野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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ポロリもあるよ、というお話



第105話 ビバノンなワールド・パージ

「.....何で中学のセーラー服?」

 

光に包まれたと思ったら、あたしは一夏と通っていた中学の教室に居た。

 

「何の目的かは知らないけど、やたら凝ってる罠ねぇ」

 

自分の記憶通りの風景に警戒心を強める鈴。

 

(.....ISのブレスレットが無くなっている)

 

この状況で敵と鉢合うのはマズいわね。

まずは、この場所からの離脱を考えるべきかしら。

 

鈴は教室のドアに向かった。

 

―――ガラガラ

 

「え?」

 

鈴よりも一瞬早く、反対側からドアを誰かに開けられた。

 

「待ったか、鈴」

「い、い、一夏ぁ!?」

 

其処に立っていたのは、同じく中学の学ランを着た一夏だった。

 

 

________________

 

 

 

「何処だ此処?」

 

簪からのエールを受けた恭一は扉をくぐると、またもや見た事も無い街中に出て来た。

 

「織斑の世界でも勝手に向こうから来たしなぁ」

 

今の時点では、恭一は誰の夢の世界に来ているのか分からない。

 

「前みたいに適当にブラついてりゃ良いのか? それとも叫びまくって俺の存在を知らせた方が良いのか?」

 

自分が取るべき行動は何だ。

うむむ、と悩む恭一の視界の先に

 

「自動販売機発見! 直ちにコーラを確保せよッッ!!」

 

一瞬で目的を忘れる恭一だった。

 

 

________________

 

 

 

「一夏.....?」

 

夕暮れの教室。

今、この空間に存在しているのはあたしと一夏だけ。

 

「なんだ、鈴?」

「えっとね......な、なんだっけ? あははは.....」

「何だよ、おかしな鈴だな」

 

一夏と2人きりなんて、緊張しちゃうじゃない。

 

「一緒に帰る約束してただろ? 俺達付き合ってるんだし」

 

付き合っている?

一夏が?

誰......と。

 

鈴の頭に無音のノイズが走る。

 

(いっけない! あたしってば何、当たり前な事忘れてんのよ!)

 

「そ、そうね! ちょっとボーッとしちゃってたわ」

 

鈴はごまかし笑いをしながら、自分の机に腰掛ける。

 

「鈴」

「な、なにっ?」

 

(付き合っているのに、2人きりだとまだ緊張しちゃう)

 

声が裏返り、余計に鈴は恥ずかしくなる。

 

「隣り、座っても良いか?」

「す、好きにしなさいよ」

 

一夏は微笑むと鈴の隣りに座って、体を密着させた。

 

はわっ.....はわわ.....。

一夏の体温が、あたしにまで伝わってくる。

 

このままでは自分の鼓動まで一夏に聞かれそうで、動揺を抑えるので精一杯な鈴。

 

「なぁ.....鈴」

「な、なに?」

 

そっと耳元で囁かれる。

 

「今から鈴の家に行っても良いか?」

「へっ.....?」

 

『今日からウチの親、旅行に行っててさー。あたし1人なのよねぇ』

『ふーん』

 

朝に一夏とこんな話をした気がする。

そうだ、あたしは一夏を直接誘うのが恥ずかしくて遠回りにアピールしたんだった。

恋人同士、両親の居ない家で2人きり。

 

(これって.....一夏も分かってるって事よね)

 

チラリと見ると、相変わらず一夏は微笑んだままだ。

 

(~~~~~ッッ!!)

 

これからの事を想像してしまい、鈴は耳まで真っ赤にして俯いてしまう。

 

「いいよな、鈴?」

「.....う、うん」

 

一夏の声に、鈴は小さくコクリと頷いた。

 

 

『ワールド・パージ、完了』

 

 

鈴の頭の何処かで、何かが聞こえた気がした。

でも、今はそれどころじゃない。

 

(か、可愛い下着に履き替えなきゃ.....いやまずはシャワーを浴びる方が良いのかしら)

 

そんな事で既に頭がいっぱいだった。

 

.

.

.

