キューでは無く打球棍、というお話
「さぁ恭一さん、私とはちょっとしたゲームの時間を堪能して貰いますわ♪」
「ゲーム.....ラウラ達とは違って、息抜きみたいなモンか?」
恭一はバニー姿のセシリアが腰を落ち着かせているテーブルを改めて見る。
緑色の布が貼られており、4つ角と横2つに其々穴が設けられている。
テーブルの上には様々な色の球が並べられていた。
「ええ! 私とビリヤードで遊びましょう、恭一さん♪」
「ビリヤード......取り敢えず、よく分からんから教えてくれ」
「お任せ下さいな♪」
セシリアは棒状の道具であるキューを指先で器用にクルクルと回す。
「まずはキューをこのように構えて」
「ふむふむ」
(ふふふ。恭一さんが見ている今がチャンスですわ!)
セシリアの現在の姿はどのようなモノか。
網タイツにピンヒールの着用・肩紐の無いセクシーな衣装に合わせて、お馴染みの耳と尻尾に象徴される『うさぎ』のキュートさも同時に発揮される代物だ。
しかし、このバニーガールのコスチュームは女性にとって諸刃の剣でもある。
何故ならそれを着る女性も、コスチュームに負けない位の高いレベルが要求されるからだ。
バニーガールのコスチュームは、身体のラインがはっきりと出る仕組みになっている。
それ故に、相当のプロポーションが求められるのは当然、高いピンヒールを履きながら、優雅な立ち回りを熟す運動神経も必須なのだ。
事無し気に自然と振舞っているセシリアだが、美貌・プロポーション・運動神経どれを取っても一流な彼女だからこそ着こなせるコスチュームである事を理解しなければいけない。
そんなセシリアがキューを構えながら、ムッチリ引き締まったお尻をプリプリと突き出しに走る。
前屈みになった胸は支えられている生地の薄さと重力によって、更なる谷間を見せる事に成功。
(あぁん......見てますわ、恭一さんが私を! 真剣な眼差しでっ......真剣な眼差しで?)
それは年頃の視線では無く、技術を学ぼうとする視線だった。
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「ハッハー! 恭一に色仕掛けなど10年早いわ!」
「うわっ!? きゅ、急に立ち上がらないでよ箒! びっくりするよ」
驚くシャルロットと箒の隣りで静かに頷いている千冬。
モニター室での一幕であった。
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「くっ.....」
(そ、そうでしたわ。恭一さんは女の武器(身体)無効化スキルをお持ちでしたわね)
邪な気持ちは一旦置いておくとして。
セシリアは真ん中に並べられた1番から9番と刻まれた9つの的球に集中する。
「.....えいっ」
彼女のキューによって弾かれた手玉は、勢い良く9つの球群にぶつかり、バラバラに弾けていく。
「ふむふむ。まずは白い玉を9つの塊にぶつけるんだな」
「ええ、そうですわ。そしてバラバラになった球達を小さい番号順に手玉を当てて、ポケットに落としていくゲームなのです」
説明しながらも手始めに1番の的球に手玉を当てて見事にポケットに落とす。
「なるほど......郭奉孝と云う訳か」
「はい?」
「気にするな」
「は、はぁ」
恭一の呟きも置いておくとして。
セシリアは再びキューを構える。
「的球をポケットへ落とす事に失敗するまで、打ち続ける事が出来るのですわ」
「という事は、まだセシリアのターンって訳だな」
「Exactly」
「......うん、そうだな」
恭一の知ったかぶりな反応を余所に
カンッ
カンッ
カンッ
セシリアの腕前は相応なモノで、次々と的球をポケットへ落としていく。
「.......」
(コイツばっか落として俺何もしてねぇじゃねぇか)
ぶっちゃけ暇だった。
そんな恭一の心境は露知らず、セシリアは6番ボールに狙いを定め
「......えいっ」
彼女が弾いた手玉は6番ボールに当たり、そのままポケットへコロコロと
「せいッ!!」
突如、横から衝撃波のような爆風が6番ボールの軌道が逸らした。
「ファッ!? な、なにしますの恭一さん!?」
「正拳突きの練習」
恭一が前へとくりだした拳は、凄まじい勢いで衝撃波を生じさせた。
「も、もう! 子供みたいな事しないで下さいまし!」
爆風を巻き起こした人外っぷりには突っ込まないセシリア。
「だってよ~、お前ばっか楽しんでるんだもんよ~」
紛う事無き子供の言い分だった。
「うっ.....そ、それもそうですわね。なら次は恭一さんの番ですわ」
「よっしゃ!」
セシリアからキューを受け取った恭一は見様見真似で構えてみる。
その時、再びセシリアの瞳に光が。
(まだまだ女の武器は諦めてませんわよ!)
