野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

120 / 180

言いたくないんだい!
というお話



第118話 垂れパンダの再来

「恭一お兄様、束お姉様。もうすぐ学園に着きます」

 

クロエの声でオセロを中断する2人。

 

「おっ、もうか。このロケットまた早くなったんじゃねぇか?」

「ふふん。『にんじん君』も日々進化しているのさ.....っと」

 

オセロ盤が白一色となる。

 

「ふっ......まるで地吹雪の舞う冬の如しよ」

「カッコ付けてるけど、キョー君の負けだからね」

 

分かってるの?と、ジト目を向けてくる束を受け流し

 

「俺の部屋に寄ってくかい? 茶でも出すぜ」

「うむうむ。お呼ばれしちゃおっかな♪ クーちゃんも行くでしょ~?」

「モチのロンです」

 

淡青く晴れ渡った空に夕陽が茜色を照らす頃、恭一は遠出から帰ってきた訳なのだが

 

「アメリカへ何しに行ってたのだ?」

 

恭一を迎えたのは、不機嫌そうな箒とセシリアを筆頭にした『たんれんぶ』の面々だった。

 

 

________________

 

 

 

それは今朝まで遡る。

 

「.......ふぁぁぁ」

 

朝の8時前、目が覚めた箒はベッドの上で身体をムクリと起こし、軽く上体を伸ばし

 

「恭一は......まだ帰ってきていない、か」

 

部屋を見渡しても恭一の姿は無い。

 

「.....すぅ......すぅ......んん.....」

 

箒は同じベッドで一夜を共にしたセシリアを見やる。

 

「ふっ.....確かに寝相は良いらしいな」

 

.

.

.

 

昨晩、ラウラから恭一の不在を知らされた箒とセシリア。

その時点で自分の部屋に帰る事も出来たルームメイトに見送られた手前、すごすごと帰るのも癪に思った2人は結局、恭一の部屋に泊まる事になった。

 

「はぁ......恭一さんと語らいたくて来たのに、どうして私は箒さんとラウラさんとお団子を食べて話しているのでしょうか」

「いらないのなら私が食べてやろう!」

 

溜息を付くセシリアの前に置かれた団子に喜々と手を伸ばすラウラだったが

 

「い、いらないとは言ってませんわ!」

「まぁアレだ。所謂女子会と云うモノだと思えば良いじゃないか」

 

団子攻防戦を繰り広げている2人を苦笑いで嗜める箒。

 

「しかし恭一と姉さんはアメリカに何をしに行ったのだ?」

「ううむ。私も詳細は教えて貰えなかったが......」

「が、何ですか?」

 

言って良いモノかラウラは少し悩みながらも

 

「恭一殿は愉しそうに嗤っていたぞ!」

 

「「........」」

 

「もうな、分かるんだ。ラウラの言葉の漢字が違うと云う事が」

「アレですわね......何と言いますか.......アレですわ......」

 

『アレ』としか表現出来ないセシリアだったが、箒とラウラも言いたい事は十分に伝わった。

 

「しかしお前達も泊まるのなら、何処で寝るのだ?」

 

おしゃべりもそこそこに夜も更け、ラウラは自分が用意した布団の上へ移動を始める。

当然言われた2人の視線は1つだけの、恭一が使用しているベッドへ。

 

「まぁ2人で寝るか」

「そうですわね」

 

無益な争いで時間を浪費するよりも実利を取る2人。

ニコニコと仲良くベッドに入り、恭一の匂いが染み付いた布団を

 

「セシリアァ!! 貴様の香水の匂いが邪魔だァ!!」

「貴女こそ何故今夜に限って香水を付けてますの!?」

 

やっぱりいがみ合う2人だった。

 

.

.

.

 

「んぅ......箒さん?」

「むっ、起こしてしまったか?」

 

ベッドから抜け出そうとした処で、セシリアも目が覚めたようだ。

 

「.......恭一さんはまだ帰ってきてませんの?」

「まぁな。私はもう起きるがお前はどうする?」

 

セシリアは時計に目をやる。

時刻は8時を少し回った処だ。

 

「私も起きますわ。休日だからと言って、怠けてはいられませんもの」

 

そう言ってセシリアもベッドから降り、先に起きてランニングから帰ってきたラウラと合流した3人は、朝食を取るため食堂へ向かう。

 

「恭一さんが帰ってきたらどうします?」

「取り敢えず、何をしたのかを聞く」

 

そんな会話をしながら。

 

 

________________

 

 

 

「もう一度聞くぞ。何のためにお前はわざわざアメリカまで行ったのだ?」

 

