野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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天災と狂者に常識人が加わったお話




第11話 男性起動者現る

「恭一お兄様、おはようございます」

「ああ、おはようクロエ」

「姉ちゃん起こしてきてやってくれないか?」

「はい。今日の食事当番は...」

「俺だな。まあいつも通りのぶっかけ丼かな」

「ふふふ。野性味溢れていて私は好きですよ?それでは、私は束お姉様を起こしてきますね」

 

クロエとの毎朝恒例のやり取りを済ませた恭一は、朝食の準備に取り掛かった。

 

 

________________

 

 

 

私が束お姉様と恭一お兄様と出会ってからもう4年程になる。

.

.

.

人類の欲望の果てか、生体兵器の研究過程から遺伝子強化試験体として生み出された私は成長速度が芳しく無く、私を生み出した科学者共から失敗作の烙印を受け、廃棄処分が決定された。

 

煩わしそうに科学者たちが私を焼却炉へ運んで行く。

 

---私は何のために生まれたのだろう。

---せめて、せめて私にも名前が欲しかった。

 

ズオオォォォォンッッ---

 

研究施設に突如爆音が鳴り響く。

 

「ど、どうした!?何があった?!」

 

慌てふためく科学者達。

 

「し、侵入者です!!しかもあの「侵入者って言われ方は心外だなぁ」ぐぼあっ!?!??」

 

知らせに来た一人の科学者の首が何者かに後ろから捩り折られた---

 

「だっ、誰だお前?!」

「侵入って裏からコソコソってイメージが付くよなぁ。ちゃんと正面からお邪魔してきたんだぜ?ノックしてもしも~しってな。なぁ姉ちゃん?」

「束さんは自重してちゃんとコソコソっと探索したけどね」

 

そう言い科学者達の後ろから忽然と現れた人物---

全世界から狙われている超S級指名手配者。

 

「「「篠ノ之束!?」」」

 

「なぁに俺から目を離してんだよ」

「ぎっひあああああああああああああッッ!!!!!?!」

 

束に目をやった瞬間、そこに居た科学者は皆両足をへし折られていた。

 

立ってられず跪いてしまう科学者共を一切視線に入れず、束は1人の少女に近づいた。

 

「もしかして、九死に一生を得たってヤツかな?」

「あの..あなた様は?」

「私?んーそうだねぇ...ただの夢追い人さ」

「いやーキツイっす」

 

ウィンクして言った束に間髪を入れず突っ込む恭一。

 

「あ゛?」

「あ゛ぁ?」

 

「「........」」

 

「生きたいかい?生を諦めた少女よ!」

 

何で芝居掛かった口調なんだ?そう思ったが、あえて突っ込まない恭一。

 

「私は...私は失敗作です。こんな私が生きても意味なんて...ない「なら探せばいい」え?」

 

口を出してきた恭一を見やる。

 

「生きる意味を探す旅、どうだ?面白そうじゃないか?」

「探す...旅..私が....?」

「束さんもいるぞー!!」

 

両手を上げて主張している束を笑いながら見やる恭一は

 

「一緒に来るか?」

 

廃棄処分寸前だった失敗作を受けた女の子は、差し伸べられた恭一の手を力いっぱい掴んだ。

 

「.....はいっ!!」

 

「うんうんっ感動的なシーンだねぇ」

 

その光景を見た束がほっこりしていると

 

「きっ貴様らあああああ!?ココをドコだと思っている!私達にこのような真似をしてタダで済むと思っているのかッ!?」

 

そう喚き散らす男を束は冷めた眼で一瞥すると急に笑顔で、ある物を跪いている科学者の目の前に置いた。

 

「これなーんだ?」

 

爆弾である。見た目からして飛びっきり威力がありそうな---

 

「「「なっ!?」」」

 

驚き恐怖する科学者達に

 

「お前たちが何なのかなんて興味ないんだよ。失敗したから破棄する?神にでもなったつもりか?」

 

