野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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アッツイ!!
というお話



第134話 炎帝の抱擁

「ハァ? もっかい言ってくれよ叔母さん」

 

暗闇の中、とある人物とプライベート通信中のダリルの眉間に皺が寄る。

 

『渋川恭一には手を出すな、よ......あと、叔母さんはヤメなさい』

 

通信相手は『亡国機業』スコール・ミューゼル。

 

「何でだよ? アイツを拉致れッて言ったのは叔母さんじゃねぇか」

 

ダリル・ケイシー改め、コードネーム『レイン・ミューゼル』の顔が僅かに歪んだ。

 

『状況が変わったのよ。彼とは私が闘るわ。貴女は引き続き情報を流してちょうだい』

「......それは何か? アイツの相手をするには、オレじゃ力不足だって聞こえるんだがよ?」

 

渋川恭一の強さは知っているつもりだ。

既にボロボロの無人機だったとは云え、粉砕したアイツの実力は確かに本物。

だが、オレだって『亡国機業』の1人。

学園内の甘ちゃん連中とは違う。

 

レインは決して後方に甘んじるデスクの人間では無い。

実働部隊に所属し、常に前線に立ち続けた剛の者。

スコールの言葉は、そんな彼女の誇りに傷を付けたらしい。

 

『......貴女が弱いなんて私は思っていないわ』

「そんな事聞いてんじゃねぇ......はっきり言ってくれよ」

『貴女では勝てないわ』

「.......へぇ」

 

獰猛な笑みはレインの顔の下半分をひん曲げる。

 

『オータムが負けたから言ってるんじゃないの。渋川恭一は一線を超えた異常者よ。ある意味エム以上にね』

「ククッ......そうかい、そうかい」

 

愉快そうに相槌つレインに溜息を付き

 

『分かっていると思うけど、馬鹿な真似は許さないわよ』

「だーいじょうぶだって! オレはスパイ活動に専念してりゃ良いんだろ?」

『ええ、そうよ。決戦の舞台はあの子達が京都へ来る修学旅行。その時に大いに暴れなさいな』

「あいよ。そいじゃな叔母さん」

 

通信を切ったレインは、少しずつダリルとしての顔に戻っていく。

が、彼女は自室に帰る事無く、真っ直ぐ恭一に部屋に向かって行った。

 

 

________________

 

 

 

「珍しい来客もあったもんだ。茶でも出しますよ」

「いや、良い。もう就寝時間も過ぎてっしな。用件を言ったら帰るよ」

 

手で制しながら

 

「明日の朝、第三アリーナでお前を待つ」

 

ダリルは恭一に、言葉での果たし状を叩きつけた。

 

「......俺と試合たい、と?」

「おう。無人機の一件以来よォ、オメェとは一遍闘りたかったんだ」

「それなら今から行きますか」

「は?」

 

何を言っているんだ、と立ち尽すダリルの隣りをすり抜け

 

「そんな素敵なお誘い、朝まで待ってらんないっスよ!」

「いや、今から行ってもアリーナ使えねぇだろ」

 

呆れるダリルにポケットから取り出したバッチを投げてみせる。

 

「これってお前......」

 

上手くキャッチしたバッチは代々『生徒会長』が受け継がれるモノ。

 

(それを何故コイツが?)

 

「生徒会長になったんスよ俺。正式な発表はまだですけどね」

 

恭一は生徒会長権限を使い、既に幾つかを執行させている。

その一つが『生徒会長は時間外でもアリーナを使用出来る』事。

 

「つー訳で、今から闘りましょうよ! まぁ日和ってンなら明日でも良いスけど」

 

ニヤニヤと笑みを向け

 

「あ? 誰が日和ってるだァ? 付いて来い、今から闘んぞ!」

「ほいほーい」

 

恭一を悩ませていた種、レイン・ミューゼルが彼の網の内に入った。

 

(アレコレ考えるのは、やっぱ性に合わねぇ)

 

シンプルが一番だな。

後に続く恭一の瞳に決意が灯る。

 

 

________________

 

 

 

「夜中に来ると不気味な場所に思えちまうなァ」

「騒がしいのがアリーナの日常ですからね」

 

恭一とダリルはアリーナの中央で対峙している。

2人共ISは展開してないが、何時でも始められる状況だ。

 

「さぁ渋川! オレの方は準備万端だぜ?」

 

IS『ヘル・ハウンド』を展開し拳を前へ、指で来いと促す。

 

「その前に俺は聞いておかねぇとな」

「あ? 何だよ」

 

こっちは血を滾らせてンのに、まだ何か―――

 

「刃引きをご所望なら言えよ、レイン・ミューゼル?」

「.......あ?」

 

コイツ今、何て言った。

 

「ゴフッ!?」

 

腹部に衝撃。

目を離したつもりは無ェのに、喰らってから気付いた。

コイツいつの間にオレの懐へ!?

