野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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幽霊は勘弁な。
というお話



第120話 暗闇狂宴

「うっ......何処だここは?」

 

黒の衣を纏った少女が目覚めてからの第一声。

 

「.....つっ.....」

 

身体に若干のダルさを覚えるが、自分が寝かされていたベッドから起き上がる。

そこそこ広い部屋に自分以外は見当たらない。

少なくとも少女が知っている場所では無かった。

 

「私は一体何を......ッッ」

 

思い出した。

私はあの夜、スコールの命令で会合部屋の前で待機していた。

そしてあの化け物じみた女に

 

「あーっ! やっと起きたんだねまどっち! 何日も眠ってるなんて寝坊助さんなんだから♪」

「ッッ!?」

 

陽気な声と共に部屋に入ってきた天災博士篠ノ之束。

その後ろにはクロエ・クロニクルの姿も。

 

「むっふっふ~、気分はどうかな?」

「......どういうつもりだ?」

 

親し気に話しかけてくる束に苛立ちを隠せない。

ISを纏った私を負かし、その上変な薬を......薬?

そ、そうだ!

今、この女は数日私が眠っていたと確かに言った。

それなら何故、私は生きている?

アイツらのナノマシンが作動しててもおかしくは

 

「ナノマシンは、もう完全に除去されてるよ」

「っ......なんだと?」

「まどっちを縛っていた『亡国機業』の楔は解けたって訳なのさ~♪」

「本当か?」

「モチ! これでまどっちは、ある意味自由になれたねぇ」

 

ニコニコ笑う束、その横で待機しているクロエはあくまで無表情のまま。

マドカはベッドから降り、何も言わず部屋から出て行こうと

 

「何処へ行くのかな~?」

「貴様に言う義理は無い」

 

確かに束のおかげでマドカは自由を得たのだが、彼女からすればその事を感謝するつもりなど、これっぽっちも無い。

別に頼んだ覚えは無い、勝手にされた事なのだから。

 

「キョー君の所? それともちーちゃんの所かな?」

 

素早く回り込んだ束は「えへへ~」と人懐っこい笑みを浮かべて聞いてくる。

 

「......だったら何だ? 貴様には関係無いだ「どっち?」ッッ......!」

 

束は依然、愛嬌のある微笑を口元に湛えているが、言い様の無い圧力がマドカの全身を襲いに掛かる。

束の禍々しい圧迫感に耐えられる者など、果たしてこの世に何人いるのか。

それはマドカも例外では無く

 

「ぐっ......渋川恭一だ」

「キョー君に会ってどうするの?」

 

素直に言わないと、分かってるよね。

 

言葉には出さずとも、十二分に伝わってくる。

 

「くっ......」

 

誤魔化しは死に直結する。

本能が彼女に訴える。

 

(何を隠す必要がある。全て言ってしまえば良いじゃないか!)

 

「あの男を殺す」

「......へぇ、どうして?」

「渋川恭一の首を織斑千冬に投げ付けてやるためだ!」

 

それまでマドカを襲っていた耐え難い圧迫感が霧散した。

 

「そう云う事なら行かせる訳にはいかないねぇ」

「そうですね」

 

束の言葉でクロエが扉に立ち塞がる。

 

「ふん。貴様らがあの男を守ると言う訳か? 大した過保護だな」

 

苛立ちから皮肉ってみせるマドカだったが

 

「ぷふっ......なぁに言ってるのまどっちぃ~?」

「流石のクロエもまどっち様のお言葉には片腹大激痛です」

 

返ってきたのは期待していたモノでは無く、嘲笑だった。

 

「今のまどっちがキョー君に挑んでも紙切れ同然だよー?」

「なんだと!?」

「束お姉様、それはあまりに失礼かと。紙切れが可哀想です」

 

黒クロエである。

 

「貴様......殺してやろうか?」

「ふぅ......あまり強い言葉を吐くのはお勧めしません」

「なに?」

「弱く見えますよ?」

 

煽るの大好き黒クロエ。

 

「......死ね」

 

マドカはクロエに飛び掛かった。

束を一瞬見たが、彼女はまるで動く気配が無い。

 

(ならばコイツを殺して、その余裕を後悔させてやる!)