「えっと......確かこんな感じに」
「違いますわ恭一さん」
後ろから指導という形で密着するセシリア。
「肩の力を抜いて......支える腕は真っ直ぐに......ですわ」
己の胸をムニムニと恭一の背中に押し当てる事を忘れない。
「......」
「恭一さん、集中する事が肝要ですわよ」
耳元で妖しく囁きながらムニムニと。
完全に『あててんのよ』状態を創り出す事に成功したセシリア。
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「あ・の.....エロダージリンがァ」
「.......」
(((( ひぇっ ))))
モニター室では殺気を撒き散らす阿修羅と羅刹に子羊達が震えていた。
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むにゅんむにゅん♥
「......なぁセシリアよ」
「どうされました? 大丈夫ですわ、私の言う通りに―――」
「やりにくいだろが! 離れろアホ!」
「ぐぬぬ」
見せても当てても女の武器は通用しなかった。
(くっ......やはり無効化スキルは伊達じゃないですわね)
果たしてセシリアに勝機はあるのか。
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「ハッハッハァーッ! 恭一に色仕掛けなど100年早いわッ!」
「うむ!」
大いに喜ぶ箒と大いに頷く千冬だった。
(((( 内心ビクついてた癖に、いや言えないけど ))))
千冬が居る状態では、口が裂けても言えない子羊達。
「箒は分かるけど、何で千冬姉ぇも喜でんだ?」
「......淫行は教師として見過ごせんからな」
「あっ、そっかぁ」
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「狙いを定めて......」
セシリアに言われるように、自然体のままフォームを作る。
右足を身体の外側に開き、反対側の足を斜め前に出して安定させる。
「体重を両足に均等に掛けるのが更なる安定を生むコツですわ」
「ふむふむ」
構え終わった恭一は何度かキューをストロークし、身体に馴染ませていく。
そんな恭一を見ているセシリアは
(このまま普通に終わるのも癪ですわね)
『ワールド・パージ』で恭一に想いを告げてからガンガン攻めると宣言したセシリア。
しかし、中々2人きりになれる時間が取れず、未だ有言不実行の刻だけが過ぎていた。
(今回は2人きりでは無いからこのまま泣き寝入る? いえ、此処で諦めたら淑女の名折れ!)
立ち上がったセシリアはススス、と恭一に再び近寄り
(女の武器が駄目なら乙女の武器で勝負ですわ!)
彼女は恭一の耳元で静かに囁く。
「成功すれば私のキッスを捧げましょう♥」
「ッッ!?」
彼女の詠唱(?)に動揺したのか、力んだ恭一のキューは手玉を弾く事無く貫いた。
「お見事な貫きですわ恭一さん!......って、エエエエエッ!? 貫き!?」
恭一が持つキューには、まるで箸に刺さったゆで卵状態の白い手玉が。
「オメェが変な事言うからミスっちまっただろうが!」
「へ、変なとは何ですか! そもそもどんな力で撞いたら貫くのですか!?」
ありえませんわー! ありえませんわー!
両手を頭にぐわんぐわんと、2回叫ぶセシリア。
すると
じょわわわぁ~~~んっ!
銅鑼の音が鳴り響き
「試合続行不可と見なし、オルコットさんのレクリエーションは此処までとさせて頂きまーす♪」
「そ、そげなアホな......」
残酷な真耶の言葉に腰から砕け落ちるセシリア。
そして恭一も恭一で納得などいっていない。
自分は彼女と違って1つもボールを落としていないのだから。
しかし恭一の手にあるキューは既に使い物にならず、手玉も役目を果たさない。
セシリアはセシリアで、トボトボ部屋から出て行く。
が、恭一が彼女を腕を掴んで待ったを掛けた。
「きょ、恭一さん?」
「テメェ何勝ち逃げしてやがる」
「え、えぇ.....?」
価値観の違い。
セシリア的には敗北も敗北、完全敗北だった。
しかしそれはあくまでセシリアの私見である。
恭一からすれば彼女の大勝利、自身の惨敗も良いトコだった。
キューも手玉も使えない。
しかしこの男には、そんな事など最早関係無かった。
「要は9番の球を穴にブチ込めば良いんだろ」
「そ、それはそうですが。ルールに則るモノでないと......」
2人の視線の先には、ポケットから僅か数センチ前にある9番ボール。
「先程のように風で入れるおつもりですか?」
「ハッ.....」
セシリアの言葉を短く否定し、9番ボールを睨む。
(たかだか数センチ......)
