野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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緑の鞄に500万入れて白の紙で黄色の鞄言うて書きながら赤の鞄言いながら置いてくれたら俺黒の鞄言いながら取りに行くわ。



第136話 必殺交渉人

「もう待ちきれないよ! 早く出してくれッ!」

 

包帯ぐるぐる男の目の前にはそこそこ大きなホットプレート。

箸を鳴らし続ける少年はまだかまだか、と急かす。

 

「渋川君、行儀悪い」

「はーい! お待ち兼ねの特上カルビですよ~♪」

 

台所から暖簾を潜って出て来たのは更識姉妹。

2人が持つトレイにはお肉の山盛りにホカホカご飯とコーラ。

 

「わっほい! 待ってましたッ!!」

 

うほほい喜ぶ少年に

 

「待ってましたじゃないでしょうがぁあああああああッッ!!」

「うぇいっ!? お、お前らいつの間に!?」

 

文字通りお肉にしか目が行ってなかった恭一、漸く鈴達の存在に気付く。

 

「千冬姉ぇに聞いて急いでやって来たんだけど、大丈夫なのか恭一?......お前恭一だよな?」

 

どうして更識姉妹が此処に居るのかも気になったが、まずは恭一の事だ。

心配そうに伺いつつ、一応本人か確かめる一夏。

身体だけで無く、顔も包帯に巻かれているので念のため。

 

「......さて、どうだろうな?」

「いや何でとぼけるのさ」

 

包帯と包帯の間から覗かせる口元をニヤリとさせる恭一に、シャルロットも呆れながら本人である事を確信する。

 

「このアホアホマンが恭一じゃない訳無いでしょ」

「......グレードアップしたな」

 

恭一に対する鈴の評価が格上げされた!

 

「何はともあれ、元気そうでホッとしましたわ......ね、箒さん?」

「.........」

「箒さん?」

 

いの一番に恭一に飛び込む筈の箒は、未だ黙ったまま。

目の前でセシリアが手を振ってみても微動だにしない。

セシリアは立ったまま動かなくなった箒をジーッと見つめる事、数秒

 

「し、死んでますわぁ!? ほっ、箒さんが逝ってしまわれましたわぁッ!!」

「ほんと毎度アホなリアクションねアンタ」

「犯人は恭一だよね」

「俺なんもしてねぇよ」

 

目を開けたまま気絶している箒。

おそらく部屋の光景を見た瞬間、緊張と緩和の振り幅が大きすぎて、彼女の容量を超えてしまったのだろう。

 

「むっ、部屋の前で何を突っ立っている?」

 

石像と化した箒の後ろには千冬とラウラが。

察した千冬は

 

「クックッ......まぁ分からんでも無い」

 

短く笑いながら、彼女の額に指を持っていき

 

「起きんか箒」

 

ドゴン!!

 

「ぬごぉっ!?.........は、はれ? 私は一体―――」

 

デコピンにしては重すぎる音だったが、取り敢えず彼女の意識を覚醒させる事に成功した。

 

.

.

.

 

「お前という奴はッ! 毎度毎度心配させおって!」

 

意識を回復させた箒はプリプリだった。

 

抱きつきたいが抱きつけない。

皆の目があるから、全身を包帯で包む程の怪我を負っているから、というのもあるが何よりも。

 

(ぐぬぬ......ホットプレートが私の邪魔をする......)

 

恨めしそうに見る箒の視線に負ける無機物では無い。

これ見よがしに、ジュージューと肉を焼き、美味しそうな音を立て続けている。

 

「ま、まぁ恭一は肉が好きだからな!」

「まるでフォローになってないよ一夏......でも本当に大丈夫なの? 織斑先生も重傷だって言ってたけど」

 

目の前の少年からはそんな気配を微塵も感じない。

寧ろ、何やらいつもよりハイになっている印象さえ受ける。

でもその姿が皆の沈んだ空気を消し去ったのも事実。

 

「余裕のよっちゃんイカってな。前にも言ったろ? 怪我人の措置ってのは、大げさにするモンなんだよ」

 

お肉をひょいと裏返し。

 

「......全身包帯巻いた奴が言っても説得力無いからな」

 

心配したわ、ホッとしたわ、抱きつけないわ、本人は肉焼いてるわで、ついジト目になってしまう箒。

 

「フッ......俺が何故、包帯化現象に甘んじてると思うね?」

「いや、怪我してるからだろ」

 

至極真っ当な箒の突っ込みに、皆もウンウン頷く。

 

「―――所詮この世は焼肉定食」

 

「「「「 は? 」」」」

 

上手に焼けたお肉の群れを、丸ごといっぺんに頬張り

 

「ムグムグ......不味ければ喰い、美味ければもっと喰う」

 

恭一流自然の摂理格言。

 

(成程、志々雄真実の真似がしたかったんだな!)

