私の憧れでした」

 

だが、父は違った。

オルコット家に婿入りした父は腰の低い人だった。

周りから何を言われてもヘラヘラと。

 

そんな父の事を母は優しい人だ、と言っていた。

決して父を悪く言う事は無かった。

でも、私には母の顔色を伺い、媚を売っているようにしか見えなかった。

 

「うふふ。今だから言えますけれど、初めて恭一さんと会った時は、父を思い出して余計に嫌悪しましたわ」

「俺はお前に癒されてたけどな」

「えっ、今私の事を好きと仰られましたか!?」

「仰られてないです」

 

またまた話を戻す。

 

恭一さんも父と同じだった。

自らを蔑み、周りに笑われてもヘラヘラと。

 

「結局、恭一さんは昼行燈を装っていただけでしたが」

「お前ほんと、日本語に堪能してるよな」

「うふふ、恭一さんが話す言葉は難解な言い回しが多いですからね。しっかり勉強してましてよ?」

 

昼行燈とは。

ぼんやりした人や役に立たない怠け者などを嘲る言葉。

 

「オメェの親父さんもよ、俺と同じだったりしてな」

「えっ......?」

「いや.....えっ、じゃねぇだろ。まずは其処に行き着くんじゃねぇのか? オメェのお袋さんは厳格な人だったんだろ? そんな人が愛した男なんだろ?」

 

ダメ男が好きな女ってんなら仕方無ェけどな。

そう言って笑う恭一だが、セシリアは固まってしまっている。

 

(今までそんな事など、考えた事も無かった.....)

 

人間とは時間が経てば経つ程、自分に都合の良い解釈をしてしまう生き物だ。

こうあって欲しい、実はこうだったのでは無いか。

真相が分からない事象程、その想いは強くなり、自分に好都合な虚像を創り出してしまう生き物である。

 

しかし、それでも―――

 

「案外、あの世で仲良く暮らしてたりしてな」

「意外ですわね。恭一さんは死後の世界を信じてますの?」

「......まぁな」

 

流石に、死んで神に会ったとは言えない恭一。

非常識的に考えても言葉にすると、中々のキチッぷりだから。

 

「まっ、気になるンならよ。あの世に逝った時に聞くんだな」

「......ふ、ふふふっ......そうですわね。まだまだ先のお話ですけれど、そうしますわ」

 

何やら吹っ切れたのか、花の蕾が綻ぶように美しく微笑む。

 

「その時は是非、恭一さんを紹介しなければなりませんわ」

「あん? 世界一強い男だってか?」

「ええ。世界一強い.......私の旦那様、ですわ♪」

「へぁ!?」

 

最後の最後に剛速球。

 

(言ってやりましたわぁぁああああああッッ!! 今の私は最高に輝いてますわぁあああああッッ!!)

 

これには納得の自画自賛。

 

「で、ではッ! 今日はこれ位にしといたるわ、ですわ!」

 

(し、新喜劇?)

 

真っ赤になって出て行くセシリア。

 

「......爆弾投下即退去かよ」

 

残された恭一の微かな呟きだった。

 

 

________________

 

 

 

「生徒会長心得その67、ハイッ!」

「覚えてませんッ!!」

「胸を張って言う事じゃないよ、渋川君」

 

次の日にやって来たのは楯無と簪の更識姉妹コンビ。

 

「んもう~.....どうせ暇なんだから、今の内に覚えちゃいなさいよね」

 

覚えたくても連日、誰かしらが遊びに(見舞いに)来るんだもんよ。

全然、覚える時間無いっつーの。

 

「そう云えば、渋川君はお姉ちゃんのお兄ちゃんになったの?」

「ファッ!? ちょ、ちょっと何言ってるのかな、簪ちゃん!?」

 

お姉ちゃんのお兄ちゃんだァ?

