野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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御遊戯大会開幕、というお話



第121話 始まる皺伸ばし

「.......」

「よっ.....ほっ......やっ......」

「.......」

 

檻に閉じ込められた恭一は目の前の少女の動きに、どう反応するのが正しいのか、考え倦ねていた。

 

「やっ.....たっ......とっ......」

「......この鉄格子ブチ破って良いか?」

「はわっ!? もーぅ、しぶちーが声掛けるから落としちゃったじゃないかぁ~」

 

鉄格子越しに、のんびりした声でプンスカ怒る少女。

布仏本音。

 

「いや、声掛ける前から結構落としてただろ.....」

 

不可解過ぎる光景。

何故かスポットライトを浴びた本音が、お手玉3つでジャグリングを披露している。

しかも全然続かない、お世辞にも巧いとは言えない手遊び。

そして彼女の横には『準備中』と書かれたプラカードが刺さっていた。

 

「なぁ、のほほんさん」

「な~に~?」

 

3つは諦めて2つのお手玉を交互に投げる事にした本音。

 

「一体これは何なんだ? 隠し芸大会にゃ、まだ早いんじゃねぇか?」

「もうすぐ分かるよーぅ」

「いや、今言って欲しいんだが」

 

どうやらそれ以上、彼女は言う気が無いらしい。

恭一も本音に強い言葉を放つのは、何処か躊躇いがあるようで、大人しく展開を待つ事を選んだ。

 

.

.

.

 

暇を持て余した恭一が口頭で本音にジャグリングのコツを教えていた処

 

「大変長らくお待たせしました♪」

 

スピーカーからマイクを通して聞き覚えのある声。

それと同時に部屋の明かりが着き、本音はイソイソとプラカードを持って部屋から出て行く。

 

「......な、なんだぁ?」

 

演劇でよく見る、緞帳が下がった状態の舞台の上に、マイクを持った真耶の姿。

そして上の幕には、デカデカと

 

 

『たんれんぶレクリエーション大会♥』

 

 

そんな文字が映し出されていた。

 

「いよいよ始まりました! 『たんれんぶ』恒例のレクリエーション大会~♪」

「えっ、なにそれは......」

 

レクリエーションなど知らんし、恒例も何も初めてである。

 

「進行は私、山田真耶が務めさせて頂きまぁす♪」

「やーまだ先生.....?」

 

困惑する恭一を余所に

 

「これから各部員の皆さんが、其々自由に出し物を披露していきます!」

「いやいやちょっと待って下さい、やーまだ先生!」

「このレクリエーションは観客参加型となっておりまーす! あと山田先生ですよ~!」

「やーまだ先生、観客って言われても俺以外見当たらないんですがそれは.....」

 

取り敢えず、この呼び名が気に入ったらしい恭一。

 

「そ・し・て! 『たんれんぶ』部長である渋川君には、全員の出し物が終わってから誰が一番良かったのか、発表して貰いまぁす♪」

 

ああ、もう駄目だ。

俺の話なんざ聞いちゃくれねぇ.....。

ていうか『たんれんぶ』の部員全員だぁ?

俺だけ知らされてねぇってどう云うこったよ。

 

皆にハブられた気がして、人知れず少し落ち込む恭一だった。

 

ゴゴゴゴゴ......。

 

「む?」

 

鈍い音と共に、恭一を閉じ込めていた檻が解かれ

 

「トップを飾るのはこの人! ドイツからの刺客! 好きなモノはパパと嫁! 1組のマスコット的存在、ラウラ・ボーデヴィッヒさんです、どうぞ~~~~~っ♪」

「いやもう何言ってンすかアンタ」

 

真耶が舞台の袖へと捌けると、緞帳がゆっくりと上がっていく。

 

「......ラウラ?」

 

舞台には毎度お馴染み、黒猫着ぐるみパジャマを着たラウラが、仁王立ちで待ち構えていた。

 

 

________________

 

 

 

「待たせたな、パパっ!」

「もうね、何処から突っ込んで良いやら」

 

何故パジャマ姿なのか、と。

何故此処でパパと呼ぶのか、と。

その後ろにある円盤の形をした板は何なのか、と。

 

「さぁパパ! こっちへ来て私と勝負しよう!」

「ほう、勝負とな?」

 

勝負と言われて燃えない恭一では無い。

展開にはまだ付いて行けて無いが、取り敢えず言われるまま舞台に上がる。

 

「んで、一体今から何をするんだ?」

「ふふふ、私とダーツで勝負だ!」

「ダーツ?」

 

いまいち分かっていない恭一にラウラは丁寧に教えていく。

 

「ふむふむ......OKだラウラ」

「ちなみに私に勝ったら、豪華賞品が進呈されるからな! 私も勿論本気でいくが、パパにも頑張って欲しいぞ」

 

(豪華賞品......松阪牛百頭かな?)