(一夏から借りた漫画にそれっぽいキャラが居たわね)

 

何人かは気付いてくれたようで、恭一も結構嬉しそうだったが

 

「志々雄真実はそんなこと言わない」

「あ、うん......そうだな」

 

マジで返す簪は少し怖かった。

 

 

________________

 

 

 

「それで? どうして楯無会長と簪が既に此処に居るのだ?」

 

「「 生徒会の人間だから 」」

 

一般生徒<専用機持ちの生徒<生徒会に所属かつ専用機持ちの生徒

 

「緊急時に要請を受ける比率は概ねこんな感じかしら」

 

楯無の説明を受け、皆は納得するしかない。

 

「恭一を襲った奴はどんな奴だったんだ?」

「さて、見た事も無い奴だったよ」

 

一夏の問いにサラリと嘘をつく恭一。

 

「織斑先生が撃退したって言ってたけど」

「恭一君を襲った者は既に逃げたわ。更識の人間に追わせているけれど、捕まえるのは難しいわねぇ」

 

実はこれも嘘だったりする。

 

「取り敢えず渋川は絶対安静だ。しっかり休んで英気を養え」

「織斑先生の言う通りですわ。10日後には修学旅行があるんですもの。恭一さんが居ないと楽しさ半減ですからね」

「私は楽しさ1/3になるがな」

 

千冬の言葉にセシリアが付け足す。

セシリアの言葉に箒が張り合う。

 

「......間違えましたわ。私は1/4になります」

「私は1/5だ」

 

「「...........」」

 

無言で睨み合う2人。

 

「お、俺だって恭一が居ねぇと―――」

「だから何でアンタが割って入ろうとすんのよッ!!」

 

「毎回この流れになるよね」

「ああ、これこそがジャパニーズ漫才なのだろう」

 

一夏に突っ込む鈴を見ているシャルロットとラウラの素直な感想だった。

 

「そろそろお前達も飯を食って来い。昼休みも無限じゃないんだからな」

 

見舞いは終わりだ、と千冬の言葉に

 

「あっ、それなら残ってる肉を皆で―――」

 

一夏がナイスアイディアを

 

「やるわけ無ェだろ殺すぞ........殺すぞ」

「ひぇっ......に、2回言うなよぉ」

 

今のは一夏が悪い。

 

「まっ、たまには見舞いに来てあげるから。大人しくしてなさいよね!」

「おう」

 

恭一と一言二言交わしてから、各々部屋から出て行く。

 

「僕も見舞いに来てあげるからね! 嬉しいでしょ、恭一?」

「くんなウンコ」

「ひどいよッ!」

 

ワイワイと皆が出て行った後、部屋に残るは千冬と楯無。

 

 

 

「.......もう皆、部屋から離れたわよ?」

 

楯無がそう言うと

 

「ぬぁぁぁぁんッ! いってぇ!! 死ぬぅぅぅぅぅッッ!! 死んでまうぅぅぅぅ!!」

 

ドッサリ座っていたベットから転げ落ち、そのまま床をゴロゴロ転がる恭一。

 

「フッ......まぁよく耐えたモンだ」

「ふふっ、そうですね。流石男の子なだけあるわね恭一君♪」

 

やせ我慢は男の美学。

要らぬ心配など鬱陶しいだけ。

昨夜の真相を知る2人だけが例外だった。

 

「でも本当に話さなくて良かったの?」

「沈まれ~静まれ~鎮まれ~.......話す必要は無いっス~......うぬぬぬ」

 

容赦無く迫り来る痛みと戦いつつも、楯無の言葉に応じる。

それは今から数時間前、レイン・ミューゼルと闘り合った数時間後の話。

 

.

.

.

 

ダリル改め、レインからプライベート回線に通信が入る。

時刻は夜明け。

この季節ではまだ薄暗く、当然通信を受けたスコールも眠っていた。

 

「......こんな時間にどうしたの?」

『睡眠中に失礼しますよっと』

 

(.......誰?)

 

寝ぼけていた頭が一瞬で覚醒する。

ディスプレイに浮かぶのは自分の知るレインでは無く、包帯を全身に巻いた者。

声から推測するに、おそらく男。

 

『この間はどーも』

「.......この間?」

 

私はこの男と会った事がある?

それよりもレインはどうした。

 

『ああ、この格好じゃ分かんねぇか』

 

画面の向こうで、ハラハラと巻かれた包帯を外していく。

 

「.......ッッ......貴方は」

 

酷い火傷を負っているが、間違い無い。

目の前の男、いや少年は

 

「渋川恭一.......?」

『ククッ......色男に磨きが掛かっただろ?』

 

落ち着け。

何故、渋川恭一があの娘の回線で私を?

 

(まさかレイン―――)

 

考えれば直ぐに答えに辿り着く。

あの娘は私と同じ火の使い手。

渋川恭一の傷を見れば分かる事ではないか。

 

「......あの娘は無事なのかしら?」

『知る必要は無い、と言いたいが』

 

ベッドが撮され、治療を終え眠っているレインの姿が見える。

恭一程では無いが、見える限り彼女の傷も軽いとは言えなかった。

だが、生きている。

それだけでも知れたのは収穫か。

 

(最悪の展開だけどね)

 

この少年ならレインの命を盾に、こちらを脅す事など朝飯前だろう。

 

『さて、スコールさん......取引といこうか』

 

(やっぱりね)

 

「言ってちょうだい」

 

今は下手に出るしか無い。

 

『10日後に修学旅行があってな。行き先は京都なんだわ』

「らしいわね」

 

一体何が言いたいの?

