野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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夜はこれから、というお話



第127話 海へのお誘い

「......仰っている意味がよく分からないのですが?」

「言葉通りだよ『亡国機業』。アメリカは君達との関わりを断ると言っているのだ」

 

空中投影ディスプレイでの対話通信。

モニター越しの言葉を受け、眉間に皺を寄せるはスコール・ミューゼル。

その原因は彼女の対話相手、アメリカ大統領ジョージア・ボッシュの言葉にあった。

 

「理由を伺っても?」

「.......」

 

ジョージアの表情が渋くなる。

 

(意外な反応ね。それに解せない。私達と組むメリットよりも何かあるのかしら)

 

「......渋川恭一」

「っ......なんですって?」

「君達と関われば必然的に渋川恭一と敵対する事になる。それだけは避けたいのだ」

「どうして其処でその名前が出るのでしょう?」

 

意味が分からない。

何故、今此処で彼の名前が出てくる。

もしや、彼と篠ノ之束の関係を知ったか?

 

(いや、それなら尚の事彼に固執するはず。ISを増やせるチャンスなのだから)

 

「それは貴方個人の思惑あっての事なのでしょうか、大統領?」

 

スコールの言葉に対し、何処か諦めた表情で重く溜息を付き

 

「官僚・軍上層部全員の意見なのだよ......これがね」

 

(っ.....一体何をした? 彼は一体何をしたというの......ッッ)

 

「約束通り偽の情報は流そう。だがこれが最後だと思ってくれ」

 

一方的に通信を切られ、其処には静寂が訪れる。

 

「うふ.....うふふふふ。もやもやするわねぇ......ほんと.....もやもやするわ」

 

スコールが持つ恭一に対する評価は、どうしても靄が罹っている。

自分が下した評価と他者との評価に擦れが生じている故。

 

(オータム、ロシア代表、それに篠ノ之束と......)

 

種類は違えど彼女達は彼を決して低く見ていない。

寧ろその逆だ。

オータムや先程の男などは、彼を脅威と見做してさえいる。

 

(私と会った時は猫被ってた? いやそんなバカな、道化を演じて何のメリットがあるというの)

 

戦闘力の高さは認めつつも、注意力散漫・付け入る隙大有り。

しかし篠ノ之束程の存在が、腕っ節が強いだけの者を高く買うとはどうしても思えないのも事実。

 

(これはもう一度会わないといけないわね)

 

『亡国機業』にもうエムは居ない。

正直、戦闘の駒としてなら喉から手が出る程欲しい。

それ程エム不在は此方にとって痛手なのだ。

渋川恭一は戦闘面だけなら、スコールをもってしても随一の評価なのだから。

 

(それに渋川恭一を引き込めば、自動的に篠ノ之束も付いて来る。アメリカも考えが変わる可能性も出てくる......あら?)

 

もしかして渋川恭一って、かなり重要な人間になってきてない?

 

「と、取り敢えず......まずは暗部ちゃんとお話してみないとね。彼の事も聞きたいし」

 

カレンダー片手に計画日を確かめ、ソファーに深く腰掛ける。

 

「私の渇きを潤せる相手、か」

 

あの夜、束に言われたこの言葉。

スコールの耳に、颯々と響く北風のように何時までも残っていた。

 

 

________________

 

 

 

「うふふ、久々に楽しい放課後だったわね」

 

恭一へのサプライズ企画を終え、各々は満足そうに部屋に戻って行った。

笑顔で寮の廊下を歩く楯無もその一人だ。

 

ピリリリリ

 

そんな折、彼女のIS『ミステリアス・レイディ』に秘匿回線通話が入る。

 

「......もしもし、私よ。ええ......っ.....分かったわ。今すぐ向かいましょう」

 

学園生活を楽しむ一生徒の顔から暗部の顔になる。

 

「スコール・ミューゼルの情報......でも」

 

謎に包まれた『亡国機業』の大幹部様が個人データを簡単に流出させるか?

そんな大事な情報をアメリカが握っているという。

冷静に考えれば罠の可能性も十分に考えられた。

 

「ふんふむ......どうしようかしらねぇ」

 

仮に罠だとしたら狙いは何か。

おそらく、私なのだろう。

IS学園で唯一の国家代表の肩書きに更識家当主。

この学園、またはISを狙うにあたって、私は邪魔な存在の一人に数えられている筈。

 

(今回は見送るのも1つの手だけど......)

