野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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ヤイサホーな突撃!隣りの晩御飯
というお話



第119話 家庭訪問

控えめなノックの後、とある部屋に軍服を着こなした者が入る。

 

「此方が例の件の報告書になります」

「......置いておいてくれたまえ」

 

短いやり取りを経て、軍服の男は部屋から出て行く。

報告書を貰った部屋の主は愛用のイスに深く腰掛け

 

シュボッ

 

渋い顔で葉巻に火を着けた。

 

「........」

 

眉間に皺を寄せながら報告書に記された文字を上から目を通している者『ジョージア・ボッシュ』。

未登録IS機奪取のため『名も無き兵達(アンネイムド)』を派遣させた張本人でもあり、現アメリカ合衆国大統領でもある。

 

「......ブリュンヒルデ」

 

生身の千冬に完膚無きまでに封殺された『アンネイムド』の隊長からの報告書を要約していく。

 

 

曰く、IS無しでも世界最強

曰く、現役時代以上の強さ

 

 

「羅刹姫は今なお健在と云う事か」

 

『羅刹姫』とは現役時代の千冬の渾名の1つである。

世界に浸透している尊敬の念から呼ばれる『ブリュンヒルデ』とは意味合いが違う。

彼女に対し畏怖の念を抱いた者が呼ぶ渾名だ。

しかし、今のボッシュが頭を悩ませている存在は『羅刹姫』では無い。

何故なら彼女の驚異的な強さは誰もが知る処。

作戦を妨げられた悔しさはあるものの、驚きはさして無かった。

 

ボッシュはもう1人の報告書に手を伸ばす。

 

「......男性起動者渋川恭一」

 

 

曰く、狂鬼

曰く、凶鬼

曰く、悪鬼

曰く、人語を解するMoster

etc、etc......

 

 

「......なんだこれは」

 

ボッシュは頭を抱えるしか無かった。

報告書に無数に羅列された『渋川恭一』を表現した言葉。

良識のある大人なら、決して記さないだろう言葉がこれでもか、と綴られている。

 

「確かに彼の操縦技術は優れている......が」

 

それはあくまでISでの話じゃないのか?

 

嘗て行われたタッグトーナメント戦。

その時の映像は勿論、ボッシュも観ている。

フランス代表候補生ともう1人の男性起動者相手に凄まじい動きで圧倒していた。

それは認める。

 

だが、今回の報告書にはISに乗らず生身で『アンネイムド』達を無力化した、と。

 

「奴らは他の軍人とは違うのだぞ」

 

数多の戦場を駆け抜け、多くの生死を踏み越えてきた。

過酷な訓練に次ぐ訓練。

訓練が終われば戦場へ。

戦場から帰還するとまた訓練。

恐怖心を取り除く事に成功した人間サイボーク部隊とまで呼ばれた武装集団。

 

「そんな者達が15歳の小僧に対し、恥ずかし気も無く『鬼』などと称しおって.....」

 

ボッシュは報告書に納得がいかず、奥歯を噛み締める。

しかし彼らが恭一達を前に、敗北を喫したのは揺るがない事実。

今は今後の事を考えなければならない。

もう一度攻めさせるか?

今度はISを考慮した正真正銘アメリカ最強部隊に。

 

「イレイズド部隊を......いや彼女達は駄目だ」

 

アメリカ代表操縦者であるイーリスやナターシャが配属されている軍隊である。

しかし秘密裏にISコア奪取の任務など、彼奴らが出来る訳が無い。

 

『正面突破だオラァ!!』

 

秘密裏もクソも無くなるに決まっている。

どうするべきか。

溜息を付くボッシュだが、このまま引くのもアメリカの沽券に係わる。

そんな苛立ちから、もう1本の葉巻に手を伸ばした処で

 

ブゥゥ......ン

 

彼の目の前に空中投影ディスプレイが現れた。

 

「なんだ?」

 

一般回線では無く、一通回線と表示されている。

つまり誰かが彼のプライベート回線に強制アクセスしてきたのだ。

一通故に向こうからの映像をただ受信するだけなのだが、ディスプレイは未だ電源が入っていないテレビのように真っ暗である。

何のアクションも起こらない。

手持ち無沙汰なボッシュは手に取った葉巻に火を着け

 

「一体誰の......っ!?」

 

『日本じゃ寒波が芽吹く今日この頃―――』

 

ディスプレイの中では体躯の良い少年とウサ耳カチューシャを着けた女性。

 

『しかし、此処カリフォルニアでは人肌のそよ風がそっと耳元で囁いてくれている気がします』

 

ボッシュは口に咥えていた葉巻を落とす。

あんぐり開いた口、驚愕で見開かれた両の眼。

何故なら2人の背後に映る建物は

 

「わ、私の家じゃないかッッ!!」

 

『本日私、渋川恭一は篠ノ之束博士と共にジョージア・ボッシュという人の家を訪ねてみたいと思います』

 

「どっ......どういう事だ!?」

 

一体何が起きている!?

何故、渋川恭一が!?

何故、篠ノ之束が!?

