野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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アリーナですよ、アリーナ!(春香並感)
というお話


第108話 アイドルマスターなワールド・パージ

「やったぜ」

 

新たな世界へやって来た恭一は大いに頷いた。

目の前にそびえ立つ建物、アリーナを見て。

 

「5人目で漸くかよ」

 

夢の世界とは云え、本来自分達はIS学園の生徒である。

1人くらいISに携わる夢を見ていて欲しかった。

主に鍛錬的な意味で。

 

『わあああああああああああッッ!!』

 

「おおっ.....何かすんげー盛り上がってんな」

 

自分はまだ外に居るのに、此処まで聞こえてくるとは。

 

恭一は期待に胸を膨らませた。

 

アリーナと云えば、やはり試合だろう。

公式戦か、はたまたモンドグロッソか。

何にせよ、この歓声は只事では無い激戦を予感させる。

誰が戦っているのかは分からないが、きっと名勝負を繰り広げているのだろう。

 

(残っているのは箒とセシリア。あの2人ならどっちでも有り得るな)

 

一番長く鍛錬時間を共にしてきた箒は勿論の事、セシリアも日々邁進する事に余念は無い。

むしろISに対する入れ込みならセシリアの方が上だろう。

 

恭一は居ても立ってもいられず、ダッシュでアリーナ内へと入って行った。

 

.

.

.

 

外からじゃ分からなかったが、中はそれはもう物凄い熱気で溢れ返っていた。

アリーナ席は超満員。

観客は絶え間無く、中心部で両手を掲げている少年に惜しみない声援を送っている。

黄色い声援を。

キャーキャーと。

 

「.........」

 

あんぐり開いた口が塞がらない。

 

ゴシゴシ

 

恭一は自身の目を擦った。

視線の向こうには、自分とよく似た男が立っている気がしたがそんな筈が無い。

そんな訳が無いのだ、断じてアレは俺じゃない。

 

 

" 今日は皆来てくれて、テンキュー↑↑ッッ!! "

 

『きゃーーーーーーーッッ!!』

 

" まだまだ盛り上がっていこうぜぇ↑↑ッッ!! "

 

『きゃーーーーーーーッッ!!』

 

ギンギラギンに輝くド派手な衣装に、頭にはバンダナ装着。

下はパッツンパッツンの短パン、汗が流れ落ちる太ももがセクシー。

両足にはローラースケート完備。

 

" 愛してるぜ.....子猫ちゃん達♥ "

 

『きゃーーーーーーーッッ♡♡』

 

「ぎゃあああああああああッッ!!」

 

同じ悲鳴でもまるで意味が違った。

 

「何で俺なんだよぉぉおおおおッッ!! やめれくれよおおおおおおッッ!!」

 

一体俺が何をしたってんだ。

どうしてこんな仕打ちを受けなきゃならない。

崩れ落ちる恭一、地に伏せ慟哭す。

 

恭一の男泣きを余所に会場のボルテージはますます上昇していく。

 

" 聴いてくれ俺の名曲『カナダ☆レモン』 "

 

『きゃーーーーーーーッッ!!』

 

俺の名曲って何だよ。

カナダレモンって何だよ、そんな巫山戯た曲名あるかよ。

それにその服装は何だよ。

なんかもう古いんだよッッ!!

 

今の恭一の姿(バスタオル一丁)もどっこいどっこいである。

 

「うわっ.....や、やめろバカ! 小指立ててんじゃねぇよッッ!!」

 

ステージ上にて爽やかなスマイルで前奏が始まるのを待っているキョウイチ。

今から歌う彼は当然マイクを握っている訳だが、しっかり小指が立てられていた。

 

「神曲よ......神曲が降臨するわッッ!!」

 

神じゃねぇだろ紙だろ。

ペラッペラのヤツだ、ケツ拭く紙より薄い簡単に流れる紙だ。

 

