野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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天照大神は楽しそうな声に導かれて。
狂者大神は、果たして?
というお話



第106話 岩戸伝説なワールド・パージ

「......暗い、狭い」

 

心機一転、扉をくぐった恭一は瞬く間に光に包まれたのだが。

 

「身動き取れねぇ.....何処だ此処?」

 

暗闇の中、若干目が慣れてきた。

どうやら自分は何かの箱のようなモノの中に入っているらしい。

 

「展開を待つか、ブチ破って外を出るの二択か......ん?」

 

何やら外から微かに誰かの声が聞こえてくる。

取り敢えず恭一は耳を澄ませて展開を待つ事を選択。

 

「おはよう我が愛しの嫁! 今朝も嫁は世界一美人だなッッ!!」

「も、もうラウラ......毎度毎度、恥ずかしいではないか」

 

テンションが振り切れた声と照れた声。

 

(ラウラと千冬さんの声って事は、ラウラの世界なのか?)

 

「何を照れる事がある! 夫婦は四六時中イチャイチャするものだとクラリッサから聞いたぞ! さぁイチャイチャしようではないか!」

 

(な、なにぃ.....夫婦になるとイチャイチャしっぱなしなのか)

 

クラリッサは恭一にとっても絶対的な先生なのである。

 

「その前に、まずは朝食を済ませるんだな」

 

聞き覚えがある声。

 

「おおパパ! おはよう!」

「ああ、おはようラウラ」

 

(俺も居るんかよ。まぁ悪い気はしねぇがな)

 

この世界は比較的まともっぽい、そう感じた故である。

 

「ふむ.....やはり中東情勢が変わってきているな、我がドイツへの影響は少ないだろうが」

「そろそろ朝食が出来るぞ」

 

ソファーで新聞を読んでいたラウラは恭一の言葉に立ち上がり、トテトテ自分の椅子へ

 

「ふむ。今朝もパパが作った朝食は美味しそうだ」

 

座る事無く、千冬の膝の上に座った。

向かい合わせで。

 

(......何やってんだアイツら)

 

箱の中に居た恭一は微かな隙間を発見し、外の様子を伺っていたのだが。

明らかにラウラが座った位置も体位もおかしい。

 

「さぁ嫁、私はお腹がすいたぞ! まずはこのオムレツを頼む」

「う、うむ......何度やっても恥ずかしいなこれは」

 

ラウラを膝の上に乗せたまま、千冬はオムレツを一口サイズに切り、ラウラの口には持っていかず

 

「.....はむ」

 

まずは自分の口に咥え

 

「んー......」

「うむうむ、いただきます。あ~.....む」

 

口移しでラウラに食べさせた。

 

(めんどくさっ!? 何だその無駄なやり取り!?)

 

食事行程に思わず心の中で突っ込む恭一。

 

「嫁から食べさせて貰うと、パパの料理もまた格別だな♪」

 

千冬の膝の上で嬉しそうに笑う。

 

「わ、私は恥ずかしいんだからな? ラウラの頼みだから仕方なく.....」

「夫婦はこうやって食事を摂るってクラリッサから聞いたからな!」

 

(なんてことだ......)

 

夫婦ってやべぇ。

 

「そうだ、今日は特別休暇が出てな。一日中嫁と一緒に居られるぞ!」

「そ、そうか! それは嬉しいな」

 

(随分とまぁ楽しそうだが俺は何時まで此処に居りゃ良い? 出て行っても良いのか?)

 

ラウラと千冬の楽しそうな会話が続く中、自分が出て行くタイミングを中々掴めないでいる恭一。

 

「......またアレを使うのか、ラウラ」

 

モジモジさせて千冬は問う。

 

「ふふん、当然であろう!」

 

胸を張ったラウラは一枚の紙切れを取り出し、千冬の目の前に掲げた。

 

(こっからじゃ良く見えねぇ.....何て書いてあんだ?)

