野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

127 / 180

あたしを誰だと思ってんのよ(迫真)



第125話 満漢全席

「ふふん。待たせたわね、恭一!」

 

舞台ではチャイナ姿の鈴が仁王立ちで待ち構えている。

 

「......」

「ん? どうしたのよ?」

 

真面目な顔の恭一に

 

「いや、春麗に間違えよう無いだろ」

「何処見て言ってんのよあんたァ!!」

 

ハイキックをかますが

 

「うわははは! どしたぁ! 足技まで春麗以下だぜぇ!?」

「キィィィィ!!」

 

今の彼女の実力では、全て片手で捌かれてしまうのがオチだった。

 

「はぁっ.....はぁっ......ぐぬぬ」

「うへらへら。もう終わりかよ?」

 

息を切らす鈴の前で恭一はオイッチニッサンシ、と憎たらしい笑顔で足を伸ばしている。

それが余計に彼女をイラッとさせ

 

「もうコーラ買ってやんない」

「ファッ!?」

 

伝家の宝刀を彼女に抜かせてしまった。

 

調子に乗りすぎた者の末路。

恭一に対し、容赦ない口を叩きながらも優しい鈴は、何だかんだでよく恭一にコーラを恵んでいたりする。

その機会はおそらく学園内でも2番目の多さだろう。

ちなみに不動のトップは一夏だったりする。

 

「調子に乗ってすんませんでしたァ!!」

「ちょっ.....」

 

惚れ惚れするような土下座。

そこまでいく過程も素晴らしかった。

 

素早く3歩後退。

その間、1歩下がる毎に少しずつ前屈みなるのがポイントである。

手を鈴に向くよう少し斜めに傾け地面に正座。

ここで止められないよう、鈴を1秒間ジッと見つめ、逆に真摯さを伝える事も忘れない。

いよいよ鈴は目が離せなくなる、という訳だ。

謝罪の言葉を言い終わる刹那に頭を下げ、地面から1センチの高さで固定。

 

まさに芸術品だった。

 

「わ、分かったわよ! 許してあげるから、ほらっ.....立ちなさいよ!」

 

鈴に腕を引っ張られ無理矢理立たされる。

どうやら彼女は許してくれたようだ。

 

「フッ......敗北を知りたい」

「は? 何か言った?」

「なんも」

 

気を取り直して、レクリエーション開始。

 

「覚えてるかしら? アンタがあたしに言った事」

「あ? 何の事だ?」

 

.

.

.

 

それはとある日の昼食の後の事だった。

その日は其々が弁当を用意していたので、食堂では無く屋上で食べる事となったのだが。

 

「ほら恭一。お前の分だ」

「ああ。いつも悪いな」

 

弁当を手渡し終えた箒はニッコリと

 

「ふふっ......彼氏のお弁当を作るのは彼女の務めだからな」

「お、おう。皆居るからな、もたれかかってくるのはヤメような」

 

ワールド・パージ以来自重しなくなった箒である。

そしてこの乙女も

 

「私もお弁当を作ってきましたわ恭一さん! 愛情増し増し120%込めたお弁当ですわよ! さぁ食べて下さいな!」

 

宣言通りガンガン攻めてくるようになり

 

「あ、ああ。お前さんもそろそろ料理の腕も上がったろうし」

 

セシリアから受け取った弁当の蓋をパカリ

 

ぼわわぁぁぁぁん

 

赤い煙が一瞬で立ち上る。

 

「てンめぇええええええッッ!! また余計なモン入れやがったなコラァァァァ!!」

「そ、そんな事ありませんわ!」

「そんな事大アリだろうが! 赤々し過ぎてンだろがどう見ても! ガツガツッ!! くぁっ! ゲロマジィィィィィィ!!」

 

嘗ての恭一のアドバイスにより、確かに香水は入れなくなった。

しかし彼女は料理の色合いをかなり気にするのだ。

 

「赤が足りなければ唐辛子を入れれば宜しくてよ」

 

パンが無ければケーキを食べればいいじゃない精神を地で行く剛の者。

いともたやすく行われるえげつない行為をその身に纏っている者だった。

 

そんなモノでも恭一は何だかんだで全部食ってしまうのだから、ある意味恭一の行いがセシリアの成長を止めているのかもしれない。

 

「てめぇセシリアコラァ! 口開けろコラァ!!」

「ああっ、アーンをして下さるのですね!? 箒さんの目の前なのに何て大胆なお方!」

「うるせぇ死ね!」

「はぁむ♥ ムグムグ.......ごっはぁ!?」

 

セシリアが旅立った処で

 

「ううっ......箒の料理は五臓六腑に沁みわたるなぁ」

 

涙を流し食べる恭一。

料理に関しては、まだまだ箒に分があった。

 

「フッ......哀れなりセシリア」

 

敗者を見下ろす王者の風格だった。

 

「恭一達って屋上で食べる時、毎回あのやり取りしてるよね」

「底無しアホなのよアイツらは」

 

シャルロットの呟きに呆れながら返す鈴も、カバンからタッパーを取り出し

 

「あ、あたしも今朝早く目が覚めちゃったから。あ、アンタに上げるわよ! 感謝しなさいよね!」

 

有無を言わさず一夏に手渡す。

 

「おおっ! 酢豚だ!」

 

美味しそうに食べる一夏を見て、鈴も笑顔だった。

そんな昼食の時間が終わり

 

「あっ、そろそろ行かねぇと!」

「そうだね」

 

そう言って立ち上がる一夏とシャルロット。

2人は今日、日直であり午後の授業の用意を頼まれているのだ。

 

「ふむ。私はこのアホを保健室に連れて行くか」

 

