野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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電脳世界でも現実世界でもヒャッハー祭り、というお話



第112話 躍動する裏と表

―――ふしゅ.....ふしゅる....

 

(何でガキん頃のまんまなんだ? それに、俺の家も消える気配がねぇ)

 

―――ふしゅる.....ふ....

 

(まぁ現実世界に戻りゃ、身体も元に戻るだろうし別に良いか)

 

―――ふ.....ふしゅ....

 

下を向き、考え事をしている恭一。

考えが纏まった処で、先程からケモノの唸り声のようなモノが何処からか、発せられている事に気付いた。

 

(ふしゅふしゅ何だよさっきか......らッッ?!)

 

「ふしゅる.....きょういちぃぃぃ.....ハァハァ」

「ぎゃあああああッッ!? プレデターだあああああああッッ!!」

 

自分は今、何処に居る?

捕食者の膝の上である。

 

「こ、金剛ッッ!!」

「ぐふっ」

 

反射的に千冬の心臓目掛けて『金剛』を放つ。

これまで幾度と無く自分を助けてくれた奥義『金剛』。

幾人もの肉食獣、主に千冬と箒から自分の危機を救ってくれた『金剛』。

 

(つ、ついやっちまった。でも喰われると思ったし、俺は悪くねぇ)

 

まずは、膝の上から降りなければ

 

「効かーんッッ!!」

「んなっ!?」

 

待っていたのは咆哮と抱擁。

ガバリと抱きしめられた恭一は、身動きが取れなくなる。

 

「うっそだろ!?」

「小さな手に細い腕、何より軽いぞ恭一!」

「げっ.....そうだった」

 

小さな身体では剛の技は半減される。

何度もガチの『金剛』を喰らっている千冬からすれば、耐えられるシロモノだった。

 

「と、取り敢えず一旦放してください!」

 

ジタバタ藻掻くが、まるで抜け出せそうにない。

それ処か

 

(あぁ.....可愛い、可愛すぎる!)

 

その子供っぽい足掻きが、余計に千冬の興奮を高める。

 

「むふっ.....いただきまー.....ん?.......んん?」

 

首筋を、はむはむ甘噛みしようとした千冬。

何かに気付いたのか、既の処で止まり

 

クンクン......。

 

恭一を抱きしめる腕が強まった。

 

 

 

「......あの女のニオイがする」

「デジャブ!?」

 

 

 

先程までの上機嫌だった声は消え失せ、地獄の底から響くような刹声が。

 

「箒の強い残り香と......むっ.....微かにオルコットのニオイが混ざっているな」

「ハイウェイ・スター!?」

 

猟犬以上、噴上裕也も舌を巻く程の嗅覚を発揮する千冬(恭一限定)。

 

「そんなに褒めても、私の怒りは収まらんぞ」

 

別に褒めてはいない。

 

「なァ.....恭一ィ......」

「な、なんでせうか?」

 

また尋問されるのか。

箒がした様に、同じ事を聞いてくるつもりなのか。

 

「箒とは、どこまでいっている?」

「そ、それは.....」

 

(箒の時よりも生々しくなる予感しかしねぇ!!)

 

「ふむ.....例を挙げてやろう。私とはまだ触れるだけのキッスだけだが、それ以上のキッスをしているのでは無いか!?」

 

(ひぇっ.....やたら確信めいた言い方してるじゃないか)

 

それも思ったが、それよりも

 

「その前に、そのキッスって言い方やめませんか? なんか千冬さんには似合わないような.....」

「む.....そ、そうか?」

 

恭一的には千冬は武士のイメージがある。

口付けや接吻と云った古風な言葉の方が合っているように思えるのだ。

 

「なら箒とはどんな、ちゅっちゅをしているのか吐いて貰おうか」

「......」

 

(あぁ.....この人、バカなんだな)

 

恭一程では無い。

が、その領域に踏み込みつつある千冬だった。

 

 

________________

 

 

 

「それにしても恭一ってば、目を覚まさないわねぇ」

 

鈴がベッドに横たわる恭一を見下ろしながら、溜息を付いた。

 

「もしかして、俺達みたいに幻覚魅せられてるんじゃ?」

 

一夏がそう言うと、簪はぽつりと呟いた。

 

「それは無い.....と思う。システムはもう、解放されたから.....それに.....」

「それに?」

「......何でもない」

「?.....まぁ良いか」

 

(危ない。織斑先生がダイブしている事は、言ってはいけないんだった)

 

千冬に抜かりは無く、しっかりと口止めをしていた。

邪魔されないために。

 

