寄越すんだよ、あくしろよ
というお話
" ドスケベ変態ショタっ子大魔神 "
全世界でもトップクラスの知名度を誇り、女子の憧れの的。
敬意を持って付けられた称号『ブリュンヒルデ』。
何処へ行っても尊敬の念を込められて対応される織斑千冬が、このような言葉を投げつけられたのは、恐らく初めての事であろう。
彼女の胸中は如何に。
「ふっ.....的を得ている」
(.....大人な対応)
恋人との幸せなひと時を過ごした千冬、まるでダメージを受けていない模様。
クロエの前に座った千冬は、まず目の前のパフェに目がいった。
「美味しそうなモノを食べているな」
「.....あげませんよ」
「一口だけくれないか?」
「いやどす」
イラッ
(そう云えばコイツも恭一と4年程の付き合いがあるんだったな)
冷静沈着を信条とするクロエも恭一に感化されている部分はある。
別に似なくて良い方面で。
「あらいらっしゃい、ご無沙汰じゃないっすか」
「むっ.....マスターか」
そんな2人のテーブルに水を持ってきた、サングラスをかけたダンディズム溢れるイカしたマスター。
「ご注文はどうされますか?」
「.....コイツと同じものを頼む」
テーブルの上にあるチョコレートパフェを指差した。
「かしこまり!」
注文を取り終えたマスターが下がると
「.....一口あげましょうか?」
「......いらん」
(アイツを尊敬していると公言するだけあって確かに似ているな.....無駄に凝った煽りとか)
「まぁ良い。お前に聞きたい事が幾つかある」
「はむ.....何なりと」
千冬の言葉に頷きながらクロエはパフェを口に含むと、ほんわかな表情を見せた。
「今回の一件、お前を寄越した束の目的は何だ?」
「.....搦め手、です.....はむはむ」
「やはりか。この前のゴーレムといい、アイツも随分とお節介になったモンだな」
(『ワールド・パージ』で『たんれんぶ』員の精神世界を観たい、というのもあるけど言う必要は無い)
「次の質問だ。アメリカの雑魚共を送り込んだのもアイツの仕業か?」
千冬の視線が鋭くなった。
『たんれんぶ』の事を思っての行動だとしても、許されないラインが存在する。
負傷者はゼロだったが、学園が危険に晒されたのは事実。
他国に情報を売ってまで関与して来るのなら、千冬も見過ごす訳にはいかないのだ。
「はむ.....逆です。アメリカが襲撃する事を知ったので、私達が便乗する形になりました.....はむはむ.....御馳走様でした」
「......本当だな?」
「恭一お兄様に誓って」
嘘偽り無い事を現す最大級の言葉。
「ふっ.....分かった、信じよう」
区切りの良い処で千冬が頼んだチョコレートパフェがやって来た。
「はむ.....ほう、これは中々に中々だな」
IS学園の生徒が見れば、多少なりとも驚く光景であろう。
厳格なイメージで通っている織斑千冬が、美味しそうにパフェを食べているのだから。
「......美味しそうですね」
「お前もさっき食べていただろう」
「.....一口貰っても良いですか?」
「やるかバカ、死ね」
意外に根に持つ千冬だった。
.
.
.
「さて、聞きたい事はまだある」
「.....?」
「恭一の精神世界の事だ。私は途中からしか見れてないが、恭一と対峙していたあの女性は誰だ?」
「それは......」
クロエが言い淀む。
それもその筈、最初から見ていたクロエ自身が困惑していたのだから。
滅多に自分の過去を話さない恭一だが、クロエも一度彼に聞いたのだ。
自分は赤ん坊の時に渋川のじいちゃんに拾われた、と。
だが、精神世界で恭一はあの女性を母と呼んでいた。
千冬が来る前には消えていたが、もう1人の男性の事は父と呼んでいた。
「お前もよく知る恭一だぞ? アイツがあんなに必死に頭を下げる処など、信じられるか? それに―――」
" 生きる事を許して下さい "
恭一が言ったこの言葉が千冬の頭から離れなかった。
それはクロエも同じようで、沈痛な面持ちをしている。
「.....恭一の出自は私も知っている。捨て子で渋川先生に拾われ育てられた事も」
「はい、クロエもそう伺っています。ですが恭一お兄様は確かに.....」
「母、と呼んでいたか?」
「......」
クロエは小さく頷いた。
2人の間に沈黙が訪れる。
先に沈黙を破ったのは
「.....クロエは過去よりも今。何があったにせよ、恭一お兄様は恭一お兄様。それ以上でもそれ以下でも御座いません」
クロエは言い終わると目線で問う。
「ふっ.....愚問だったか」
(確かに過去を詮索するよりも未来に生きる事が肝要だ、が)
恭一のあの時の仕草、言葉は千冬ですら測りきれないモノがあった。
(何であれ、アイツの心を縛るのなら私が断ち切ってやる)
千冬は固く決意した。
「それじゃあ、一口貰いますね」
「やらん、死ね」
(イケると思ったのに.....)
