野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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天運価値の違い、というお話



第122話 貴公子のリベンジ

「勝負は良いが何するんだ? ラウラと同じくダーツか?」

 

舞台へ上がった恭一がシャルロットに尋ねる。

 

「チッチッチッ、僕のこの衣装を見てみなよ。これがダーツをする格好に見える?」

 

パティシエ姿のシャルロットがチッチッ、と人差し指を横に揺らして話す。

 

「もしかして料理対決か? 俺、ぶっかけご飯位しか作れねぇぞ」

「それは料理じゃないよね。ってそうじゃなくて!」

 

シャルロットは真ん中にある大きな丸いテーブルの仕切りを剥がした。

カーテンが開かれ、恭一達の目の前には

 

「おおっ......すんげぇな、ケーキだらけじゃないか!」

 

イチゴケーキにモンブラン、ロールケーキにシフォンケーキなど様々な種類のケーキが2つずつ、それはもう豪華に仕立て上げられていた。

 

 

「チキチキ! 2つなのにロシアンルーレット! 甘々or激辛!? 選ぶのはどっちだ対決~~~~ッッ!!」

 

 

ドンドンパフパフー♪(真耶の声)

 

「なに言ってだお前?」

「真顔にならないでよ! いい? 簡単なルールの説明するよ?」

「あい」

 

ルール説明と言っても、タイトルコール通りである。

数種類並べられたケーキの中に、同じ種類のケーキが2品隣り同士に並べられてある。

1つは見た目通り美味しいケーキ。

もう1つは見た目に反して、激辛ソースが使用されている。

勝負内容は言ったってシンプル。

同じ種類のケーキを恭一とシャルロットが同時に食べる。

2人を待ち受けるのは天国か地獄か?

 

「ふむふむ。内容は理解した、が......これ全部お前が作ったんか?」

「うん! 僕は料理部でもあるからね♪」

 

改めてテーブルの上を華やかに彩るケーキ達を見やり

 

「大したモンだ。まだ食ってねぇからアレだが、見た目だけならプロ顔負けじゃねぇか?」

「えへへ、僕は元々ケーキ作りは得意だったんだ。でもね、料理部の部長はもっと凄い腕前の人でさ! その人に教わったんだよ」

「ほう?」

「いっつも、どんがらがっしゃーん!ってコケる人なんだけどね。皆にも優しくて、僕も尊敬してる人なんだ」

 

余程その人の事が気に入っているのか、シャルロットは我が身の如く、嬉しそうに部長の事を話していく。

 

「その人はIS乗りのアイドルになるのが夢らしくてね、最近事務所の審査に合格したんだって♪ 僕達も応援してるんだよ」

「ふむ。それなら俺も一度挨拶にいかねぇとな」

「へっ? 恭一ってアイドルとか興味あったの?」

 

武術と肉&コーラ以外に興味無しと思っていたシャルロットは、少し驚く。

 

「いや、アイドルに興味はねぇが......楽曲提供なら出来るぜ?」

「へ?」

 

まさかの作曲ですか?

いよいよ持ってシャルロットの目が点になる。

 

「何でも約束された名曲らしくてな。曲名は確か......『カナダ☆レモン』だったか」

「えっ、なにそれは......」

 

 

________________

 

 

 

「いやァーーーーーーッッッ!!」

「お、お姉ちゃん!?」

 

モニタールームにて錯乱絶叫の声が響いた。

どうやら恭一の口から出たワードは、楯無の心を深く突き刺すモノだったらしい。

『ワールド・パージ』的な意味で。

 

 

________________

 

 

 

部長の話を満喫した2人は、いよいよ勝負に移るのだが

 

「2つに1つが外れ......成程、この前のババ抜きのリベンジって訳か?」

「ふふふ」

 

恭一の指摘に対し、笑うだけで多くは語らず。

だが、その通りだった。

 

以前、無人機のゴーレムと各々が戦った後の事。

束の間の慰みに恭一達は、トランプでババ抜きを催した事があった。

その時、彼女は恭一に目を付けられ、最後は勝利を収めたものの戦績は惨敗も良い処だったのだ。

シャルロットはその時受けた屈辱を忘れてはいない。

リベンジする機会を虎視眈々と狙っていた訳である。

 

「ベタな事聞くようだがよ。お前さんが作ったのならどっちが『外れ』か分かるんじゃねぇのか?」

「確かに恭一の言う通り、僕が選んだら公平さに欠けるよね。だから恭一が先に選んで良いよ。僕は残ったものを頂くさ」

 

