野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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たまげるしかない、というお話



第104話 絶対に引いてはいけないワールド・パージ

「ムシャムシャ! ングング! アグアグ!」

 

観賞用巨大スクリーンモニターの前でお菓子を頬張る、ウサ耳カチューシャを着けた天災博士篠ノ之束。

 

「んー、ンまいっ! やっぱり柿ピーはワサビ味に限るねぇ」

 

束は袋ごと口に持っていき、サーッと口の中へ。

 

「ハグハグ! くぅ~~~っ.....この鼻にくる感じが堪りませんなぁ♪」

 

ムシャムシャ食べ終わると、瓶コーラを流し込んだ。

 

「けぷっ.....それにしても、意外と早い帰還だねぇキョー君」

 

モニター内ではオペレーションルームで電脳ダイブの説明を受けている恭一の姿が。

 

 

---姉ちゃん電話だぜ、姉ちゃん電話だぜ

 

 

「むむっ.....クーちゃんからのコールだ! もすもすひねもすぅ~、クーちゃんのお姉さんだよ~」

『も、もすもすこきゅーとすぅ~.....貴女のか、可愛い妹く.....クーちゃんですよ~』

 

顔を見なくても声だけで照れているのが分かる。

電話での最初のやり取りは、こうしないと束が拗ねてしまうのだ。

 

「むふんっ♪ それで、どんな感じかな?」

『はい。箒お姉様達は皆『ワールド・パージ』が開始されました』

「むっふっふ~......盛り上がってきたねぇ」

 

【ワールド・パージ】

電脳世界にて相手の精神に干渉する事で幻影を見せる能力。

それは夢に似たモノであり、本能に訴える技とも言える。

己の心の内に秘められている、自分でも気付いていない程の無意識な『本音』、『願望』が『ワールド・パージ』によって作られた世界で顕現される。

自分の脳が造り出した妄想世界、と言っても良いのかもしれない。

 

「多分、キョー君が皆の世界へ行くんだろうけど。キョー君は、終わる事の無い幸せな世界を叩き壊せるかな?」

 

束はクロエとの電話を切ると嬉しそうに、まだ開けてない袋を手に取った。

 

「ポップコーンはバターしょうゆ味が一番、はっきり分かんだね」

 

それはクロエが楽しみに取っておいた物であった。

 

 

________________

 

 

 

恭一がまだ現実世界で簪から電脳世界へのダイブの説明を受けている頃。

 

「ん......」

 

扉をくぐり終えた一夏は眩しい光が収まったのを確認して、ゆっくりと目を開けた。

彼は扉をくぐってすぐに意識が飛ぶような感覚があり、そのまま光に包まれたのだった。

 

「いったい何が起こったっていうんだ?」

 

周囲をキョロキョロ見渡してみる。

 

「何処だ.....此処は」

 

どうやら自分は建物の内部に居るようだが、何とも周りはメカメカしい。

そう、ゲームや映画などで見た事のある基地っぽい場所だった。

一夏は歩きながらも、自分の服装が変わっている事に気付く。

 

「.....何だこの......なんだ?」

 

何かの戦隊モノの隊員が着てそうな服。

それを何故か自分が着ている。

 

「???」

 

取り敢えず、歩くしかない。

 

「.......」

 

リアルだ。

あまりにも、限りなくリアルだった。

湿度、温度、微妙な空間の匂いまでが伝わってくる。

 

「ISは.....」

 

『白式』を呼び出そうとしても、待機形態のガントレットが見つからない。

 

「どうなってるんだよ.....」

 

今の一夏の隣りには、頼れる仲間もISも居ない。

食堂やオペレーションルームでは啖呵を切ったが、訳が分からない空間で1人を強く感じさせられた一夏は少し恐怖心を抱いてしまった。

 

キュイン

 

近くの扉が開き、咄嗟に身構える。

 

「おっす相棒! なにシケたツラしてんだい?」

 

陽気な声と共に手を上げ現れた者。

 

「きょ、恭一!? うわっ.....とぉ!」

「へへっ、ナイスキャッチ」

 