 

学園を守るため、敢えて攻めに出る時も必要不可欠。

それはきっと今の筈。

 

「虎穴に入らずんば何とやらってね......あら?」

 

寮の広間を通り掛かると、自販機相手に喧嘩を売っている者の姿が。

無機物に喧嘩を売るアホなど、この学園には1人しか居ない訳で

 

「コーラを切らすとかナメてンのか? あ゛ァ?」

 

(コーラが売り切れてるのね)

 

「澄ましやがって......テメェ俺が殴らねぇと思ってンだろ」

「.......ブーン」(無機質な機械音)

「あんま俺を怒らせンなよ。上の口に手ェ突っ込まれてぇのか?」

 

(いたい......流石に見てて痛々しいわ恭一君!)

 

でも止めない。

角から楽しそうに見守る楯無。

 

そんな時、彼女とは違う廊下から他の生徒が通り掛かるが

 

「ヒソヒソ」

「ヒソヒソ」

 

明らかに恭一に対して「無いわ」的な事を言っているのが楯無の耳にも入る。

自販機に話し掛ける男が居れば、当然そうなる訳で

 

「何見てンだコラァ!! 喰っちまうぞッ!」

 

「「 ひっ、ひゃあああああああ!! 」」

 

「やめなさい!」

「あでっ」

 

これ以上、奇行が大きくなる前に、アホの後頭部へチョップする楯無だった。

 

.

.

.

 

「ングングングングッ......プハァーッ! ンまいっ!」

「ほーんと幸せそうに飲むわねぇ」

 

恭一が飲んでいるのは、彼女がわざわざ自分の部屋の冷蔵庫から持って来て恵んでくれたモノだった。

後の交渉材料の1つとして。

 

「それにしても、よくコーラを一気に飲めるわね。むせたりしないの?」

「ふっ......俺はコーラを飲む時、エラ呼吸に切り替えてんだ」

「まるで意味が分からないわ」

 

恭一の半魚人発言はスルーするとして。

 

「ね、恭一君。お姉さんとこれから......い・い・ト・コに行かないかしらん?」

 

色気ある仕草で迫ってみるが

 

「行かない」

 

(まぁ知ってた)

 

自分で言うのも何だが、私だって結構イケてると思うんだけどなぁ。

ソッチ方面じゃ、本当に靡かないのよねぇ。

 

(もしかして不能だったりするのかしら?)

 

口に出さないから良いが、普通に失礼極まりなかった。

 

「コーラあげたでしょ? その対価に付き合ってくれも良いんじゃないかしら」

「くれとは言ってない」

「ぐっ......確かに」

 

いつものノリで恵んだのは悪手だったか。

確かに恭一は楯無に対して「欲しい」とは言っていなかった。

 

「楽しい出会いがあるかもよ?」

「ふむ?」

 

(おっ.....好反応? やっぱ好きなんすねぇ)

 

ビビビときた楯無はそのまま攻め方を変えてみる。

 

「つよーい人と邂逅するかも!」

「ううむ......」

 

(あ、あら......? いつものチョロ一君じゃない?)

 

確かに三度の飯よりも強者を求める恭一の反応では無かった。

それには少し訳があったりする。

 

「ぶっちゃけ、今夜は暴れる気分じゃ無かったりするんですよね」

 

今日は何といっても、初めて自身が皆から祝福を受けた記念すべき日。

不覚にも胸が温かくなった、恭一にとって忘れがたい大切な日。

そんな日に、血を見る可能性がある事はしたくない。

狂者らしからぬ感情だと自分でも分かっているのだが、そんな日があっても良い。

恭一自身もそう思っていた。

 

「み、未知との遭遇があるかもだよ?」

「俺以上の未知は居ねぇでしょ」

「うっ.....言い得て妙だわ」

 

説得は無理か。

 

「何だかアレね、恭一君」

「ん~?」

 

手持ち無沙汰なのか、テーブルに備えてあるちり紙で遊ぶ恭一に

 

「丸くなっちゃったわねぇ」

「......あ゛?」

 

以下、恭一脳内変換の推移模様。

 

 

丸くなっちゃったわねぇ(微笑)

 

丸くなっちゃったわねぇ(素面)

 

丸くなっちゃったわねぇ(嘲笑)

 

丸くなっちゃったわねぇ(バーカバーカ)

 

 

プッツン

 

「あら何の音かしら?」

「丸くなっただァ.....?」

 

恭一の拳が軋んだ音を立て、テーブルにめり込む。

 

「誰が丸くなったってンだぁあああああああッッ!!」

 

右手の指、第二関節まで深々と突き刺さったテーブルはそのまま投げ飛ばされる。

決して小さくないテーブルは上空で、恭一の唸るような蹴りを下から喰らい、天井へ叩き付けられたと同時に粉砕した。

粉々となった木々の破片が舞い散り、花びらのように落ちゆく中、それを躱そうとしない恭一からは溢れんばかりの凄味で一杯である。

 

実は楯無が放ったワードは、恭一の言われたらキレるベスト8位に入るモノだった。

先月までは9位だったのだが、それまで不動の8位に名を連ねていた『強がっててもチェリボーイ』が千冬に喰われたためランク外となり、晴れて8位に繰り上がったのだ。

 

「もっぺん言ってみろよ会長。俺の何処が丸くなったって?」

「うん。この辺りのお肉がね」

 

引き締まった恭一の脇をツンツンと。

 

「体型だったのかよ!? これが理想像だっつーの!」

「それは置いておくとして」

 

(なんなんだこのアマ)

 

横に置くジェスチャーをする楯無に少しイラッときた恭一。

 

「ほんとに行かないのー? 今回の目標は空母よー?」

「......空母って.....船の事?」

 

(おろ。またまた意外な好反応?)

