「「チカレタ...」」
付け焼刃ではあるが、束にISと高校に必要な教科を連日不眠不休で教わった恭一とクロエは、机に前に前のめる。
「2人共お疲れ様!いやぁ束さんも熱が入っちゃったよ」
「当分、文字は見たくない...」
「私もです。恭一お兄様...」
うなだれる2人に何故かホカホカの束。
「あ、そうだ。キョー君IS学園の手続きはどうする?」
「んん~?どうするってぇ?」
頭を使いすぎて回転が回ってないのか、恭一はダレダレ状態で応える。
「正規な手続きを踏むのならIS適正検査に出ないとね。非正規ルートなら束さんが無理やりねじ込む事も可能だよ?」
どーする?と、首をかしげて聞いてくる。
「んなもん...正規に決まってんだろ?なぁ?」
「いいの~?いっくんと違ってかなり扱い悪くなると思うよ~?」
「そういや、1人目のIS起動者とは知り合いなんだっけか」
「まぁねぇ♪ちなみにいっくんのお姉ちゃんは、初代ブリュンヒルデだから何かと厚遇されるだろうねぇ」
「へぇ...そりゃあ良いな。すぐに器が測れるじゃねぇか。後ろ盾にオンブにダッコを良しとするなら、それまでだ。が、出来ればそれを良しとしない気概のある奴だったらいいなそれなら...切磋琢磨し合えるダチになれそうだ」
嬉しそうに恭一は笑う。
「専用機はどうする?束さんならすっごいの作ってあげられるけど?」
「分かって聞いてるだろ姉ちゃん。俺が専用機を貰う時は宇宙へ行く時だ。そうだろ?」
「えっへっへ~キョー君ならそう言うと思った♪でもそれじゃあ学園にあるショボショボなヤツにしか乗れないよ?」
「くっくっ...ハーッハッハッハ!!!!良いじゃないか。俺の戦いは至弱より始まり、やがて至強をも倒すに至る。王道だろ?」
それを聞き嬉しそうにする束とクロエ。
「ちなみに、適正検査を受けるって事は俺は日本に戻れば良いのか?」
「そういう事になるね。ちなみに三日後、○△市の国際ホールで行うみたいだよ」
「三日後か....」
急に真剣な顔で瞑想し出した恭一だったが、クロエと束は何年もの付き合いからすぐに気づく。
---何か企んでる顔だ。
「姉ちゃん、ちょっと何個か作ってほしいもんがあるんだ」
「おや、キョー君からのリクエストなんて珍しいね」
「まぁいいだろ?○○○と○○○と作れるか?」
「恭一お兄様?いったい何故そのような物を?」
束も関連性が見つからず、不思議がっていた。
---なぁに、ただの遊びさ。
________________
適正検査が終わり3日後。
「よ...ようやく我が家に帰って来れた」
IS適正検査、そして起動した事による俺への診断その他モロモロは滞り無く済んだ。
「しっかし、意外にも手を出してくる奴はいなかったな」
運が良かったのか悪かったのか。
恭一のIS適正検査を担当した者が真っ当な人間、所謂『女尊男卑思想』に染まっていなかったのだ。
「うーむむむ。早速、ひと暴れ出来ると思ってたんだけどなぁ...」
恭一にしてみれば、少し拍子抜けだったらしい。
---プルルルルッ
「ん?電話?...はいもしもし」
『夜分遅くにすみません。こちら渋川恭一さん宅でお間違いないでしょうか?』
「はい、そうですよ。僕が恭一です」
『良かったぁ、私IS学園の教師で今回渋川君のクラスの副担任を務めさせて頂きます、
山田真耶という者です』
「これはこれは、ご丁寧に。それでどのようなご用件で?」
『はい、渋川君の入学手続きとIS学園に通うに至ってのご説明をしに伺わせて頂きたいのですが、ご希望の日など有りますか?』
「そうですね、4日程どうしても外せない用事があるのでそれ以降でしたらいつでも」
『それでしたら金曜日の14時など如何でしょう?』
「はい、大丈夫です。ではその日に」
『はい、失礼します』
---ピンポーン
電話が終わるやいなや、来客を教えるチャイムが鳴り響く。
....来たか。
そこには悪魔の顔で嗤う恭一がいた。
________________
---IS学園からの電話から4日後。
恭一はとある客をもてなしていた。
「いやぁ、こんな閑散とした処にようこそお出で下さいました」
恭一は対面した二人の男女に深々と頭を下げた。
「はっは!何てったって世界にたった2人のIS起動者ですからな。私達○○社はドコにだって行かせて頂きますよ」
爽やかな笑顔で応対する40歳前後の男性。
名を伊藤と言った。
「ふんっ」
不機嫌さをまるで隠す気がない20歳後半の女性は、名乗りすらしなかった。
「いやぁ、僕もドキドキしてますよ。これって所謂、スカウトってヤツなんですか?貴方達が初めてなのでよく勝手が分からないんですよ」
そう言いながら2人の前に紅茶を出す。
「そういう事でしたら、しっかりと説明させてもらわないと、いけませんね」
「お願いします」
もう一度深く頭を下げる恭一。
そんな恭一を憎らし気に見下ろす女性。
(ふん...男風情が。精々モルモットになるがいいわ
.