 

「任せろ」

 

恭一もラウラの言葉で、俄然やる気になったようだ。

2つ並んだダーツボードの前に恭一とラウラも並んで立つ。

 

「まずは私からだな」

 

自然体のまま放たれたダーツの矢は見事、ボードのど真ん中であるブルへ突き刺さる。

 

「よし!」

「大したモンだ」

 

ガッツポーズするラウラの頭を恭一は優しく撫でた。

ラウラは嬉しそうに、はにかむ。

 

「しかしアレだな。娘と同じ事をするのは、パパとしてどうなんだろうな?」

「むっ、どう云う事だ?」

「パパは娘にとって山であり壁であるのが務めよ。同じブルに突き刺した処で、果たしてラウラは俺を偉大なパパと言えるか? 胸を張って心から言えるのか!?」

「むむむっ! 確かにパパの言う通りだ、心からは言えないぞ!」

「そうだろう、そうだろう! ならパパの偉大っぷりを今から魅せてやるからな!」

「おおっ、パパは期待を裏切らない偉大な男だからな!」

 

「「 あ~っはっはっはっはっ!! 」」

 

恭一とラウラにしか出来ない意味不明な親娘会話。

彼とこのやり取りを出来るのは、ラウラを除けば世界でクロエだけだったりする。

恋人である箒と千冬の2人ですら、不可能な会話なのだ。

別にしたいとは思わないだろうが。

 

 

________________

 

 

 

そんな2人の様子を別室から大モニターで観ている本日の出場者達。

この部屋に現在居るのは『たんれんぶ』部員と顧問の千冬である。

レクリエーション中のラウラと、次の出場者以外は全員この部屋で待機しているシステムだ。

 

「ねぇ......前から思ってたんだけどさ」

「どうされましたの、鈴さん?」

 

出番を後に控えた鈴がセシリアに話し掛ける。

 

「ラウラってあたし達と居る時はしっかりしてるのに、恭一と居る時はアホになるわよね」

「うふふ。鈴さんの仰る通りですわね。ラウラさんってば」

 

仕方の無い御人ですわ、と上品に笑うセシリア。

 

(アンタは恭一が居なくてもアホっぷりが増してきてるけどね)

 

思っても口には出さない鈴は良い子だった。

 

 

________________

 

 

 

「パパ? そっちは私のボードだぞ」

 

既にダーツが刺さっているボードの前に立つ恭一に、間違っていると教えるが

 

「......」

 

そんな事はお構い無しに、恭一はダーツを投げていく。

1本だけでは無く、立て続けに3本も。

 

ヒュン

カッ

ヒュン

カッ

ヒュン

カッ

 

ビィィィ.....ン

 

「ファッ!?」

 

恭一が投げたダーツはボードに刺さらず、ラウラの投げたダーツのフライト部分の先端に刺さる。

残る2本も吸い込まれるように、同じくフライト先端に刺さり、ダーツの橋が出来上がる。

それはある意味でボードの真ん中に4本刺さった状態となった。

 

「なっ? パパは偉大だろう」

 

約束されたドヤ顔を見せる恭一の処へ

 

「す、すごいぞパパ! やっぱりパパは世界1位だな!」

 

嬉しそうにトテトテ走って来るラウラ。

真耶曰く、猫のパジャマなのに子犬の姿にダブッたとか。

恭一にも何故かピョコピョコ動くしっぽが見えたらしい。

恭一の周りで、はしゃぐラウラの頭をポンポンとしていたら

 

「私もパパみたいになれるかなぁ?」

「......ふむ」

 

父のようになりたい、と憧れる娘の鑑。

 

「どうやったらパパのような世界1位になれるのだ?」

「例えば世界5位がいるだろう?」

「うむ」

「しかしソイツが世界5位だったとしても、パパは世界1位なんだよ」

「.......?」

 

.

.

.

