「良かったんですか織斑先生、まだ仕事が残ってたんじゃ」
「それは帰ってからするさ。副担任が行くのに担任が来ないと話にならんだろう」
「そ、そうですか...?」
普段よりも饒舌な千冬に違和感を感じる真耶。
「ここだな」
---ピンポーン
呼び鈴を鳴らすと
「はいはーい。遠いところからわざわざご足労して頂きまして...」
現れた恭一が頭を下げ
「ん?電話では1人と伺ってましたが?」
「ああ、電話の時点ではな。だが急遽、担任である私も同行する事になったんだ。さっそくだが自己紹介をせんとな」
千冬は目で真耶に促す。
すると恭一も真耶を見た。
「はっはい、そうですね。それでは、まずは私から。私の名前は『山田真耶』です。電話でも言いましたが、この1年間渋川君のふく---」
---見せたな、隙をッッ!!!
真耶は自分の目の前の光景を夢だと思った。
だってそうでしょ?
織斑先生が渋川君を殴り飛ばしたんだから...。
「なっ...なにやってるんですか織斑先生!!!!!!しっ、渋川君!?大丈夫ですか!?渋川君!?」
駆けつける私の後ろから織斑先生のどこか芝居がかった口調で聞こえた---
" 卑怯とは言うまいね? "
________________
「千冬君、君は本当に強くなったな」
「ありがとうございます」
千冬の目の前の人こそ篠ノ之束の父であり、千冬の剣道の師範である篠ノ之柳韻、その人だった。
「さて、今の君はもう同年代相手じゃ、全国でも負ける事の方が難しいだろうな」
「は、はぁ...」
「ふっ...まだまだ満足出来てないと見えるな?」
「そ、それは..私はもっと強くなりたいのです」
(私は強くならねば...!!一夏を守らねばならんのだ!!)
「君がこの道場へ来る前の話なんだがね...道場破りを自称する者が現れたんだよ」
「今どき、珍しいですね?」
「ああ、だが私が驚いたのはそこじゃないんだ。来た者の年齢だよ」
「年齢?」
そう話す柳韻は一息ついた。
「どう見ても80歳を超えていたんだ」
「なっ...それは中々」
「ああ困ったね、こう言っちゃなんだが勘弁してくれ、と。年寄りの道楽に付き合わされるのか、ってね」
しかも、徒手空拳ときたもんだ。
こういう輩はさっさと帰ってもらうに限る。
そう思っていた柳韻だったが---
「もっ、もう一度お願いします!!!!先生!!何卒っ何卒もう一度だけッッ!!!!!」
「あんたもひつこいなぁ篠ノ之さん...オイラ、まだ行かにゃならん道場があるからそれじゃあ...のっ」
「ぐはっっ...」
叩きつけられ意識を失った。
目を覚ました時は当然居なかった。
---本物に出会えたんだ
そう、嬉しそうに言う柳韻。
「本物...ですか?」
「ああ、千冬君。君は強いが断言しよう。私が言った80歳、いやもう90を超えてるかもしれない。そんなご老人に君は勝てないだろうな。間違いなく」
「なっ!?そんなバカな...」
確かめてみるかい?
是非...その人の名をッッ
---その名を『渋川剛気』
.
.
.
「随分と山奥へ来たもんだ、こんなところに道場が」
柳韻先生に言われるや千冬は直様向かった。
「ここに...先生曰く本物がいる」
しかし、信じられるか?
90を超えた老人が私よりも強いなんて事を...。
呼び鈴を鳴らす。
「はーい」
出てきたのは一夏と同い年くらいの少年だった。
「おねえちゃん初めて見る顔だね。何かご用?」
「渋川剛気という人と立ち合いに来た。今、居るか?」
「...いるよ。こっちについてきて」
案内されたのは道場だった。
「呼んでくるから待っててね」
5分後に現れたのは先程の少年だった。
「もう少しで来るからそれまで僕とお話してよーよ」
「む...いいだろう」
と言ったが、元来人付き合いは得意な方でなかった千冬は、何を話せば良いか分からなかった。
「おねえちゃんはどうしておじいちゃんと戦いたいの?」
「私の師範から渋川先生は本物だと聞いた。だから立ち合いに来たんだ。一人の武道家として」
「ふーん」
その時少年の眼が変わったのを私は気づいていなかった。
---ガララッ
扉が開く音がした。
私は扉の方へ意識を向けた瞬間、闇へ落ちる事となった...。
" 卑怯とは言うまいね? "
そんな声を耳にしながら...。
.
.
.
「.....はっ?!ここは?」
「おう、起きたか?」
「あなたは?」
「オイラは渋川剛気という。アンタ一体こんなトコへ何しに来たんじゃ?あやつに聞いても『つまらん奴』としか応えんくてなぁ」
目の前にいるのが渋川剛気...いやそれよりも!