 

「『なんでもおねだり券』、実行するは我に在りッッ!!」

「ぁぅ.....そ、それで今回は何を『おねだり』するつもりだ?」

 

『なんでもおねだり券』。

結婚記念日に2人が5枚ずつ交換したモノだった。

 

「あ、あまり恥ずかしい事はさせれくれるなよ......」

 

照れと、何処か期待が篭った千冬の声。

 

「そんな可愛い顔をしても駄目だぞ嫁」

 

何をさせるか、少し思案に耽り

 

「今日一日は裸エプロンで過ごして貰おうかッッ!!」

「なっ......」

 

バゴォォォンッッ!!

 

「なんだってぇええええええッッ!!」

 

クローゼットの中からこんにちは。

ラウラの提案に堪らず、ブチ破り出てきてしまった本物の恭一。

 

「へっ、変態だァーーーーーーッッ!!」

 

顔も良く見ずに、本能的にラウラはナイフを投擲する。

当然である。

クローゼットからバスタオル一丁の男が出てきたら誰だってそうする。

 

「甘いぜラウラッッ!!」

 

目の前に迫ったナイフを人差し指と中指で挟み止める。

 

「なっ.....ぱ、パパっ!?」

 

ラウラの表情が驚愕色に染まる。

椅子に座って微笑んでいるパパとクローゼットの中から出て来たパパ。

 

「お前が千冬さんの事を慕っているのは分かる。俺にとってもお前は大事な娘だ。千冬さんが良いと言うなら2人がどんな関係になろうが俺は構わん.....が」

 

其処まで言って恭一は覇気を顕にする。

 

「お前の世界じゃ俺と千冬さんはどんな関係になっている? まるで会話が無いようだが......どういう事だ、あ゛ぁ?」

「ヒッ.....そ、それは」

 

あまりの迫力につい吃ってしまう。

 

パパは私のパパで、私の嫁とは関係無かったはず......ッッ!?

な、なんだ......頭が......きょ、教官?

 

 

『今の私は強くない...私は強くなりたい。今よりもだ。そして...あの少年に認められたいんだ』

 

 

これは私の記憶?

ドイツに居た頃の私と教官の.....。

ドイツに居た?

居たも何も私と教官はずっとドイツに......ッッ

 

 

「今日こそ私の嫁になってもらいますッッ!!」

『私が味噌汁を作る相手は恭一だけだッッ!!』

 

 

そうだ。

私は教官を嫁にするために、挑み続けていたはず。

私は勝ったのか?

勝ったからこそ、私は嫁と夫婦になったのではないか。

ならばいつ勝った?

相手はパパを除いて世界最強のブリュンヒルデ。

そんな相手に私はどうやって勝てたのだ?

 

頭が痛い。

これ以上思い出すな、という警告か。

だが......軍人の私は痛みで屈しはせん!

思い出せラウラ・ボーデヴィッヒッッ!!

 

 

「恭一殿と恋人になったんですか!?」

『ああ....お前にだけは話しておこうと思ってな』

 

 

これは屋上での教官との会話.....。

何処の屋上なんだ、私はどうしてこんな服を着ている?

 

 

『これで名実共に私は恭一のモノになった訳だが....それでも私をまだ求めるか?』

「当然でしょう。此処で諦めるのなら私はIS学園に来てませんよ」

 

 

IS.....学園.....私は軍で教官と出会って......ッッ

パパは?

私はパパと何時何処で出会った?

どうしてパパになったんだっけ......。

 

震えるラウラの両肩を恭一は強く掴む。

 

「俺は誰だラウラ」

「パパは......」

「俺はどんな男だ? お前の世界一偉大なパパはどんな男だッッ!?」 

「......パパは」

 

 

『お前の人生だろうが!! お前が本音で生きねぇでどうすんだ!?』

 

 

「私のパパは......」

「あんな覇気もクソ程感じねぇ主夫か!? お前の知るパパはあんな南米の主夫層辺りで八位呼ばわりされてるような顔してンのかッッ!?」

 

 

『この世界を目一杯楽しんでやんだよッッ!! 何処までも好きに生きてやるぜ俺はな!!』

 