それはもう仁王立ちだった。

完全なる仁王立ちに声のトーンから若干の怒気が含まれている。

当然である。

恋人の身を案じない者などいない。

無事で帰ってきたからといって、なぁなぁで済ませる程、箒の想いは安く無い。

仮に此処に千冬が居たら、きっと彼女と同じ事をするだろう。

 

そんな箒を前にして恭一は

 

(.....何か怒ってないか? お、お土産渡したら機嫌直してくれるかな)

 

的外れな事を考えていた。

 

「ま、まぁ落ち着け箒。ほらお土産だ」

「むっ......」

 

怒っていても恭一の言葉で少し嬉しそうな表情になってしまう箒。

他の面々もアメリカの土産と聞いて、興味津々な様子で近くまでやって来る。

そんな彼女達の眼差しを受けた恭一は、手に持つ紙袋からガサガサと取り出し

 

「ほい」

「あ、ありが.......」

 

『白い恋人』

 

「「「「........」」」」

 

恭一のドヤ顔付きボケに青筋を立てる箒。

それを察知して彼女から距離を取る一夏達。

 

(......おかしい。東海の方じゃバカウケのネタが)

(火に油を注いだだけだと思うな♪)

(クロエは面白いと思います)

 

自分のアホさ加減に気付いていない恭一を生温かい目で見守る束とクロエ。

しかし、何となく冷えた空気を察した恭一は

 

「じょ、冗談だって......こっちが本当の―――」

 

急いで紙袋に手を突っ込み

 

「今度ふざけたら嫌いになる」

 

掴んだ『うみんちゅ』と書かれたTシャツを出す事無く

 

「ごめんなさい」

 

謝るしかなかった。

 

「ハイハイ、一旦、其処までにしときましょうよ箒ちゃん」

 

見かねた楯無が両手をパンパンと叩いて

 

「束博士は皆とモニター越しで会話したけど、まだ知らない子が居るでしょう?」

 

箒を宥めつつ、クロエに視線を送る。

この場でクロエの事を知っているのは、恭一に束、楯無に箒。

後は昨夜、初めて対面したラウラの5人だけで、他の連中は知らない。

楯無の視線を受けたクロエは、スッと前に出てから

 

「クロエ・クロニクルと申します」

 

ペコリと頭を下げ

 

「クロエは束お姉様と恭一お兄様の妹であり」

 

ラウラと視線を交わすや

 

「ラウラの姉で御座います」

 

そう言って微笑んだ。

 

「ら、ラウラのお姉さん!?」

「うむ。昨晩お互いの境遇を話した結果、私の方から是非お姉様になって欲しいと頼み込んだのだ!」

 

恭一と家族の契りを結び、彼を敬愛している2人が意気投合するのに、時間はそれ程掛からなかった。

 

クロエの自己紹介が終わると、一夏達も其々彼女に対し簡潔に挨拶を済ませていく。

 

「僕はシャルロット・デュノア。ラウラとは相部屋なんだ。ラウラのお姉さんなら僕の事も好きに呼んでくれて良いからね」

 

ニコリと笑ってみせる。

その笑顔を例えるなら、冬の湖の空に太陽が光を落としたような、まさに貴公子たる微笑みだった。

 

「それではパトラッシュとお呼びします」

「ファッ!?」

「束さんは君の事はムチムチ貴公子って呼ぶよ~♪ ちなみにムチは鞭ね!」

「ちょっ!?」

 

ニコニコ笑顔を絶やさない2人。

しかしシャルロットからすれば、顔から火が出るレベルでは無い。

 

(絶対バレてるよこれぇええええええ! うわぁぁぁぁん!! 恥ずかしいよおおおおおおおんッッ!!)

 

恭一が聞いてなかった事が、まだ唯一の救いか。

 

(よ、良かった.....恭一には聞こえてな......ん?)

 

「ニヤニヤ」

「!?」

 

含み笑いでシャルロットと視線を合わせたのは、全てを察した鈴だった。

 

(な、何でそんな意地悪な笑みを浮かべてるのかな?)

(あら、言っても良いのかしら?)

(ううっ.....言わないでね、お願い)

 

2人がコソコソ話している間に、全員がクロエとの挨拶を終えた。

 

 

________________

 

 

 

「それで? 結局、恭一君はアメリカで何したの?」

 

話が最初へ戻ってしまった。

 

「どうして言う必要があるんですか?」

「言えない理由でもあるの?」

 

楯無の追求に恭一の顔が渋くなる。

正直、言っても良いか微妙なラインなのだ。

恭一的にはかなり穏便に済ませたのだが、あくまでそれは彼個人の価値観によるモノ。

人が違えば、感性も違う。

恭一的にはセーフでも、目の前の少女達にとってはアウトかもしれない。

故に、恭一は渋る。

 

(どうすっかなぁ俺もなぁ......)