「私は何故倒れていたのですか!?」
「ん?アンタが目線をあやつから外したトコで一瞬で懐に入り、左拳を顎に掠めさせ脳を揺らした。ただこれだけの事じゃよ」
千冬は驚いた、しかしそれと同時に納得も出来なかった。
「そんなバカなっ..いやそれよりも何故あの子は私にそのような事を!?私は貴方と立ち合いに来たのに!!」
そういきり立つ千冬に対し
「なんだぁ?お嬢さんオイラと立ち合いたかったのか?それは、競技者としてか?武道家としてか?」
「もちろん武道家としてだ!!!」
「...その言葉あやつにも言ったのか?」
「えっ、ええ。言いましたよ」
ふぅ...とため息をつく渋川。
「ならアンタが悪い。あやつに落ち度は一切ない」
「なっ何故ですか!?あんな不意打ちめいた卑怯な事をしておいてッッ!!!」
納得できなかったのかますます千冬は声を上げる。
「ところで競技者と武道家の違いってなんだ?」
「そっ、それは...」
「応えられないかい?ならオイラが教えようか。競技者とは『ヨーイドン』の合図が無いと走り出せない者、ルールに守られている者をいう。ならば武道家とは?」
「武道家とは...」
「武道家にとっては日常が試合であり死合。負けた言い訳なんぞ有り得ん事じゃ」
「ぐっ...しかし」
まだ認められないのか千冬は反論しようとするが---
「それにィ...8歳の小僧に不意打ち喰らって負ける事がそもそも話になんねぇだろ」
「ッッ!?」
そうだった。
私は一夏と同い年の少年に意識を刈り取られたんだ。
一撃で...たったの..一瞬で.......。
「...帰ります」
「そうかい、まぁなんだお嬢さんはまだ若い。これからよ」
「失礼しました...」
扉を開け、帰ろうとしたところ、先程の少年が私の方へ向かってきた。
「お、お前の名前を教えてくれ!わっ私の名は---」
今度は油断しない。
だからいずれ再戦を---。
そう言おうとした。
---だが
すたすたすた
ガララッ...バタン
少年は千冬を一瞥すらしなかった。
まるで最初から居なかったかの様に...。
「ふふふ...私など見る価値すら無い..か。ふっふふ...うっ..ううっ...」
もう限界だった。
「うああああああああああああッッッ!!!!!!!!」
千冬は生涯で初めて泣いた。
悲しくて、ではない。
恥ずかしくて、でもない。
ただ悔しくて---
織斑千冬が17歳の出来事であった。
その1年後、ISの世界大会『モンド・グロッソ』で圧倒的は戦い方で優勝し、初代『ブリュンヒルデ』の称号を得るが、当時の人々は彼女の戦いをこう語る。
---まさに鬼神の如き強さだった、と。
________________
---話は現在に戻り
「なっ...なにやってるんですか織斑先生!!!!!!しっ、渋川君!?大丈夫ですか!?渋川君!?」
" 卑怯とは言うまいね? "
その言葉を聞いてなのか、恭一の体が跳ね立ち上がる。
ニィィィィィ
---鬼顔毒笑、であった。
「思い出した。あの時の小娘かおまえ」
「ふっ...まさか年下の小僧っ子に小娘呼ばわりされる日が来るとはな」
少しずつ恭一と千冬の空間に変化が訪れる。
「しかし腰の入ったい~い拳だった。タイミングも良い。俺が意識を逸したまさにその刹那だったなぁ」
「7年ぶりの再会なんだ。派手な挨拶にしたかったんでな」
それを聞き、真耶は困惑した。
「山田くん、いや真耶少し下がっててくれないか?」
「えっ?」
「あぁその女の言う通りだ。たったの一合で満足出来る程、ヤワに出来てねぇんでな」
「えっ?あのっ...お二人共、何がなんやら」
「「下がってろッッ!!!!!」」
「はっはいぃぃぃぃぃ......」
さて---
首を軽く回しながら
「久しぶりに問うてみるか。俺との立ち合いは競技者としてか?それとも---」
恭一が言い終わる前に千冬は一気に距離を詰め
「武道家としてだッッッ!!!!!!!!」
最強vs最狂
ここに開幕---
.
.
.