「じゃあ何で起きないのかな?」

 

シャルロットが不思議そうに言うと、隣りのラウラが真剣な顔で言葉を漏らした。

 

「―――キッスだな」

 

「「「「 ッッ?! 」」」」

 

決して巫山戯た様子では無く、真面目に言った言葉に数人が反応を見せた。

 

「何でキスなのよ。眠れる森の美女ってヤツ? コイツは美女じゃなくて野獣よ?」

 

鈴が呆れたように突っ込むが

 

「眠れる者を覚ますのはキッスが相場である、とクラリッサが言っていたぞ」

「アンタねぇ.....ってかその前にキッスって言うのやめない?」

「むっ.....何故だ?」

「何かムズ痒くなんのよ、その響き」

 

意外と恭一と波長が合う鈴だった。

 

(それにしても、あの2人が騒がないのが不思議ね)

 

鈴の予想では、間違いなく箒とセシリアがギャーギャー騒ぐと思っていたのだが。

今の処、前へ出てくる気配も声もしない。

 

(どうしたのかしら.....あっ)

 

「.......」

「.......」

 

目で牽制し合っている箒とセシリア。

牽制というか、睨み合いというか、ガンの付け合いというか。

 

(あのアホ2人はもういいわ)

 

鈴自身も恭一は友達なのでする気は無い。

相手が一夏だったら喜んで名乗りを上げるのだが。

 

(他の皆はどうなのかしら?)

 

鈴は周りを見渡してみる。

 

「お姉ちゃんは?」

「寝てる恭一君にしてもねぇ.....リアクションが無いと面白くないからパスね」

 

離れた所で簪が楯無に聞いてみるも、その気は無いらしい。

 

(敢えて巫山戯た感じでキスする事で、僕の夢の世界の事も冗談に装えないかな?)

 

シャルロットは悩む。

 

(でも僕も初めては好きな人にしたいし.....恭一は唯の友達だもん)

 

彼女が唸っている隣りで、一夏も眉間に皺を寄せていた。

 

「どうしたの一夏? 難しい顔してるけど」

「ん.....シャルか。いや少し考えてたんだ」

 

真剣な面持ちのまま

 

「眠れる森の美女と野獣で2度美味しほごぉ!?」

 

言い終わる前に痛烈なビンタ。

 

「い、痛いじゃないかシャル!」

「なに? 突っ込んで欲しかったんでしょ?」

 

平手打ちはツッコミとは言わない。

 

「もうラウラがすれば良いんじゃない? あんた、恭一の事慕ってんでしょ?」

「うむ。恭一殿なら私も吝かでは無いのだが.....」

 

ラウラは難しい顔をしている。

 

「私の初めては教官に捧げたいのだ」

「あ、そう.....」

 

相手が誰であれ、気持ちは分からなくは無い。

 

「ううっ.....不甲斐ない娘ですまない、恭一殿ぉぉぉ.....」

「えぇ.....そこまで落ち込む事でも無いでしょ」

 

中々にカオスな空間の出来上がりである。

 

(はぁ.....何であたしが皆に気を配らないといけないのよ)

 

恭一が眠り、何時もは頼もしい箒も、セシリアと何やらゴチャゴチャやっている。

生徒会長の楯無は、この雰囲気自体を楽しんでいるので戦力外。

 

「はぁ.....どうすんのよ、この流れ」

 

鈴の気苦労は絶えないようだ。

 

(せめて千冬さんが居てくれたら、バシッと決めてくれるんでしょうけど)

 

此処に居ない、頼りになるブリュンヒルデの不在を呪う鈴だった。

 

 

________________

 

 

 

「ちゅ....ちゃぷ....んん....ぁ...んむ.....ぷはっ.....それで? これだけではあるまい?」

 

(どうしてこうなった.....)

 

囁くような千冬の甘い声が、恭一の耳に心地良く忍び込んでくる。

依然、彼女の膝の上で抱き締められている恭一の顔は真っ赤である。

 

(忍び込ませてどうする!? は、反論しろよ俺!)

 

「あ、あのですね千冬さん。別に口頭で説明すれば良いと思うのですが.....」

 

あろう事か千冬は恭一に対して

 

『箒とした事を私にも実践して教えろ』

 

と要求してきたのだった。

 

「ならぬッッ!!」

「ひゃっ.....な、なにゆえ?」

 

千冬は箒と同じく肉食系女子である。

箒と同じようにガンガン恭一に対して迫るタイプだ。

だが、1つ決定的に違う部分があった。

それは如何ともし難い実力の差。

 

ぶっちゃけ千冬の怖さは、箒のそれとは次元が違った。

 

「見取り稽古など無価値! まずは身を持って喰らって、初めて糧となるッッ!! 違うか恭一ィ!!」

 

(誰が鍛錬の話をしろっツったんだよ! アホだろこの人!)