 

「さっきまで、あんなに晴れてたじゃない!」

 

ざあざあ降り続ける雨の中、鈴と一夏はカバンで頭をガードしながら走っていた。

 

「止みそうにないぞ、鈴っ!」

 

走りながら、そう言う一夏。

彼の言う通り結構な土砂降りであり、すぐには晴れそうに無かった。

 

「あーもうっ! このまま、あたしン家まで駆けて行くわよ!?」

 

雨宿りしても意味が無いのなら。

少しでも早く、家で2人きりになれるのなら。

シャワーを浴びる口実が作れるのなら。

 

びしょ濡れになったって構わない。 

 

「おう、分かった! なら急ごうぜ!」

「......ッッ」

 

自然に手を握られ、ドキリとする。

それでも鈴も力強く握り返し、2人は手を繋いだまま走った。

鈴の家を目指して。

 

 

________________

 

 

 

「どわああああああッッ!? 何で突然スコール!?」

 

轟々土砂降りの中、もう1人の男も宛も無く駆けていた。

 

「アレか!? 自販機を壊したのがイカンかったんか!?」

 

コーラを買うにも、財布は現実世界に置いてきていた恭一。

此処でも自分は、コーラを買う事を許されないのか。

奥歯を噛み殺し、血が滲む程拳を握った処で

 

「.....電脳世界なら別に気にしなくても良くね?」

 

電脳世界は現実世界では無い。

むしろこの世界は、誰かの夢の中なのだ。

 

それからの恭一の行動は早かった。

 

「いやっふぅううううううッッ!!」

 

自販機の土手っ腹に勢い付けて飛び蹴り。

へこみ歪んだ箇所に指を突っ込み、無理矢理扉をこじ開け

 

「コーラだけ! コーラだけだから!」

 

誰に対する言い訳なのか。

兎にも角にもコーラをゲット出来た恭一だった。

 

.

.

.

 

「こうもびしょ濡れだと、鬱陶しいったらねぇな.....ん?」

 

中華料理『鈴音』

 

そんな看板が恭一の視界に入る。

 

「中華に鈴の名前、ね」

 

これは偶然では無いだろう。

 

「此処は鈴の世界なのか?」

 

店の扉に手を掛けると、簡単に開いた。

 

「リーン! 居るのかー!?」

 

反応は特に返ってこない。

 

(どうする.....? 他を当たってみるか?)

 

「へぁ.....ヘァックシュッ!! ううっ.....何でこういう処までリアルなんだよ」

 

雨の中走っていた身体は冷え込み、恭一は自然にブルブル震えていた。

 

「しゃあねぇ、タオルかなんか拝借すっか。お邪魔すんぞリーン!」

 

もう一度大きな声で確認してみるが、やはり返事は無かった。

 

 

________________

 

 

 

「はー、やっと着いたな」

「う、うん」

 

2人の前には鈴の家、中華料理屋『鈴音』。

鈴と一夏は店から母屋に入って、リビングまでやって来て立ち止まった。

2人共、雨に打たれびしょ濡れである。

 

「このままじゃ風邪引いちゃうわね。い、一夏シャワー貸してあげるわ」

「ん? お前だってビショビショじゃないか。先に入れよ」

「あ、あたしは乾いた服あるから! アンタは濡れた服のままじゃダメでしょ!?」

「なら一緒に入るか?」

 

.........。

 

ボンッ!

 

ナニを想像したのか、鈴の顔が耳まで紅潮する。

 

「バカバカ一夏のスケベ!」

 

鈴は思いっきり一夏の足を踏んで、自分の部屋へ逃げようとする。

が、腕を掴まれてしまった。

 

「悪い悪い、でも俺なら大丈夫だから先に浴びて来いよ。お前に風邪引かれたら俺は悲しいぜ?」

「一夏.....う、うん。分かった」

 

鈴は急いでタオルだけ渡し

 

「すぐ上がるからね!」

「ああ」

 

一夏と別れた鈴は

 

(一夏ってば優しいんだから! ちょっとスケベだけどそんな処もあ、アリよね)

 

脱衣所に着いた鈴は、服を

 

(おっと.....先にシャワーだけ出しとこ)

 

脱ぐ前に浴室の扉を開いた。

 

ガチャ

 

「おう、鈴。風呂借りてんぞ」

「んもう、あたしも入りたいんだから早く出なさいよね」

 

バタン

 

 

 

「.......?.........ッッッ!?!?」

 

 

 

ガチャッ!!

 

「何やってんのよアンタあああああああッッ!!」

 

一度閉めたドアをもう一度開ける。

其処にはまったり湯船に浸かっている恭一の姿が。

浴槽たっぷりお湯が張られており、アヒル隊長を遊ばせている恭一の姿が。

しっかりと首まで浸かってブクブクしている恭一の姿が!