 

右手に一本拳を作り、クロエの人中を狙い踏み込み突く。

対するクロエは身体をやや斜めに。

右手は顎付近、左手は下げたままの構え。

 

高速で迫り来るパンチを横から捌き、同時に鳩尾に無影脚を

 

「ぐふっ!?」

 

防御する暇も無く喰らったマドカは後ろへ吹き飛ぶが、着地には成功。

忌々し気に睨むが、クロエは涼しい顔のまま構えを崩さない。

 

「......何故攻めて来ない?」

「めんどくせ、で御座います」

 

マドカの顔が怒りで歪む。

彼女は弱者か強者か問われれば、間違い無く強者の部類に入る。

そして彼女は何時も弱者を見下してきた。

他者を蔑む眼を向けるのがマドカの日常で平常。

そんな彼女が今は蔑まれた眼を向けられている。

その事が何より、我慢ならなかった。

 

「ガァッ!!」

 

勢いに任せ両の拳を乱打する、が

 

「......」

 

マドカの攻撃を避ける事も、真っ向から受け止める事もクロエはしない。

自らの体幹は崩さず、マドカのパンチの軌道を全て縦横無尽に捌き

 

「フッ!!」

 

マドカの体勢を崩させ、蹴りで反撃。

 

「ガハッ!? く、くそっ!」

 

(攻撃が流される......まるで柳を相手にしてるみたいにっ.....!)

 

マドカは何度も挑み掛かるが、まるで同じシーンの繰り返しのようだった。

自分が幾ら早く動こうが、幾ら早く攻撃を仕掛けようが、全て両腕で捌かれてしまう。

ジリ貧になった処で、防げない瞬速の蹴りがマドカを襲う。

 

「はぁっ.....はぁっ、くっ.....私はまだ......」

「クーちゃんはね。まどっちみたいな子の攻撃を捌くのが得意なんだ~♪」

 

とうとう足を突いてしまったマドカに、これまで傍観していた束が話し掛ける。

 

「激流を制するは静水、です」

 

息も切らし、立ち上がる事が出来ないマドカとは違い、クロエはまるで平常のまま。

息も切らさず、構えも未だ解かない。

向かってくるのなら、何時でも捌き蹴る姿勢を解かない。

 

「クーちゃんを倒せない様じゃ、キョー君もちーちゃんの相手にもならないねぇ」

「なんだと」

 

織斑千冬が強いのは知っている。

今の自分じゃ勝てない事も、悔しいが認めざるを得ない。

しかし、渋川恭一にも勝てないだと?

確かに一度不覚を取りはしたが、あれは油断していたからだ。

 

「あの男が貴様より強いとでも?」

「クロエにこの闘法を教えてくれたのは、恭一お兄様です」

「っ......!」

 

嘘を言っている様には見えない。

それに嘘を付くメリットが無い。

 

「此処まで言って、それでも自殺願望があるんなら、もう束さんも止めないよ」

「......貴様達は私をどうしたいんだ?」

 

結局の処、マドカの疑問はコレに尽きる。

ナノマシンを勝手に除去したかと思えば、弱いと云う理由で襲いに行くのを止めてくる。

一体自分に何を望んでいるというのだ。

 

「べっつにー? 唯、強くなりたかったら鍛えてやらない事もないよ~♪」

「そう云う事になります」

 

(......コイツらの意図がまるで分からない)

 

「何故だ? 私はあの男を狙っているのだぞ? 貴様らはあの男の仲間では無いのか!?」

 

「「 弱いと面白くないから(です) 」」

 

「なっ......」

 

2人のハモリに絶句してしまう。

 

「どうせ闘争うのなら強い者同士の方が見応えもあるもんね」

「全く以て」

「貴様ら......本当にそれだけのために?」

 

信じられない、という顔になるマドカをキョトンと見やる2人。

 

(くっ.....何故私がおかしい雰囲気になっている? おかしいのはコイツらのはずだ!)