 

怖くて言えない心の叫び。

 

「さぁ! さぁさぁさぁ! 早く続きをしないか私の可愛い恭一!」

 

もう完全にダダ漏れである。

 

(この人が居るから俺の姿が幼いままなんじゃねぇか.....?)

 

それでも逃れられない恭一は、千冬とキスを再開した。

 

(ううっ.....素数数えるのチカレタ.....)

(ふぉおおおおおッッ!! 恭一の小さな舌が私の舌を......いやっふぅぅぅぅぅううううッッ!!)

 

このテンションの差であった。

 

 

________________

 

 

 

「.......」

「.......」

 

絶賛メンチの斬り合い中の箒とセシリア。

お前ら何処ぞの不良かと。

 

「.....何を見ている?」

「あら、それは此方の台詞ですわ」

 

「「........」」

 

「ふん、何時ものように必死にならなくて良いのか? アイツとキスする口実が出来たんだぞ?」

「恭一さんから聞いてませんの? 私、先程恭一さんに唇を捧げたばかりですの。必死になる理由など御座いませんわ」

 

セシリアは言っている。

恋人だからって何時までも調子コイてんなよ、と。

羨ましがるだけで終わっていた自分はもう居ないんだ、と。

立場は違えど、同じ場所に自分も立ったのだ、と。

 

「箒さんこそ、恋人なのですから名乗りを上げませんの? 誰かに恭一さんの唇を奪われてしまいますわよ?」

 

ふふん、と挑発するセシリア。

 

「.......」

 

箒は唇を自分の手で優しくなぞり

 

「そうしたいのは山々だが......なにぶん舌が疲れているのでな」

「ッッ!?」

 

セシリアの挑発にニヤリと笑い、意味深な言葉で返す。

 

「あ、あああ貴女.....まさか既に大人なキッスを.....?」

「ニヤニヤ」

「ぐぬっ.....」

 

(多くは語らず、ですか.....)

 

セシリアの表情から、これまであった余裕さが消える。

 

(箒さんは私の知らない世界を、既に経験していると言うのですか!? ハッ....)

 

お待ちなさい、セシリア。

よく考えてみるのです。

箒さんですよ?

確かに私は彼女に対してエロエロ撫子などと言って、揶揄う事もあります。

が、それはあくまで冗談の域です。

本来、箒さんは奥手の方のはず。

そんな彼女が?

大人なキッス?

 

(うふふ。有り得ませんわね.....直ぐにボロが出るでしょう)

 

セシリアの前で、箒は得意気にシャドーボクシングの構えから

 

「ちなみに恭一は、激しく舌を絡め合う方を好む―――――覚えておけ」

「なんですって!?」

 

(ためになるッッ!!)

 

「ほ、本当ですか箒さん?」

「ああ。その時は強く抱きしめるのも忘れるな」

 

勝手に暴露しているが、それは恭一では無く単に箒がされて嬉しい事を述べているだけだった。

 

「も、もっと教えて下さいまし箒先生ッッ!!」

「ふむ.....どうしようか.....教えても私に得など無いし」

「いけずな事仰らないで下さいな! どうか.....どうか私にお慈悲を、お代官様ッッ!!」

 

語学力が半端ないセシリア。

彼女は本当にイギリス人なのだろうか。

 

「ふふん。其処まで言うのなら、少しだけだぞ?」

「は、はい!」

 

何処からとも無くメモを取り出すセシリアまじ必死。

 

「いきなりガッつくのは駄目だ。まずは舌先で相手の舌を―――」

「何の話してんのよアホ箒ッッ!!」

「へごぉっ?!」

 

鈴のドロップキックが鳩尾へと突き刺さった。

 

「な、何をする鈴!?」

「アンタが何してんのよ! 昼間っからこんな場所で生々しい会話してんじゃないわよッッ!!」

「うぐっ」

 

正論である。

 

「ほんと、箒さんは仕方のないお人ですわ」

「メモってる奴が何言ってんのよ! アンタもアホの仲間よッッ!!」

「ふぐっ」

 

無関係を装うセシリアだったが、鈴はそれを許さない。

 

 

 

「しょうがねぇなぁ」

 

 

 

収まる処か、ますます歪んでいくカオスな空間。

この状況を憂いた1人の勇者が、漸く重い腰を上げた。

眠っている恭一の傍まで行き、ゆっくりと顔を―――

 