確かにこれでシャルロットのアドバンテージは消えたと言える。

 

「おいおい良いのか? 俺の直感レベルは紛う事無き『大四喜』だぜ?」

「ふふふ」

 

恭一の言葉に不敵に笑みを浮かべて返すシャルロット。

何やら自信が伺えるが、果たして。

 

「なら早速勝負といこうじゃねぇか。本当に俺から選んで良いんだな?」

「どうぞ♪」

 

恭一はテーブルの前に立つ。

まずはイチゴのショートケーキからだ。

 

「ふん。50%の『当たり』を引くなんざ、俺にとっちゃ造作もねぇ」

 

(それはフラグですよ渋川君!)

 

司会役の真耶、心の中で突っ込む。

特に吟味する事無く、恭一は右に置かれたイチゴケーキの皿を取った。

必然的にシャルロットが食べるのは、左の皿のイチゴケーキとなる。

 

「それで? こっからどうするんだ?」

「せーの、で同時に食べるってのはどうかな?」

 

シャルロットの提案に頷き、両者共々

 

「「 せーの 」」

 

 

パクッ

 

 

「あま~い♥」

「ぐっふっぁあああああぁぁぁああああッッ!?!?!?!」

 

 

まさに天国と地獄。

笑顔でケーキを頬張っているシャルロットと、今にも口から火を噴き出しそうな恭一。

 

「みっ、みずぅうううううううっ!」

 

テーブルに置かれた水が入ったカップ2つ。

1つをを手に取り、急いで口へ

 

「あっ、恭一!」

「ゴクゴクッ!! ぶっへぁぁぁぁぁッ!?」

 

思い切り吹き出す恭一。

 

「言ってなかったけど、飲み物も二択だからね。ちなみに今恭一が飲んだのは塩水でしたぁ~♪」

「がふっ......て、テメェ.....随分味な真似してくれんじゃねぇか」

「うふふふ。涙目で睨まれても......ねぇ?」

 

(久々に見る恭一の悔しそうな貌......や、やっぱりたまんないよう)

 

最近、鳴りを潜めていたシャルロットの嗜虐心(恭一限定)が、今ここに目覚める。

ちなみに恭一が食べたイチゴケーキには『サドンデスソース・ジョロキア』が含まれていた。

辛さはタバスコの50倍と云った処である。

 

 

気を取り直して第二ラウンド。

 

「お次はモンブランだよ~♪ カスタードクリームとマロンクリームの中には『ヴィシャス・ヴァイパー』別名『制御不能の毒蛇』がたっぷりだよ~♪」

「物騒過ぎンだろ、名前がよ!?」

「だいたいタバスコの約115倍の辛さだからね」

「えぇ......」

 

モンブラン(制御不能の毒蛇)の前に立つ恭一。

流石に慎重になっている。

無理も無い。

さっきのイチゴケーキでも結構ヒィヒィだったのだ、これ以上喰らいたくないのも当然と言えよう。

 

(しっかし、どんな魔法使ったんだ。俺がニオイでも判別出来ねぇとかマジかよ)

 

今回に限り、このテーブルに並べられた全てのケーキは、噴上裕也ですら判別不可能な仕上がりとなっているのだ。

 

「......これにしようかな」

 

敢えて声に出した恭一は皿に手を伸ばしつつ、シャルロットを見た。

何のために?

彼女の表情を判断材料にするためだ。

 

(......っ....コイツ)

 

まるで読めねぇ。

ババ抜きン時は簡単に顔に出してやがったのに。

それが今じゃまるで表情に出しやがらねぇ。

 

「それにするの?」

「あ、いや......やっぱコッチにする」

 

変更しつつ、しっかりと彼女を伺う、が

 

(くっ......マジで変わんねぇなコイツ!?)

 

「「 せーの 」」

 

 

パクッ

 

 

「げひゃぶぅううううううううううっ!!!」

「おいひ~♥」

 

 

最初に手を伸ばしたモノをそのまま選んでいれば。

勝手にドツボに嵌った恭一、2連敗。

 

.

.

.

