野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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ワールド・パーシが齎したモノ。
誰が一番の勝者なのか、というお話



第113話 電脳世界の終幕

謹啓

落葉の候、小春日和の好季。

現世では紅葉の季節を迎え、日足がめっきり短くなりました。

彼岸の彼方にて如何お過ごしでしょうか。

 

この度、私はこれまで長い年月を共にしてきた貴方様から卒業致しました故、改めて筆を取った次第で御座います。

生まれ落ちて早幾年、雨の日も風の日も苦楽を分かち合った夢幻の友。

一説によると、貴方様と30年共に過ごせば魔法を使えるとされていましたが、そんな事は一切ありませんでしたね。

ですが恨み言を述べるつもりは無いので、どうか悪しからずご了承下さい。

唯一文、感謝の気持ちを記させて頂きたく存じます。

111年間、私を見守って下さり本当にありがとうございました。

 

あの世に召されてから、真っ先にお礼に上がりたいと思っております。

末筆ながら、ご自愛のほどお祈り申し上げます。

 

謹白   渋川恭一

 

童帝様 尊前

 

追伸

初めてが幼き姿とは如何なものでしょうか。

 

 

________________

 

 

 

「......ふう」

 

手紙を書き終えた恭一は、筆を置き一伸び。

机の中に手紙を入れ、ソファーの上で気を失っている千冬の傍まで歩み寄る。

 

「千冬さん、起きて下さい」

「......ぅぅ」

 

ゆさゆさ摩ってみるが、返ってくるのは僅かな反応のみ。

 

(このまま背負って行くのもなぁ.....)

 

毛布の下で目を覚まさない千冬は、生まれたままの姿をしている。

恭一に女性の服の着せ方など理解出来る筈も無く、起きて貰わねば困るのだ。

 

「.....えいっ」

 

バチコォォンッッ!!

 

「のっそっ!?」

 

額を押さえて飛び上がるように目を覚ました千冬。

 

「おはようございます、千冬さん」

「むっ.....恭一?......私は.....」

 

暫しの沈黙。

気を失う前に自分が何をしていたのかを思い出す。

 

(私は恭一に.....あの願いを.....ッッ)

 

「思い出したぞ! さぁ恭一、今すぐ私にっ.....む?」

 

恭一を見る千冬の目が点になった。

 

「......ショタ恭一じゃない」

「もう隠す気ゼロですよね」

 

未だ恭一と千冬は彼の精神世界に居るが、彼の姿は元に戻っている。

正確には千冬が気を失って元に戻ったのだった。

 

「取り敢えず服着て下さい。普通に目のやり場に困ります」

「むっ......」

 

普通に話していたが、豊満な胸が丸出しなのだ。

恭一は視線を逸らしながら指摘するが

 

「ふふん.....あんなに貪っていたお前が「うわあああああッッ!! やめて下さいよ!」くっく....照れる事無いだろう?」

「照れるって云うか、自己嫌悪と云うか.....俺って思ってた以上にその.....」

 

言葉を濁す恭一を前に、意地悪な笑みを浮かべる。

 

「スケベな奴だったんだな」

「ふぐっ.....」

 

言い返したくても言い返せない。

 

「だが―――」

 

立ち上がった千冬は恭一をゆっくり抱きしめた。

 

「私にとって掛け替えの無いひと時だった」

「千冬さん.....」

「愛する者と肌を重ね合わせる。女にとってこれ以上の幸せは無いんだ」

「お、俺もその.....幸せです」

「今からもう一度するか?」

「なっ.....なななな......!」

 

動揺する恭一から離れて

 

「冗談だ」

 

少し照れたように笑った彼女は、大輪の花のように美しく見えた。

 

 

________________

 

 

 

「.....此処がシステム中枢、ですか」

「ああ。システムが回復した今、無理に此処へ来る必要も無いのだが」

 

恭一の世界から抜け出した2人は、千冬の提言で現実世界には戻らず電脳世界のシステム中枢域に来ていた。

 

「お前には見せておこうと思ってな」

 