 

「そうだよ」

「でっけぇ船?」

「そうだよ」

「探検し放題?」

「そうだよ」

 

そうだよ先輩と化した楯無だったが、恭一も乗り気になってきたらしい。

 

「しょうがねぇなぁ......俺も付いて行きますよ!」

「うふふ。頼りにしてるわ、恭一君♪」

 

話が付いた処で善は急げ。

2人は寮から颯爽と出て行った。

 

壊したテーブルの残骸を片付ける事無く。

 

.

.

.

 

「オイッチニ、サンッシ」

 

場所はIS学園から少し離れた臨海公園。

海が見える場所に2人は立っているのだが、恭一の隣りで掛け声と共に柔軟体操中の楯無。

 

「恭一君もしっかり身体解しておかないと、足痙っちゃうわよ~?」

 

彼女の口振りからして、目標である船への接近はISを展開する事無く泳いで行くのだろう。

忘れそうだが、学園外でのIS展開は基本的にはアラスカ条約で禁止されているのだ。

最もこの男が授業以外でISを展開するのは、稀だったりするのだが。

 

「大丈夫っすよ。何処かの自称人魚姫じゃあるまいし」

 

 

―――同時刻のとある一室―――

 

「ヘックシッ!?」

「風邪?」

「んーむむむ」

 

鼻をティッシュでかみつつ

 

「ふっ.....どうやらあたしの凄さを誰かが......ハッ!?」

 

(あ、あぶなっ.....アホ恭一が言いそうな事、うっかり滑らせるトコだったわ)

 

既の処で気付けた鈴。

しかし彼女もまた、恭一のアホっぷりに少しずつではあるが、感化されつつある1人であった。

なお、その事には未だ気付けていない模様。

 

 

________________

 

 

 

「この時期の冷水はちょっと肌に優しく無いわねぇ」

「微寒中水泳ってヤツですなぁ」

 

制服姿のまま海へ着水した楯無と恭一。

目標である空母は此処から数十キロだが、この2人なら造作も無い。

そして2人の表情に一切の恐怖は無く、浮かぶのは不敵な笑み。

確かに危険な潜入ミッションではあるが、楯無は恭一が居るという無類の頼もしさから。

恭一は基本的に何でも楽しそうなので割愛。

 

「さぁ、頑張って泳ぐわよ!」

「フッ......メカジキは俺が育てた」

「時速100kmで泳がられたら、流石のお姉さんも吃驚仰天の上をいっちゃうわ」

 

目標へ接近するまで会話を楽しみながら泳ぐ2人だった。

 

 

________________

 

 

 

(ふふふ、まさか恭一が涙を見せるとはな)

 

場所は戻って学園寮内。

寮内を見回っている千冬も、何時に無く嬉しそうだ。

 

(準備やら何やらで忙しかったが、アイツの喜ぶ顔が見れたのなら何よりだ)

 

「来年は恭一と2人きりで......む?」

 

広間を通り掛かった千冬は、当然足を止める事となる。

 

「一体何があった?」

 

広場の真ん中に在るべき筈のテーブルが無い。

いや正確には在るのだが、見るも無残な残骸と化している。

問題は誰がやったのか、と云う事になるのだが。

こんな事をやってのけるの人物は、そう多くは無い。

もっと言えば、このままの状態で放置する馬鹿者となると、更に限られてくる。

 

(もしかして恭一が......いや、何を馬鹿な)

 

真っ先に浮かんだ容疑者候補の顔をブンブンと消す。

 

「証拠も無いのにアイツを疑うなど......愚の骨頂だ......ん?」

 

千冬の視線の先には、真っ赤な光沢を放つコーラの空き缶。

 

「やはり貴様か渋川ァ!!」

 

これ以上無い手掛かりだった。

 





要約

楯無:この辺にィ豪華な船、来てるらしいっすよ
恭一:あ、そっかぁ行きてぇなぁ
楯無:じゃけん今から行きましょうね~
恭一:お、そうだな

本来これだけで済むんだよなぁ(呆れ)
新展開の導入部分だからま、多少はね?

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