野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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お見舞いに行こう、というお話



第135話 ビートミート

「席に着け。ホームルームを始める」

 

教卓には千冬、そして少し離れた所に立つ副担任の真耶。

生徒達は既に席に着いて、静かに千冬の言葉を聞いている。

いつもと変わらぬ今朝の1年1組教室内。

但し1人の少年が居ない、という事を除けば。

 

「あ、あの織斑先生。恭一がまだ来てないのですが......」

 

箒の声に髪を掻き上げながら

 

「あー......アイツはインフルエンザに罹ってな」

「ま、またですか!?」

 

早朝鍛錬は無しとの連絡が『たんれんぶ』のメンバーに着ていたが、それなら確かに納得は出来る。

 

「渋川君って意外に虚弱体質?」

「確か夏にも1回インフレってたよねぇ」

「そうそうインフレ」

 

インフレネタを解する渋い女子高生達。

 

「でも、大丈夫かな? 来週は修学旅行だよ?」

「来週って言ってもまだ10日もあるし、流石に治るでしょ」

 

千冬はパン、と手を叩き

 

「分かっているとは思うが、見舞いは無しだ。良いな?」

 

「「「「 はーい 」」」」

 

「では今日の連絡事項を―――」

 

.

.

.

 

「織斑」

「あ、はい!」

 

ホームルームも終わり、1限目の用意をしていた処で声を掛けられる。

 

「昼休みに一年の専用機持ちと篠ノ之を連れて職員室に来い」

「......何かあったんですか?」

 

努めて自然に話したつもりだが、少し硬くなっていたか。

 

「なに、そう身構える事では無い。公に出来ん連絡事項をお前達に伝えるだけだ」

「は、はぁ......」

 

ポンと出席簿で軽く一夏の肩を叩き、千冬は教室から出て行こうと

 

「.......」

 

彼女の視線の先には

 

「うぉおおおっ! 今行くぞ恭一ィ!!」

「話聞いてたの箒?! 行ったらダメなんだっだって! う、うわぁっ!?」

「な、何て馬力ですの!? 私とシャルロットさんが引きずられますわぁ!!」

 

腰に巻き付くシャルロットとセシリアなどお構い無し。

2人をズルズル引き摺り歩を進める箒。

 

「箒はシーザーズ(帝王の)チャージの使い手だったのか......」

 

何を納得したのか、ポンと手を叩くラウラに呼応するかの如く

 

「決まっている。勝つのは私だッ!!」

 

信念と闘志だけで前へ、肉体猛々しく、気力雄々しく前へと進むのみッ!

 

「潰されたいのか......篠ノ之箒」

「ひぇっ......ち、千冬さん」

 

羅刹の前では帝王と云えども村人同然。

 

「そ、そうだぜ箒。恭一だってお前に風邪が感染ったら悲しむと思うぞ」

「むむむ.......」

 

唸りつつも大人しく席へ戻って行く箒。

やれやれ、と溜息を付きながら改めて教室から出て行く千冬。

彼女の表情は少し曇りを映していたが、幸い誰にも見られる事は無かった。

 

 

________________

 

 

 

「失礼します」

 

昼休みになり、千冬に言われた通り『たんれんぶ』の部員達が職員室へやって来た。

一夏を先頭に千冬の元まで行くと、何やら書類を見ていた彼女も彼らに気付き、顔を上げる。

 

「......来たか」

「更識は生徒会の用事があるって―――」

「ああ、それは本人から聞いている」

 

千冬のデスクの周りには、簪と学年が異なる楯無以外の面々が。

 

「あの、何やらお話があると伺いましたが」

「ふむ......まずは場所を変えよう」

 

本題には入らず、スタスタ歩く千冬の後に続く其々。

いつもなら箒か一夏辺りが追求するのだが、今の千冬の背中はそれを躊躇わせる。

 

「えっと......何処まで行くんですか、織斑先生?」

 

聞かれては不味いのなら生徒指導室が空いているのだが、既に其処は通り過ぎ、校舎の出入り口まで来てしまっていた。

 