" 気合で転がらんかァーーーッッ!! "
「ひゃっ!?」
狂者による突然の大喝咆哮。
隣りにいたセシリアは身体をビクッと震わせ
コロコロコロ......カコンッ
「へぁ!?」
気迫で無理矢理落とされた9番ボールに、またもや慄く事となった。
「め、滅茶苦茶ですわ......」
普段から恭一の規格外っぷりに毒されているセシリアであっても、流石に摩訶不思議、奇想天外過ぎてそれ以上言葉が出てこなかった。
「ひゃっほい! どーでい、これで俺の勝ちだな!?」
これだけの事をして平然と結果だけを喜んでいるのだから、周りの普通の人間からすれば堪ったモンじゃない。
「ふふ......うふふ。ええ、恭一さんの勝ちですわ」
「そうだろう、そうだろう! うわははは!」
先程まで沈んでいた感情が嘘のように明るくなっていくのが分かる。
(ふふふ。この人と過ごしていると落ち込む暇など在りませんわね)
恭一の仕草に自然と頬が緩むセシリア、満足気に部屋から退出ス。
入れ違いで入ってくる本音と軽やかなハイタッチで、彼女の幕を閉じた。
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「......その発想は無かった」
お手玉に独楽に竹馬。
『準備中』と書かれたプラカードと共に、彼女が次に持ってくるのは何か。
ある意味でワクワクしていた恭一だが、目の前の本音が持って来たモノは、流石に彼の漠然とした予想の範疇を超えていた。
「お雛様だよーぅ」
腰を下ろした2人の間には、見事に装飾された雛人形セットが。
「これでどうしろと?」
「着せ替えたりするんじゃないかな?」
「おままごとじゃねぇか!」
本音の提案に突っ込むも、唯見ているだけでは暇過ぎる。
恭一と違い、本音は童心に帰ったように、楽しそうに人形を愛でていた。
雛人形は腕が動く仕組みになっているので、何となく恭一も本音の隣りで腕を動かしてみたり、ツンツンと扇子を突っついてみる。
「ふむ......この装飾にキメ細やか細工。人形も馬鹿に出来んな」
「凄いよねぇ」
何だかんだで楽しそうな2人。
「―――すぎにしかた恋しきもの、枯れたる葵、ひいな遊びの調度。だったか」
「おお~? なにそれなにそれ~?」
恭一の放った詞に本音は、興味津々だ。
「枕草子の詞だな。雛人形ってのはよ、昔は『ひいな遊び』つってな。今みたいな遊興道具の1つだったんさ。ちなみに『ひいな』は小さくて可愛いものって意味なんだぜ?」
「なるほろ~。しぶちーってば物知り博士だね!」
「国語に関しては任せろー」
「バリバリー」
決して高校生がする遊びでは無いが、日本古来の趣を楽しむ2人。
じょわわわぁ~~~んっ!
本日何度目かの銅鑼の音。
「お次はタッグチームでの登場です! 姉妹仲なら誰にも負けない! 頼れる姉と頼れる妹! 学園最強姉妹、更識楯無さん&更識簪さんで~~~~っす♪」
「な、なにィ......タッグで来るのか? それなら俺ものほほんさんと」
既に彼女の姿は無かった。
「......ミュータントタートルズ」
恭一の呟きは虚空へと消え
「「 お待たせ、恭一(渋川)君! 」」
舞台の上では白衣姿の楯無と簪が、仁王立ちで待ち構えていた。
「なんでメガネ掛けてンすか?」
取り敢えず楯無に突っ込むが
「雰囲気よ!」
雰囲気らしい。
「んで何でお前、指し棒なんか持ってんだ?」
お次は簪に聞いてみるが
「雰囲気大事」
こっちも雰囲気らしい。
「いい? 文武両道が学生の本分よ、恭一君!」
「は、はぁ」
メガネをクイクイさせながら不敵に笑う楯無。
「私達のレクリエーションはお勉強の時間」
「......あ゛?」
楯無と簪の後ろに垂れている幕が、音を立てて上がっていく。
現れたるは、並べられた幾つかの机に教壇に黒板。
「教室やんけ! ふ、ふざけんな俺は帰るぞ!」
「はぁい、席に着きましょうね恭一くーん♪」
「くっ.....は、放せっ.....放さんか!」
抵抗虚しく着席を余儀なくされる恭一だった。
漸く3人終わり!
書く前はこのレクリエーション大会を2話位で纏めようと考えていた模様。
(ヾノ・∀・`)ムリムリ。