 

ぶっちゃけ話したく無い。

かと言ってこのまま皆から迫られるのも、鬱陶しい。

それなら自分が取る行動は1つ。

 

「ハッ......吐かせてみろよ、会長様」

 

鼻で嗤う挑発めいた言葉に、頬をピクリとさせ

 

「......どうしても言いたくないの?」

「さて? 地面に頭擦って懇願するなら考えてやんよ」

 

ムカッ

 

悪人よろしくゲスな顔をする恭一に、流石の楯無も青筋が立つ。

 

「そう。ならお望み通り無理矢理吐かせてあげようかしら......ねっ!!」

 

楯無の蹴りを後ろに下がる事で回避しつつ

 

「出来ない事を言うモンじゃねぇぜ?」

「あらあら......態度が太いわねぇ恭一君。こっちは8人掛かりよ?」

 

「「「「 !? 」」」」

 

傍観者だった『たんれんぶ』部員達を当然の如く巻き込む策士楯無。

 

「まぁ.....当然だろうな」

「今回ばかりは私も参戦させて貰いますわよ」

 

昨晩、恭一の心配をしていた箒とセシリアは言われるまでも無かった。

 

「恭一をフルボッコに出来るチャンス到来ってね!」

「ふむ。恭一殿とやるのなら、正直まだハンデが欲しい処ではあるが」

「......渋川君と対等に戦える機会なんて早々無い」

 

結構乗り気なシャルロット、ラウラに簪の3人。

 

「いやいや流石に8対1は駄目だろ!」

「ならアンタが恭一側にいけば? 速攻でアイツらからフルボッコにされる事になるでしょうけど」

「.......すまん、恭一。後でコーラ奢ってやるからな」

「まっ、それが賢明よ」

 

何だかんだでこの流れには逆らわない一夏と鈴。

そんな彼らと対峙する恭一は

 

(ひゃっほう! 有耶無耶作戦成功だな!)

 

描いた通りに事が運び、内心万歳状態だった。

周りを熱くさせ、本来の目的を頭から遠ざける事が恭一の狙い。

そして、それは上手くいったと見える。

後は自分が勝つだけ。

 

(今のコイツら8人同時でも、まぁ大丈夫だろ)

 

絶対的自信故に、彼は決して余裕の態度を崩さない。

しかし彼に牙を剥く事を選んだ箒は、本気だった。

色んな意味で。

 

(ラウラ、ちょっと耳貸せ)

(むっ、なんだ箒.....?)

 

何やらヒソヒソと

 

(今回ばかりはお仕置きしてやるぞ、恭一!)

 

ラウラに何かを伝え終えた箒は大きくを息を吸い

 

 

「私に力を貸して!......束お姉ちゃぁぁぁんッッ!!」

「ぶほっ?!」

 

幼き頃の呼び名で姉に甘える箒。

 

「ほほほ箒ちゃん! お姉ちゃんは箒ちゃんの味方だよ~~~~ッッ!!」

 

鼻血を迸らせ、速攻で寝返る束。

効果は抜群だった。

 

「全く以て情けないです。束お姉様ともあろうお方があのような敵の策にまんまと嵌るとは」

 

(おお、もう......)

 

クロエの香ばしすぎる発言に、思わず頭を抱えたくなる恭一。

 

 

「私と一緒に戦って欲しい!......クロエお姉ちゃぁぁぁんッッ!!」

「ッッ!?!?」

 

.

.

.

 

「知ってた」

 

クロエの一コマ即堕ちに、恭一はもう笑うしか無かった。

 

「これで10対1よ恭一君。流石に余裕無くなったんじゃない?」

 

楯無の指摘は遠からず当たっている。

流石に束とクロエまで参戦されるのは、恭一にとっても想定外だった。

クロエはまだしも、束はまずい。

千冬を除いて最も恭一に近い存在であるが故、複数を相手にする時に混じられると非常に厄介なのだ。

 

「謝るなら許してあげるわよ?」

「......なにおう?」

 

以前、楯無は負傷した恭一相手とは云え、4人掛かりで倒した事があるのだ。

全快な恭一でもあの時の面子3人に加え、恭一自身に鍛えられた7人の猛者達。

自分達の勝利はこれで揺るがない。

余裕があるのは、今では此方側。

 

(そう思ってンのなら大きな間違いだ)

 

「俺の秘めたる力を見せてやろうか......?」

 

ビリビリビリッ!!

