野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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この世界のメインヒロインは誰だ?
言ってみろよ、オラァン!
というお話



第110話 メインヒロインは伊達じゃないワールド・パージ

私の名前は篠ノ之箒。

偉大なるアホな姉を持ち、IS学園で渋川恭一と出会い、徐々に惹かれていった。

同じく恭一に想いを馳せていた千冬さんと2人で恭一に告白し、私達は現在恋人同士で―――

 

 

『ワールド・パージ、介入』

 

 

私は高校卒業式に恭一からプロポーズを受け、その場で返事をした。

私だって恭一とこれからも一緒に居たいと思っていた。

当然、快諾である。

晴れて私の名前は渋川箒に変わり、現在は篠ノ之神社を恭一と2人で切り盛りしている。

私は神社の巫女をしながら、恭一が師範を務める武術道場の手伝いを。

恭一は世界でも有数の武道家であり、そのおかげか道場も盛況である。

 

「998.....999.....1000ッッ!!」

 

朝の日課である素振りを終えた私は、額の汗を拭う。

 

「まだまだイメージには程遠い。もっと踏み込みを疾く深く意識せねば」

 

己をどれだけ鍛えても恭一は、常に自分の上を行く存在である。

そんな彼と添い遂げた事を誇りに思うと同時に、負けたくない気持ちが込み上げる。

 

「フッ.....普段は私がリードしているのにな」

 

世界に名を馳せる武道家も、日常面ではポンコツな私の夫。

そのギャップがまた可愛らしくて、アイツの全てが愛おしい。

 

「.....夜の方は凄いのだが、な」

 

昨晩も―――

 

「ハッ!? いかんいかん! 朝から何を考えているのだ私はッッ!!」

 

頭をブンブン振り、煩悩を彼方へ追いやる。

 

「精神修行が足りん証拠だ.....昼は座禅だな」

「朝から精が出るな、箒」

 

後ろから声が掛けられる。

箒がよく知っている、胸に響く好きな声。

 

「ああ、おはよう恭.....」

 

振り返った箒は恭一と視線を交じ合わせた、その刹那

 

「......ッッ!!」

「っとぉ.....いきなり何するんだ、箒?」

 

箒が薙ぎ払った木刀を片手で受け止めたまま、微笑む恭一。

 

 

『ワールド・パージ、異常発生、精神介入不完全』

 

 

「.....私が何程アイツを見てきたと思っている」

「何を言っているんだ、箒?」

「私が何程アイツに惚れ込んでると思っているッッ!!」

 

恭一が握る剣先を乱暴に打ち払い、睨み叫んだ。

 

「何を怒ってるんだ? 俺は渋川恭一だぜ?」

「黙れ.....それ以上、私の夫の姿で戯れ言を抜かす事は許さん」

 

溢れんばかりの殺気を込めて、剣を構える。

箒は完全に記憶が蘇っている訳では無い。

ぼんやりと、自分が何かに化かされている位にしか思っていない。

それでも1つだけ確信している事があった。

 

(私が追いかける恭一は、あのような覇気も感じさせぬ瞳はしていないッッ!!)

 

 

『ワールド・パージ、復元開始』

 

 

『フクゲン.....カイシ......ホウキ......』

 

機械めいた声に変わったと思えば、目まで金色に変わる。

微笑んでいた顔は無表情になり

 

「ッッ!? がっ.....!」

 

無反動からの前蹴り。

何とか刀身で防ぐも、衝撃を流せず壁に打ち当たった。

 

「ぐっ.....ううっ」

 

もう疑い様が無い。

何者かは知らんがコイツは敵だ。

 

『ホウキ.....オレダヨ.....』

 

「口を開くなと......言っているッッ!!」

 

片手霞の構えのまま、キョウイチに突進していく。

キョウイチは腰を捻るや、後ろ回し蹴りで武器破壊を狙う。

 

「ッッ!!」

 

それを察知した箒は、手前で勢いを殺さず屈み、蹴りを避けると同時に上空へジャンプ。

 

「―――天地」

 

キョウイチの脳天へ上空からの斬り下ろし

 

「二段ッッ!!」

 

足が地に着いた瞬間、さらに側頭への横斬り。

 

(くそっ.....反応が鋭いッ)

 

何方の斬撃も防がれ、箒は一気に後方へ飛んだ。

間合いを広げるために。

しかし、キョウイチはそれを許さない。

 

『ホウキ.....オレダヨ......』

 

感情が怒りで満ちていなければ、恐怖心に取り込まれてしまいそうな程、無機質な声。

何を考えているのか分からない、不気味な表情のまま間合いを詰めてくる。

前に出されたキョウイチの掌は第二関節が曲げられていた。

 

(この型は.....虎形拳かっ!?)