 

「アンタほんとバカじゃないの!? なに無邪気にアヒルと戯れてンのよッッ!! 此処はあたしのっ.....ッッ」

 

言い掛けて妙な違和感を感じた。

 

あたしの家は此処だったか?

中国にあるんじゃ.....いや、日本に家族と一緒に......いつ?

あれ?

あたしはこの目の前の、底無しアホといつ知り合ったんだっけ?

 

「どうした鈴ッッ!?」

「い、一夏.....?」

 

鈴の声に導かれるように一夏が浴室までやって来た。

 

「誰だこの男?」

「は? 何言ってんのよ一夏、コイツはあたし達の―――」

 

あたし達の......何だっけ。

 

(ううむ。織斑の世界じゃ俺がニセモノだったが、この世界じゃ織斑がニセモノなんか)

 

恭一は考える。

自分が取るべき行動を。

 

(有無を言わさず、ぶっ飛ばしちまっても良いが.....)

 

「おい、織斑。なんでお前が此処に居る? お前は鈴の何なんだ?」

 

湯船に浸かったままのセリフである。

普通に考えて、一夏が言って良い言葉を何故か不遜な態度で宣う恭一。

 

「俺は鈴の彼氏だ!」

「.......」

 

恭一は不思議そうな顔で鈴を見つめる。

 

「お前から告白したんか、鈴?」

「それはっ.....ッッ」

 

あたしから告白したんだっけ?

それとも一夏から?

どうして思い出せないの?

 

頭を抱える鈴に

 

「何だったか....ああ、そうだ.....ゴホンッ」

 

恭一は何かを思い出し、ひとつ咳を入れ

 

「『料理が上達したら、毎日私の酢豚を食べてくれる?』だったよな、確か」

 

ピクンッ

 

鈴の身体が反応した。

 

(そ、そうよ! あたしは確か一夏に、そう言って告白したんだった!)

 

「んで、結果はどうだったよ鈴?」

「結果も何もその告白で―――」

「あの時、お前が怒り狂ってたのは何でだ?」

 

あたしの告白を受け入れてくれて、あたし達は付き合い始めた。

そう言おうとした鈴の言葉を恭一は遮る。

 

(あたしが怒り狂う? 何で? だってあたしの告白は―――)

 

「おい織斑。さっきの俺が言った言葉の意味、分かるか?」

「当たり前だろ。日本で言う味噌汁のヤツさ」

 

したり顔で当然だ、と言う一夏に対し

 

「ダウト1億ッッ!! 思い出せ鈴! 織斑一夏はこんな恋愛熟練者っぽい奴だったか!? アイツは『ネアンデルタール人』読んでねぇんだぜ!?」

 

別に『ネアンデルタール人でも分かる恋愛指南書』を読んだ者が恋愛熟練者になれる訳では無い。

そして読んでなくてもあんまり関係無い。

しかし、恋愛初心者恭一にとっての『バイブル』だった。

 

 

一夏は.....。

 

「お前は俺と箒の前で、ブチギレてただろうがッッ!!」

 

あたしの好きな一夏は......。

 

「『毎日酢豚を奢ってくれるなんて、ありがたい』って言ったのは誰だ!?」

 

鈴の頭に忘れていた記憶が駆け巡る。

主に怒りによって。

 

そうよ.....そうだったわ。

あたしの一世一代の告白を、あの鈍感バカ男は。

 

乙女の感情を踏み躙られた、あの時の怒りが再び込み上げてくる。

 

「HAHAHA! そんな事を言う奴の顔が見てみた「アンタでしょうがッッ!!」ぷげらっ!?」

 

欧米人の如く小粋に笑う一夏の頬を、思いっきりグーで殴り飛ばした。

 

「気持ちがノッた、良い踏み込みだなァ」

 

そんな様子をのほほん気分で眺めている恭一。

 

「聞きたい事は色々あるけどね。とりあえずアンタは何時まで浸かってンのよ?」

 

殴り飛ばした事で幾分溜飲が下がったのか、少し落ち着きを取り戻したようだ。

 

「さて.....な」

 

恭一は吹き飛ばされた一夏から目を離さない。

それを受けて、鈴も視線を戻した。

のそりと立ち上がる一夏の目が、金色に変わる。

 

 

『ワールド・パージ、異常発生。ショウガイハイジョ』

 

 

無機質な声が響く。

 

