野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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心の変化と過去の事、というお話



第115話 語り部

「恭一君、このお肉すっごく美味しいんだから!」

「お、おう.....?」

「こっちのも食べなさいよ! アンタ肉大好きでしょ!」

「あ、ああ.....」

「僕はこっちのお肉も恭一の口に合うと思うな!」

「いや、だから」

 

食堂へ着いた『たんれんぶ』御一行。

恭一が座る両隣りには、鈴とシャルロットが。

彼の正面には楯無。

3人の少女達が同じ目的のために、恭一を囲んでいた。

 

用意された肉を間髪容れず、恭一の口に放り込む連携。

3人のコンビネーションぷりは鮮やかだった。

生まれも違えば育ちも違う者同士による偉大なる連携。

それはまるで馬と鞭と騎手による乗馬、或いは太陽と水と大気による地球。

それらに負けない程のコンビネーションだった。

 

周りに座っているセシリア達も思わず唸る程に。

だが、その中で1人

 

(確かに見事ではある.....が、眼前に囚われたお前達には見えていないモノが存在しているぞ)

 

不敵に笑う少女篠ノ之箒。

現に最初は困惑し、されるがままだった恭一の機嫌が少しずつ悪くなってきている。

 

(.....白飯食いたい)

 

肉にはやっぱり白いご飯。

喉が渇いたらコーラをキューッと。

それが恭一の食事に関するベストルーティンだった。

 

しかし何なんだこの三人、何のつもりかは知らんがアレか?

新手の嫌がらせか?

 

「恭一君、このお肉もどうぞ!」

「こっちの肉もイケるわよ!」

「はい、恭一の大好きなお肉だよ~」

 

プチッ

 

「全部同じじゃねぇかよッッ!!」

 

「「「 ひゃっ!? 」」」

 

流石に我慢の限界である。

これは彼女達の失策だった。

連携のスムーズさを考慮するばかり、3人共が同じ肉だったのだ。

そう、最初から一口サイズにカットされているサイコロステーキ。

 

「んだテメェら、さっきから! 喧嘩売ってンのか、あ゛ァ!?」

 

(まぁこうなるに決まっている)

 

前もって予測していた箒は、既に用意していたグラスを手に取り

 

「それ位にしておいてやれ、恭一。お前の好きなコーラでも飲め」

 

恭一の傍まで持って来ていた。

 

「むっ.....」

 

受け取った恭一は瞬時に機嫌が直り、幸せそうな顔で飲み干した。

 

(くぅぅぅ.....さ、流石にやりますわね箒さん)

 

圧倒的正妻ポジションな箒に唇を噛むセシリア。

 

「.....ん?」

 

当然、彼女からの羨む視線を箒も感じる訳で

 

「.....フッ」

「なぁ!?」

 

それに対し、勝ち誇った笑みを送るのも必然だった。

 

 

________________

 

 

 

「.....ふーん。奴さん達はアメリカの兵隊だったんかい」

 

落ち着いた処で、話は今回の襲撃事件に移った。

しかし3人の胸中は未だにハラハラしっぱなしである。

 

(こ、この流れは良くないわね)

(襲撃→電脳世界→精神世界の話への流れしか見えないわ.....)

(そうなったら僕の話も出てくる可能性が.....あばばば)

 

何か自然に話を変える手段は無いか。

話題を変えるか?

しかし、180度違う話をしても不信がられてしまうのがオチだ。

 

(あるにはあるけど.....でも)

(これは恭一も聞かれたくない話だって箒も言っていたし.....)

 

楯無は知らないが、襲撃前に食堂で箒達と話していた鈴とシャルロットは1つの話題が頭に過ぎった。

 

本日、恭一が学校を休んだ理由である。

 

だが、2人共箒の話を聞く限り触れてはいけない重い話の可能性を感じており、聞いて良いものかどうか、迷っていた。

 

「そういや恭一は今日、何処行ってたんだ?」

 

不意に一夏が尋ねる。

 

(( 切り込み隊長一夏!? ))

 

こういう処で変に遠慮をしない部分が、彼の美徳なのかもしれない。

そして、一夏の言葉にそれまで楽しそうだった箒の顔色が少し変わる。

 

(い、一夏.....私が怖くて聞けない事を聞いてくれるとは)

 

一夏的には深い意味など無いのだが、今はありがたかった。

彼の問い掛けにステーキを口に持っていく恭一の手が止まった。

 

「.......」

「や、別に言いにくかったスルーしてくれて構わないぞ」

 

電脳世界へ行く前の恭一は、その件については全く話す気など無かった。

 

しかし、今は―――

 

" 大切に過ごしなさい、恭一 "

 

母の言葉が、今でも熱く胸に残っている。

 

(大切に、か。面倒事から目を背けンのもアレかもしれんな)

 

家族の事で同情される事を嫌う恭一は、これまで極力自分の過去の話をしてこなかった。

だが、今の彼は心に少し変化が訪れていた。

 

「なに、墓参りさ。俺を育ててくれた人のな」

 

場が沈む事を嫌った恭一は、努めて明るく言った。

 

(ど、どうしよう.....もっと深く聞いても良いのか?)