 

突進術に加え、右手で眼前の獲物を喰い破る技。

 

(まだ間合いには届いていない!)

 

箒は呼吸を整え、身体の力を抜いた。

木刀を持つ右腕もダラリとさせ、剣先を下に寝かせる。

 

(.....研ぎ澄ませ)

 

間合いに入ったキョウイチの拳が箒の眼前三寸に

 

「ハァアアアアッ!!」

 

右足を軸に半回転して回避。

そのまま巻き起こった遠心力を利用し、キョウイチの頚椎に木刀を叩きつけ

 

『――――――ッッ』

 

バガァンッ!!

 

吹き飛ばされたキョウイチは轟音と共に、壁を突き破った。

 

「.....折れてしまったか」

 

箒の技の強度に耐え切れず、木刀は柄を残して刃の部分を失った。

 

(だが、手応えアリだ)

 

彼女の遠心力に加え、キョウイチの突進してきた勢いまでも上乗せされた急所への打撃。

 

「これで立ち上がって来れる者など『ホウキ......オレダヨ......』ッッ!?」

 

衝突した際に額を壁にぶつけたのだろう。

割れてドス黒い液体が、滴り流れていた。

 

『ホウキ.....オレダヨ......』

 

感情も抑揚も感じさせない、一切変わらぬ表情と声。

そして言葉。

箒は後退りそうになったのを既の処で耐える。

 

「くっ.....まだ立ち上がって来るのなら!」

 

箒は再び木刀を構えた処でつい、失くなった刃身部分を見てしまった。

キョウイチから目を切って。

 

「しまっ.....」

 

気付いた時にはもう遅い。

頭を掴まれ、箒の足が宙に浮く。

 

『フクゲン.....カイシ......』

 

「あっ.....がっ......」

 

キョウイチの様子から、恐怖心に丸呑みされた訳では無かった。

だが、平常心を失いつつあった事は確かだった。

自分の持つ武器が折れている事を忘れてしまう程に。

 

『キオク......カイザン......』

 

箒はこの時初めて全神経、全細胞がゾッとした。

何を言っているのか、何をしようとしているのかは分からない。

それでも、このままでは大切なナニかを奪われる。

 

「やめっ.....て.....くれ.....」

 

抗おうにも力が入らない。

 

(嫌だ.....嫌だ嫌だ!)

 

目尻に涙が溜まる。

 

「きょう......い.....」

 

『ワールド・パージ、精神介―――』

 

 

「.....テメェ俺の女に何してやがる」

 

 

『――――――ギッッ!?』

 

箒を掴んでいる腕を手刀で一閃。

 

(きょう.....いち......?)

 

突如2人の間に割って入った乱入者。

箒の視界には後ろ姿しか見えず、顔は見れない。

それでも、彼女には分かった。

本物の恭一が帰ってきた事を。

 

『異物混入。ハイジョ.....カイ......??』

 

キョウイチの目が見開かれる。

目の前に居たはずの男の姿が消えた。

そして、やけに胸の辺りが軽く感じる。

 

「テメェの行いは、万死に値する」

 

『――――――ッッ!!』

 

後ろからする声に振り返った。

視線の先に佇む恭一の右手にはナニかが乗せられている。

 

『――――――??』

 

自分の胸に異変を感じた時、彼の言葉通り既に終わりを迎えていた。

彼の手から零れ落ちるモノ。

 

アレは " 心臓 " だ。

 

地面に転がり落ち、キョウイチが声を上げるよりも早く、恭一によって踏み潰され

 

『――――――』

 

同時にキョウイチの身体は、頭から爪先までレンガの如く崩れ去った。

 

 

________________

 

 

 