ついつい聞こえた声に突っ込んでしまった恭一。

ふとその声の主を見やる。

 

「........」

 

ピンクのハッピを見事に着こなして。

背中にはデカデカと『恭一LOVE』の刺繍入り。

余程熱狂的なファンなのか、頭にはキョウイチとお揃いのバンダナを。

右手にはスマイルキョウイチの顔写真が模写された内輪を。

左手には七色に輝くペンライトが其々の指の間に差し込まれている、ウォーズマンの如く。

 

「会長やないかいッッ!!」

 

IS学園生徒会長、更識楯無の威風堂々とした姿が其処には在った。

 

「何やってんだアンタ!! 俺と助けに入ったよな!?」

 

そうである。

皆を救出するために後から電脳世界に入ったのは恭一だけで無く、楯無もだった。

彼女の実力は学園でも千冬と恭一を除けば最強である。

恭一も楯無の実力を高く評価しており、信頼もしている。

彼女なら大丈夫だろう、と。

しかし、結果は―――

 

「何よ変態! 私の熱いパトスを邪魔しないでよね!!」

 

(ごらんの有様だよチクショウ!!)

 

もう恭一は色んな意味で帰りたくなった。

変な格好で変な台詞言って変な歌を歌っている自分を見せさせられ。

挙げ句の果てには、そんなキョウイチを妄想する少女に変態呼ばわりされる始末。

 

(もう別に助けなくて良いんじゃね......本人も楽しそうだし)

 

恭一の遣る瀬無い眼差しを尻目に

 

「L・O・V・E、ラブリーKYO・I・CHIッッ!!」

 

ヲタ芸よろしくフゥアフゥアやっている楯無。

見ていると非常にクるモノがある。

 

更識楯無IS学園生徒会長。

美人でスタイル抜群、自信に満ち溢れるその凛々しい姿に学園ではファンクラブまで出来ているそうな。

ちなみに簪もちゃっかり会員だったりする。

 

箒と千冬以外はよく女を分からない恭一も、楯無の事を美人か否か問われたら、美人だと応えるだろう。

そんな彼女が一心不乱に、フゥ↑↑♪フゥ↑↑♪と。

 

(これが残念美人ってヤツなのか、ナルホドナー)

 

恭一だって別に人の夢にケチ付けるつもりなんて更々無い。

何を見ようがソイツの勝手であり自由である。

自分が口を出す権利なんて何処にも無いのだ。

 

だが、それを見せられ気分を害したのなら話は別である。

一夏の世界、シャルロットの世界。

キョウイチを見た時の恭一の感情を一言で表すなら

 

『ヒエッ......』である。

 

楯無の世界のキョウイチを見た恭一の感情は、どちらかと云えば

 

『イラッ......』なのだ。

 

自分はこのモヤモヤした苛立ちを何処にぶつければ良いのか。

ステージ上では既に曲が始まっており、気分良くキョウイチが歌っていた。

 

(なに言ってだアイツ.....トンガリコーン? イガイガ?)

 

所々、聴こえてくる言葉が絶対的におかしい。

確実に名曲じゃない。

周りの観客が感動に噎び泣いているのがさらに意味不明過ぎる。

楯無も号泣していた。

 

「えぇ.....」

 

『イラッ』に『ヒエッ』がプラスされた瞬間である。

恭一は、一刻も早く此処から抜け出したくなった。

 

(帰ろう! 一旦帰って精神衛生を立て直すべきだ!)

 

しかしこのまま尻尾巻いて逃げるのは、あまりに癪である。

現に恭一はムカムカきているのも事実。

 

いまだ感動に打ち震えている楯無の横まで行き、耳元でぼそり

 

「分かってンなテメェ。簪のアニメDVD全部ブッ壊すからな」

 

ビビクンッ!!