 

初めて聞かされる、恭一の家族関係の言葉に箒の頭の中はグルグル回っていた。

 

「.....それって渋川先生のお墓かしら?」

 

(((( 渋川先生? ))))

 

この中で、恭一の出自を知る楯無だからこその言葉だった。

 

「ええ、今日がじいちゃんの命日だったんです」

「あの.....恭一はその.....」

 

箒は躊躇いがちに言葉を繋げようとするが、中々それ以上出てこない。

そして、彼女が何を聞きたいのか察した恭一は

 

「俺は赤ん坊ン時に渋川のじいちゃんに拾われたんだよ、まぁ捨て子ってヤツだな。うわははは!」

 

「「「「 ッッ!? 」」」」

 

楯無、そして恭一の前世を知るラウラ以外が驚いた顔になる。

 

(パパ.....良いのか、話して.....?)

 

ラウラは心配そうに恭一を伺うが

 

(なに、前世の話までするつもりは無いさ)

 

心配するな、と微笑んでみせた。

 

「さっき、お姉ちゃんが渋川先生って呼んでたけど。知り合いだったの?」

 

流石に両親絡みの話をこれ以上聞くのは非常識だと思った簪。

自然な形で話を横へとスライドさせる事に成功。

 

「いえ、会った事は無いわ。私もお爺ちゃんから聞いただけよ『合気道の達人』だってね」

「な、なるほど。恭一さんは幼い頃に、その方に鍛えられたのですね?」

「まぁそんな処だな」

 

皆は初めて恭一が強き理由の一端を知る事となった。

 

「前から気になってたんだけどさ。恭一って、何時の間に束さんと知り合ってたんだ?」

 

 

________________

 

 

 

恭一と束の出会いも気になるが、それよりも一夏は少なからず驚いていた。

束の他人に対する態度の軟化に。

自分が知る限り、興味の無い者には冷淡な態度だったはず。

単に『たんれんぶ』の皆に興味を持っているのか、それとも何かしら変わるきっかけがあったのか。

 

(まぁ皆が冷たくされるより、今の方が断然良いけどな!)

 

取り敢えず一夏は、自分の中でそう結論付けた。

 

 

________________

 

 

 

「ううむ.....今、思えばアレが全てだったのかもな」

 

一夏に問われた恭一は、顎に手をやり何やら懐かしんでいた。

 

「き、気になる言い方ですわね」

「聴者を引き込ませるエンターテイナーの鑑.....」

「何言ってるの簪ちゃん!?」

 

簪の言葉は置いておくとして。

他の皆も恭一の言葉の続きを待っているようだ。

そんな彼女達に彼は、ゆっくりと話しだす。

 

「―――じいちゃんは俺が9歳ン時に亡くなってな。そんで俺は2つの選択を持ったんだ」

「2つ?」

 

恭一は自分が育った道場を出た時の事を振り返る。

 

「俺はな、それまでずっと鍛錬漬けの毎日でよ。世界の情勢なんざ何も知らんかったんだ。当然、ISの事もな」

「学校とかで話題になったでしょ?」

「その頃は、まるで外界に興味無かったから行ってねぇんだ」

 

鈴の言葉にあっけらかんと応える。

 

「そ、そうか! だから恭一は頭がわるへぶぅっ!?」

 

皆が思っても口に出さなかった事を、言い終わる前に箒にしばかれた一夏。

 

「そ、それで2つの選択肢って何なの? 地味に僕も気になってるんだけど」

「やっぱり渋川君はエンター「はい、少し黙っておきましょうね~」むぐっ」

 

空かさず妹の口を塞ぐ姉。

 

「1つは人間社会へ飛び込む事。鈴の言った通り学校とかだな」

「もう1つは?」

「野生の世界へ飛び込む。所謂あれだな、旅に出るってヤツさ。俺は落ちてた棒切れを拾って空高く投げたんだ。左に倒れりゃ人間社会へ、右に倒れりゃ野生世界へってな」

 

其処まで言って、恭一は一息付いた。

 

「結果は.....もう分かんだろ?」

「右に倒れたのね」

「おう」

 

ちなみに左に倒れていれば、彼の言う通り、人間社会に揉まれる事となっていたのだが。

仮定の話をしても仕方ないが、そうなれば恭一が通う小学校は一夏や箒、そして箒の転校後に鈴が転校してくる学校になっていた。

 

「そんで、ライオンの腕折ってる時に束さんと出会って―――」

「いきなり意味不明なのよあんたァ!!」

 

思わず鈴が立ち上がるが、確かに彼は嘘は言って無い。

束と恭一の邂逅秘話を知っている箒と楯無は、苦笑いだった。

2人以外は、内容が気になるらしく手を挙げて恭一に対し、質問に出る。

その光景を見て、また簪が何か言おうとしたが、察知した楯無に止められていた。

 

「ど、何処で?」

「サバンナ」

「何でライオンなんだ?」

「俺の飯食いやがったんだよ」

「ご、ご飯ですか.....一体どのような」

「インパラ君」

「いや、まずどうやってサバンナまで行ったのさ?」

「泳いでに決まってンだろ」

 

一問一答終了。

 

「もう恭一はビックリ人間って事で良いんじゃない?」

 

鈴の締めに、誰からも異議は唱えられなかった。

 

.

.

.

 

その頃―――

 

「は、放せ真耶! 幼きアイツ(映像)が私を待っているのだ!」

「ハイハイ、事後処理が先ですよ~」

 

正門で待ち構えていた真耶に捕まる千冬だった。

 





恭一の考え方に変化あり(要約)

申し訳無い、本編の投稿ペースが少しの間落ちます。
R-18の描写が終わるまでは交互に投稿していくから、最速でも一日置きだと思って頂ければm(_ _)m
しぶちーが絶倫なのが悪いよー

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