「何やってんのよアンタあああああああああッッ!!」

「へぶぅっ!?」

 

一夏の頬に鈴の飛び蹴りが炸裂。

 

「き、貴様ァ! 恭一殿にナニをしようとしたァッッ!!」

「ち、ちがっ....ぐへぁ!?」

 

一夏の胸にベルリンの赤い雨が炸裂。

 

「お、男同士で不潔だよ一夏ッッ!!」

「男同士だったら問題なのっそぉ!?」

 

恭一直伝、鬼のソバット炸裂。

 

「問題だらけだバカモンがッッ!!」

「そんな一夏さん、修正してやりますわッッ!!」

 

「「 日英クロス・ボンバーッッ!! 」」

 

「のもぁ!?」

 

夢のタッグ技が此処で炸裂。

怒涛の連撃に力尽きた一夏は、前に倒れ込んだ。

 

「オカシイ.....人工呼吸的なヤツは同性の方が気が楽だって.....がくっ」

 

中々のタフネスを誇った一夏だったが、其処まで言って落ちてしまった。

 

「あら....もしかして気失っちゃった?」

「むぅ.....織斑君、起きて」

 

日英コンビに負けないツープラトンを決めようと待っていた更識姉妹。

その機会が無くなり、肩を落とす。

主に簪の方が。

 

これだけ騒いでもまだ目が覚めない恭一。

少女達に知る術は無いが、彼も彼で大変な時を過ごしていたりする。

 

 

________________

 

 

 

「はぁ.....ぁむ.....けしからん.....ちゅっ.....けしからんぞぉ.....ちゅぷっ.....んんっ.....んく.....ちゅむっ.....」

 

(けしからんのはアンタだよ)

 

うっとりしている表情の千冬とは違い、彼は超が付く程必死に戦っていた。

殴っても蹴っても奴らは無限大でお構い無し。

ひたすら自分に襲い掛かってくる煩悩と。

彼の断固とした徹底抗戦のおかげで、恭一のきょういちはキョウイチになる事無くきょういちの姿を維持していた。

 

.

.

.

 

「はぁ.....はぁ.....も、もう良いでしょう? これで全部です、ほんとに」

「ぷぁっ.....む、そうか」

 

長い実践(?)を終えた恭一は息を整える。

千冬も同じか、荒い呼吸を少しずつ落ち着かせていった。

 

「そ、そろそろ放して貰えませんか?」

「無理な相談だな」

 

未だ抱きしめられたままの恭一。

 

「いやいや.....流石にもう戻らないと。皆だって心配してると思いますし」

「駄目だ。もう少しこのままで居させろ」

 

確かにもう危機は去ったが、現実世界での事後処理などが残っている筈なのだ。

 

「ワガママ言わないで下さい千冬さん。貴女は教師でしょう?」

「......むぅ」

 

恭一の正論に、千冬は下を向いてしまう。

怒られた少女のような、歳不相応な表情を見せる千冬。

 

(うぐっ.....だ、駄目だ恭一! 心を鬼にするのだ!)

 

しょんぼりした顔でいる千冬に、つい許してしまいそうになるが、此処はグッと堪る。

 

「ね? 帰りましょう?」

「私だって.....」

「?」

「箒だけずるい.....私だってもっと.....恭一と居たいのに.....」

 

(ぐはぁっ!!)

 

肉食系姉さんから打って変わって、まさかの乙女モード発動。

 

(なっなななんで今そんな事をををを.....!)

 

効果は抜群だァー!

 

「恭一は私と一緒に居たくは.....ないのか?」

「そんな訳無いでしょう! 俺だって居たいですよ!」

 

恭一の防壁が。

 

「帰ったらまた恭一と2人きりで過ごす時間は限られてくる.....だから.....な?」

「ううっ.....」

「恭一.....好き」

 

千冬は目尻にいっぱいの涙を溜めて、今にも消えそうな声で呟いた。

 

(も、もう知らんッッ!! こんな可愛い千冬さんを悲しませる事など出来るかああああああッッ!!)

 

自慢の防壁が崩れ落ちる。

恭一は小さな腕を目一杯伸ばして、千冬を抱きしめた。

 

「も、もう少しだけですからね!」

「ああ。ありがとう恭一」

 

抱きしめている恭一からは、決して見えない。

 

 

(―――計画通り)

 

 

同一人物とは思えない、超悪人面で嗤う千冬の顔を。

 





これは智将千冬。

アカン、このままじゃ恭一が喰われる(直喩)

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