野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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(ヾノ・∀・`)ヤッパムリッス。
というお話



第132話 密誕 新・生徒会長

「どういう風の吹き回しかしら? 生徒会に入りたいじゃなくて、いきなり生徒会長にならせろって」

 

生徒会室にて1人、とある計画を煮詰めていた楯無。

思わぬ来客にも驚いたが、それ以上に目の前の少年の言葉の真意を測りかねていた。

 

「いつか言ってましたよね? 全生徒の長たる存在、生徒会長は学園最強であれ......だったか」

「ええ、言ったわね」

 

IS学園には他の学校には決してない、暗黙の了解とも云うべき不文律が存在する。

その内の1つが生徒会長という役職だ。

 

『最強である生徒会長は何時如何なる時でも襲って良し。勝った者こそ生徒会長なり』

 

楯無自身も己が一年生の時に、生徒会長だった3年生に挑み勝ち、会長の座を奪っているのだ。

 

「なら、俺がなるのが道理でしょう」

「そんな事を聞いてる訳じゃないわ。どうして今になってそれを言うの? 面倒事は嫌いだって生徒会入りすら拒んだ貴方が」

 

だからこそ分からない。

何故今なのか。

何故このタイミングで言ってくるのか。

 

「別に良いでしょう? 気が変わったんスよ」

「それで納得すると思う?」

 

強引に聞き出せる相手では無い。

けど、彼は力の前ではやけに素直な部分がある。

彼と過ごした月日の中で私はそれに気付いている。

そして、力の種類が権力であっても。

 

「生徒会長命令よ。何故なりたいのか言いなさい恭一君」

「......修学旅行」

 

楯無の身体が僅かに震えた。

 

「会長程のキレ者の事だ。それに合わせて何やら策を練ってますね?」

「.......」

 

学園を出ての一大イベント、修学旅行。

学園生活を彩る華やかな行事の1つなのだが、他校には無い問題がある。

 

それは第三者の介入。

これ迄、幾度と無く襲撃を受けているIS学園。

臨海学校とは違い、生徒達が学園外にてバラバラで過ごす事が多くなるであろう行事に『亡国機業』が何もしてこない筈が無い。

 

故に、楯無は来たる修学旅行に向けて1つの計画を立てていた。

 

それは下見という名の『亡国機業』拠点制圧。

旅行の舞台は花の京都。

其処には、スコール達『亡国機業』の拠点があるとされている。

そんな場所で修学旅行など、攻めてこられるのは必至。

 

受けに回るか、攻められる前にこちらから攻めるか。

 

楯無が選んだ答えは『完全決着』の四文字。

故に、視察旅行と銘打って全戦力を投入。

IS専用機持ち全員に千冬と真耶、そして訓練機でありながらも彼女達と遜色無い、高い実力を誇る箒と恭一。

楯無が考えうる最強のチームで『亡国機業』との因縁に決着を付ける事を選んだ。

 

どうせ皆に作戦を伝えるのだ、彼女は恭一に自分の考えを話した。

目を瞑り、最後まで聞いていた恭一は

 

「成程......流石は会長だ。理に適っている」

 

満足そうに頷き、それを受けた楯無にも笑みが零れ

 

「ッッ!? あっ......が......っ.....」

「悠長に座っていたのは不味かったな、先輩」

 

一瞬で距離を詰められ、首を掴まれた彼女は軽々と持ち上げられた。

既に彼女の頚動脈には恭一の指が触れている。

 

" 何時如何なる時でも襲って良し "

 

(私はッ......何て―――)

 

『たんれんぶ』の皆と行う鍛錬時、ISを使った授業、そして日常。

恭一と共に過ごしてきた中で、楯無には彼に対する固定概念が無意識の内に生まれ育っていた。

彼は狂人を謳っているが、その実自分から仕掛ける事は少なかったりする。

気に入らない者が居ても、手を出すよりも先に挑発して相手の反応を楽しむ方が圧倒的に多い。

それは戦闘でも同じ。

第一手時の彼は受けに回る事の方が圧倒的に多い。

自ら先手を打つ事は、ほぼ皆無と言って良い。

何故なら彼は、相手を推し量る事を好むから。

 

楯無はISを展開する間も、自分の認識の甘さを悔いる間も無く、意識を深淵へと落とされた。

 

 

________________

 

 

 

「此処にハンコを押せば良いのか?」

「まずは目を通さないと駄目」

「......はい、読んだ!」

「内容言って」

「いや、それは......」

 

何やら声が聞こえてくる。

 

「ズルは駄目だよ、しぶちー会長」

「ぐぬぬぬぬぅ......」

 

少しずつ意識が回復してくるのが分かる。

 

「え~なになに.......渋川恭一と織斑一夏の部活レンタル申請......」

 

ビリビリ

 

「破っちゃダメだよー!」

 

恭一君の声、本音ちゃんの声。

 

「ふっざけんな! 前テニス部に行っただろうが!」

「第二弾だね、がんば」

 

簪ちゃんの声。

 

(そっか......私―――)

 

ソファーに寝かされていた楯無は、掛けられている毛布を払う。

楯無の視線の先では、賑やかに騒いでいる後輩達。

 

「はい、次はこれに目を通して」

「なぁ......あと何枚位あんだ?」

 

簪は何も言わず、束になった書類を机に置く。

タウンページ並の厚さに

 

「......早まったかな」

「なら、私と変わる? 新生徒会長さん」

「......先輩」

 

薄い笑みを浮かべる楯無が起き上がって来ていた。

 

.

