野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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罰則&仰天&愛娘、というお話



第131話 新たな決意

怒涛の一夜も過ぎ去り、ここIS学園には木漏れ日が映り、穏やかな秋冬の朝が訪れる。

朝の風もゆっくりと動き始め、1日のスタートを知られる明るさが舞い降りた。

こんな爽やかな日には口笛でも吹きたくなる。

 

「...........ぐぬぬ」

 

1人の少年を除いて。

 

「まぁた渋川君が土下座させられてるよー」

「えっと、なになに......『僕は世界一のアホです』だって。ぷふふっ、知ってるよねぇ」

 

「「「「 ねー 」」」」

 

学生寮に住む者全員が通る憩いの広場にて、夜通し正座させられている恭一。

膝の上には中々に重そうな石が乗せられている。

これでもし三角形の木を並べた台が敷かれていれば、江戸時代の拷問『石抱』の完成な訳だが、流石に其処まではされていないようだ。

そして、彼の隣りにはもはや恒例となりつつあるプラカードが刺さっている。

書かれている言葉は先程の女子が読んだ通りだ。

時刻は既に七時を回っているにも拘らず、未だ羅刹先生からの許しは出ていなかった。

 

「おかしい......何故俺だけ......」

 

彼の罪状は器物破損に門限超帰宅。

門限を破った事に関しては、楯無の説明もあり不問となったが、テーブルを木っ端微塵にしたのは不味かった。

罰を言い渡された時、当然恭一は楯無を巻き込もうとしたのだが

 

「織斑先生に大事な話があります」

 

生徒会長としての言葉を巧みに使用し、情状酌量の措置を見事にゲットした彼女は難を逃れた訳である。

 

(ううっ......公私を弁える教師の鑑だぁ.....)

 

恭一と2人で居る時の千冬は超絶可愛い。

ワールド・パージを経て更に、それは顕著となったと言えよう。

だが、その分精神的余裕も出て来たのか、嬉しいやら悲しいやら普段は恋人の顔をしっかり隠し、教師生徒としての関係を上手く保つようになった。

 

「......恭一?」

 

数時間にも渡る正座により、もはや足の感覚が消え失せた恭一の元へもう1人の恋人の姿が。

 

「ほ、箒! 助けてくれッ......織斑先生にいじめられてンだ!」

「......ふむ」

 

恭一とプラカードを交互に見て

 

「ムリダナ」

 

可愛らしく指でバッテンを作る箒。

当然といえば当然か。

彼女は確かに千冬と対等に接する事の出来る数少ない1人だが、それはあくまで千冬である時のみ。

教師モードである織斑先生の前では無力、ワンチャンスも無し。

悲しい事にこれが現実である。

 

「私にはお前を解放してやる事は出来ない」

「お、おう?」

 

周りをキョロキョロしだす箒。

幸か不幸か、周りには誰も居ない。

 

(こ、コイツまさか......)

 

「私には唇でお前を癒してやる事しか......んー」

 

(何言ってだコイツ!? 朝から頭パープリンってんじゃねぇぞ!?)

 

焦らずゆっくり躊躇わず。

箒の唇が恭一の唇へと重なる―――

 

「何してんのよアホ箒ィ!!」

「へごぉっ?!」

 

救世主鈴の見事な飛び蹴り炸裂。

 

「な、何をする!?」

「それはこっちの台詞よ! 朝っぱらから公共の場で馬鹿でしょあんたァ!!」

 

首根っこを掴みズルズル引っ張って行く鈴。

 

「は、放せ鈴ッ! ぬぉぉぉぉ恭一ぃぃぃぃ!!」

 

箒の咆哮が木霊する中

 

「......危なかった」

 

触れ合うだけのキスで箒が満足する筈が無い。

石が乗っかった状態で激しいのをされていたら、痛すぎる。

主に恭一のきょういちが。

 

.

.

.

