野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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貴方はどうしてロミオなの?
というお話



第109話 略奪愛なワールド・パージ

「はえ~.....すっごいおっきい」

 

扉をくぐり光に包まれた恭一を迎えたのは、ヨーロッパ風の大豪邸。

 

「シャンデリアとか普通にありそうだなぁオイ」

 

テレビや本でしか観た事のない豪邸に、少しテンションが上がる恭一。

それにこんな豪邸なんだ、服の一式や二式あるだろう。

 

「やっと変態呼ばわりされないで済みそうだ」

 

恭一は手頃な窓に指を刺し、腕が通る位の丸口を作る。

絶妙な加減が必要であり失敗すると窓全体に亀裂が入り、音を立てて割れてしまうだろう。

だが、恭一レベルの指突なら

 

「ふっ.....惚れ惚れする程の円が描けたな」

 

満足気に腕を入れ、内側から鍵を開けた。

楽々と屋敷内に侵入した恭一。

 

「まずは......探検だ!」

 

舞台把握は大事である。

 

 

________________

 

 

 

「ふう......」

 

私の名前はセシリア・オルコット。

イギリスでもトップクラスの規模を誇るオルコット社を束ねる若き総帥。

一流の調度品に囲まれた執務室で明日の準備を終えた私は、何時ものように特別製の小さなプラチナ・ベルを手に取った。

 

「これを鳴らせば、何時でも貴方は私の元へやって来る.....ですがそれも.....」

 

セシリアの表情は暗く、悲しみの色に染まっていた。

 

「明日.....私は別の殿方のモノになる。貴方はそれをどう感じているのでしょうか」

 

大企業の世界にありがちな話、政略結婚。

セシリアはオルコット社を守るため、会った事も無い20も歳が離れた男性と明日結婚させられるのだ。

 

「我が社を守るためならそれも致仕方無し。以前の私ならそう思ったはず」

 

ですが、私は貴方と出会ってしまった。

私がマフィアに誘拐されそうになった時、貴方は颯爽と現れ、見ず知らずの私を助けてくれました。

運命を感じました。

この方こそ私の騎士様。

風来坊を名乗る貴方を私は必死に口説きましたわ。

 

私専属のボディーガードになって欲しい、と。

 

困ったように笑いながら小さく頷いた貴方。

その瞬間、私は恋に落ちたのでしょう。

ですがそれは決して許されぬ恋。

身分の違いなど、私は一向に気にしない。

しかし周りが、それを許してはくれない。

 

私はセシリア・オルコットなのですから.....。

 

「......恭一さん」

 

チリリン......。

 

悲しげな表情のまま、セシリアはプラチナ・ベルを鳴らした。

 

 

________________

 

 

 

「ひゅぅ♪ レイピア飾ってあんじゃねぇか」

 

流石は大豪邸。

期待を裏切らぬ装飾っぷりである。

何気無しに手に取ってみる。

 

「.......」

 

何気無しに構えてみる。

 

(えーっと.....確か、こんな感じで)

 

自分の記憶にあるイメージを集中させていく。

右足を軸に上下に反動を付けつつ、左腕は前へ、レイピアを持つ右腕は顔の横へ。

 

「これが我が師直伝の技」

 

反動を利用して、左足を前方へ踏み込ませ

 

「奥義、エターナルレイドッッ!!」

 

右手に持つレイピアで超高速の突きを繰り出し

 

「な~んツって.....ぬぁ!?」

 

ヒュンッ!!

 

ザクッ!!

 

刀身が抜けて壁に突き刺さり、見えなくなってしまった。

 

「.....スペツナズ・レイピアだったのか」

 

発射式レイピアなど聞いた事が無い。

いや一応恭一もある事にはあるのだが、それは漫画の世界だけのはず。

 

「シルバー・チャリオッツもびっくりだなオイ」

 

兎にも角にも恭一の手には、刀身の無いレイピア。

最早、剣として何の意味も為さぬモノになってしまった。

 

「バレる前に隠さねぇと。怒られたくないもんな」

 

何処か隠せる良い場所は無いか。

キョロキョロ辺りを見渡す恭一の視線に、またもや興味を唆られる装飾品が。

 

「.....民族仮面?」

 

異民族が被るような仮面が幾つも壁に備え付けられていた。

 

「.......」

 

又もや何気無しに手に取る恭一。

徐ろに顔へ持っていき

 

「フゥーハハハァ!! 俺は人間をやめるぞォーーーーッッ!!」

 

先程のレイピアの件といい、一体何が彼を此処までさせるのか。

度重なる精神的苦痛におかしくなってしまったのか。

 