 

「パパは私との勝負に勝ったからな。約束通り、賞品をプレゼントするぞ!」

「おおっ」

 

そう言って、ラウラから少し大きめの箱を手渡される。

 

「開けても良いのか?」

「うむ!」

 

(なぁにが入ってんのかなぁ~♪)

 

ガサガサと包装紙から箱の中身を取り出して、いざご対面。

 

「えっ、なにこれは......」

 

ある意味では確かに肉だが、食べる事は出来ない。

 

「私とお揃いのパジャマだ!」

 

豪華賞品の中身は、百獣の王ライオンの着ぐるみパジャマだった。

 

「パパは寝る時はいつもジャージだからな。パジャマを着た方が寝やすいんだぞ」

「俺にこれを着ろと?」

「うむ」

「このフードに耳が付いたヤツを?」

「うむ!」

「ムリダナ」

 

何が悲しくてそんなモンを着なければならないのか。

絶対拒否、断固拒否である。

ラウラのお願いでも無理なものは無理なのだ。

 

「家族は同じパジャマを着なきゃいけないんだぞ」

「嘘つけ、ンな訳あるか! 誰に聞いたんだよ、そんなデマ情報」

「クラリッサが言っていたぞ!」

「なっ......クラリッサ情報だとぉ......」

 

ラウラと恭一にとって、クラリッサは俗世においての絶対神だった。

 

「うぐぐぐ......彼女が言うのなら間違い無いのだろう」

 

兎にも角にも今夜からラウラと寝る時に限り、このパジャマを着る事となった訳だが

 

「あっ、折角ですから今から着てみるっていうのは、どうでしょう?」

 

司会進行役の真耶のお茶目な提案に

 

「あ゛? テメェ賽の河原に送られてェのか?」

「ひぇっ......」

 

ガチで返す大人げ無い恭一だった。

 

 

________________

 

 

ラウラのレクリエーションが全て終えた処で、緞帳が下がり彼女も去って行く。

ラウラと入れ違いに部屋に入ってきたのは、またしても本音だった。

 

「うんっ......しょ.....」

 

『準備中』と書かれたプラカードを地面に刺し

 

「え~~~い!」

 

やはり何処かのんびりとした掛け声と共に、恭一の目の前で紐に巻かれたコマを投げた。

 

くるくるくる......ぽて

 

(えぇ......)

 

ふにゃふにゃ廻っていたコマは案の定勢いを失い、すぐに横に倒れる。

 

「む~」

 

本音はコマを拾い、もう一度紐を巻いていくが、巻き方からしてグダグダだった。

 

「しっかり押さえて芯棒の真ん中に一回巻いてだな」

「ふんふむ」

 

見兼ねた恭一が巻き方のコツを教えていく。

 

「あとは緩やかにコマに沿わせて」

「......こんな感じ~?」

 

しっかりと巻けた後は、投げ方の講習である。

 

「投げるよりも、素早く紐を引くのがコツだ。それでコマは強く廻る」

 

何度か動作を交えて教わった本音、満を持して

 

「え~~~いっ!」

 

クルクルクルクルクル~~~~ッ!!

 

「お~っ♪ いっぱい廻ってるよーぅ!」

「ああ、良い廻転だ」

 

何だかんだでコマを楽しんでいると

 

 

じょわわわぁ~~~んっ!

 

 

銅鑼の音が鳴り響き

 

「お次はこの方! シャルルが男の名前で何で悪いんだ!? 僕は男だよッ! でも実は女だったよ! フランスの貴公子、シャルロット・デュノアさんで~~~~っす♪」

 

テンション高めな真耶のアナウンス。

 

「なに言ってだあの人。なぁ、のほほんさ.....あれ?」

 

本音に同意を求めるが、既に彼女はプラカードを持って部屋から出ていた。

 

「え、えぇ.....? あの子一体何しに来てたんだ?」

 

未だに本音の行動の意味を理解していない恭一だったが、目の前の緞帳は上がっていく。

 

「待たせたね、恭一!」

 

舞台上ではパティシエ姿のシャルロットが、仁王立ちで待ち構えていた。

 

「さぁ、こっちへ上がってきなよ恭一! 僕とも熱い勝負が待ってるんだからね!」

「お、おう。何かお前もテンション高いな」

 

恭一の言うように、今のシャルロットはかなり燃えている。

先の暗闇の中で、恭一に胸を掴まれたのは実は彼女なのだ。

 

(ほんとにおっぱい千切れるかと思ったんだからね! 復讐するは我にあり、だよ。うふふふふ)

 

ニヒルな笑みを浮かばせるシャルロット。

果たして彼女は、どんなレクリエーションを披露するのだろうか。

 





アニメ5話のしぶちー版です(´・д・)y-。.。o○

原作の運動会の代わり位なノリですハイ\(^ω^)/





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