 

電気ショックでも受けたかの如き反応。

それは、現実世界で楯無が恭一の機嫌を損なった時に放たれた言葉。

そしてこの言葉には続きがあり

 

 

『......お姉ちゃん嫌い』

 

 

嘗て大好きな簪から言われた、この世で最も聞きたくない言葉。

この呪詛が今、楯無の頭を覆い尽くた。

 

ガタガタガタガタガタ....ッッ

 

違う意味で震えだす楯無の脳に、これまでの記憶が急激に蘇る。

簪に嫌われたくない一心で。

そんな彼女を余所に、恭一はこの場からさっさと立ち去ろうと背を向け歩き出した。

正気に戻った楯無は必死に声を掛ける。

 

" ~~~~♪ ~~~~♪ "

 

「待って恭一君!」

「待たぬ!」

 

" ~~~~♪ ~~~~♪ "

 

キョウイチの歌声をバックグラウンドに。

 

「お願い許して!」

「許さぬ!」

 

" ~~~~♪ ~~~~♪ "

 

―――ブチッ

 

「やかましいのよ、このエセアイドルッッ!!」

 

ドガガガガガッッ!!

 

『――――――ッッ!!?』

 

咆哮と共に楯無は、IS『ミステリアス・レイディ』武器ランス『蒼流旋』を召喚し、キョウイチに向かって蜂の巣の如くガトリングガンをブッ放した。

 

『――――――』

 

声無き声を道連れに、バラバラ光の屑と化すキョウイチ。

しかし、今の楯無はそんな事どうでも良い。

このままでは恭一に簪のアニメDVDを壊されてしまう。

そうなっては、お終いなのだ。

 

「美味しいステーキご馳走するから!」

「それはもう決まっている!」

 

(そうだった! 夕食奢る約束は、既にしてしまってるんだった)

 

どうする。

どうすれば彼は止まってくれる。

 

(恭一君にはヤると言ったらヤる『凄ゴ味』があるッッ!!)

 

「.....っ....明日も奢るからぁ!!」

「許そうッッ!!」

 

凄ゴ味なんて欠片も無い、何時ものチョロ川チョロ一だった。

 

 

________________

 

 

 

全てを許した恭一と許された楯無は、光に包まれ元の場所へ戻ってきた。

 

『.......何でお姉ちゃんが居るの?』

 

お前一緒に救出に行ったんじゃないのかよ、と。

簪の瞳はそう言っている。

 

「あー.....あははは。まぁ色々あったのよ」

「確かに色々あったよ......」

 

笑って誤魔化す楯無の横で遠い目をしている恭一。

 

『渋川君は......まぁ.....うん』

 

お前いつまでその格好で居るんだよ、と。

簪の瞳はそう言っている。

 

「それは俺が聞きてぇよ、こんちくしょう」

 

ラウラにシャルロット、そして楯無と。

漏れ無く変態呼ばわりされている可哀想な恭一。

 

「不甲斐ない先輩でごめんね、恭一君」

 

申し訳無さそうな楯無に対し、首を横に振る。

 

「精神干渉に打ち勝つのは至難の業。責める気なんて毛頭無いですよ」

「.....そう言って貰えると助かるわ」

 

楯無は溜息を付きながら自分の肩をトントンと叩く。

 

『お姉ちゃんはこっちに戻ってきて』

 

「ふう.....これ以上足手纏いになる前に退散しますか。助けてくれてありがとね恭一君」

「うっす」

 

割と助ける気が無かった恭一は、微妙な顔で片手を上げる。

光の粒となり消え行く楯無を見送った恭一は扉の前に立つ。

 

残る扉はあと2つ。

 

(セシリアと箒か)

 

恭一は、今一度自分の格好を見て

 

「服くれよ、簪」

 

『行ってらっしゃい渋川君!』

 

「そればっかりじゃねぇか!」

 

NPCと化した簪に見送られて、扉へ入って行く恭一だった。

 





休憩の意味も兼ねたExtra Stage終了。
なお、しぶちーの精神に多大なダメージを与えた模様。

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