一呼吸置いて

 

「まあいいや。爆弾について説明しないと!お前らでも分かるシンプルなモノを作ってみたよ!赤と青のどちらか一方の導線を切ったら...分かるよね?正解するかな?失敗するかな?デッドオアアライブを楽しんでね♪このボタンを押してからリミットは5分だよ~」

 

クルリと恭一と女の子へ向き直し

 

「それじゃあ、ここから出よっか」

 

待機させていた人参型輸送ロケットを呼び出し

 

「さぁ乗って乗って♪」

 

少女は言われるままロケットに入っていった。

恭一も後に続きロケットへ向かう

 

---前に

 

「ちょっと姉ちゃん簡単すぎんだろ。もうちょいベット上げようぜ」

「何をするはっ離せ...ぎぃぃいいいいいいいッッ!!!!!」

「やっやめあがああああああああああああッッ!!!!!」

「うん。とりあえずこんなモンでどうだ?」

 

とりあえずで、科学者共の両手指を折った恭一。

 

「ぐっぐうううううう...これじゃあ導線が切れない」

「なぁに言ってんだ歯があるだろ」

 

あっけらかんと言いロケットへ向かへ乗り込む。

 

「んじゃ行っくよおおおお!!」

 

恭一達を乗せたロケットは轟音を響かせ研究施設から飛び去った---

 

「しっかしキョー君もエグイねぇ」

 

嬉しそうに言う束に対し

 

「姉ちゃんもな。赤切ろうが青切ろうがどうせダメなんだろ?」

「とーぜんっ♪どっちを切っても時計自体は止まるよ。ラスト10秒前から爆発のカウントダウンボイスが鳴り出すけどね」

「上げて落とすってレベルじゃねぇな」

 

ケラケラと笑う恭一とカラカラと笑う束。

 

「女の子は?」

「疲れてたんだろう、ゆっくり寝てるよ」

「そか」

 

---ずどおおおおおおおおおおん

 

先程まで居た研究所で大爆発が起こったが、2人が振り返る事は無かった。

 

 

少女が起きたのはその数時間後だった---

 

 

________________

 

 

 

「おっ..目が覚めたみたいだねクーちゃん」

「おはよう。もうすぐ飯ができったからゆっくりしててくれ」

 

束にクーちゃんと呼ばれた少女はあたりをキョロキョロと見渡し

 

「あの...ここは?」

「束さんとキョー君の秘密基地だよっ!今日からくーちゃんもここに住むのだぁ♪」

「...クーちゃんというのは私ですか?」

「そうだよ?名前が無いと不便だからね!『クロエ・クロニクル』今日からそれが君の

名前さ」

「クロエ・クロニクル...」

 

料理を運びながら恭一が言った。

 

「カッコ良い名前じゃないか。よく思いつくもんだ」

「ふふーん。一瞬の閃は天才の必須事項だからねっ!」

 

「私が..クロエ...うれしい...嬉しいです束様!!」

「さ、さま!?何かこそばゆいねぇ」

 

頬をかく束に

 

「お嫌でしたか?」

「んー...その呼び方だとクーちゃんが小間使いみたいな存在でなぁんか嫌なんだよねぇ

そうだっ!クーちゃん束さんの娘にならないかい?」

「娘...私が束様の娘..」

 

嬉しそうに言葉を噛み締めるクロエ・クロニクルを。

と、笑顔の束を尻目に

 

「処女なのに母親とか、コレもう分かンねぇな?」

「あ゛?子供のくせに随分お増せさんな事言うねぇ、キョー君?もしかして束さんに抱かれたいって遠回しのアピールかな?」

「いやその年でウサ耳してる変人はちょっと...」

 

「あ゛ぁ?」

「なんだぁ?」

「表出ろよクソガキ、束さん久々にキレちまったよ」

「...食事前に運動すんのも一興だな」

 

「...ふふ。うふふふ」

 

「「ん?」」

 