 

「クソッ......どうする......そろそろ奴が.....奴が通る.....っ」

 

今の恭一は煮ても焼いても好き放題と云った処か。

だがこの学園には、そんな状況に陥っている彼に悪戯をする猛者などそうは居ない。

何故なら後に来る、約束された報復が恐ろしいからである。

 

束の間の吟詩よりも、永久の安寧。

 

季節は11月。

彼が入学してから7ヶ月と云った処。

IS学園に通う生徒はそれが骨の髄まで身に染みている。

 

フランスの貴公子を除いて。

 

「恭一さんッ......ど、どうなさいましたの?」

「おお、セシリア助けっ..........ッ!?」

 

イギリスが誇る淑女の登場に安堵したのも寸秒。

彼女の背後に居る人物が、恭一には見えてしまった。

セシリアとはまた違った金色の髪を靡かせる少女の姿が。

 

「あはァ......♥ 何してるの恭一ィ♪」

「で、デーモン......」

 

光に照らされ輝く金髪に、紫炎の瞳を持つ中性的な顔立ちの美少女。

歩く度に首の後ろで束ねられている髪が揺れ動く。

まるで悪魔の尾のように。

 

「く、来るな......それ以上、俺に近寄ンじゃねぇぜデュノアッ!!」

「むふふ。おかしな事を言うね恭一。近付かないとさぁ......」

 

―――君に悪戯出来ないじゃないか

 

一歩、また一歩。

その歩みはまるで荒野を征くライオンが如き。

シャルロットの隣りに居るセシリアは、彼女の変貌にアタフタしているだけである。

 

(くっ......だ、駄目だ。セシリアはもう飲まれちまってやがる)

 

恭一を見下ろす位置まで辿り着いたシャルロット。

その表情からは猛火で焙りたてるような激情がありありと。

彼を見下ろす彼女の頬は、既に薄く火照りを見せ始めている。

まさに手を伸ばせば触れられる距離だ。

 

「よく考えろよオイ。俺が黙ってやられンのは永久じゃ無ェんだぜ? テメェ後で死ぬ程後悔する事になんぞ......」

 

冷や汗を掻きつつも睨み上げるが

 

「うふふ......未来より今、進むべきは今。僕が止まらない事......恭一が一番知ってるよね」

 

悪戯に命を賭す少女、シャルロット・デュノア。

握られた拳から人差し指だけがピンと伸びる。

 

「ねぇ......何時間こうしてるの?」

「や、やめろよ......オイっ.....やめ......」

 

ツン

 

「うひっ!?」

 

ツンツン

 

「ほ、ほぐっ......」

 

ツンツン攻撃に少しずつ失われていた足の感覚が戻ってくる。

戻ってきて欲しくない時に。

 

「......えいっ」

 

ツンツンツンツンツン

 

「ぬおぉぉぉぁぁぁあああああひょわああああぁぁぁあッッ!!」

 

.

.

.

 

ひと仕事を終え、テッカテカになったシャルロットは満足そうに立ち去った。

ポカンとなっているセシリアを置いて。

 

「だ、大丈夫ですか恭一さん」

「......あのクソ貴公子......後で.......殺す」

「ひぇっ......」

 

(私もツンツンしてみたい......で、ですが無理ですわ。死にたくありませんもの)

 

セシリア・オルコット、何もせずに退場ス。

 

 

________________

 

 

 

「ど、どうしたんだよ! 大丈夫か恭一!?」

「おー......織斑か」

 

これから食堂へ行くのだろう、一夏が現れた。

 

「昨日からずっと正座だよ......石のせいでキツさ倍率ドンでよォ......」

「た、確かにこれはキツいってレベルじゃ無さそうだ」

「腹も減ったしよぉ......肝心の織斑先生が来てくんねぇからずっと待ってんだよ~」

 

動こうと思えばいつでも抜け出せるのだが、罰は罰。

バカ正直にひたすら耐えている恭一だった。

 

「な、なら石くらいはどけても良いだろ!」

「オイオイ。織斑先生に見つかったら事だぜ?」

「今なら千冬姉ぇも居ねぇから大丈夫だ!」

 

お構い無しに一夏は、恭一の膝の上にある石に手を掛けた。

 

「ダチが苦しんでるのを見て見ぬ振りは出来ねぇ!!」

「......織斑」

 

(熱いぜ織斑。俺が世界征服したら総理大臣にしてやるからな)

 

「素晴らしい友情だな織斑ァ.......」

 

ビビクンッ

 

石をどかそうとしている一夏の背後から、大気を包み込む絶対零度。

 