 

ラウラの瞳に魂が篭る。

 

「私のパパは『超天上天下超唯我独尊男』だッッ!!」

 

そう叫んだラウラは椅子に座っている恭一を睨んだ。

 

「貴様のような優男はパパじゃない! そして貴様もッッ!!」

 

もう1人は織斑千冬の姿をしたモノ。

 

「私が敬愛する誇り高き教官などではないッッ!!」

 

ラウラの言葉を受け、それまで微笑んでいたキョウイチとチフユの目が金色に変わる。

 

『ワールド・パージ、異常発生。ショウガイハイ「やかましいわ」ッッ!?』

 

キョウイチは言い終わる前に恭一に胸を貫かれて、バラバラ崩れていく。

同じくチフユもラウラのIS武器『プラズマ手刀』で切り裂かれた。

 

.

.

.

 

「私は幻惑に囚われていたのか......」

「まぁそんなトコらしいな。俺も詳しくは分からんがね」

 

悔しさからか、それとも不甲斐なさを感じているのか、ラウラは俯いたままだ。

恭一はそんなラウラの前まで行って

 

ピンッ

 

「あうっ.....」

 

軽くデコピンし

 

「次は惑わされねぇ。そうだろう?」

「パパ......う、うんっ! 次は絶対に騙されてやるものか!」

 

恭一の一言でいつもの快活なラウラに戻ったようだ。

 

「それで、どうしてパパはそんな格好をしているんだ?」

「あん?」

 

ラウラに言われて自分の今の姿を確かめる。

上半身を曝け出し、下半身はバスタオルに包まれた姿。

 

「完全に忘れてた」

 

しかし今居る世界は家の中である。

服くらい探せば簡単に

 

 

ゴゴゴゴゴ......

 

 

「むっ.....部屋が崩れ出したぞ!?」

 

光り輝く扉の出現と共に、崩壊の兆しが。

 

「ち、ちくしょうッッ!!」

 

泣く泣く恭一はラウラの手を引っ張り、扉へダッシュ。

2人を光が優しく包み込み、元の場所へ帰還する事に成功した。

 

 

________________

 

 

 

『.............お疲れ様』

 

2人を出迎えた労りの言葉。

それでもやっぱり視線は合わせてくれない簪だった。

バスタオル一丁のままでは仕方ない。

 

「説明は現実世界で簪から聞いてくれ。俺は次に行かなきゃなんねぇ」

「私もパパに付いて行くぞ!」

 

フンスッとやる気を見せるラウラだが

 

『それは駄目』

 

簪からの待ったが掛かる。

 

「な、何故だ!?」

 

『精神攻撃を受けた影響があるかもしれない、ラウラは一度帰還して』

 

「くっ.....了解」

 

無いとは言い切れない。

もしも本当に影響があれば、恭一に付いて行っても足手纏いになるだけだ。

故にラウラは引き下がるしか無かった。

 

「簪、服くれよ」

 

『......現地調達で』

 

時間を置いてみても彼女からの返事は変わらなかった。

 

「はぁ.....出来れば今度も屋内が良いなぁ」

 

トボトボ扉の方へ向かう恭一。

 

「パパ!」

「ん?」

「助けに来てくれてありがとう! パパの優しさは南半球を駆け抜けてるな!」

 

にっこり笑顔のまま光の粒となって消えていくラウラ。

 

「アイツめ、言葉遊びが上手くなったな」

 

娘の成長にほんのりホロリ。

恭一は両頬を叩き、気合を入れ直す。

 

「うしっ! んじゃ、行ってくるぜッッ!!」

 

『行ってらっしゃい渋川君!』

 

扉の先では、果たして誰の世界が待っているのだろうか。

 

(織斑、鈴、ラウラと来たが。今ン処、なんだかんだキツかったのは織斑だけだな)

 

次も誰の世界かは知らんが、あれ以上の精神攻撃はもう無いだろう。

そう思った恭一の足取りは軽かった。

 





まともなワールド・パージは一旦、此処までかもしれないです(^q^)

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