何やら哲学的な響きがしたが、そんな事は無かったぜ。

 

ポカンとしている恭一とアタフタしている楯無。

 

(あっ、ふーん......まだ言って無かったんだ)

 

楯無的には色々と葛藤した上で、後々言うつもりだったのだが。

あっさり簪に暴露されてしまい、どう云う反応で返すべきか困っていた。

 

「......もしかして、言ったら駄目だった?」

「い、色々あるのよ。うん、色々あるのよ」

 

(背負った重荷とか重荷とか重荷とか)

 

ヒソヒソ話しているが、丸聞こえである。

そして、簪は恭一に倣って姉以上にシンプルな処があり

 

「ね、渋川君」

「あん?」

「お姉ちゃんのお兄ちゃんになって」

 

遠慮などする必要は無し。

 

「ちょ、ちょっとだから待って―――」

「あ、良いっすよ」

 

「ね? 恭一君もいきなり言われて困惑......は?」

 

今、何て言った?

 

「それじゃあ、渋川君は私のお兄ちゃんって事にもなるね」

「おっ、そうだな」

 

まるで困惑してない!?

やった!

今日から恭一君は私のお兄ちゃんなんだ!

 

「って、ちょっと待ってぇぇぇぇぇえええええええッッ!!」

「お姉ちゃん、うるさい。はしゃぐ気持ちも分かるけど、渋川君は怪我人」

「な、何で簪ちゃんがジト目なのかな!? 怒るのは私の方だよね!?」

「どうして怒るの?」

 

どうしてってそれは当然―――

 

「......あれ?」

 

別に怒る必要無い......かも?

ち、違う違う!

あるわよ!

 

「今、大変な時期でしょ? 恭一君の重荷になっちゃうじゃない!」

「ねぇ、渋川君。お姉ちゃんって重荷?」

「.......別に」

「何処見て言ったのよ!」

 

明らかにお腹辺りに視線を感じてイラッとしてしまった。

ま、まぁプニッて無いから良いけどね。

 

「そ、それに! お兄ちゃんって年上の私が君を呼ぶ事になるのよ? 嫌でしょ!?」

「同い年の娘いるし、別に」

「そうだった! いや、でもアレよ! そんなホイホイ兄妹の契りを結んで良いの!? もっとこう......厳粛なと云うか、厳かなアレと云うか、えっとえっと.....」

 

何とか言葉を捻り出そうとする楯無だが。

 

恭一としては別に今更、義兄妹が増える事に異議など無い。

姉の束に妹のクロエ、娘のラウラ。

3人とも血の繋がりは無し。

其処へ新たに2人が妹となるだけの事。

年齢の事も、恭一は楯無の年下だが、年上でもあるが故、特に気にしていない。

 

流石に誰でも彼でも良い訳では無いが。

楯無の事も簪の事も気に入っているから、という部分が当然比率を占めている。

それを言うのは照れくさいので、言わないが。

 

「桃園の誓いでもしてぇのか?」

「......この3人だと私が張飛? 燕人って二つ名は好きだけど」

「俺は劉備より関羽がいいな! 軍神だぜ、軍神!」

 

楯無を置いてきぼりで、盛り上がる妹と兄(?)。

 

「ちょっとぉ! 何で私を置いて盛り上がってるの!?」

「どうしたの、姉者?」

 

この妹、結構ノリノリである。

 

「あぁもうっ!! 良いのね!? 恭一君の事、お兄ちゃんって呼んじゃうわよ!? やっぱり嫌とか言っても知らないんだからね!?」

 

何かもう、悩んでるのが馬鹿らしくなっちゃった。

 

「兄者じゃねぇのか......」

「桃園から離れなさいよ!」

 

何時になく、声を上げる楯無。

それは皆を守るために戦ってきた盾としての姿では無く。

冷静沈着な生徒会長だった時の姿では無く。

1人の、唯の女の子としての姿だった。

 

「あっ.....と.....あ~......」

 

よ、呼べない!

簪ちゃんが居ると恥ずかしくて呼べない!

冷静に考えたら年下の男の子をお兄ちゃんって呼ぶのは、恥ずかしすぎる!

 

アワアワする楯無の様子に察したのだろう。

 

「......姉者、可愛い」

「姉者って言わないでぇッ!!」

 

(今日も生徒会長の心得覚えらんねぇなコレ.....)

 

簪をポカポカ叩く楯無を眺めている兄者の心の声だった。

 





クライマックスが近い証拠だぁ(予見)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。