 

「みぎゃぁあああああああああああっ!!!」

「うまうま♥」

 

 

「ひょげぇえええええええええええっ!!!」

「はぁはぁ......♥」

 

悶え苦しむ恭一を肴に美味しいケーキをパクつくシャルロット。

彼女の頬は何故か紅色を帯びており、何処か恍惚な表情を浮かべていた。

 

「おごごごごごっ......の、のろがぁ.....やけるーるるるるる......っ.....!」

「次の二択はコーラだよ!」

 

今の恭一に、2つのコーラを吟味する余裕など無く

 

「ゴキュゴキュ!! う゛げぇああああああああああっ!!!」

 

口からまるで火山口のマグマのように、溢れ出す。

 

「あちゃぁ~。恭一が飲んだのはコーラじゃなくて『甲羅』の方だったね♪ コラーゲンたっぷりのスッポンの生き血と甲羅入りだよ? うふふふふ」

「ダジャレかよ......しかもくっそツマンネェ」

 

早くも勝負は最終ラウンド寸前だ。

此処までは、恭一の見事な全敗である。

 

「ちなみにさっきのロールケーキには『MAD DOG'S REVENGE』別名『狂犬の逆襲』がふんだんに使用されてたんだよ~♪」

「いや何だよその名前......確かに辛いってレベルじゃなかったけどよ」

「今言ってもアレだけど、タバスコの約500倍の辛さなんだって」

「ごひゃっ......!? インフレがやべぇだろ! ドラゴンボールかよ!?」

 

恭一のツッコミに対しニヒヒと笑う。

 

「500程度で驚いてちゃ最後のケーキは食べられないよ~?」

「なんだと?」

 

何故もう恭一が食べる事になっているのか。

シャルロットは嬉しそうにテーブルへと駆け寄り

 

「最後を飾るのはチョコチップマフィン。メインソースは『ブレアの午前6時』! 辛さはタバスコの8000倍!」

「だからインフレしすぎだろ!? 完全に超サイヤ人状態じゃねぇか!」

「何でもこのソースの主な用途は観賞用なんだってさ」

「えぇ......」

 

何にせよ2つの品の前へ行く恭一。

そんな彼の後ろ姿を笑って見ているシャルロット。

自分の勝利は既に決まっている、と云うような表情をしていた。

 

(フフフ。恭一の運は本物だよ)

 

口を押さえて微笑みを隠す。

 

(恭一は『当たり』を引く事に関して、それこそ天運を持っている。ただしキミが思う『当たり』と『外れ』には大きな違いがある事に僕は気づいたんだ)

 

彼女が思い出すのは身体測定の時に行われたクジ引き。

33枚の中から見事『当たり』を引いた恭一。

恭一にとって最悪の『外れ』クジ。

しかし、絵的には恭一が引くのが一番盛り上がりを見せる『当たり』だったのだ。

 

(今回の二択もそうだよ。恭一にとって『外れ』でも絵的には『当たり』なのさ。君はずっと『当たり』を引き続けているんだよ。うふふふふ)

 

そう。

この勝負の必勝法は恭一に選ばせる事。

それだけで彼女の勝ちは揺るがない。

フェアに見えた勝負は実は、シャルロットに有利に出来ていたのだ。

 

(むふっ.....最後のソースは恭一でもアヘ顔になる事間違い無しだよっ♪)

 

そんな恭一はケーキの前で何を思う。

 

「......分からん」

 

(アイツの表情を見ても相変わらず、どっちが正解なのか伝わってこねぇし.....う~むむむ)

 

正直、彼自身もまた自分が選んでしまう気しかしていない。

 

(そもそも、こんな短時間でポーカーフェイスを身に付けたアイツを褒めるべきなん......んん?)

 

この時、恭一に電流走る。

 

(.....逆転の発想してみっか)

 

「最後はこれにしよっかなぁ」

 

シャルロットに見えるように皿を取る。

やはり彼女の様子から何も伺えない。

 

「俺が先に選ぶのは権利であって義務じゃねぇよな?」

 

皿を戻した恭一はシャルロットと対峙し

 

「最後はお前さんが先に選んで貰おうか」

「えっ、いやそれは......」

 

先程まであった彼女を覆っていた余裕が瞬時に消え、恭一は確信した。

 

「完全にしてやられた。お前さんポーカーフェイス極めたんじゃなくて、本当にどっちか分かって無かったんだな?」

「そ、それはどうかな?」

 

吃るシャルロットに、漸く五分の立場までこれた恭一。

 

「ホレ、どっちだ? 言えよ。アーンしてやる。8000倍喰らって逝け」

「ひぇっ......」

 