もうどれだけの時間が経ったのだろう。
私の声など二人には一切届いていなかった。
満身創痍になりながら木刀で身体を支える織斑千冬。
同じくボロボロになりながらも構えを崩さない渋川恭一。
「そろそろ終わりの時が近づいてきた、か。最後に言っておくが、よくぞここまで芳醇になりおおせた。強敵として心からそう思うよ」
笑顔でそう言う恭一に
「当然だ。私はお前に負けてから、いやあの通り抜けられた態度をされて以来...ひたすら、ひたすらッッ!!!鍛えたんだッッ!!!!!!お前だけを想ってッッッ!!!!!」
何のために---?
この時のためにッッ!!!!
出し惜しみはしない。
己の最強の技で倒すッッ!!!!
「はあああああああああああッッッ!!!!!」
縮地法からの突進術に、上半身の溜めに溜めた力を
---解放するッッ!!!!!
最強剣突技--- " 無拍子 " ---
(ッッッきた今だ!!!熱ッッ?!!)
最小限躱した結果、頬を剣が頬をかすめる---
どころではなくッッ!?
頬の肉をそのまま剣圧が抉り取っていった。
「ぐっうううううううう!!!!!」
---み、見事....だが、勝つのは
千冬の突進力をそのまま利用し自らの右足を千冬の頭に。
左足を千冬の顎へッッ!!
己の両足を上顎と下顎...虎の顎になぞらえ相手を噛み砕くッッ!!!!
竹宮流奥義--- " 虎王 " ---
「ぐああああああああああッッッ!!!!!!」
「がはっ...あぐっ.......」
大量に血を吐き前に倒れて行く千冬。
それを最後まで見届け終え、ようやく息を整える恭一。
---勝者、渋川恭一
「ぐっ...ううっ..」
まだ意識があるのかうつ伏せから仰向けになる千冬。
それを見るや、足を引き吊りながらゆっくりと近づいていく恭一。
「もっ、もうヤメてください渋川くん!!もう勝負は終わったでしょう!?」
真耶の決死の叫びもまるで聞こえていないのか。
ゆっくりと間合いに入っていき千冬に手を伸ばす。
---俺の名前は渋川恭一だ。
笑顔で手を差し伸べる恭一。
「私の名前は織斑千冬だ。千冬と呼んでくれないか?」
2人共見るも無残な姿だが笑顔で分かち合い、笑い合った---
________________
「いったたたたた、やっ山田くんもう少し優しくしてくれんか!!」
「ふんっ!あんな事をする織斑先生なんて私、知りませんッッ!!!!」
あの闘いの後、恭一と千冬はこれまでの経緯を話したのだが、それとこれとは別だと中々機嫌を直してくれない真耶だった。
「あうううううううう紅茶が口に染みるるるる~」
「渋川君も自業自得ですッッ!!!!」
「ごめんなさい...」
有無を言わさぬ迫力がこの時の真耶はあったそうな。
「....と以上でIS学園の説明は終わります。何か質問はありませんか?」
「いやぁ分かり易い説明でほんと助かります」
「ふふふ、そう言って貰えると先生も嬉しいです」
真耶は当初の目的であるIS学園についての説明を恭一にしていた。
千冬はその頃、風呂を借りていた---
さすがに傷だらけのままで居られるとお互い落ち着かない、との事である。
「1つ聞きたいんですけど、このIS実践テストって?」
「これはですね、簡単に言えば教師との模擬戦と考えてもらえれば、という感じですかね」
「模擬戦...」
「まぁ渋川君はもう入学が決まっているのであくまで形式的に行われるのですが」
「模擬戦の相手は決まっているんですか?」
「そ、それは...」
「ああ、決まっているぞ。私達以外の教師がお前の相手だ」
「あぁ、千冬さん湯加減はどうでしたか?」
「千冬と呼べと言っただろう」
「いや、さすがに平常時にあのノリはイカンでしょ...」
「む...そうか。ああ湯加減は良かったぞ、ありがとう恭一」
自分に対する名前呼びも気になったが、突っ込んでは面倒な事になりそうなのでスルーする恭一。
「しかし此度のお前の相手はお前をどうにかして潰そうとするだろうな」
「おっ織斑先生、それは...」
2人の会話で理解する。
「なるほど。女尊男卑に女性至上主義か...」
「ああ、しかもとびきりのな」
ため息をつく千冬に真耶も賛同する。
「どこまで殺っていいんだ?」
「さて?お前はそもそもISに関しちゃ素人だ。しかも初のIS最低適正値『F』を叩き出した男だ。そんな男がガムシャラに戦った結果を果たして私は非難する事など出来るのだろうか」
「あ、あははは...」
悪い顔をする2人について行けなくなる真耶。
「ワクワクするなぁ...IS学園」
渋川恭一、IS学園入学まであと1週間。
篠ノ之束:シスコンから恭一キチへ進化
織斑千冬:ブラコンから恭一キチへ進化
大人の魅力に恭一くんもメロメロやな(白目)