「大丈夫か、ほう「恭一ィィィ!!」のわっ!?」

「恭一、恭一、きょういちぃぃ......!」

 

恭一から抱き着いて離れようとしない箒。

 

「遅くなって悪かったな」

 

宥めるように恭一も箒の背中に腕を回した。

 

(ああ.....恭一だ。私が好きな瞳、温もり、声。私が愛する夫だ)

 

箒の記憶は恭一の助けにより改竄されてはいないが、元に戻っている訳では無い。

恭一はまだ気付いていないが、箒の意識内では2人は夫婦なのだ。

 

「恭一に抱きしめられると、すごく安心するんだ.....」

「そっか」

 

恭一は安心よりもドキドキの方が勝っているのだが、何となく負けた気分になるので口には出さない。

 

(恭一の香りだ.....落ち着く私の大好きな......ん?)

 

嗅ぎ慣れた何時もの恭一の香りに、何か別の香りが混ざっている。

 

クンクン.....。

 

無意識に恭一を抱きしめる腕が強まった。

 

 

「......あの女のニオイがする」

 

 

「へ?」

 

先程までの甘えた声は消え失せ、絶対零度の怨声が響き渡った。

 

「このニオイは.....そう......セシリアかァ.....」

 

 

 " 箒は正気に戻った! "

 

 

恭一が気付かぬ内に記憶が蘇った箒。

自分の世界とは云え、恭一との結婚を夢見ていた事を知った彼女は、本来なら顔を真っ赤にしてアタフタする筈なのだが。

悲しい事に、今の彼女は箒ではなくて阿修羅だった。

 

「恭一ィ.....」

「な、なんでせうか?」

 

(アカン.....すっごいキレてらっしゃる)

 

そんな怒った顔も可愛いよ。

なんて言ったら多分、斬殺されるなコレ。

そんな惨殺は嫌だ。

 

「何故お前からセシリアのニオイがするんだ? えぇオイ?」

 

問い詰め方が千冬に似てきた箒である。

 

「そ、それは.....その.....あーっと......」

 

(.....ふむ)

 

しどろもどろに目を泳がせる恭一を観察する。

まずこの反応が今までなら有り得ないのだ。

恭一がこの様なリアクションを取るのは、箒と千冬だけだったのだから。

 

「何があったか言え」

「いや、それは......」

「私も千冬さんもアイツの気持ちは知っている。だから話せ」

「で、でもよぉ.....」

 

煮え切らない態度の恭一君。

 

「.....何か後ろめたい気持ちでもあるのか?」

「なななないよ! 無いって!!」

 

傍から見れば浮気がバレた時のアレである。

 

「なら良いじゃないか、早く話せッッ!! ハウスッッ!!」

「ひぇっ......わ、分かったよ」

 

.

.

.

 

「なるほどな。とうとう告白したのかアイツめ」

「うん」

 

箒の阿修羅っぷりにビビッた恭一は、言動が少し幼くなっていた。

 

「別にセシリアを援護射撃するつもりは無いが、私は恭一が好きになったのなら受け入れても構わないと思っている。無論、渋々ではあるがな」

「そ、そうなんか?」

 

セシリアとIS学園で一番共に過ごしているのは箒である。

どれだけ彼女が恭一を想っているのか、箒も理解しているつもりだ。

 

「で、実際どうなんだ?」

「どうって言われてもな.....箒と千冬さんの事は気付いた時から好きになってたから、告白されて嬉しかったし、俺も改めて告白し返したんだよ」

「う、うむ......キスしようか、恭一」

「なんでだよっ?! そんな流れじゃんんーっ!?!?」

 

.

.

.

 

「―――それで?」

 

何事も無かったかのように続きを促す箒。

 

「あ、ああ。んで今までセシリアの事は友達としてしか見てなかったから、まだ何とも言えねぇし思えねぇよ」

「意識はするのだろう?」

「それは.....まぁ......し、しちゃうだろ、どうしたって」

 

恭一の視線が光速回転したのを、箒は見逃さなかった。

隣りに座っている恭一の膝の上にお邪魔する。

 

(な、なんで乗っかってくる.....?)

