野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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班と個、というお話



第133話 初めての来客

「どうされましたの、箒さん?」

「むっ......セシリアか」

 

朝のホームルーム前。

既に1組の教室には生徒達が、各々楽しくおしゃべりをしている。

いつもなら箒も恭一の席まで行くのだが。

今朝の恭一からは、何やら話しかけにくいオーラが放たれていた。

決して殺気を撒き散らしている訳では無い。

かと言って、覇気を失くした腑抜けた顔をしている訳でも無い。

 

何やら小さくて細いカードのような物を捲ってはブツブツと唸っているのだ。

例えるなら、受験生が電車内でよくやっているアレか。

 

「英単語でも覚えようとしているのか......? いや、しかし」

 

はっきりとは聞き取れないが、英語では無さそうだ。

恭一は2人の視線に気付く事無く、一心不乱に虚から渡された『生徒会長心得集』を読み込んでいる。

 

「生徒会長は最強であるべし......生徒会長は最高であるべし.......」

 

.

.

.

 

それは昨日の事。

 

「ふっ、ふざけんな! ぬぁんで100個も覚えなきゃならねンだ!?」

「決まりですので」

 

さも当然、と虚は眼鏡をクイッと持ち上げる。

 

「がんば」

「がんばーだよ~」

 

虚の言葉は嘘では無いのだろう。

簪と本音の変わらない反応が物語っている。

しかし、それでも恭一は納得がいかない。

 

何故なら

 

「きょうひちふん、がんばーモグモグ......」

 

生徒会長の重荷から解放されたせいか、ソワァーにだらしなく寝っ転がり、ケーキをもふっている前生徒会長の姿が在るからで。

 

「この垂れパンダが覚えてるってのか!? ぐーたらの極みじゃねぇか!」

 

学年が違うせいか、彼は知らないらしい。

楯無の頭脳明晰っぷりを。

 

「そんなの2秒で覚えたわよぉ」

「嘘つけ! ンなら、今すぐ言ってみろい!」

 

「ぺらぺーらぺらぺらぺらぺーらぺらぺーら」

「嘘じゃない!?」

 

残念でもないし当然。

 

.

.

.

 

「――――――べし。――――――べし」

 

箒とセシリアが見守る中、ひたすら読み耽る恭一。

 

「......べしって言っているな」

「言ってますね......そろそろピョンが来ると思いますわ」

「は?」

 

清香からスラムダンクを拝借中のセシリアだった。

 

 

________________

 

 

 

「さて、諸君らも分かっているとは思うが来週には修学旅行が控えている」

 

朝のホームルームにて千冬がそう告げると、教室内から黄色い声が上がる。

やはりIS学園とは云え、花の十代乙女の集い。

行事に関する嬉しい気持ちは、此処でも同じらしい。

 

「1限目の授業は修学旅行に関する説明、及び班のグループを決めるからな。各々今の内に話し合っておくように」

 

伝達事項を終えた千冬が教卓から降りると、早速皆も席から立つ。

旅行の行き先は定番の京都とは云え、一生の思い出になる行事だ。

それぞれ、仲の良い者達が集まり、着々とグループが決まっていく。

 

その光景をぼんやりと眺めている恭一の席にも、『たんれんぶ』のメンバーがやって来た。

 

「京都と云えば日本古都。趣もあり、きっと良い旅になるに違いない」

「日本の京都と我が英国のロンドン。どちらが由緒ある古都なのか比べてみるのも一興ですわね」

 

箒とセシリアの後ろには一夏とシャルロットの姿も。

 

「俺も何回か行ってるけど、やっぱりワクワクするな!」

「日本の名所なんだよね? 僕も楽しみだなぁ」

 

ちなみにラウラは

 

「わ、私は教官のサポートに徹します!」

「ふっ......なら、旅先では一緒に回るか?」

「は、はいッ!」

 

ちゃっかり千冬の隣りをゲットしていた。

嬉しそうな子犬ラウラの頭を千冬は撫でながら

 

「渋川は生徒会から皆の旅行風景を写真に収めるよう言われている」

 

「「「「???」」」」

 

いまいち意味が伝わっていない4人に

 

「まぁアレだ。俺は基本的に班行動はしないって事だな」

 

今まで黙っていた恭一が、事無さ気に言う。

 

「「そ、そげなアホな......」」

 

がっくり肩を落とす仲の良い箒・セシリアコンビ。

 

「つってもずっと単独で動く訳じゃ無ェからよ。適当にお前達と合流するからそん時は案内してくれよな」

 

恭一が乗せた手は箒の肩でもセシリアの肩でも無く。

 

「おう、任せろッ!」

 

一夏だった。

 

「な、何故私では無く一夏なのだ!? 折角の新婚旅行だぞ!」

「ダウト1億」

 

「な、何故私では無く一夏さんなのですか!? 折角の付き合って初めてのデートですのに!」

「ダウト1億」

 

「どうして僕じゃないのー?」

「黙れうんこ」

「ひどいよッ!」

 

彼が一夏に言ったのは「何回か行った」発言を受けたからなのだが、少なくとも箒とセシリアの反応を見て、自分の判断は間違ってないと悟った恭一である。

シャルロットに関しては、この間の足ツンツン事件が尾を引いているだけだった。

 

(何にせよ、これで単独で動ける)

 

写真係は本命であり、ダミーでもある。

万が一の事を見据えた末、1人で行動出来る名目を作り上げる必要があった。

早速、生徒会長の権限を発動させた訳である。

 

(尤も、杞憂に終わらせるつもりだがな)

 

ワイワイと楽しそうに盛り上がる教室内。

 

「やっぱり金閣寺は外せないよね!」

「清水寺もね!」

「京都の名産って何だっけ? スイーツ限定で!」

「わらび餅とか豆大福とかじゃなかったっけ」

「美味しければ何でもよいのだー!」

 

「「「「 よいのだー! 」」」」

 

何時にも増してハイテンションな女子達。

それだけ楽しみなのだろう。

 

「........」

「どうした恭一? 難しい顔して」

「美味けりゃ何でも良い......名言だとは思わんかね、箒よ」

「成程、今朝のお前もやはりアホだな」

 

いつもと何処か違う雰囲気だと思ったが、気のせいだったか。

その後も、一夏達と軽口を叩く恭一の様子はいつも通りだった。

 

 

________________

 

 

 

放課後、箒達との部活を終え夕食も食べ終わった恭一は自室で1人、座禅を組み、ひたすら黙想を続けている。

 

「......どうしたモンか」

 

己がやるべき事は既に決まっている。

だが、1つだけ自分を悩ませているモノがあった。

 

それは―――

 

コンコン

 

瞑目を遮るノック音。

 

「ラウラか? 開いてンぞ」

 

軽快な音を立てる扉の向こうに声をやるが

 

「随分、小汚ねぇ部屋に住まされてんだなァ......渋川」

「......アンタは」

 

扉を開けたのはラウラでは無く、相変わらずの短いスカートに、胸元を大胆に開け広げ、黒の下着を露出させている3年生筆頭。

『兄貴分のお姉様』で有名な専用機持ち。

 

「ケイシー先輩」

 

ダリル・ケイシーの姿が其処には在った。

 





シャルロットをうんこ呼ばわりする主人公が居るらしい

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