箒は未だ気絶中のセシリアを担いで屋上から出て行った。

あっという間に4人が去り、残ったのは恭一と鈴のみ。

ちなみにラウラは千冬と一緒に食べているので、此処には居ない。

更識姉妹は生徒会室で過ごしている。

 

恭一と鈴は食後の温かいお茶を啜りつつ

 

「前から思ってたんだけどよ」

「なによ?」

「お前っていつも織斑にやるのは酢豚だな」

 

確かに恭一が見ている限り、鈴が一夏に料理を出す時は決まって酢豚だった。

 

「はぁ? それがいけない訳?」

「いや単に疑問に思っただけだ。俺も肉が好きだからな。毎食肉でも構わねぇ位に。だが、アイツはどうなんだ? 俺の肉狂い並に酢豚が好きなのか?」

「そ、それは......」

 

嫌いでは無い筈、むしろ好きな筈。

美味しいって食べてくれるし。

ただ、他のどんな料理よりも好きか、と問われれば言葉が詰まるのも事実。

 

「お前......もしかして酢豚以外作れねぇのか?」

「は、ハァ!? 作れるに決まってんでしょうが! あたしを誰だと思ってんのよ!」

「足を痙る事に定評のある―――」

「それはもういいわよッッ!!」

 

ニヤニヤ笑う恭一の顔面めがけて裏拳を放つもあっさり止められる。

 

「なんだァ? 食後の運動がしたいのか、人魚姫ぇ」

「ぶっ殺す!」

「うひゃひゃひゃ! 来いやァ!!」

 

チャイムが鳴るまで滅茶苦茶運動した2人だった。

 

.

.

.

 

時は現在に戻る。

 

「あたしをナメてんじゃないわよ、アホ恭一!」

 

鈴の一喝と共に舞台の幕が勢い良く上がり、恭一の目の前に広がるは

 

「や、やべぇ! 満漢全席じゃねぇかッッ!!」

「流石にそれは言い過ぎだけどね♪」

 

中央に設けられたターンテーブルの上には、豪華絢爛な中華料理の数々。

小龍包、水餃子、小皿前菜、野菜料理に肉料理。

その他諸々がカーニバルを成していた。

 

「これ全部、お前さんが作ったのか?」

「ふふん。中華料理店の娘は伊達じゃないってね」

 

鈴は得意気に頷く。

すると

 

「わ~美味しそうだよーぅ!」

「うふふ。本当に凄いですね、凰さん」

 

真耶と本音も舞台に入ってきた。

 

「む、どういう事だ?」

「山田先生が言ってたでしょ? 今回はExtra Stageだって」

「そんなスワヒリ語分かる訳ねぇだろ」

 

相変わらずの語学力。

 

真耶も本音も『たんれんぶ』に属していない2人だ。

それなのに、嫌な顔せずこのイベントに進んで協力してくれている。

これは、そんな2人に対しても感謝の意を込めた催しなのだ。

 

「良し分かった! 取り敢えず俺は喰えばいいんだな!? ハムハグッ!! ムシャムシャ!! アグアグッ!!」

「ちょっ、食い意地の塊かあんたァ!!」

 

絶対分かっていない男、渋川恭一。

 

「あと食べ方ァ!! ガツガツいきすぎだっていつも言ってんでしょうがッ!!」

「うンめぇええええええ!! 何ボーッとしてやがる!? オメェらも喰え! うンめぇぞぉ!!」

「あらあら、私達も席に着きましょうか」

「はぁい!」

 

何はともあれ、真耶と本音も席に着き、嬉しそうに口へと運ぶ。

 

「っ.....本当に美味しいです凰さん」

「うーまーいーぞー!」

 

女性陣からも大絶賛され、鈴も少し恥ずかし気に笑った。

 

「どうよ恭一。これであたしが酢豚だけの女じゃないって事が身に沁みたかしら?」

「おう! お前は春麗なんかメじゃねぇ、ハイパーチャイナ娘だったんだな!」

「それって褒めてんのよね?」

「おうよ!」

 

恭一的には最上級の褒め言葉のつもりらしい。

 

「今度は織斑にも振舞ってやるんだな。こんだけ美味いんだ。アイツも喜ぶだろうよ」

「っ......そうね。そうしてやるわ!」

 

恭一の言葉に意気込む鈴を優しげに見る真耶と本音だった。

 

 

________________

 

 

 

「ん? 何で俺の名前が其処で出るんだ?」

「......まぁ一夏は一夏だよねぇ」

 

この鈍感男のハートを射抜くには、どうすれば良いのか。

少なくとも箒やセシリア並みのド直球が必要なのは間違いない。

 

 

________________ 

 

 

 

じょわわわぁ~~~んっ!

 

 

「さぁさぁ! お腹も満たした処でトリを務めるのは、またまたタッグチームのご登場でーす! 抜けがけして何が悪い! 愛は勝ち取るもの也! 学園最凶コンビ、阿修羅姫篠ノ之箒さん&羅刹姫織斑千冬先生で~~~~っす♪」

「......やーまだ先生」

 

(何故、死に急ぐのか......)

 

圧倒的覇気を纏い現れたメイド姿の箒と千冬。

 

(やっぱり冥土じゃないか)

 

無関係ながらも直立不動で震える恭一。

 

「戯れが過ぎるぞ真耶ァ......」

「ひぇっ」

「剣の錆にしてあげましょう」

「見えないのに剣が見える!?」

 

真耶との楽しいお話が終わった処で

 

「「 待たせたな、恭一! 」」

 

何事も無かったかのように、始める冥土服な2人。

 

「ソウデスネ」

 

説得力溢れる2人の仁王立ちに、恭一は完全に萎縮してしまっていた。

 





友達にコーラをたかる人間の屑が居るらしいっすよ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。