.
.
「...という形になりますね」
概ね説明を終えた男性は一息つく。
「なるほど、貴方達の会社の傘下に入れば専用機や後ろ盾が僕にも出来るんですね?」
「はい、渋川さんは世界でたった2人の男性IS起動者です。これからの学園生活の事を
鑑みても、専用機や我々のよな後ろ盾は必須でしょう?」
「ほんと、伊藤さんの言う通りですね!僕も後ろ盾があると心強いです!」
「では、宜しければこちらの契約書にサインをお願いします」
そう言い渡された契約書にサインをしていく恭一、とここで恭一の手が止まる
「おっと、大事な事聞き忘れてましたよ~」
「どうされました?」
男と女はこれから会社に入ってくるであろう莫大な利益の事を想像し、恭一が不審がる前に早く契約を済ませたかった。
「俺にいったいアンタらは幾ら出すんだ?」
「「は?」」
「金だよ金。契約するんだ。当然支払われるんだろ?」
「え、ええ。勿論です。とりあえず、契約金として5千万、さらに毎月給料も支払われますよ」
これまでの超が付く程腰の低い少年の態度から急に一変した恭一に驚く男。
(ちっ...小汚いガキが、さっさとサインしなさいよ)
これまでの態度から分かるように恭一の目の前の女性は、紛う事無き女性至上主義者だった。
「.....話になんねぇなぁ?5千万だぁ?世界で今最も貴重な存在である俺が?笑えねぇ冗談だぜ伊藤さん?」
「...幾ら欲しいです?」
---100兆だ
「は?」
空いた口が塞がらない男に対し
---バンッ!!!!
テーブルを叩き立ち上がる女性。
「ふざけてんじゃないわよ!!アンタみたいなたまたま起動出来ただけの汚らしい男風情が!!!良いから黙ってサインしなさいよ!しないならっ...?!かっ...?こひゅ..」
立ち上がり恭一に罵詈雑言を与えたと思えば、突然痙攣し出す女に男は驚く。
「おー良いタイミングで効いてきたなぁ」
「なっ彼女に何をした?!」
「何をしたって言うか、入れた?紅茶に?ちょいと強めな痺れ薬を?」
おどけた口調でそう言う恭一に
「ふっふざけるな!!こんな事して「フリーズ」なぁっ!?!?」
男に突き出されたのは拳銃だった。
「はぁ...お前らパターン同じすぎだろ見下す女に憐れむ男、この4日間こればっかで
さすがに飽きたわ」
「4日?同じ?...まさかっ!?」
「そう、アンタ達で5回目だ。俺をモルモットにしに来た凡愚共はよ?」
「なっ!?私達が初めてだと...」
「ああ、あれ嘘ね。めんごめんご」
まるで悪びれない恭一に腹を立たせるが手はまだある。
---男は悟られないように機を伺う。
「あっそうだ。伊藤さん映画は好きかい?」
「は?急に何を」
「質問してんのは俺だよ。風穴開けられてぇか?」
「ぐっ...嫌いじゃない..」
意図は分からないが、怒らせて撃たれでもすれば敵わない。
そう思い、出来るだけ穏便な方向に持っていこうとした。
「よし、じゃあ今から観ようぜ!」
「な、なにを..」
疑問を口に出す前にテレビからとある映像が流れ出す。
「渋川さんと...誰だ?この2人は?」
『契約金は...100兆だ』
『はぁ!?頭オカシイんじゃないかしらこのゴミが!』
『もういいわ、穏便に済ませるつもりだったけど、脳と身体さえ無事なら良いんだから...全員突入しなさい』
けたたましい音と共に20名の屈強な男たちが、恭一達のいる部屋に突入してきた。
『このガキを痛い目に合わせた後、確保しなさい』
『『『『『『ハッ!!!!!!!!』』』』』』
---それからは正に地獄絵図だった。
たった15歳の少年に蹂躙されていく武装した集団。
『ハッハー!!!!久々の喧嘩だ喧嘩!!楽しませてくれよなぁ!?』
『ぎゃああああああああああッッ!!!!!!』
男はあまりの凄惨さに目を伏せようとしたが