道も、上下左右すら無い世界を先導する千冬。

彼女の歩みに乱れは無く、何処へ行けば良いのか分かっているようだった。

 

「これ....は.....?」

 

流石の恭一も驚きを隠せない。

2人の目の前には、空中に漂う巨大な氷の塊。

その中心には氷漬けの少女像。

 

「現役時代に私が乗っていたIS『暮桜』のコアだ」

「へぇ.....コアにも性別があるんですね」

 

専用機に興味の無い恭一らしい感想だった。

 

「ふっ.....お前らしい反応だな」

「俺の相棒はどんな感じなんでしょうな? 中々にイカした奴だと思うんですよ」

「コアは搭乗者に染まると聞く。お前に似たヤンチャな奴になっているかもしれんな」

 

2人は暫くの間、ISコア談義に花咲かせた。

 

.

.

.

 

「そろそろ封印を解く頃か、と思っている」

 

千冬は『暮桜』に触れ、短く呟いた。

『亡国機業』の存在。

恭一と一夏という男性起動者の出現により、これまで以上にキナ臭い動きを見せだした各国の存在。

今回のアメリカが送り込んできた『アンネイムド』達がその一例である。

 

「まぁ奴ら如き、生身でも十分なんだがな.....クックッ.....」

「カッカッカ、違いねぇや」

 

鬼羅毒嗤な2人。

誰も居ないからといって覇氣を開放しないで欲しい。

 

「私が再び乗っても良いんだが、な.....」

 

何やら含んだ言い方をする。

 

「.....箒に授けるのも一興かと思っている」

「そういやアイツも専用機持ってませんでしたね」

 

『たんれんぶ』でも恭一を除いて、箒のみが訓練機のままである。

それでも専用機持ちと互角に戦いを繰り広げる箒は、他生徒の希望の星だったりする。

訓練機だろうが、努力をすれば高みに行ける象徴として。

 

「私と同じ剣技の使い手だしな、アイツなら『暮桜』も分かってくれるだろう」

「好きにすりゃ良いでしょうよ」

 

渡すも渡さないも千冬の自由。

受け取るも断るも箒の自由。

其処に自分の意志は関係無い。

 

(ぶっちゃけどうでもいい)

 

簡単に言えば、恭一的にはこんな感じらしい。

 

「さて、そろそろ戻るか」

「ういっす!」

 

ぐぅぅぅぅ.....。

 

大きな腹の虫が鳴り響く。

言わずもがな、恭一のお腹からである。

 

「現実世界に戻ったら、たらふく食べるんだな」

「ハッ.....そういや会長が肉奢ってくれるんだった! 早く戻りましょうぜ、千冬さんッッ!!」

「ふっ.....そうだな」

 

急かすように握ってきた手を、千冬は優しく握り返した。

 

.

.

.

 

「.......」

「.......」

 

瞼を開けると、目の前には一夏の顔が

 

「いや近いなお前!?」

「うおっ!? 急に起きるなよ、ビックリするじゃないか!」

 

どうやら中々目を覚まさない恭一を心配して、覗き込んでいたようだった。

 

「やっと起きたのね、アホ恭一!」

「何でいきなりアホ呼ばわり?」

 

恭一が目を覚ますまでの事を考えると仕方が無い。

今回の件で『たんれんぶ』内での気苦労ポジョションが確立されてしまったのだから。

 

「中々戻ってこないから心配したぞ」

「本当ですわ。私はまぁ色々とタメになるお話を聞けましたが。うふふふ」

 

箒の隣りで妖しく笑うセシリア。

 

「悪いな。あの後、俺も俺で色々あったんだよ」

「もしかして恭一も幻覚魅せられたとか?」

 

努めて自然に振舞うシャルロット。

 

「よく分かったな。いやぁビックリしたぜマジで」

「なっ.....大丈夫だったのか、恭一殿!?」

「うわははは! 俺に幻覚など効かぬわッッ!!」

 

(すっごい効いたけどね、話したく無いからね)

 

ラウラが心配そうに詰め寄るも、揺ぎ無い一喝で締める。

 

「さ、流石は恭一殿! 私も精進せねばならんな!」

「うむ」

 

頭を撫でてやると彼女は嬉しそうに、はにかんだ。

 

「その石鹸のニオイも、精神世界に関係しているのか?」

 

ビクッ

 

「あら.....箒さんの仰る通り、恭一さんから石鹸の香りがしますわね」

 

(......こ、此処では言えぬ!!)