壁にぶつかる寸前、スラスターを逆噴射させ回避するがそれよりも

 

「どういうつもりだ......」

 

更識家の女にすら看破されてない秘匿を何故知っているのか。

それも驚愕には違いない、がそれよりも

 

「俺のバックにゃ世界最高の姉ちゃんが居るだぜ?」

「篠ノ之......束かァ」

 

それよりもダリルが気に入らないのは

 

「オレの正体を知っててよォ.....今まで見過ごしていたってか? あ゛ァ?」

「道端のアリを気に掛ける奴は居ないだろう」

 

その一言で『ヘル・ハウンド』の両肩が火を噴き出す。

火は重なり炎と成り、炎はレインの拳を猛々しく纏った。

 

模擬戦止まりで満足しようと思っていたが、ヤメだ。

悪ぃなスコール叔母さん。

 

「......灰にしてやるよテメェ」

「灰にされたくねぇよテメェ」

 

(成程、これがコイツの本性ってか.....確かに異常者だぜ)

 

この状況で尚もISを展開せずに、嬉々と挑発してくる恭一を静かに睨む。

レインは短く息を吸い

 

(だがンな事よりもなァ......)

 

「その眼が気に入らねンだよォ!!」

 

レインはスコールと同じく炎を使いし者。

『ゴールデン・ドーン』と同様に火球を生成し、放つ事も可能。

しかし、彼女は中距離戦よりも近距離戦を好む。

故に、己の拳に炎を纏わせ真っ向勝負を仕掛ける剛の者。

 

曲線を描く事無く、猛スピードで真っ直ぐ突っ込んでくるレイン。

小細工を弄しない骨太な突進撃。

対する恭一は左右へ避けるか、上へ飛び上がるか、捌くか、カウンターを狙うか。

 

愚直な猛攻程、蕩ける愛しさが込み上げてくる恭一にそんな考えは無いらしく。

両手を広げ、重心を低く腰を据え

 

「うわははは! 受けて立つぜぇッ!!」

 

真っ向からの攻め気合いを選択。

彼女から繰り出される右拳を右手で受け止め、左拳を左手で受け止める。

ISと人力による、無謀過ぎる力比べの押しっくら。

生身で相対する恭一は力を入れるも、スラスターの勢いでガンガン後ろへ押されていく。

踏ん張る足が地面を削り、後ろへ後ろへ押されていく。

 

「ぐうっ.....ぬぬぬ.....っ!」

「ふざけてンじゃ無ェぞテメェ!!」

 

小学生でも分かる理論だ。

人間がISに勝てる訳が無ェ!!

それすら分からなねぇバカならオレが教えてやる!

 

己の拳を握る恭一の両手を炎で炙り焦がし、それでも放そうとしない恭一と

 

「そんなに死にてェのかッ!!」

 

一緒になって壁へと突っ込んだ。

めり込んだ恭一の口から吐かれた血がレインの機体に付着する。

 

(コイツ......まだ放しやがらねぇ)

 

それに恭一の拳の皮膚を焼いた嫌な臭いが、鼻を突く。

 

「ゴハッ......ゴフッ.....ククッ......やっぱこれだ......」

「ッッ!?」

 

初めて感じた殺気。

瞬時にその場から離脱を図るも、自分の拳を握っている両の掌がそれを許さない。

 

「痛み在ってこそ......闘いだァッ!!」

「あっ......ぎぃぃぃいいいいいいッッ!?」

 

シールドを纏っている筈の、炎を纏っている筈のレインの拳が。

 

「がァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァッッ!!」

 

文字通り、握り潰された。

 

「たかが拳を潰されただけでまァ......」

 

膝を突いて痛がるレインを見下ろす恭一は、焼かれた拳をプラプラさせる。

彼女を見下ろす眼は凍てつく氷のようだった。

 

「この世界の強者を気取る奴らは痛みに弱すぎる。それでも構わず反撃してくる奴も2人程知ってっけどな」

 

彼が言う2人は束と千冬である。

 

