野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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第107話 わんこと一緒なワールド・パージ

「......庭園ってヤツか」

 

一夏、鈴、ラウラを無事救出した恭一は4つ目の扉に入った。

眩い光が収まり、恭一を迎えたのはヨーロッパな雰囲気を醸し出している庭園領であった。

 

「こう云うのが日本との違いだよなぁ」

 

鉄柵には幾つもの赤いバラが装飾されいる。

恭一は柵沿いを歩き、とりあえず入口を探した。

 

「.....おっ、あれか?」

 

庭園の入口らしき箇所を発見。

それは良いのだが、これみよがしに備え付けられた看板が目に映る。

 

『猛犬注意』

 

「骨取ったらガチギレるブルドック的な?」

 

恭一の中の猛犬のイメージは『番犬ガオガオ』らしい。

まぁ恭一にとって犬など、何の問題にもならないのだが。

それよりも問題なのは、やはり

 

「この格好はイカンでしょ」

 

忘れてはいけないが今の彼はバスタオル1枚、下半身を包んでいるだけなのである。

恭一の願いも虚しく、今回は屋外スタートであり、服を確保する事は少し難しそうなのだ。

 

「しっかし、誰の世界なんだ此処は?」

 

恭一は周りの風景から予測を立ててみる。

この建物からして日本人では無さそうに思える。

と、いう事は。

 

「デュノアかセシリアか、どっちだ.......ん?」

 

耳を澄ませる。

 

「―――もうっ、ダメだよぉ。あはっ、あははっ♪」

 

楽しげな少女の声が聞こえてくる。

ここからじゃ見えないが、どうやら角を曲がった奥に居るらしい。

 

(この声は......デュノアか)

 

恭一は、ひょっこり顔だけ出して見る。

 

「わふっ!」

「もう~パトラッシュったら、くすぐったいってばぁ♪」

 

楽しそうなシャルロット。

パトラッシュと呼ばれたソレは嬉しそうに彼女の足に纏わり付いている。

そんなパトラッシュの頭を優しそうに撫でるシャルロット。

 

(......よし、帰ろう)

 

他人の夢の世界を邪魔してはいけない。

デュノアが何を見てようが俺には関係無い、うん関係無い。

早くおウチに帰ろう。

あったかいシチューが待ってるさ。

 

ガサッ

 

「誰ッッ!?」

 

(しまった......)

 

少なからず動揺してしまったのか、音を立ててしまう恭一。

バスタオル一丁の恭一、シャルロットとご対面。

 

「へっ、変態だァーーーーーーッッ!!」

「ガルルルッ!!」

 

ご主人様の危機を感じたパトラッシュは一目散に恭一に襲い掛かろうと

 

パシンッ!

 

「わふっ!?」

「ダメでしょう、パトラッシュ!! どうしてお預け出来ないのッッ!?」

 

パシンッ! パシンッ!

 

一体何処から取り出したのか。

鞭でパトラッシュを躾ける(?)シャルロット。

 

「クゥン......」

 

叩かれたパトラッシュは許しを請うように、彼女の足の甲をペロペロ舐める。

 

「ふふふ......そう....そうだよ......イイコだね、許してあげるよ」

 

従順な態度に気を良くしたのか

 

「もう勝手な真似をしちゃダメだよ?」

 

シャルロットは恍惚な表情で見下ろす。

其処に恭一が知るいつもの悪戯っ子な笑みは無く、雌の貌をした色艶やかで歳不相応な彼女の姿があった。

 

「う、うわぁ......」

 

一夏の世界以来のドン引きっぷり。

確かに躾けは大事だが、この世には限度と云うモノが存在する。

が、恭一が引いていてるのは正確にはソコでは無い。

 

「いいよぉ.....その顔たまんないよぉ......そう...親指から丹念に舐めてね」

「くぅん.....くぅぅぅん」

 

不審者扱いされるはずの恭一そっちのけで、目の前で躾けが行われている。

 

(オレシッテル......コレ躾ケ、チガウ)

 

嫌な汗が恭一の背中をじんわり濡らす。

こんな変な汗を流すのは、前世でも経験が無かった事だ。

 

(オウチ、カエリタイ......ココ、イタクナイ)

 

そんじょそこらの事では物怖じしない恭一の精神防壁は、絶賛ピンチに陥っていた。

 

「そうだよ.....僕の目を見ながら舐めるんだよ......そう.....そう」

 

シャルロットに言われるがまま丹精込めて彼女の足を舐めるパトラッシュ、というか恭一視点で云う首輪を付けられた恭一。

 

「クゥン.....」

「もう我慢出来なくなったの? 本当にだらしないんだから.....恭一は」

 

その表情、まさに愉悦。

 

(やっぱ俺じゃねぇか、ちくしょう! そっくりさんじゃねぇのかよ!!)