「って、もうヤメてるやないかーい!」(強さ的な意味で)

 

見事に一人ボケツッコミを敢行した恭一。

 

「うわははは! これはウケる、間違いない! 四国辺りじゃ大爆笑待った無しだな、ウヘラヘラ」

 

一体何がそんなに面白いのか、腹を抱えて笑う恭一。

恐らく本人も気付かない内に、多大なストレスを負っていたのだろう。

バスタオル一丁に仮面を着けて笑い転げる彼の姿は、変態っぷりがグレードアップされていた。

 

―――チリリン.....。

 

「ん?」

 

そんなアホの耳に確かに聞こえた。

繊細で透き通るような音色が。

 

「そういや遊んでる場合じゃなかったっけか」

 

漸く、本来の目的を思い出した恭一。

とりあえず、展開が待っているだろう音色の中心部に向かう事にした。

 

 

________________

 

 

 

ベルを鳴らしてから、3秒。

セシリアの居る執務室のドアが開かれた。

 

「お呼びでしょうか、総帥」

 

部屋に入ってきたのは、黒を纏う男性。

私最愛の騎士、渋川恭一。

 

「恭一さん.....これまで貴方は私に本当によく仕えてくれました」

「......」

 

恭一は何も応えない。

 

「貴方との契約も今日で終わり。私は明日、嫁ぐ事になるのですから.....」

「......おめでとうございます」

 

セシリアの言葉に深々と頭を下げる。

 

「ッッ.....本心を仰って下さいな! 私の想いは知っているでしょう!? 私が他の殿方のモノになって、貴方は良いと言うのですかッッ!?」

「......総帥」

 

私と恭一さんは身分は違えど、相思相愛の関係。

出来る事なら恭一さんと結ばれたい。

それでも私には、どうする事も出来ない。

運命を受け入れるしか無い。

 

(それでも.....それでも恭一さんなら.....ッッ)

 

「私を.....私を何処か遠くへ連れて行って欲しい、恭一さんッッ!!」

 

セシリアは恭一に抱きついて懇願する。

 

「.....いけません、総帥。そのような事を仰られては」

「どうして私はセシリアなのですか!? どうして貴方は恭一なのですか!? どうして身分の差が私達を邪魔するのですかッッ!!」

 

(今までの世界となんかノリが違う.....)

 

鍵穴から覗いている本物の恭一は、どうリアクションを取れば良いか測りかねていた。

 

「.....私は待っています。貴方が式に現れてくれるのを.....私を奪ってくれる事を」

「総帥......」

 

セシリアは恭一から離れ、扉に向かう。

 

(やべっ.....こっちに来る)

 

恭一は扉が開かれる方へ身を寄せて、隠れる。

運良くセシリアは、恭一が潜む反対側へと歩いて行った。

彼女の背中が角を曲がったのを確認し、キョウイチが居る執務室へと入る。

 

「ん....? だ、誰だ貴様ッッ!?」

「しょぼくれた背中しやがって.....テメェが俺だと思うと虫唾が走る」

「貴様のような変態が私だと!? 巫山戯るのは「黙れ」――――――ッッ!?」

 

恭一は首を掴み、そのまま握り潰した。

首と胴体が離れたキョウイチは一瞬で崩れ落ちる。

 

「セシリアには悪いが、勝手に終わらせて貰ったぜ」

 

彼女の精神介入者は潰した。

もうすぐ、この空間にも変化が訪れるはず。

 

「......何も起きねぇじゃねぇか」

 

今までの流れなら、これでセシリアの記憶も戻って扉が出現して。

という感じなのだが。

 

「まだ居るのか?」

 

セシリアとキョウイチの会話を思い返してみる。

 

「なるほど.....確かにもう1人、鍵となる奴が居たな」

 

光の粒となって消えたキョウイチ。

そこには服だけが残されていた。

 

「何はともあれ、服ゲット!」

 

これでもう変態呼ばわりされなくて済む。

服を着替えた恭一は、一息付く。

 

「奪ってくれるのを待つ......か」

 

それが本音だとしたら、随分弱くなったモンだ。

式場には行ってやる。

お前が望むキョウイチでは無く、恭一としてだがな。

 

.

.

.

 

(恭一さん.....来てはくれないのですか?)

 

大聖堂にて多くの者に1階から見守られる中、ウェディングドレスを纏ったセシリアとタキシードを着ている年の離れた男。

2人は皆に見上げられる形で2階に居る。

2人の前には厳かに立つ神父の姿。

 

「貴方はこの女性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬い慰め助けて変わる事無く愛する事を誓いますか?」

「はい、誓います」

 

セシリアの想いを余所に、進行される舞台。

 

「セシリアさん、貴女はこの男性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬い慰め助けて変わる事無く愛する事を誓いますか?」

「私は......」

 

(.....恭一さん)

 

言葉が出ないセシリアを急かす様に見やる新郎。

 

「.....ち、誓い.....」

 

バタンッ!!