完全に形勢逆転したようだ。

安全地帯にずっといた者が、急に爆弾処理に向かわされる。

今の彼女の心境はまさにコレだった。

 

「こっ......こっちかな?」

「クックッ......本当にそれで良いのか?」

「ううっ......」

 

中々決められない。

それもそのはず、彼女が体験しているのはDEAD OR ALIVEなのだから。

恭一並の肝の太さでないと、この場面では優柔不断になっても仕方ない。

 

「くっ......こ、これだ! これにするモガッ!? や、やめへよきょういひぃ!!」

 

掲げた皿を瞬時に奪い取り、ケーキを彼女の口の中に突っ込む。

 

「うへへへ、逝っちまいなデュノアァ!!」

「ハグッ......? モグモグ.......」

「あ、あれ?」

 

彼が期待していた反応じゃない。

 

「......おいひ~♥」

「ファッ?!」

 

恭一の全敗が決まった瞬間である。

 

「むふっ......むふふふふ......」

「お、おい......やめろよデュノア、何する気だよ!?」

「僕も恭一にアーンしてあげる♪」

 

その笑顔はまるで聖女のよう。

 

「や、やめっフグゥッ!?」

「はぁはぁ......♥」

「◇□△▽○♂♀~~~~~~ッッ!?」

 

 

________________

 

 

 

「僕の出番は此処までだよ。まだまだ楽しんでいってよね、恭一♪」

「......ぽひぽひ」

 

やけに肌をツヤツヤさせたシャルロットは満足そうに部屋から出て行く。

目が回っている恭一を置いて。

そして彼女と入れ違いに現れたのは、またしても本音だった。

 

「お口直しだよしぶちー」

 

そう言って本音は恭一の口に、コーラが入った瓶を突っ込む。

 

「ムグッ!?......ゴクッ......ゴクッ......すっげぇ甘く感じる、が。助かったぜのほほんさん」

「えへー」

 

のんびり笑う彼女の横には、やっぱり『準備中』と書かれたプラカード。

 

「それで? 今回はそれを使うのか?」

「そだよー」

 

2人の間にはおもちゃで出来た竹馬が1セット。

 

「......乗れんのか?」

「乗れないよー」

「......」

 

慣れからか、最早何も言わず彼女の補助に回る恭一。

 

「前かがみになるなよ。背筋伸ばせ」

「ほーい」

 

恭一が前から押さえつつ、グルグル辺りを回っていく。

 

 

カッポカッポ

 

 

「手足と連動させろ」

「ほーい」

 

 

あくまでゆっくり進む本音だが、その表情は楽しそうである。

 

 

じょわわわぁ~~~んっ!

 

 

またしても、銅鑼の音が鳴り響き

 

「お次はこの方! 苛烈に進む事こそ生への証! 淑女と云えばこの私! イギリスの青い涙、セシリア・オルコットさんで~~~~っす♪」

 

相変わらずテンション高めな真耶のアナウンス。

 

「......」

 

もう突っ込まない恭一。

そんな彼は本音がイソイソ出て行くのを見ていた。

 

(また来るんだろうなぁ)

 

今度は果たして何を持ってくるのか。

少し気になる恭一だった。

 

「お待たせしましたわ、恭一さん!」

 

舞台上ではバニーガール姿のセシリアが、仁王立ちで待ち構えていた。

 

「お腹を満たした後はスポーツですわよ、恭一さん!」

「まるで食えてないんだよなぁ......」

 

 

________________

 

 

 

トボトボ壇上へ上がっていく恭一をモニターで見ていた箒。

そうこうしていると、シャルロットが帰って来た。

 

「お疲れ、シャルロット。完勝だったな」

「え、えへへ。ちょっと悪ノリしちゃったかな?」

 

箒の労いの言葉に少し苦笑う。

 

「良いんじゃないか? アイツも何だかんだで楽しそうだったし」

「それなら良いんだけどね」

 

(......まぁ少し位は恭一の敵を討ってやるか)

 

「しかし美味しそうにパクパクと食べていたが」

「?」

「カロリーは大丈夫か?」

「はうっ!?」

 

恭一に勝つ事に夢中で気付いていなかったのか、崩れ落ちるシャルロット。

 

「千冬さん、判定を」

「フッ......痛み分けだな」

 

だ、そうだ。

 





少し長くなってしまった\(^ω^)/

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