 

左手を前にした恭一から怒涛に発せられる。

大気を揺るがす程の覇気に

 

「ッッ.....来るよ! キョー君はハッタリなんか言わないんだから!」

「一瞬でも気を緩めると、終わりです!」

 

楽勝ムードが流れつつあった皆は、慌てて気を引き締め直す。

恭一は前に出した左手の掌をゆっくりと開き

 

 

 

「―――汝は知るだろう。幾何なりし封縛、如何なる訃音を告げる者かッッ!!」

 

 

 

「「「「 グゥッ!? 」」」」

 

怯む間も無く、さらなる圧力が彼女達を襲う。

恭一は大きく息を吸い、丹田に力を込め、晴れ渡る大空を見上げた。

 

 

 

「千冬さぁぁぁぁぁんッッ!! 恭一がピンチですよぉおおおおおおおッッ!!」

 

 

 

「「「「.......」」」」

 

恭一のシャウトが木霊する中、何人かは唖然とし、また何人かは

 

「まままずいですわ! 千冬さんを召喚しましたわぁあああああッッ!!」

「お前のリアクションはアホ過ぎるが、確かに不味いな」

 

千冬と関わる事が多いセシリアと箒の言葉に

 

「いやいや来る訳ないでしょ。漫画じゃないんだから」

 

呆れた口調で突っ込む鈴の反応が引き金となって

 

 

「無事か恭一ィィィィ!!」

 

 

羅刹降臨せり。

 

 

________________

 

 

 

「どう云うつもりだ貴様らァ......わたゴホンッ......あーっと」

 

一夏に気付いた千冬は「私の恭一」と言う寸前、何とか言葉を濁した。

咳払いをしつつ、千冬は恭一と対峙する面子を改めて見渡し

 

(束にクロエまで居るのか......まぁどうでも良いがな)

 

「何があったのか知らんが、10人掛かりと云うのなら私も相手になろう」

「これでまたまた形勢逆転だなァオイ」

 

10対2でも、相手がこの2人なら話は別である。

 

(うひゃひゃひゃ! 搦め手で俺に勝とうなんざ100万年はぇ―――)

 

「そ、そうだ、聞いてくれ千冬姉ぇ! 恭一は昨日の夜「あっ、おい待てい」待たぬ! アメリカに行ってたらしいぜぇええええええッッ!!」

「......ほう?」

 

幽鬼の如く恭一の方へと振り返った姿は、まさに羅刹そのもの。

 

「流石に聞き捨てならん事を聞いたぞ渋川ァ......」

「ひぇっ.......」

 

11対1となった瞬間であった。

 

.

.

.

 

「きゅぅ~~~~...........」

 

グルグル目を回し、ぐでーんと垂れパンダ状態の恭一。

彼の周りには、同じく垂れパンダと化した9人の少年少女達。

 

「はぁっはぁっ......あぶっ.....危なかった......」

「ふぅー.....ふぅー......ち、ちかれた.......ちーちゃんとのツープラトンが成功しなかったら負けてたんじゃないかな?」

 

何とか最後まで立っていられた千冬と束は、大きく酸素を取り込み呼吸を整える。

 

「はぁ、ふう......今思ったんだが」

「ひぃ、ひぃ......な~に~?」

 

ぷにぷに

 

「ふぐぐ......やめれ~.....」

 

勝者の特権として、まだ起き上がれない恭一の頬をぷにぷに突っついている千冬と束。

 

「恭一に聞かずとも、お前かクロエが話せばそれで良かったのではないか? と云うかそもそもお前達2人も同罪だろう」

「.......」

 

今更になってだが、最もな指摘に束はバツが悪そうな顔になる。

 

「あ、あははは......逃げるよクーちゃん!」

「はい!」

 

垂れパンダ状態で密かに回復を測っていたクロエも立ち上がり、2人は脱兎の如く『にんじん君』へ乗り込んだ。

流石に2人を追いかける元気は、今の千冬には無い。

仕方無く見送るだけにしたのだが

 

「あっ、そうだ! キョー君とちーちゃんには伝えておくね」

 

窓からひっこり顔を出し

 

「面白い子拾ったよ~」

「......なに?」

「今はまだまだニャンコだけど、獅子になれるかもねぃ♪」

 

それだけを言うと、束とクロエを乗せた『にんじん君』は飛び去って行った。

 

「意味深な事を......しかし今はコイツらが先か」

 

気を失っている『たんれんぶ』部員達に溜息を付く。

 

「お前が原因なんだからな。運ぶのを手伝え、恭一」

「ぐぬっ」

 

既に回復し、こっそり逃げようとしていたが、あっさり捕まってしまう恭一だった。

 





今回で8巻終了!
アメリカでの話は次以降かなぁ(#゚Д゚)y-~~

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。