 

シャルロットは椅子に座り、大きく股を広げる。

 

「分かってるね? ゆっくりと上へ登るように、だよ? 僕の目を伺う事も忘れちゃダメだよ?」

「クゥン.....」

 

パトラッシュと呼ばれていた恭一は膝を突いたまま、嬉しそうにシャルロットの足から太ももに掛けて舌を這わせていく。

 

「ぁんっ.....はぁ.....はぁ.....恭一ってば.....んんっ.....情けないカッコ恥ずかしくないの?」

 

そんな恭一の姿が、より彼女を昂ぶらせるのか。

息も荒く、口からは涎が滴っている。

 

「そろそろ.....こっちも......ね?」

 

パトラッシュな恭一は彼女に導かれるまま、顔を―――

 

「ダウトおおおおおおおおおッッ!!」

「キャウンッ!?」

 

目の前の光景逃避からようやく帰還した恭一の飛び蹴りが炸裂。

 

「パトラッシュ!?」

 

吹き飛ぶキョウイチに駆け寄るシャルロット。

 

「その呼び名やめろや! いや、恭一呼びも嫌なんだがよ.....うむむ」

 

何と表せば良いのか。

言葉にならない、やるせ無さで一杯な恭一だった。

 

「.....誰だか知らないけど、僕たちの邪魔をするんだね?」

 

冷淡無情な顔で此方を睨んでくる。

その瞳は虚ろそのもの、完全にこの世界に取り込まれてしまっている証拠である。

 

「俺が分からねぇのか、デュノア?」

「君なんか知らないよ。でも僕たちの愉しみを邪魔するのなら容赦しない」

 

(認識能力に弊害が出てンのか? これも幻惑の影響か)

 

「自己紹介しておくよ。僕はこの庭園館の女主人シャルロット、そして―――」

 

彼女は地を叩き、鞭を撓らせる。

 

「この子は犬のパトラッシュ。えへへ、僕が調教したんだよ」

 

どうして誇らし気なのか。

 

「さぁパトラッシュ! この変態さんをやっつけてッッ!!」

「オメェに言われたかねぇよッッ!!」

 

思わず突っ込んでしまった。

犬の真似を徹底させられていたのか、これまで4足歩行だったパトラッシュが立ち上がり、ゆっくりと恭一の前にやって来る。

 

(......でかくね?)

 

自分と同じ顔なのに、明らかに恭一の方が見上げる形になっている。

 

ゴキッ.....ゴキンッ

 

パトラッシュな恭一は首を鳴らしならが、人差し指をチョイっと。

格上が格下にするような、お前から来いよという仕草を見せる。

 

「おもしれェ事すんじゃねぇかテメェ.....マジ大爆笑」

 

ガッ!!

 

左拳をキョウイチの頬にブッ放す。

 

「ニヤァ.....」

「ッッ!?」

 

ドゴォッッ!!

 

違いを分からせると言わんばかり、同じく左拳を恭一は頬に喰らい

 

「あぐっ」

 

後ろに下がった処へ、追撃のニードロップが腹を貫いた。

 

「ッッ!?」

(おお......お.....)

 

思わず膝を突く恭一は、歓喜に震える。

 

(何時以来か......腹筋を貫かれるンはよ....)

 

膝を突いたままの恭一の顔面へ、駄目押しの強烈な蹴り。

 

「ブッハァッ!!」

 

吹き飛ばされた恭一は壁に激突、そのまま勢い余ってめり込んだ。

 

このキョウイチの強さの秘訣は一体何なのか。

それは離れた所で愉しげに見ているシャルロットにあった。

『たんれんぶ』に入った動機も彼女だけが恭一を名指しした。

 

『恭一をギャフンと言わせたい』

 

そのためにシャルロットは夏休みもフランスに帰省しては、オデッサと対恭一の特訓をしたり、恭一の動きを分析したり、と彼女の恭一の強さへの意識は『たんれんぶ』部員の中でも随一なのだ。

それは過大評価では無く、もはや誇大評価の域に近い。

 

自分も強くなっているはず。

なのに、恭一との距離が一向に縮まる気がしない。

恭一の強さは留まる事を知らないのではないか。

その想いが、この世界のキョウイチに色濃く反映されていた。

 

 

「さっすが僕のパトラッシュだねっ♪」

「わふっ!」

 

ご主人様に褒めて貰えて嬉しいのか、元気に一鳴き。

 

「それ以上俺の顔で犬真似してンなよ」

 

めり込んだ壁から無理矢理脱した恭一は、プッツンしかけていた。

強い奴は好きだ。

だが、今回ばかりは勝手が違う。

目の前の自分の顔をしたモノの仕草が、普通に生理的にキツいのだ。

 