「ぐっ.....うぅぅぅぅぅ......」

 

拳はもう使いモンにならねぇ......少し動かしただけで激痛が走りやがる。

だがなァ......オレを見下ろすその眼が。

年下のガキが、何もかも見透かしたようなその眼でオレを.....。

 

「癇に障るっツってんだッ!!」

 

膝を突きながらも、睨み上げ叫んだレインの瞳は、未だ闘う事を諦めていない。

残りのシールドエネルギーを集中枯渇させる事で顕現出来る『ヘル・ハウンド』の秘技。

彼女の咆吼に呼応するが如く、炎に炎が重なり溶け合い、大気を焦がしていく。

 

「........」

 

叩くなら今。

武道家としてなら、隙だらけな今を見逃すは愚の骨頂。

しかし武狂者である恭一は好奇心を取った。

 

「コォォォォォ.....」

 

恭一の目の前で低く吠え猛ける炎は、やがて形を成す。

 

「.......オイオイ、魔法使いかよ」

 

その姿は、炎を纏いし冥界の番犬。

三つ首に竜の尾、蛇の鬣を持つギリシャ神話の魔犬ケルベロス。

 

「言っただろうがよ......テメェを灰にしてやるってなァ!!」

 

輝きを失ったISを纏いつつ、ゆっくりと右腕を突き出し

 

「焼き尽くせ、ケルベロスッ!!」

 

余裕ぶっこいたテメェの態度を変えてやる。

焦ってISを展開しろッ!

 

嗤うレインの表情は、またも変貌する事となる。

何故ならケルベロスが襲い掛かるよりも早く、恭一が飛び掛ったから。

何の躊躇いも無く、ISも展開せず、生身のままで。

 

「なっ......て、テメェ何してやがる!?」

 

アイツは底無しの馬鹿か!? 

マジで自殺願望でもあンのか!?

炎の海に突っ込むようなモンだぞ!

 

敵である筈の自分まで、思わず声を上げてしまった。

 

飛び上がり、ケルベロスの喉元に腕を掛けた恭一は一瞬で炎の渦に巻き付かれる。

しかし恭一は止まらない。

身を焦がすのも厭わず、そのまま駆け上がり、彼の向かう先は

 

「ま、まさかッ―――」

「根比べと逝こうぜレイン・ミューゼルッ!!」

「て、テメェ正気かッ!? グァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァッッ!!」

 

肩で抱えたケルベロスを彼女に押しやり、そのまま逃がさぬよう全身でレインに覆い被さった。

既にシールドを空にしてしまった彼女に、灼熱を防ぐ残された手段は1つのみ。

 

(コイツッ......オレと心中するつもりか?!)

 

何とか藻掻いて恭一から剥がれようとするも

 

「オイオイ、アンタが蒔いた種だろうがよォ.....」

 

燃え盛る中、嗤う恭一は彼女を決して放さない。

 

(これだけの炎の中で何故笑ってられる!?.......く、狂ってやがるッ)

 

「き、消えろケルベロス!」

 

灼熱と目の前の男から感じる異様な恐怖に耐えかねたレインは悲痛に叫び、2人を覆う炎が消え失せる。

 

「テメェ......痛みを感じねぇのかよ」

 

全身に広がる痛みで立ち上がれないレインとは違い、すんなり立って再び自分を見下ろす恭一に問い掛ける。

 

「ハッ......どうって事ねぇな」

 

大きく広がる燃え痕、特に酷く爛れた肩の部分を虫でも払うように擦り嗤う。

 

「......バケモンが」

 

その言葉を最後に、レインの意識は途切れた。

恭一は彼女が気を失っているのを確認し

 

「うっ......うげぇぇぇぇぇえええええッッ!!」

 

込み上げてくる血が混じった吐瀉物を地に撒き散らした。

 

「はぁっ......はぁっ......がふっ、ごほっ.......」

 

既に足に力は入らず、折れたように座り込む。

 

「痛みを感じねぇ訳......無ェだろが......」

 

通信を入れるよりも早く、目の前にディスプレイが表示され

 

「何考えてるのさバカキョー君ッ!!」

「いてぇよぉ......束姉ちゃんへるーぷ......」

「もうッ!! 今、そっちに向かってるから!」

 

通信が途絶え

 

「クハハハハ......たーのしィー......」

 

大の字に仰向けになり、満足気に小さく笑った。

 




生きてる証拠だよ!(ヒゲクマ調教師)

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