「す、すいません。ついお二人のやり取りを見ていたら...ふふっ」

 

「あはは、こういうやり取り何回目だっけ?」

「さぁてな。もう数え切れなさすぎて

覚えてねぇや」

 

ご飯を食べ終わる頃には束を姉、恭一を兄と呼ぶ事で落ち着いた。

 

 

________________

 

 

 

「束お姉様、朝ですよ起きてください」

 

身体をクロエに摩られ意識を覚醒させる束。

 

「んーむむむ...おふぁよークーちゃん」

「ハイ、おはようございます。恭一お兄様が朝食を用意して待っておられますよ」

 

「おーう、起きたか姉ちゃん」

「おはよぉキョー君」

「ご飯できてるぞ、食おうぜ」

 

「「「いただきます」」」

 

恭一と束が出会ってから5年の月日が流れていた。

 

「むぐむぐ...そうだ、キョー君そろそろ鍛錬相手のゴーレムの数また増やそうかと

思うんだけど、どうかな?」

「そうだなぁ最近死にかける事も無くなっちまったしな、良いぜ増やしてくれ」

「...うう。お兄様、クロエは心配です」

 

不安がるクロエの頭を優しく撫でる恭一。

.

.

.

恭一にISの適性は無かった。

男性なので、当然といえば当然なのだが

 

「んー何となく反応するような気がしたんだけど、束さんの気のせいなのかなぁ?」

 

どこか納得してなさそうな束。

空を飛べない事に対して、少し残念がった恭一だったがゴネても無意味と、気にしなかった。

 

問題はこれからの事である。

ISは『翼』だと貫いて生きていくには、避けられない存在が山ほどある。

 

ISを『力』だと認識している世界。

ISを使い、裏から表への侵略を目論むテロリスト。

ISにより地位が格段に向上した女性たちによる

 

『女尊男卑思想』

 

「とりあえず、俺自身がもっと強くならんとお話にならんでしょ?」

 

恭一のその言葉から、束は無人機であるゴーレムを鍛錬相手として作り上げていく事になる。

 

遠距離・中距離・近距離。

何でもござれと言わんばかりの超豊富な戦闘志向のゴーレム達にこれまで兵器と戦う事を怠っていた恭一は、四苦八苦した。

と言うか、何度も重態に陥り生死を彷徨った事など、クロエがここへ来てからですら

軽く3ケタを突破していた---

 

束も当初は死にかけた恭一に対し、涙を流しながら

 

「もうやめようっ!!キョー君が死んだら意味ないんだよッッ!?」

「そんときゃ姉ちゃんも死んであの世で一緒に宇宙に行けば良いだろ?」

 

あっけらかんと言ってしまう恭一に面食らった束だったが、何故か妙に納得してしまった。

 

 

________________

 

 

 

「キョー君、束さん食後のコーヒーが飲みたいなぁ」

「ほいほい、クロエもコーヒーで良いか?」

「ありがとうございます、恭一お兄様」

 

準備のため席を立ったた恭一に、テレビからの緊急速報が聞こえた。

 

「新しく情報が入ってきました。ISを起動した男性の名前は『織斑一夏』さん、15歳。初代ブリュンヒルデ『織斑千冬』さんの弟だそうです。既に織斑さんのIS学園への進学は決まっており、今回の件から全世界で男性のIS起動の一斉調査が行われる事が

決定されました」

 

「これだッッッ!!!!!!!」

 

勢いよく立ち上がった束は恭一の手を掴み

 

「おっおい!?姉ちゃん急になんだ!?」

「いいから!クーちゃんも来てッッ!!」

「はっはい!」

 

二人が束に連れて来られたのはIS研究室だった。

 

「はいっ!」

「いやはいじゃないが...」

「これに触ってッッ!!」

「これって...ISじゃないか俺起動出来ないって」

 

そう言いながら手をISに触れさせる---と

 

キィィィィィン---

 