笑顔でコーラを投げ渡してきた恭一の姿が其処にはあった。

 

「な、何で恭一が此処に居るんだ? お前、学園外に出てたんじゃ」

「あん? 学園? 何言ってんだ相棒、頭でも打ったんか?」

 

一夏の隣りに腰掛ける恭一は、呆れ顔でそう言う。

 

「いや今.....って何だよその相棒って?」

「オイオイそりゃ無いぜ! 俺達は2人合わせて何て呼ばれてんだ? それまで忘れちまってるなら、俺だって怒るぜ?」

 

俺と恭一2人合わせて?

何て呼ばれてるんだっけ。

2人で......。

 

一夏の頭に無音のノイズが走る。

 

(そ、そうだった! 何で俺は、こんな当たり前な事忘れちゃってたんだよ!)

 

「わ、悪い恭一! 何かボーッとなってたみたいだ、すまん!」

「頼むぜ相棒? お前がいねぇと奴らから平和な世界を守れねぇんだからよ」

 

そうだ。

俺達は世界征服を企む悪の秘密結社『メガデス』から、皆を守る正義の味方なんだ!

俺と恭一は数年前に『メガデス』に拉致され、世界征服の戦力となるよう『超人サイバーZ』に改造されてしまったんだけど、何とかアイツらの元から脱走に成功した俺達は、この力を正義の為に使おうと2人で誓ったんだ!

 

 

ビーッ!! ビーッ!!

 

 

基地内に警報が鳴り響く。

すると、2人の前に空中投影ディスプレイが出現し、軍服に大きなマントを身に纏った我らがキャプテンである千冬が映り出された。

 

『街中で、10回刺されないと死なないザ・フジミと呼ばれる【怪人ホモォン】が暴れているとの情報が入った。お前達の出番だ!』

 

「「 了解ッッ!! 」」

 

「いくぜ、相棒!」

「おう!」

 

千冬キャプテンの言葉に、熱く応えた一夏と恭一。

 

 

『ワールド・パージ、完了』

 

 

一夏の頭の何処かで、何かが聞こえた気がした。

でも、今はそれどころじゃない。

 

(皆は俺が、俺達が守るッッ!!)

 

一夏と恭一は颯爽と飛び立った。

 

 

________________

 

 

 

『急げ一夏、恭一! 既に民間人の何人かが怪人ホモォンの手により、芸術品に仕立て上げられたらしいッッ!!』

 

「なんてことを......」

 

現場に急行しながら、千冬の言葉に憤怒する一夏。

 

「急ぐぜ、相棒!」

「おう!」

 

.

.

.

 

「逃げんじゃねぇよ!」

「ああっ!? 逃げられない!!」

 

怪人ホモォンにより、青年五反田弾は手足を大の字に縛られ、決して逃れる事を許されない。

 

「何だァ? その反抗的な目はァ.....これが何だか分かるかァ?」

「.....何すんだよ」

 

怪人ホモォンの手には大量の洗濯バサミ。

 

「お前を芸術品に仕立てあげ.....仕立てあげんだよォ!」

「フザケンナ!」

「お前を芸術品にしてやんだよ!」

「フザッケンナ!」

 

弾の迫真の抗議も虚しく、まずはお腹の部分を洗濯バサミによって

 

「お前を芸術品にしてやるよ!」

「フザケンナ! ヤメロバカッッ!!」

 

無情にも挟まれてしまった。

 

「あぁっ!?」

 

それから幾つもの洗濯バサミが彼を襲う。

 

「最後の一発くれてやるよッッ!!」

 

残り2本の洗濯バサミは、彼の両方の二の腕を挟んだ。

 

「くそっ.....てめぇ.....ぼえてろッッ!!」

 

弾は気を失ってしまった。

其処で漸く到着した一夏と恭一。

 

「なんてことを......」

「人間の屑がこの野郎.....」

 

「むっ.....現れたな裏切り者共め!」

 

2人の登場に怪人ホモォンは顔色を変えた。

 