 

『端的に言うぜ? 決戦は10日後、舞台は華の京都。アンタ達の相手は俺1人だ』

「.......何ですって?」

『宿泊先の旅館など抜け出す事は容易いからな。時間は夜中......そうだな、丑の刻がオツだろう』

 

果たし状って訳?

 

「貴方が1人で来る保証は?」

 

こんな事を聞いても無駄なのは分かっている。

何故なら、レインはそのための人質なのだから。

彼が思い付いていない筈が無い。

私でもそうするのだから。

 

『来たくなけりゃそれでも良いさ』

 

(やっぱりね。後に続く言葉は『その代わりレインの命は無い』って処かしら)

 

『そん時は俺も宿に帰るし』

「......は?」

『唯、1つだけ約束して貰う』

「......?」

 

恭一の眼が鋭くなった事に気付き

 

(今から言う事が本題......?)

 

『学園の人間には手を出すな。それを破ればコイツは殺す』

「..........」

 

恭一の言葉を頭で反芻させる。

 

今、何て言った?

学園の生徒に?

手を出すな?

 

「それだけ?」

『おう』

「もし私達が行かなければ?」

『宿に帰る』

「レインは?」

『何も無し』

 

冷静に考えろ。

何かがおかしい。

自分と少年の考えに何らかの擦れを感じる。

その正体は何だ?

 

(彼の第一の目的は『亡国機業』では無い?)

 

自分の今の目的は『渋川恭一』そのもの。

故にスコールは気付くのに、時間が掛かったのだ。

 

(彼の真の目的は学園の生徒の安全って事?)

 

「随分甘いのね? 貴方を敵視している小娘共を守るだなんて」

『生徒会長は学園の守護者であるべし! ってな』

「はぁ?」

『つい最近俺ァ生徒会長になったんだよ。就任挨拶、聞きてぇか?』

「いえ、いいわ......」

 

駄目だ。

この男は何処までが本気なのか、上手く察知出来ない。

 

『アンタ言ってたな? 俺が1人で来る保証は有るのか、と』

「ええ、言ったわ」

 

エムが居ない、そしてレインも戦線離脱。

そんな中で、専用機持ち全員相手は流石に私とて骨が折れる。

 

『こんな俺にも誇りがある。武道家としての誇りがな』

「.........」

『闘いに関して嘘は吐かねぇ。それをしてしまえば、俺は唯の狂人に成り下がっちまう。信じる信じないはアンタの勝手だがな』

「......分かったわ。信じましょう」

 

決戦の刻は10日後。

 

「それまでにその傷は治るのかしら?」

『7日もあれば治るって、束姉ちゃんのお墨付きさ』

 

それを最後に2人の回線は途切れる。

スコールとの通信を終わった恭一は短く息を吐く。

彼が居るのは学園の地下に隠されてある、強固な地下牢。

当然此処の存在を知る者は少ない。

 

点滴を打たれたまま、眠っているレインを一瞥した恭一は地下牢の扉を開け

 

「お疲れ様、恭一君」

「包帯を巻いてやる」

 

外で待機していた楯無と千冬から出迎えられる。

 

「聞いての通りっすよ。後は囲んでタコ殴り、ハイ終わりってね」

 

(誇り? ククッ......九鬼が持ってんじゃね?)

 

ひと芝居を終えた恭一は楯無と千冬の表情を見て、上手く騙せた事を確信し、嗤った。

 

.

.

.

 

「サファイア先輩の方は大丈夫っすか?」

「ええ、レイン・ミューゼルの携帯からメールを送っておいたわ」

 

レインは2年のギリシャ代表候補生『フォルテ・サファイア』と恋仲である。

突然、レイン改めダリルが学園から消えると、フォルテも不審に思うだろう。

そうなっては面倒なので、先手を既に打たせた。

 

レインは肩書きではアメリカ代表候補生。

ならそれを利用しない手は無い。

 

アメリカからの呼び出しを喰らった。

 

これだけで、同じ候補生なら納得してしまうのだ。

その旨を楯無がレインに成り代わり、送ったという訳である。

後は彼女が真相に気付く前にスコールを叩くのみ。

 

しかし、どうしてダリル・ケイシーの正体を一夏達やフォルテに明かさないのか。

楯無と千冬は話すべきだ、と主張したが恭一がそれを許さなかった。

そして彼はその理由をまだ話してはいない。

 

「ぬーん!」

 

恭一は痛む身体に喝を入れ、ゆっくりと立ち上がる。

 

「いや、何処行く気なのよ?」

「ダリル先輩ン所」

 

一体、何を話すつもりなのか。

 




カツ丼持って行かなきゃ(使命感)

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