「黙って付いて来い」

 

それだけを言うと、千冬は校舎から出る。

皆も不思議に思いながら、後へ続くしかない。

運動場を抜け、僻地へと入って行く。

この先にあるのは恭一の部屋だけだ。

 

「ち、千冬姉ぇ......恭一に何かあったのか?」

 

この状況で、それを聞くなという方が無理である。

セシリア達も一夏と同じ事を思っていたようで、肯定するかのように頷きを見せた。

 

「まぁ此処まで来ればもう良いだろう」

 

既に皆は恭一がインフルエンザで休んでいるなどとは思っていない。

恭一の身に何かあったんだ。

漠然とした不安を抱えたまま、千冬の言葉を待つ。

 

「昨晩、渋川が何者かに襲撃を受けた」

 

その言葉に数人が息を飲む。

 

「撃退したらしいが......その際に受けた傷が思いの外、深くてな」

 

束のナノマシンで治療は終えたが、当分は学校へ出られる状態では無い事。

修学旅行までには何とか治るとの事。

風邪と偽ったのは他の生徒に不安を抱かせないため、と千冬は続ける。

 

「分かっているとは思うが、他言無用だからな」

「そ、そんな事は心得てます! それよりも恭一はっ......恭一は大丈夫なんですか!?」

 

顔面蒼白で千冬に詰め寄る箒。

いつもなら彼女を落ち着かせる鈴も、押し黙ったままだ。

 

「全身を炎で包まれたらしくてな......下半身はまだ軽度で済んでいるのだが上半身、特に右肩から腕に重度な火傷を負っている」

 

「っ......!」

 

言い終わる前に駆け出し

 

「お、お待ち下さい箒さんッ! 私も行きますわ!」

 

箒とセシリアに続くように、その場から足を早める一夏達。

 

「お前は行かないのか、ラウラ」

「恭一殿を襲った不届き者はどうなったのですか?」

 

アイツらの中で唯一、軍人なだけはある。

感情現わにしつつも、本質を忘れないのは流石と言うべきか。

 

「聞いてどうする?」

「拷問に拷問を重ねた後、惨たらしく殺します」

 

前言撤回。

完全に目が据わっているじゃないか。

 

「逃げたらしい」

「......そうですか」

 

悔しそうに下唇を噛むラウラの背中を優しく叩き

 

「私達も行こう」

「はい.....」

 

恭一の部屋へと歩を進めた。

 

 

________________

 

 

 

「はぁっ.....はぁっ......!」

 

何故なんだ。

どうしていつもアイツばかり傷付かねばならんのだ!

一刻も早くアイツの元へ行きたいのに。

足が思うように進んでくれない。

 

(見えたッ......恭一の部屋!)

 

切らした息を整えるのも惜しみ

 

「恭一ッ!!」

「恭一さんッ!!」

「大丈夫か恭一ィ!!」

 

乱雑に扉を開けた箒に続いてセシリアと一夏も部屋の中へ

 

 

 

「「「.............」」」

 

 

 

3人は言葉を失くし、その場で立ち竦む。

 

「ど、どうしたのよ.....何で中に入らないのよ......っ.....ま、まさか」

「嘘.......嘘だよね?」

 

後から追いついた鈴とシャルロット。

一夏達が壁で中の様子が見えない。

最悪の事態が2人の頭を過ぎる。

 

「ど、どいてッ!」

「どきなさいよアンタ達!」

 

石像のように動かない3人を押しのけて

 

「恭一ッ!! だいじょ.............は?」

「..........あたし帰っていい?」

 

 

2人の目に映る光景―――

 

 

全身包帯男が

 

カンカンカンカンッ!

 

「HEY!」

 

真っ白なお皿をドラムに

 

カンカンカンカンッ!!

 

「HEYHEY!」

 

箸で8ビートを刻んでいた。

 





短いけどオチがついちゃったので、此処まで(-。-)y-゜゜゜

思い付きをそのまま書いてはいけない(再確認)

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