「誰が伏せて良いって言った?」
拒否すれば殺す。
---眼がそう語っていた
『ひっ...もうやべでぇ....ゆるひで..』
『おいおい俺が虐めてるみたいじゃねぇか、ほれしっかり笑顔作れって。これから来るだろう凡愚共にビデオレターとして観せるんだからよ』
映像の中心にはニコニコな恭一と、両手両足が歪な方向に曲がっている涙で濡れた女性の姿があった。
『ほれ台本通りしっかりな』
『あっああああぁぁわ、私達○○社は渋川さんの人権を尊重し、手を引く事にしばじた...こ、ごれを観でいる方もおがんがえなさる事をおずずめします...』
---ザザー
ここで映像は終わっていた。
「さて、どうする?」
「....どう、とは?」
「とぼけんなよ、援軍呼びてぇんだろ?好きなだけ呼べばいいさ。ただ今この瞬間もリアルタイムで録画されてるけどな」
「ぐっ...やはりか」
苦虫を噛み潰したような顔になる男に
「突入してきた瞬間、全世界に流してやるよ。アンタが糞尿垂れ流して逝く一瞬をな」
恭一の殺気にたじろぐ。
「っと、そこで建設的な話をしないか伊藤さん?」
「どういう意味だ?」
「アンタも映像で見て、目の前で感じて俺の強さが身に沁みてんだろ?だが、これはあくまで生身の話だ」
「む?何が言いたい?」
「俺の検査の結果、IS適正ランクは史上初、唯一の『F』。落ちこぼれも良いとこだ」
男は恭一が何を言いたいのか、まだ把握出来ていないようだ。
「そんな落ちこぼれが専用機無しでこれからの学園を過ごしていけると思うかね?」
「それは...」
「俺が学園で痛い目を見てから、アンタ達に連絡する。そこが落とし処じゃないのか?」
「話は分かったが、何故我々の会社なのだ?」
「アンタは今まで来た奴らとは何か違う。そう感じただけだ」
「.....分かった。撤収しよう」
---逃げ道を作ってやったらこの男も簡単にパクついたな。
もちろん、恭一は連絡する気などまるで無い。
それ以前に1つ目の壊滅させたスカウト以外に全く同じ事を言っていた。
「そこの痙攣してる女も回収して行ってくれよ」
「ああ、分かった。しかし拳銃を長い事突きつけられて生きた心地しなかったよ」
女を担いだ男が家から出て行った。
「ふっ...拳銃ねぇ..」
右手に持っていた拳銃を見やる。
---結局、誰も気づかなかったな。
せっかく、姉ちゃんに作ってもらったのに。
.
.
.
「姉ちゃん、ちょっと何個か作ってほしいもんがあるんだ」
「おや、キョー君からのリクエストなんて珍しいね」
「まぁいいだろ?痺れ薬と拳銃型ライター作れるか?」
.
.
.
「はぁ...結局、誰もタバコ吸わんかったしなぁ。このライターで点けてやりたかったのになぁ...」
---まぁ、退屈はしない遊びではあったな。
________________
「む...まだ学園に残っていたのか山田くん?」
「あっ..織斑先生、お疲れ様です」
「ああ、今年はお互い大変な年になりそうだな」
「あはは...」
ここにいる2人こそ、世界でたった2人の男性起動者を受け持つ担任と副担任である。
「そう言えば、山田くんが2人目の担当だったか?」
「はい、明日その子の家に説明しに行くんです。あっ、これ彼のプロフィールです」
一枚のプリントを渡され、軽く見通す織斑千冬。
「...渋川....恭一?...この顔は..」
「どうされましたか織斑先生?」
「.......この少年の親権者は?」
「もうだいぶ前に亡くなられたそうですよ?確か名前は『渋川剛気』さんだったかな」
「ッッッ!!!そうか...」
---いきなり織斑千冬の周りの空気が歪み出す。
「せっせんぱぁい...?」
身体を震えさせ怖がる真耶に気づいた千冬は、殺気を己の中に仕舞い込んだ。
「私も行こう」
「へ?」
おや...?織斑千冬の様子が...?