「罪人に手を貸すつもりか、ええ......オイ?」

 

ギギギと首を回した先には

 

「りょ、呂布だぁああああああああッッ!!」

「......最強の武、見せてやろうか?」

「ひ、ひぇっ......」

 

猛将千冬の前でモブキャラと化した一夏に抗える気力は無く

 

「す、すまん.......俺には無理だったよ恭一」

「まぁうん......仕方ねぇわ」

 

千冬は溜息を付きつつ

 

「反省したか渋川?」

「ぁぃ」

「私がおま......ゴホンッ」

 

(あ、危ない。一夏も居るのを忘れるな私!)

 

一体何を口から滑らそうとしたのか。

 

「もう罰は終わりだ。どけてやれ織斑」

「わ、分かりました!」

 

.

.

.

 

晴れて恭一も自由になった処で広場の角から現れる2人。

 

「おす、少年。昨日ぶりだな!」

「おはよう渋川君」

「......何故に?」

 

恭一達の目の前にはイーリスとナターシャの姿が。

 

「あっ......」

 

イーリスと目が合った一夏は少しバツが悪そうにする。

おそらく臨海学校での事を思い出したのだろう。

そんな彼の心情を知ってか知らないでか、ツカツカと歩み寄るイーリスは一夏の前まで行くと、ジッと見つめる。

 

「.......ほう」

「あ、あの.......えっと......」

 

バシンッ!!

 

思い切り背中を叩かれ

 

「うわっちぃ~~~~ッッ!? い、いきなり何するんですか!?」

「いい貌になってきてんじゃねぇか織斑一夏ァ!!」

 

カラカラと声を上げて笑うイーリスに、一夏は背中を擦りながらハテナマークを浮かべる。

 

「顔見りゃ分かるぜぇ......足掻き、戦ってんだな? 現実とよォ」

「っ......は、はい!」

 

その言葉、その表情、その仕草でイーリスの想いが伝わってくる。

たった今、少しでも前に進もうと藻掻いている自分への喝を送ってくれた事も。

 

「カッカッカ!! 若いって良いねぇ! なぁ千冬ぅ?」

「ふっ......さて、な」

 

再会を懐かしむも良いが、それよりも気になるのは、やはり

 

「コーリングさんとファイルスさんが何で此処に?」

 

これに尽きる。

 

「ふっふーん、聞いて驚け渋川少年! アタシとナタルは来年から此処で教鞭を振るう事になったのさ!」

 

「「.......へ?」」

 

恭一も一夏も目が点点だ。

千冬に視線を送るが、苦笑いで頷くのみ。

 

「ま、まじっすか?」

「おうよ!」

「何でっすか?」

「お前がアメリカに来ねぇからだろッ!!」

「えっ、なにそれは......」

 

イーリスの言い分はこうである。

自分はアメリカに忠誠を誓うために軍に所属してる訳では無い。

ただ強くなりたいがために入ったのだ、と。

其処にISがあったから乗ってみりゃ、いつの間にかアメリカで一番になっていた。

それで満足していた。

恭一と試合ったあの夜までは。

 

「お前と闘れば闘る程、アタシは更に強くなれるッ! なら答えは簡単だろ」

 

コイツの居る場所へ自分も行けば良い。

そのためなら今の地位を捨てたって構いやしない。

イーリスは本気でそう思っていた。

アメリカ代表の座を下ろされようが、専用機を取り上げられようが構うものか。

そう意気込んでいたのだが、彼女の意志を知った上の判断は

 

『是非、渋川恭一とは良い関係を築いてくれたまえ!』

 

アメリカに取っても、ある意味渡りに船だったらしい。

拍子抜けしたイーリスだったが、1つだけ問題があった。

彼女は戦闘愛好家である。

悪く言えば中々高レベルな脳筋なのだ。

誰かが手綱を握っていなければならない。

その重大な役に選ばれたのが

 

「私って訳なのよ......はぁ」

 

苦労ポジションを担わされたナターシャ・ファイルス、という事らしい。

 

「そんなこんなでよ、顔見せやら契約やら書類やら色々あんだよ。それを今日済ませに来たって訳さ」

 

ちなみに昨日会った楯無は前々から知っていたりする。

 