 

黒の組織で育ったとは云え、少しくらい常識は知っている。

そんな彼女でも、目の前の2人には何らかのズレを感じざるを得なかった。

 

(あの夜スコールが何故、篠ノ之束に殺されなかったのか。何となく分かった気がする)

 

マドカはしばし考える。

 

渋川恭一はあくまで前菜だ。

私の本命は織斑千冬。

その考えは変わっていないし、これからも変わる事は無いだろう。

あの女に勝てるのなら、何だってしてやる。

コイツらを利用してでも。

 

「なら早速、私を強くしろ」

「いやどす」

「は?」

 

唖然となるマドカを余所に、束はスキップで部屋から出て行った。

 

「クロエに勝てたら束お姉様が、まどっち様のお相手をするのだと思います」

「そ、そうか。なら貴様だ。私を鍛えろ」

「お腹がすいたので後にしましょう」

「なに?」

 

マドカも何方かと云えばマイペースな方だが、この2人はそれ以上だった。

 

 

________________

 

 

 

時は進み、場所は戻ってIS学園。

真耶から頼まれた恭一は、メモを頼りに指定された部屋の前に立つ。

 

「此処か」

 

扉を開け

 

「山田せんせ~! 資料持って来たっすよー!」

 

真っ暗な部屋に少し入った恭一は、少し大きめに声を出すが返事は無い。

 

「......? 部屋間違えたか?」

 

取り敢えず、中へ進んで行く。

 

「ううむ......あっ、見えねぇ」

 

扉の外からの光が届かない所まで来たせいで、メモを確認しようとしても暗くて見えなかった。

 

ギィィィ.....バタンッ

 

「あ゛?」

 

扉が勝手に閉まり、完全に暗闇となった瞬間

 

ダダダダッ

 

微かな走ってくる音と共に、恭一の背後から飛び付く影。

 

「むぉっ!?」

 

後ろから羽交い絞めされるが、首に纏わり付いた腕を掴み前方へ投げ

 

「オイオイ......誰だか知らねぇが、喧嘩売ってンのか?」

 

濃い闇の奥を睨む。

 

「......」

 

おかしい。

確かに気配はする。

だが姿が全く見えん。

確かに部屋内は暗闇に包まれているが、一切見えないなど有り得ない。

 

(ま、まさか幽霊か!?)

 

流石に驚きを隠せない恭一を複数の影が襲い掛かる。

 

「ちょっ、タンマ.....!」

 

足と顔部分に切り裂くような空気の流れを感じた恭一は飛びつつ、顔面をガード。

 

「ッッ!!」

 

スライディングしてきた影と顔への膝蹴りを狙った2つの影は防いだが

 

「ごふぁ!?」

 

腹への蹴りは喰らってしまう。

が、腹に突き刺さった足を掴み、グルグルと周りを威嚇するようにジャイアントスイングから壁へと投げ付けた。

 

「ッッ!!」

 

影は壁際でクルリと回転し、衝突する事無くダメージを回避したようである。

 

(やべぇ......どうする南無るか? 南無大慈大悲りゃ成仏してくれンのか!?)

 

この男はまだ結構混乱していた。

 

(いや、待てよ? 確かに見えねぇが感触はある。蹴られたし掴めた.....って事は......そ、そうか!)