 

「その言葉、待って貰おうかッッ!!」

 

静かな聖堂に響き渡る盛大な扉の音、そして狂者の声。

黒を纏う恭一が舞台に現れた一幕だった。

 

「きょ、恭一さんッッ!!」

 

セシリアの表情に歓喜の色が浮かび上がる。

 

(私を.....私を奪いに来て下さったのですね....!)

 

しかし恭一が彼女を見る目は冷めていた。

 

「腑抜けたツラ見せやがって」

「えっ.....恭一さん?」

 

セシリアは信じられなかった。

あんなにも優しい恭一さんが、私にそのような事を仰るなんて、有り得ない。

 

「俺が敬意を抱いたセシリア・オルコットは、助けを待つ事なんざ良しとしねぇ」

「な、何を.....」

「己で道を切り拓ける勇気を持った女だ。今のお前みたいに流れに身を任せるような奴じゃねぇ!!」

 

セシリアの頭に微かにノイズが走る。

 

(い、痛いっ......私は何かを忘れて.....?)

 

「それとも何だ? " 助けがいんのか? "」

「ッッ!?」

 

 

―――助けがいるのか

 

 

嘗て恭一がセシリアに送った言葉。

それは何時、何処で、私が何をしていた時だった?

 

「くっ.....ああああああああああッッ!!」

 

思い出そうとする私を痛みが襲いかかる。

 

(痛みなど怖くありませんわ! 私が怖いのは―――)

 

記憶が波のように押し寄せて来る。

それを真正面から受け止めるセシリア。

 

(誇りを失ってしまう事の方が、恐ろしいですわッッ!!)

 

苦くて辛い、それでもこれ以上無い大切な記憶が蘇る。

ラウラに挑まれ、鈴と共に必要以上に痛め付けられたあの日。

 

(恭一さんの一言で、誇りを取り戻したあの日ッッ!!)

 

虚ろだったセシリアの瞳に、炎が灯る。

 

「寝言は寝て言って下さいな恭一さん!」

 

セシリアに呼応するかのように『ブルー・ティアーズ』が召喚される。

 

「私の名はセシリア・オルコット! 私の未来は私が決めるッッ!!」

 

新郎の表情が無機質なモノに変わり、瞳も金色に変わった。

 

『ワールド・パージ、異常発生.....キョウセイカイニュウ―――』

 

「塵と化しなさい、惑わす者ッッ!!」

 

4つのビットから放たれたレーザーが新郎を貫き、傷口から黒い粘液を出して、全身が溶けていく。

 

(.....私の臆病な心が魅せた願望、ですわね)

 

光の屑となりつつあるモノを眺めるセシリアは、そっと息を吐いた。

 

(このモノはきっと、私の胸の内に秘められた箒さんと織斑先生)

 

自分は恭一に恋をしている。

なのに、自分から告白する勇気が持てない。

振られるだけならまだ良い。

落ち込みはするだろうが、それでも立ち直って何度でもアタックする気概は持っている筈だ。

でもそれ以前に、自分が対象として見られていないと思うと、どうしても足が竦んでしまうのだ。

 

(自分からは思うように進めない。だから恭一さんから動いてくれるように願った、という訳ですか)

 

情けない。

情けない、情けない!

箒さんと織斑先生が私を笑うのも道理ですわ。

 

(受身に回り逃げて何が恋ですかッッ!!)

 

セシリアは顔を上げる。

下では彼女が正気に戻った事を知った恭一が満足気に頷いていた。

彼女が居るのは2階である。

 

「ッッ!!」

 

セシリアはその場から下に向かって大きくジャンプした。

 

「恭一さぁーーーーんッッ!!」

「ちょっ?! な、なんだぁ!?」

 

突然、2階から自分へと飛び込んできたセシリアをついキャッチする。

俗に言うお姫様抱っこ状態になった2人。

その状態に浮かれず、空かさず恭一の首に腕を回すセシリア。

 

「恭一さんのお言葉で戻って来れましたわ、ありがとうございます」

「そいつは僥倖。んで何時までそうやってる? さっさと降りろ」

 

何時もの彼女なら泣く泣く降りるだろうが、今は違った。

 

「嫌ですわ」

「あ゛?」

 

拒否したセシリアを睨んだ恭一に

 

 

「んっ......」

「んんんっっ?!!?」

 

 

初めての唇を捧げた。

 

 

(なっななななななな何が起こってるんでぃ!?!!?!?)