「来年からだが、おめぇらヨロシク頼むぜ!」

「うふふ、私も結構楽しみにしてるんだからね♪」

 

専門は体育のイーリス。

ナターシャは英語の予定らしい。

 

「当然アタシも『たんれんぶ』に携わるからな!」

「もう.....イーリったら。教師としての仕事も忘れないでよね?」

 

『たんれんぶ』の副顧問にイーリス・コーリングが内定した瞬間だった。

 

 

________________

 

 

 

「ふむん......そんな事があったのか」

 

その日の夜の事。

恭一の部屋で布団を敷き終えたラウラは、黒猫パジャマに着替えている処だ。

 

「ああ。来年も楽しみは尽きそうにねぇなぁ」

 

そう言って恭一もジャージに

 

「ちょっと待った!」

「な、なんだ?」

 

ラウラからのちょっと待ったコールが。

 

「パパのパジャマはそれじゃないだろ! 私がプレゼントしたヤツだ!」

「いや、それは......」

 

15歳から16歳になった大和男子。

何が悲しくて着ぐるみパジャマを着なければならないのか。

いくらクラリッサ大先生の教えでも、こればっかりはキツいモノがあった。

 

「普通に考えてみ? ライオンの着ぐるみてお前......」

「何を恥ずかしい事があるのだ? もふもふで寝心地抜群なんだぞ!」

 

バーンと両手を広げて仁王立ちのにゃんこラウラ。

ついつい頭を撫でてしまう。

 

「ふみゅ......パパも着るって約束したじゃないか! 嘘つきは泥棒の始まりだからいけないんだぞ!」

「ぷっぷくぷー! パパは嘘つきなんだよ、うひゃひゃひゃ!!」

「むー!!」

 

娘より幼い父親が居るらしい。

そして何より

 

「初めてパパに.....プレゼントしたのに......」

 

(あ、あかん......この感じは.....)

 

パパセンサーに反応アリ。

このままでは5秒としない内に娘の涙を見る事になるだろう。

 

スポポポーン!

 

からの

 

シュババババッ!

 

「ど、どうだラウラ! 似合ってるか!?」

「っ.....う、うむ! ライオン姿が様になっているぞ!」

 

0コンマ1秒での早着替え。

そのおかげで、ラウラの目にも涙が溜まる事無く、無事笑顔を咲かせてくれた。

 

(......まぁいいか。確かにもふもふだしな)

 

これからは寒さに向かう季節。

普通に、いやかなり恥ずかしいが暖かいので良しとしよう。

それからも他愛の無い話をしつつ、恭一はあるプリントを読んでいる。

 

「何を読んでるのだー?」

 

後ろから抱き付く形で覗き込むラウラ。

恭一が目を通していたのは、IS学園の行事スケジュール。

今月には学園生活における大イベント『修学旅行』があるのだ。

 

(......修学旅行、か)

 

恭一は膝の上で甘えてくるラウラを撫でつつ、思案に耽る。

 

(ふむ.......)

 

「ラウラよ」

「なんだー?」

 

恭一は2枚のカードを取り出し、裏に伏せて彼女の前に置いた。

特に何の柄も描かれていない、シンプルなカードだ。

 

「右でも左でも良い。どっちかのカードを一枚だけ捲ってくれないか?」

「むむむ......こっちだ!」

 

ラウラが捲ったカード。

捲られたカードの表は黒一色。

 

(決まりだな)

 

もう片方のカードを恭一は握り潰す。

白のカードを。

 

「うし、そろそろ寝るか!」

「もう良いのか?」

「おう!」

 

恭一はベッドへダイブする。

ラウラも同じベッドへダイブする。

 

「........」

「あいだだだだだだッ」

 

お茶目なラウラにボー・アンド・アローを掛け

 

「おやすみラウラ」

「ううっ......おやすみなさいパパ」

 

今夜の締めとした。

 

 

________________

 

 

次の日の朝、とある場所へと訪れた恭一。

 

「......もう一度言ってくれるかな、恭一君」

「なに、難しい話をしに来たんじゃない。ただ―――」

 

 

―――俺に生徒会長の座を譲れ

 

 





恒例の新章繋ぎ回です(#゚Д゚)y-~~

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