 

『お邪魔しまーす』

 

ボッシュの動揺を余所に、映像内では恭一がズンズンと家の中へ入って行く。

 

『いやはや、遠い所まで来た甲斐がありますなぁ』

 

恭一の背後と共に映るは、彼と対面したボッシュの妻と幼き子供2人。

 

『奥様を中心に家族で笑顔のオモテナシ。うへらへら』

 

確かに笑顔である。

事態の重さを認識出来ていない子供2人は。

しかし、ボッシュの妻は恐怖で顔が真っ青だった。

 

『ボウヤ、ISは好きかい?』

 

恭一は優しく語りかけ

 

『うん! かっこいいからね!』

『だってよ、束博士』

『黒に染まってない無垢な子供は良いね♪』

 

子供の無邪気な言葉に2人は頬を緩める。

恭一も子供に負けない笑顔で、隣りに腰掛け肩を抱き

 

『ボウヤはパパの事も好きかい?』

『うん!』

『HAHAHA! ボウヤのパパはアメリカで一番だもんな!』

 

子供は自分の父親を褒められた事、そして頭を撫でられた事で嬉しそうである。

 

『奥様は旦那様の事は好きですか?』

『ヒッ......あ、あのっ......』

『HAHAHA! 大好きらしいですね!』

 

「け、警備の者は何をしている!?」

 

会話を堪能した恭一が家から出て行く。

 

「ッッ!?」

 

『如何だったでしょうか、ボッシュ大統領邸』

 

振り向いた恭一の背後には、屈強な身辺警護者達が倒れていた。

目を引くのは彼らの倒れている位置。

正面からでは良く分からないが、何やら文字を表しているように思えて仕方なかった。

 

『ん~......やっぱ上から撮った方が良いんじゃないか?』

『そだねー、クーちゃんお願い』

『はい』

 

束に言われて、ビデオ係のクロエが気絶してい者達を上から撮す。

 

「これは......」

 

左から『F』『U』そして不自然な空白に『K』

 

『さて、大統領。アンタに俺と束姉ちゃんが繋がっている事がバレた訳だが』

 

不敵に嗤う恭一が空白部分に映り込み

 

『これを世界に公表しても良し。アンタの腹ン内に収めるも良し』

 

話しながら、足で地面に文字を書いていく。

 

『新規のISが欲しけりゃ俺だけを狙うんだな大統領。俺を人質に取れりゃ束姉ちゃんも言いなりだぜ? なァ?』

『むっふっふ~、そう云う事になるねぇ♪』

 

何が面白いのか、2人はケラケラと笑っている。

 

『だが、な......前みてェなクソ雑魚は2度と送り込んでくんじゃねぇぞ』

 

「ッッ!?」

 

先程までの態度から一転、恭一の表情から笑みが消えた。

映像越しでも殺気が伝わり、ボッシュの身体が自然と震える。

 

『もしまたツマンネェ奴寄越してみろ。そん時はテメェのガキの屍2つ......此処へ並べてやる』

 

地面に彼の足によって削られた文字は『C』

これ以上無い、脅しと煽りが入り混じった狂人の謳い文句。

 

『おー.....ばっちしキマってるよキョー君♪』

『こ、コラ! 分かってるなら茶化すんじゃありませんよ! カッコ良いのが台無しになるだろが! クロエ、今ン処カットな』

『......リアルタイムです。恭一お兄様』

『あっ』

 

プツン

 

其処で空中投影ディスプレイが消滅した。

 

「.......」

 

ボッシュは無言のまま動かない。

否、動けない。

あまりにも非現実的な出来事に、頭がショートしてしまっている。

唯、1つだけ彼の中で確定している事。

それは

 

(......当分、IS学園を攻めさせるのは延期にしよう)

 

どうやら、恭一の挑発よりも脅しの方が効いてしまったらしい。

正直恭一としては面白くない顛末だが、結果IS学園に通う生徒達の脅威の1つを未然に防ぐ事に成功したのだった。

 

 

________________

 

 

 

カツカツカツ......

 

襲撃事件から数日経ったIS学園は平穏そのもの。

放課後、恭一はメモを頼りに薄暗い学園内を足音を鳴らし歩いていた。

 

「ううむ。改めて意識しながら歩くとやっぱ広いな」

 

恭一の左手には数冊の資料が。

 

.

.

.

 

今日の授業が全て終わり、HRも済んだ処で真耶から声を掛けられた恭一。

指定された時間に、メモに書かれた場所まで資料を持ってきて欲しい、と。

 

「メンドクセェからやだ」

「はうっ」

 

恭一はNOと言える日本人だった。

 

「こ、コーラ買ってあげますよ?」

「お任せを」

 

彼に頼み事をする時の条件が知れ渡りつつある学園だった。

 

.

.

.

 

「これはアレだな。いずれ探検しねぇとな」

 

普段、道場とアリーナに居る事が多い恭一は、学園内を闊歩する事がこれ迄無かった。

新たな楽しみが増えた処で、目的地に向かってドンドン歩みを進めて行く。

 

ジ.....ジ.....

 

そんな彼の姿を監視カメラが捉えていた。

 

「.......」

 

恭一の足がふと止まり、視線を上へと向ける。

 

「今、動いてなかったか?」

 

彼を追うカメラはミリ単位だが、確かに動いた。

恭一はカメラをジッと見つめた後

 

「......まぁ良いか」

 

IS学園は他の学校とは違い、警備も大事である。

不審者の侵入などを対処するための設備が作動している事に、文句など有りもしない。

 

「こっちかな?」

 

メモを見ながら再び歩き出す。

 

 

《 C地点にてターゲットを確認。作戦通り其方へ向かっている 》

《 了解。此方は全員スタンバイOK 》

《 各々殺す気で掛かれ。目的を果たすために 》

 

 

()() ()()()()()!()!() ()》》

 

 

「M-38.....此処で合ってるな」

 

メモに記された部屋の前に辿り着いた恭一は、軋む扉をゆっくり開いて中へと入っていった。

 

 





これにはゲバルもにっこり。

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