.

.

 

「私が立てた作戦に不満があるの?」

「まっ、そう云う事になりますかね」

 

空気を読んだ簪と本音は部屋から出ている。

書類でヒコーキを折ろうとする恭一の手を叩きながら、楯無は問う。

 

「今回に関してだけはアンタの指示に従え無ェ」

 

それでも生徒会長としての権限を使われたら、自分は従うだろう。

自分の性格は知っている。

なら、どうすれば良い。

考えたが、頭の良くない自分にはこれ以外、他に方法が思いつかなかった。

自身が生徒会長になってしまうしか無かった。

 

「つー訳で、先輩はもう生徒会長じゃ無い。今回の作戦もお流れだ」

「はい、そーですかって納得出来ると思っているの?」

 

暴論も良い処だ。

彼の勝手な我侭に対し、二つ返事でOKなど出せる筈が無い。

 

「負けた奴の感情なんざ知るか。恨むなら力の無さを恨みな」

「ぐっ......くうっ......」

 

綺麗事だけでは、正論を翳すだけでは生き残れない世界。

裏を生きてきた楯無だからこそ、その言葉が余計に胸に刺さる。

形はどうあれ、自分は恭一に負けてしまったのだ。

会長の座を奪われた今、どんな言葉を放っても無意味。

 

「......一体、恭一君は何をする気なの?」

「答える必要は無い」

 

何が彼を此処までさせるのか、分からない。

問い詰めた処で、恭一君は話してくれないだろう。

 

「1つだけ教えて」

 

それでもこれだけは聞きたい。

否、聞いておかなくちゃいけない。

 

「貴方1人で背負うなんて事、考えてないわよね?」

 

もしも『亡国機業』と1人でやり合うなんて馬鹿げた事を考えているのなら、更識家の全てを使ってでも恭一君を止める。

 

「ハッ......蛮勇と無謀を履き違える程、馬鹿じゃねぇさ」

「......嘘じゃないのね? 信じて......良いのね?」

「箒と千冬さんに誓って」

 

長い長い沈黙。

2人の視線は躱し合う事無く、交差し続ける。

 

「......なら、良いわ。私も恭一君に従う」

 

2人の間に張り詰めていた氣が霧散し

 

「それじゃ、この書類は任せたっす!」

「絶対嫌よん♪」

「生徒会長の名において命ずるッ!」

「己が仕事を全うする者のみが生徒会長を名乗れるのよ?」

「ぐぬぬ」

 

タウンページと化した書類の端を指でパラパラする恭一。

 

「......多いっす」

「多いわねぇ」

 

何度捲ろうが枚数は決して変わらない、当たり前だが。

 

「生徒会長の仕事はキツいわよぉ?.......後悔してるんじゃなぁい?」

「数ある不自由と戦わずして、自由は手に入らねぇんだぜ」

 

キリリと格好良さげに放つも

 

「......涙目になってるわよ?」

 

結構後悔しているらしかった。

結局、見てられない楯無は副会長の役職に就き、生徒会に残る事となった。

主に恭一のサポート兼、相談役として。

 

ちなみに恭一が生徒会長になった事は、まだ皆には知らせない方針だ。

年内は他にも行事が残っているし、引き継ぎの事もある。

故に、この件を知るのは恭一、楯無、本音、簪。

そして本日、他用で遅れている虚を入れた5人だ。

 

「もぉーいぃーかいっ?」

 

外で待機していた本音と簪、それに用事を終えた虚も一緒に入ってきた。

楯無が3人に事情を説明し、其々が納得をした処で

 

「何処へ行こうというのかね、会長君」

 

早速、小窓から離脱を図ろうとしている新会長を掴んで放さない副会長。

 

「そ、そろそろフルハウスが始まるので」

「受信料払ってないでしょ」

 

そもそも恭一の部屋にテレビなど無い。

逃げるには、弱すぎる理由だった。

 

「虚ちゃん」

「はい、お嬢様」

「やん、お嬢様はやめてよ」

 

布仏家は代々更識家に仕える家系らしい。

更識姉妹と布仏姉妹は幼い頃からの仲と云う訳だ。

 

「恭一君に指導をお願いするわ。スパルタンXな勢いでやっちゃって良いからね♪」

「分かりました」

 

楯無の言葉に眼鏡をクイッとする仕草が、やたら堂に入っていた。

恭一はそんな虚と本音を交互に見る。

 

「.......?」

「どしたのー?」

 

(のほほん皆無なのほほん姉ちゃん......のほほんって言葉、何度も言ってるとアレだな)

 

「のほほるんりんくるだな」

「は?」

「いえ、何も」

 

お茶目な会話は成立しそうに無い。

そう判断した恭一は、大人しく虚の指導を受ける事となり

 

「良いですか渋川君。まずは生徒会長としての心得からいきますよ」

「オナシャス!」

「は?」

「いえ、何も」

 

お茶目禁止。

 

「ちなみに全部で100個あります」

「へ?」

「私の後に復唱して下さい」

「は、はぁ.....」

「勿論、全部覚えて頂きますので」

「えっ?」

 

 

 

「...........江っ?」

 

 

 

先は果てしなく遠い。

 





(ヾノ・∀・`)ムリムリ

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