 

 

________________

 

 

 

千冬は電脳世界にて、恭一に言っていた。

自分達がナニをしたのか、別に箒とセシリアになら言っても良い、と。

 

(クックック.....むしろ私は早く言ってやりたい位だ)

 

年下の少女達に、大人気無く勝ち誇る気満々の千冬だった。

 

 

________________

 

 

 

「なにアンタ。まぁたお風呂入ったの?」

「おう。こっちに戻ってきたらまたシャワーのみの生活が待っているからな」

 

大浴場を使えない恭一ならではの、説得力ある言葉だった。

 

「......ふむ」

 

(恭一も日本男児。やはり風呂が好きなんだな)

 

箒、セシリア共に千冬の影に気付かない痛恨のミス。

石鹸の香りに邪魔され、彼女の微かな残り香を捉えきれなかったようである。

 

「そんな事よりも、会長!」

「なぁに、恭一君」

「腹減ったっす! 肉喰いたいっす!」

「うふふ、約束したもんね。食堂も解放されてるし、皆で行きましょうか」

 

楯無が手を叩いて、提案すると皆も頷き外へ出る。

 

「そういや恭一は、誰の世界が一番印象に残ってんだ?」

 

ビビクンッ!!

 

一夏の何気無い問いに、何人かが身体を震わせた。

 

(な、何て事聞くのよバカ一夏!)

(どうして僕をそんなに困らせるのかな?)

(マズい.....私がノリノリでオタ芸ってた事は皆には話してない)

 

「と、取り敢えず積もる話はあとあと! 今は食堂へ行きましょう! 恭一君の大好きなお肉が待ってますよ~っ!!」

「おうおう! たら腹喰ってやるけんのぅ!」

 

楯無に背中を押された恭一も乗り気で、ズンズン進んで行く。

 

(お肉に夢中にさせれば、何とかイケるッッ!!)

 

楯無の行動に何かを察した鈴とシャルロット。

 

(あたしも―――)

(僕も―――)

 

(( 手伝いますッッ!! ))

 

日中仏同盟が今ここに誕生した。

 

 

________________

 

 

 

「......はむはむ」

 

IS学園から少し離れた所にある臨海公園前のオープンカフェ『カフェ・ドゥ・マゴ』。

少女は1人、黙々とチョコレートパフェを食べていた。

 

彼女の名前はクロエ・クロニクル。

IS『黒鍵』の専用操縦者にして、束と恭一を家族と慕う者である。

 

(......どうしよう)

 

クロエは、口の中で甘く蕩けるチョコアイスに舌鼓を打ちながらも悩んでいた。

 

(『ワールド・パージ』での記録は、束お姉様の指示通り残してある。でも―――)

 

中には観せる事を躊躇う映像が幾つかあるのだ。

色んな意味で。

 

(あんなモノは束お姉様に観せてはいけない。クロエですら鼻血が止まらなかったんだもの)

 

もしも束が観たらどうなってしまうのか。

失血死してしまうのではないか。

しかし、どうやって誤魔化せば良い。

 

(箒お姉様との映像だけでもアレなのに.....その上あの―――)

 

「相席させて貰おうか」

 

凛とした声が耳に入る。

頭を悩ませるクロエの前に、黒のスーツが映える女性の姿。

織斑千冬が穏やかに微笑んでいた。

 

 

「......ドスケベ変態ショタっ子大魔神」

 

 

いきなり酷かった。

 

 





しぶちーが千冬さんに喰われました。
ものごっつい喰われました。

R-15じゃ描写不可ですわ。
書くならR-18の方になりますね(書くとは言っていない)

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