「.....わふ?」

 

通じてないのか、首を傾げるパトラッシュ。

 

プッツン

 

「可愛くねぇんだよ! テメェ喰い千切ってやるッッ!!」

 

怒りと共にキョウイチに迫る。

 

「やっちゃえパトラッシュ!」

「アォン!」

 

迎え撃つキョウイチが繰り出した正拳突きを超スピードのステップインでダッキング。

懐に潜り込んだ恭一は膝のバネをフル稼働、左足を軸にして腰から肩まで全部巻き込み身体を回転させ

 

「ッッッ!!?」

 

リバーブロー炸裂。

たったの一発でキョウイチの肋骨をヘシ折った。

痛みに屈んだキョウイチの前でニンマリ微笑む恭一。

恭一の狙いは自分と目線が合う位置まで、キョウイチの顔面を下げる事だった。

 

間合いはそのまま、両足を踏ん張らせてから左のアッパーと右の打ち下ろし。

 

「犬は狼に喰われろ」

「――――――ッッ!!」

 

超高速フィニッシュブロー " ホワイト・ファング " 

 

上下の攻撃がほぼ同時にキョウイチの顔面を襲い

 

「――――――」

 

後ろへ倒れ込むと同時に、バラバラと光の屑となって消えた。

 

「ハッ......あ、あれ? 僕、何をしてたんだっけ?」

「正気に戻ったみてぇだな、デュノア」

 

シャルロットの精神介在者を排除した事で元に戻ったらしい。

 

(取り敢えず救出成功だな、俺の心はボロボロだけど)

 

ジト目を向けたい気持ちをグッと堪る恭一。

夢は己の奥底に秘められた願望、と良く聞くがそれは厳密には違うと恭一は思っているからだ。

夢だからこそ思わぬ歪みが生じる事だってあるのだ。

決して全部が全部、シャルロットの本心では無いのだ。

 

(そう思わせてくれ、頼むから)

 

「わぁっ!?」

「どうしたデュノア!?」

 

まだ何かあるのか。

いきなり声を上げたシャルロットに、周りを警戒する恭一。

 

「な、何で恭一、バスタオルしか纏ってないのさ!?」

「......お前、何があったのか覚えてないのか?」

「へ? えっと、皆と別れて扉に入ったら光に包まれて―――」

 

恭一に言われ、思い出そうとするが

 

「気付いたら恭一が居たんだ」

「......そうか」

 

どうやら運良く(?)彼女は『ワールド・パージ』世界の事を覚えていないらしい。

恭一にとっては、そっちの方が都合が良い。

 

(あんなモンは忘れてた方が良い。気まずくなるだけだろ非常識的に考えても)

 

「.....何かあったの?」

「気にする事ねぇよ。さっさとこっから出ようぜ」

「う、うん」

 

2人の前に現れた扉へ、恭一が歩を進める。

その少し後ろから付いて来るシャルロットの顔は、恭一からは見えないが真っ赤になっていた。

 

(わ、忘れたフリのままで良いよね。恭一とギクシャクしたくないもん)

 

シャルロットは決して記憶障害になど陥って無かった。

ただ、彼女は恭一との今の間柄を非常に好ましく思っている。

この関係を壊したくないシャルロットは、忘れたフリして無かった事にしたのだ。

 

(確かに恭一を揶揄うのは好きだけど、あんな僕の足を舐めさせたりは.....)

 

ついぞ思い出してしまい、慌てて頭を振る。

 

(ないないないっ! 僕はそんな女王様タイプじゃないやいっ!!)

 

そんな2人を光が優しく包み込む。

 

 

________________

 

 

 

『...............お疲れ様』

 

「慣れって怖いよな」

 

此方を全く向かずに労りの言葉をくれる簪にも慣れてしまった。

 

『シャルロットは戻ってきて。渋川君はもう言わなくても良いよね』

 

「了解だよ」

「なんか段々言葉に温かさがなくなってきてねぇか?」

 

服を着ない恭一が悪い。

彼は足取り重く扉の方へ向かう。

残る扉はあと3つ。

 

「きょ、恭一......」

「あん?」

「助けに来てくれてありがとね.....そ、それじゃあ僕、先に戻ってるから!」

 

恭一が振り返るよりも早く、シャルロットは現実世界へ戻って行った。

 

「俺も帰りたいなぁ.....」

 

光の粒となって消えたシャルロットが先程まで立っていた場所を見つめ、呟いた。

 

『行ってらっしゃい渋川君!』

 

「対応が雑になってきてんよー」

 

あれ以上のメンタルアタックがありませんように。

祈るような気持ちで、恭一は扉をくぐった。

 





しぶちーのテンションがた落ち

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