「もう分かってるとは思うが、アイツは織斑じゃねぇニセモンだ」

「.....でしょうね」

 

目の前の金色の目をした者は、確かに一夏の声ではある。

だが、似ても似つかない響きをしていた。

 

「どうするね?」

「ふん」

 

恭一の言葉に鈴はIS『甲龍』を展開。

 

「あたしを惑わせた罪、しっかり落とし前付けて貰うわよッッ!!」

 

ニセ一夏は、鈴による最大出力衝撃砲を喰らい、まるでレンガのようにバラバラになった。

それと同時に、部屋も崩れ始める。

 

(やっぱニセモンぶっ倒せば脱出出来るっぽいな)

 

「うしっ! こっから出るぞ鈴!」

 

勢い良く立ち上がる恭一。

 

「ナウマンっ!? ちょっ.....下隠しなさいよアンタァ!!」

「へぁ?」

 

水も滴る良い漢。

恭一は生まれたままの姿を鈴に惜しみ無く、余す処無く披露した。

 

「キャーーーッ!! 鈴のエッチスケッチワンタッチッッ!!」

「リアクションがキモチワルイし古臭いのよッッ!!」

「へぷっ!?」

 

投げつけられたバスタオルは恭一の顔面にクリーンヒット。

 

「よいしょ......っと」

 

バスタオルを腰に巻き、気を取り直して

 

「今度こそ行くぜ、鈴!」

「ああもう、分かったわよアホ恭一!」

 

ドアに向かって走り出す2人。

1人はセーラー服に身を包み、1人はバスタオルに下半身を包み、彼らは走る。

そんな2人を光が優しく包み込んだ。

 

 

________________

 

 

 

『...............お疲れ様』

 

長い沈黙の後に労いの言葉をくれるも、視線を合わせてくれない簪。

 

「フッ......鈴を助けた代償がコレだよ」

「アンタ風呂に入ってただけでしょうがッッ!!」

 

やれやれと肩を竦める恭一の背中を叩く鈴。

恭一の上半身は裸なままなので、小気味良い音が鳴った。

 

『とりあえず鈴はこっちに戻ってきて。渋川君は引き続き救出をお願い』

 

「それは良いんだけどよ、なんか服くれねぇか?」

 

流石にバスタオル一丁で行くのは嫌すぎる。

室内ならまだしも、屋外だったら中々に変態である。

自分にそんな趣味は無い。

 

『......現地調達で』

 

「うっそだろお前......」

「あっはっはははは! シュール過ぎんでしょそれ!? ケラケラケラ!」

 

仲間のピンチに駆け付けるバスタオル一丁の男、渋川恭一ッッ!!

鈴は、想像して大爆笑である。

 

「チッ.....さっさとアッチ行け鈴」

 

少し拗ねてしまう恭一だった。

 

「んもうっ.....なに情けない後ろ姿見せてんの、よ!」

 

バチンッ!

 

心無しか丸くなった恭一の背中をもう一度叩く。

今度は激励の意味を込めて。

 

「アンタの言葉が無かったら、あたしはあの世界に囚われたままだったわ。ありがとね、恭一!」

「ハッ......何のことやら」

 

そんな事は知らんと恍けてみせる恭一に鈴は、にひひっと笑い光の粒となって消えた。

 

「ウダウダ言っても仕方ねぇってか」

 

鈴からの叱咤を受けた恭一は両頬を叩き、気合を入れ直す。

 

「うしっ! んじゃ、行ってくるぜッッ!!」

 

『行ってらっしゃい渋川君!』

 

扉の先では、果たして誰の世界が待っているのだろうか。

 

(そんな事よりまずは服だな)

 

懸念事項が1つ増えた恭一。

そんな彼の手が扉の前でピタリと止まる。

 

「......コーラ飲んでねぇ」

 

恭一はコーラを冷蔵庫に冷やしていたのだ。

雨の中で飲むよりも、お風呂上がりにキュッとイキたかった故。

ちなみに冷蔵庫は当然人様の、というか鈴の家の冷蔵庫である。

 

「やっぱり悪い事したら駄目なんだな.....うん」

 

仮想世界だろうが犯罪は犯罪。

そのような不埒者にコーラの神様が、どうして微笑んでくれようか。

恭一は鈴の世界でまた1つ賢くなった。

 




ホラ、見ろよ見ろよ。
えっちな原作に負けない無修正だゾ、嬉しいダルルォ!?


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