 

「テメェら透明人間だなッッ!!」

 

「「「「........」」」」

 

恭一と対峙する透明人間達(仮)は、果たしてどんな表情になったのだろうか。

ちなみに恭一を襲う謎の影達は、決して透明人間では無い。

周囲の風景を表面投射する特殊フィルム型の光学迷彩仕様であり、アメリカご自慢最新装備の擬態服による効果である。

この間の襲撃事件で、楯無が『アンネイムド』達から戦利品として奪ったモノだった。

 

しかし、そんな事は知らない恭一は

 

(透明人間だろうが殴れるのなら、やるこたぁ変わンねぇ)

 

どうやら透明人間説で落ち着いたらしい。

一転して彼の表情から余裕が伺え、影達は少し攻め時を見失いつつある。

 

「オラどうしたよ? さっさと掛かって来い。テメェら全員ボコッて愛の言霊歌わせてやるァ!!」

 

ケラケラ嗤い、自ら闇へと突き進む。

 

(くっ.....飲まれちゃダメよ皆!)

(分かっている! もう一度行くぞ、単独で攻めるなよ!)

 

複数人同時で、先程のように恭一を襲うが

 

「ぶしゃしゃしゃしゃっ!」

 

全て難無く避けられてしまっていた。

苛付かせる爆笑を奏でながら。

 

(どうしてアイツは見えない相手に此処まで動ける!?)

(恭一さんはもしや魔法使いなのでは!?)

(こんな時までアホ言ってんじゃないわよ!)

 

「ハッ! 『千手羅行』を極めた俺に暗闇なんざ意味ねぇんだよ!」

 

『千手羅行』とは恭一の修行の一種である。

全方位から襲い掛かる千本の矢を目隠しした状態で捌く、死を賭した荒行。

発案者は当然、恭一の師匠。

被害者は当然、恭一だった。

 

「俺を陥れるなんざ不可能だ。天変地異が起ころうともな」

 

そう豪語する恭一だが、影達は諦めずに襲う。

前方から来る気配に恭一は咄嗟に右腕を突き出し、素早く何かを掴んだ。

 

むにゅん♥

 

「ひゃうんっ!?」

 

可愛らしい嬌声と右掌に包まれる、柔らかで優しい感触。

 

「......あ゛ァ?」

 

むにむに

 

「ひゃっ!? ちょっ....まっ....!」

 

暗がりの中、たまたま掴んだ先が女性の胸だった。

ある意味、よくあるお約束である。

しかしこの男がベタな型に嵌る事など有り得る筈も無く。

 

(......これは胸か)

 

恭一は掴んだ胸から右手を放さない処か

 

「誰だか知らねぇが......このまま抉り取ってやろうか?」

「ヒェッ.....」

 

少しずつ握力を強めていく。

 

「あいっ......だだだだだッッ!?」

 

(ま、まずいわ。このままじゃあの子のおっぱいが!?......くっ、プランBに移行よ!)

 

真っ暗闇に突如スポットライトが現れる。

 

「ん?」

 

その光が照らすモノ、それは―――

 

彩られたテーブルと椅子。

テーブルの上を彩るのは、真っ白のお皿の中心に盛られた分厚いTボーンステーキ。

さらには、湯気がホッカホカの白いご飯。

そしてそして、ワイングラスに注がれた紅黒輝のコカ・コーラ。

 

直ちに掴んでいた手を放し

 

「わーい!」

 

無邪気に、テーブルめがけてトテトテ走っていく恭一。

そんな少年を

 

ガシャーンッッ!!

 

「うぇいっ!?」

 

目標物手前で突如出現した鉄格子が捕獲成功。

 

(((( 簡単に陥れられてる ))))

 

この時リーダー格は思った。

 

最初からプランBで良かったんじゃないかしら、と。

 

.

.

.

 

「くっ......なんて巧妙な罠を」

 

鉄格子の中で悔しがる恭一の前に、新たにスポットライトが当てられる。

照らされた光の中には、とある1人の少女の姿。

 

「君は......」

 

果たして、少女の正体とは―――

 





ラッキースケベに遭った時のリアクションを知らないしぶちー┐(´д`)┌

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