何故そう思ったのか。
.
.
.
「さて、最後の質問だが.....結論から言おうか」
「.....?」
クロエは首を傾げる。
「『ワールド・パージ』の記録データを持っているか? 持っているな? 持っているだろう?」
(......質問が尋問に変わった)
「私にデータを寄越せ」
「ッ.....!」
クロエは閉ざされた両目を開く。
そこには白目が黒色に、黒目が金色に染められた異色の双眸があった。
「ほう....お前の瞳は初めてみるが、綺麗な色をしているな」
「そう言って貰えると嬉しいですが、千冬様のお言葉でもそれは聞けません」
刹那、千冬は上下も左右も無い真っ白な世界に閉ざされた。
「ふむ.....なるほど。現実世界では大気成分を変質させる事で幻影を見せる事が出来るのか、大したものだ」
―――だが
千冬はテーブルに備え付けられていたナイフで真っ白な空間を刺した。
「えぐられたいか?」
(......尋問が拷問に変わった)
自分との差を認めたクロエは、能力を解除する。
「それで良い。なに、全てを寄越せとは言わん。私と恭一の営みシーンだけで良い」
「......一体ナニに使うつもっ!?」
テーブルに深々とナイフが突き刺さった。
「言う必要があるか? 貴様はさっさと私の要求に答えろ。質問は既に拷問に変わっているんだぞ?」
「恭一お兄様が好きそうな台詞......はぁ」
(実際、クロエも千冬様と恭一お兄様のデータをどう処理すべきか迷っていた。ある意味、渡りに船?)
「分かりました.....少し時間が要るので、クロエはイチゴパフェが食べたいです」
時間を要するのと、パフェに一切の繋がりが感じられないのだが
「.....良いだろう」
千冬は呼び鈴を鳴らし
「イチゴパフェを2つ頼む」
「かしこまり!」
「千冬様も食べるのですか?」
「お前が美味しそうに食べているのを見ると、どうせ私も食べたくなるだろうからな」
「.....太りま「超えちゃいけないライン考えろよ貴様」せん、ねハイ......」
2人は仲良くイチゴパフェで舌を潤した。
.
.
.
「此方のデータが千冬様と恭一お兄様の濡れ場シーンになっております」
「......出来ればもう少し言葉を選んで欲しかった、が礼を言う」
千冬はクールな表情でクロエからデータを受け取る。
(これは私の宝物になるだろう.....帰って早速観ねばならんなッッ!!)
「此処の会計は私が持ってやる、せめてもの礼だ」
「ありがたいですが、顔がニヤけてて気持ち悪いです」
「むっ.....私もまだまだ修行が足りんな」
速攻で口角がつり上がっていた千冬は、クロエの指摘に溜息を付く。
一緒に店を出るが、行き先は別方向である。
「御馳走様でした」
「ああ」
「帰ってお楽しみください」
「ああ」
「「..........」」
「で、ではな!」
バツが悪くなる前に、しゅたっと手を上げ千冬は去って行った。
(やはり私は間違ってなかった.....が.....ま......)
頭を振ったクロエは歩き出す。
背中に追跡者の視線を感じながら。
あっ、そうだ(唐突)
この前のしぶちーと千冬の描写はR-18にて。
ノンケの兄ちゃん良かったら、どうぞ(#゚Д゚)y-~~