「なっ!?恭一お兄様!?」

「おっおおっ!?」

「やっぱりッッ!!!!!!」

 

驚く恭一とクロエだったが、束は確信を持っていたのか笑顔で指を弾く。

 

「どうして...急に反応するようになったんだ?」

 

不思議がる恭一に

 

「初めてキョー君がISに触れた時から束さんは違和感を感じてたんだ。普通なら反応しないのが当たり前、なのに反応しなかった事に疑問を感じた自分にね」

「ああ...そう言えば姉ちゃん不思議がってたな。あん時は疑問に思ったもんだ。反応しなくて当然なのに何でそんなリアクションなんだ?ってな」

 

---シンクロニシティ

 

そんな言葉を口にした束を恭一とクロエが見やる。

 

「一見無関係に隔絶された物質・生物、果ては思想が地球規模で同時・同様の変化を起こす現象の事だよ」

 

「「???」」

 

「ゴホンっ、要するにキッカケが必要だったんだ」

「ふーん、あのテレビに放送された男が起動した事で

俺も反応したって事で良いのか?」

「そゆこと♪」

 

満足気に頷く束。

 

「どうする?キョー君も15歳だし適性もあるから学園に行けるよ?」

「学校か...」

 

(そう言えば、前世から幼稚園以来行った事無いんだよな)

 

「良いのか?政府はまだ姉ちゃんを追ってきている。それにテロリストや女性権利団体の奴らの事だってある」

「政府に関してはクーちゃんもいるし大丈夫だよ~。それに、後者に関してはキョー君が学園に行った方が展開があるかもしれないよ~?」

 

悪い顔で笑う束。

それを受け気づいた恭一も悪い顔になる。

 

(ひぃぃぃぃ...姉様と兄様が悪魔の顔に)

 

部屋の片隅に逃げるクロエ。

 

「...愉しんで来ていいんだな、姉ちゃん?」

「もーまんたい!!だよ、キョー君♪」

 

「「くっくっく...」」

 

2人の凄まじい威圧で空間が歪む。

 

「ひっ、ひぃぃぃぃ!!!やめてください死んでしまいますッッ!!!」

 

半泣きになるクロエ。

 

「「おっと...」」

 

「あっそうだ」

 

唐突にポンと手を叩く束。

 

「学園に入るまでまだ時間あるからみっちり勉強しないとね!」

「勉強?」

「時間も限られてるし、束さんが教えてあげるから鍛錬2時間勉強22時間でいこう!」

「えっなにそれは...」

「が、頑張ってください恭一お兄様!!」

「ふっふざけんな!俺は帰るぞッッ!!」

「はいはぁい、キョー君の家はココでしょ~」

 

「嫌だあああああああああッッ!!!!」

 

ジタバタと転がる恭一。

 

「キョー君は楽しむんじゃないの?」

 

急なシリアス口調で話す束に

 

「どういう事だよ?」

「形はどうあれ、キョー君はIS学園に行くんだ。でもね、ただISを動かせる貴重な存在だからって理由に甘んじて何の準備もせずに行くのって、キョー君的にはどうなの?嫌いな事から逃げるってさ」

 

" それって格好悪くない? "

 

それを聞いて瞠目する恭一。

 

「なるほど。全力全開で楽しむにはそういった努力も必要か...うし!ビシバシ頼む姉ちゃん!」

「さっすが♪それでこそキョー君だよっ!」

「応援してます恭一お兄様!」

 

両手でフンスッと応援するクロエに---

 

「「おっまてい」」

 

天災と狂者の声が重なる。

 

「クーちゃんもこれを機に勉強しようね」

「え?え?」

「当たり前だよなぁ?」

 

最狂の2人に左右からガッチリ掴まれるクロエ。

 

「えっちょっ...」

 

 

---渋川恭一、IS学園入学まで残り1ヶ月。

 




ようやく恭一くんも...
学園で青春を謳歌できるんやなって(感嘆)


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