 

鉄壁防御、難攻不落を誇る要塞も、侵入を許せば豆腐以上に脆かった。

驚愕天地の想いで目をパチクリさせる恭一とセシリアの目が合う。

唇と唇が触れるだけの優しいキス。

目が合うと、彼女は微笑んでいた。

 

数秒程だろうか、2人の唇が離れる。

 

「お慕いしています、恭一さん」

「......へぁ?」

 

想定外の事には意外に弱い恭一。

未だ茫然自失。

何時もの不敵な笑みは何処へやら、マヌケ顔を晒していた。

 

(んもうっ.....何ですかそのだらしないお顔はッッ!!)

 

勇気を振り絞った行動に、その反応は頂けない。

セシリアは尚も、ポカーンと口を開けたままの恭一の頬を両手で優しく包み

 

バチコーンッ!!

 

「いぎぃっ!?」

 

ダブルビンタを見舞った。

 

「なっ、なにしやがる!?」

「それは私の台詞ですわ! 乙女の一世一代の告白に何ですか、その反応はッッ!!」

「うぐっ.....そ、それは」

 

完全に立場が逆転してしまった。

恭一は知らないが、恋に生きる女は強い。

最愛は最強に勝るのだ。

 

「恭一さんが誰と付き合っていようが、関係ありませんわ! 私も恭一さんを愛しているのですッッ!! この想いは抑えきれないのですッッ!!」

 

恭一の頬を両手で逃がさぬように包んだまま、視線を逃さぬまま、はっきりと言った。

箒と千冬以外に、これまで異性を感じる事など無かった恭一はパニックである。

 

(こくっ....ここここく告白されてるんだよな、俺?! 誰に? セシリアに? 何で!? 俺? 俺か!? 俺なのか!? おおおお俺がががががセシリアににににに....!)

 

恭一の動揺っぷりが伝わってきたセシリアは、何故だか笑ってしまう。

 

(いつも自信に満ち溢れている恭一さんも、こんな可愛らしい顔をなさるのですね)

 

「恭一さんの想いは知っています。貴方が箒さんと織斑先生以外に興味を持たれていない事を。なので今は返事など要りませんわ」

「あ、ああ.....」

「で・す・がッッ!! それも今日までですわ! 私にも興味を抱いて頂きます、女としてッッ!! 貴方を愛する者としてッッ!!」

 

恭一の想いなど今の彼女はもう知った事では無い。

これは宣戦布告である。

 

(勝ち取る愛こそが、セシリア・オルコットには相応しいですわ!)

 

色々な意味でひと皮もふた皮も剥けたセシリアに圧倒されてしまっている恭一。

 

「分かりましたか?」

「え、えっと......」

「分かりましたねッッ!?」

「う、ういっす!!」

 

乙女のパワーに完敗した恭一だった。

 

(これで私も遠慮はしませんよ。箒さん、織斑先生)

 

成就はしていないが、やっと想いを伝える事が出来たセシリア。

そんな彼女の勇気を祝福するかのように、光が恭一と共に包み込んだ。

 

 

________________

 

 

 

『......何でお姫様抱っこ?』

 

服を着ている事で漸く、此方に目を向けてくれた簪だったが。

その瞳は優しくなかった。

 

「ふふん、色々ありましたのよ。ね、恭一さん?」

「ソーデスネー」

 

『取り敢えず、セシリアは戻ってきて。渋川君は後1人だよ』

 

「幸せな時間はあっという間ですわね」

 

これまでに無い余裕を感じさせるセシリアは、あっさりと恭一から降りた。

 

「それでは、お先に失礼しますわ」

「ソーデスネー」

 

恭一から少し離れた所で、光の粒となる。

 

「うふふ。箒さんにヨロシク言っておいて下さいましね」

「ッッ!?」

 

その言葉で我に返った恭一だったが、既にセシリアは消えていた。

 

「......あのアマ」

 

真っ向からあんなにも想いをぶつけられて、意識しない訳が無いだろう。

 

《モテモテじゃのぉ、恭一や》

 

憎たらしい程、愉悦に浸った武神の声が聞こえた気がした。

 

「.....なぁ、簪」

 

『.....どうしたの?』

 

「俺ってモテモテらしいぞ」

 

『バカじゃない?』

 

モニター通信を切られた恭一だった。

 





(*^○^*)スタートダッシュで出遅れたセシリアは差し馬だったんだ!

ワールド・パージ編の主人公はセシリアだった....?

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