 

「お前.....告白されただけでは無いな?」

「ちょっと何言ってるか分かへぶぅっ!?」

 

両頬を包み込む平手打ち。

 

「ちゃんと私の目を見て言え、何をされた? 話せ」

 

(すっげぇ.....こわい)

 

箒の後ろには、陽炎の如く千冬の姿が見え隠れしたそうな。

 

.

.

.

 

「なっ.....キスされた、だと?」

「.....ぁぃ」

 

青筋を立てる阿修羅を前に、返事もか細くなる。

嬉し恥ずかしドッキドキな体勢の筈なのに、恭一の鼓動はバックバク。

 

「どれ位したんだ?」

「えっと.....5」

「5分もしたのかァ!!」

「ご、5秒です! ほんと5秒位だと思われますハイ!」

 

(あのエロダージリンめ。告白と同時にキスだと? 破廉恥にも程があるッッ!!)

 

「私達もキスするぞ!」

 

(さっき結構ガッツリしたと思うんですが、それは.....)

 

思っても怖くて言えない。

対面しているモノは、捕食者の眼をしているのだから。

 

「倍するぞ!」

「10秒か」

「100時間だッッ!!」

「意味が分からふむーーーーっ!!」

 

 

________________

 

 

 

どれくらい経ったのだろうか。

恭一はかなり焦っていた。

 

「きょういちぃ.....ちゅっ....んっ....れふっ....んんっ......」

 

箒は目を閉じているため気付かない。

光が2人を包み込んだ事を。

 

「んんーっ! んんーっ!!」

 

恭一は両肩をパンパン叩く。

何時までも精神世界に居残れる筈など無いのだ。

箒が貪るように恭一の口内に舌を滑り込ませている頃、既に其処は精神世界では無く

 

「ふぁっ....んっ....しゅきぃ.....ちゅるっ....はむっ....れろ、れるぅ......」

「んんーっ! んんーっ!!」

 

(やめれー!! な、何故振り解けんッッ!? コイツ何処にこんな力を.....ッッ)

 

箒の表情は、次第に恍惚したものへと変わっていく。

 

「んちゅ.....んはぁ.....ふふっ....私の唾液おいしいだ......ろッッッッッ?!!?!?!!」

 

恭一の照れた顔が見たくなり、目を開けた箒の視線に飛び込んできたモノ。

 

モニター越しから顔を両手で塞いでいるサポーター役の簪。

ちゃっかり指の隙間からガン見している簪と目が合った箒。

 

『.............』

 

プツンッ

 

無言のままモニターは消滅した。

 

「あれっ? あれあれあれっ!? あれれれれれっ!?!?」

 

膝の上でパニック状態に陥る箒、既に諦めの境地に入っている恭一。

 

ブゥゥ.....ン

 

起動音と共に再びモニターが現れる。

 

『.......お疲れ様。今まさにモニターを付けた処』

 

無かった事にしてくれる簪は、なんと空気が読める子だろうか。

 

「そ、そうか......ってそんな訳あるかあああああああッッ!! う、うわぁぁぁん!!」

 

真っ直ぐな箒には、その優しさが余計に胸に刺さったらしい。

しかし自業自得である。

そしてある意味、被疑者で被害者の恭一は

 

「宇宙天地 與我力量 降伏群魔 迎来曙光」

 

左手に、別に封じられていない鬼を召喚しようとしていた。

 

『と、取り敢えず箒は戻って来て』

 

「やだ!」

 

『や、やだって言われても.....』

 

簪が困っていると、新たな扉が恭一の前に出現した。

 

「鬼じゃなくて扉が出てきたでゴザル」

 

『.....恐らくシステム中枢への扉だと思う』

 

それは恭一にとって、またとない朗報だった。

 

(そうと決まればスタコラサッサだぜ!)

 

「簪、箒は頼んだッッ!!」

 

『ちょ、ちょっと渋川君!?』

 

気まずい思いをしているのは、恭一も一緒なのだ。

この場から離れられるのなら、火の中水の中扉の中である。

 

簪の戸惑った叫喚を背に、恭一は脱兎の如く扉へ入って行った。

 





箒:セシリアを受け入れる(受け入れるとは言っていない)

唯一ニセモノに気付いた箒さんはメインヒロインの鑑。
最後くらいは、これくらいのプチスケベがあっても良いでしょ(ハナホジー)

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