「相棒!」

「おう!」

 

「「 変身ッッ!! 」」

 

一夏と恭一が金色の輝きに包まれる。

光と共に2人の姿が徐々に顕になる。

全身を赤と黒の輝きで纏われたライダースーツ。

真ん中の黄金ベルトがイカしてるぜ。

 

「超人サイバーZ01ッッ!!」(一夏)

「超人サイバーZ02ッッ!!」(恭一)

 

其々がポーズを取る。

 

「1000の技を持つ男ッッ!!」(一夏)

「1000の力を持つ男ッッ!!」(恭一)

 

再びポーズをかえる。

 

「「 悪は絶対許さない! 正義の味方!! 」」

 

ババンバンババンッッ!!

 

「「 2000万パワーズ参上ッッ!! 」」

 

ドドドーンッッ!!

 

2人の怒涛の決めポーズに

 

「な、なんという迫力だぁぁ......」

 

怪人ホモォンは既に及び腰である。

そして、それを木陰から覗いている1人の少年。

 

「う、うわぁ......」

 

本物の渋川恭一、心の奥底から最高にドン引き。

クモの糸よりもか細き声であった。

そんな恭一が超絶嫌々見守る中、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「「 いくぞ怪人ホモォンッッ!! 」」

 

「さあ来い、2000万パワーズ!! オレは実は1回刺されただけで死ぬぞォ!!」

 

斬ッッ!!

 

「グアアアアッッ!」

 

跡形も無く消滅する怪人ホモォン。

 

「「 やったぜッッ!! 」」

 

「ありがとう! 正義のヒーロー『2000万パワーズ』!!」

 

捕らわれていた人々も皆、無事助けられた。

 

 

―――こうして世界の平和を日々守り続けている男達が居る。

敵は確かに巨大な悪の大組織。

でも、人々は信じている。

何時の日か、きっと彼らが打ち破ってくれる事を。

そして、皆が笑顔で暮らせる平和な世界を―――

 

 

「うっぜええええええッッ!! 何ださっきから、この耳鳴りみてぇなナレーションはよぉッッ!!」

 

此処まで色んな意味で我慢していた本物の恭一が、響き渡る声にとうとうブチギレた。

 

「てめぇコラァ織斑ァ!! 寝ぼけた事やってンじゃねぇぞゴラァァァァッ!!」

「へっ....?」

 

一夏が驚きで目を見開く。

突然、木陰から現れたのはもう1人の恭一だった。

 

(あの服は.....IS学園の......制服?)

 

IS学園?

ISって何だっけ。

俺は.....。

 

一夏は靄がかかった記憶を思い出そうと

 

 

『ワールド・パージ、異常発生。異物混入。排除開始』

 

 

「ぐっ.....があああああッッ!?」

 

い、痛てぇ! 痛い痛い痛い!

頭が割れそうだ! 外からも内からも痛てぇ!

 

(な、何なんだよ!? 何がどうなってんだよ!?)

 

一夏が激痛で苦しみ藻掻いている前で『超人サイバーZ02』のスーツを纏った恭一とIS学園の制服を纏った恭一が対峙する。

 

「メイレイスイコウ。ショウガイハイジョ」

 

先程まで一緒に戦っていたキョーイチから無機質な声。

そして、そんなキョーイチを鬼の形相で睨むもう1人の恭一。

 

「てめぇ.....何が1000の力だ、あ゛ぁ?」

「ハイジョ.....シッコウッッ!!」

 

キョーイチは恭一に向かって『サイバーブレード』を振り下ろした。

 

「ふん」

 

それを素手で容易く掴み握った恭一は、放さずに

 

「俺の力はなァ.....数値で測れるようなモンじゃねぇんだよッッ!!」

 

そのまま引き寄せると同時に、恭一も踏み込み下半身に込めた万力を拳へ伝わらせ

 

「仮に測れてもそれは―――」

 

キョーイチの土手っ腹に向かってアッパー気味に拳を

 

「100億超億万兆だコラァァァァァッ!!!」

 

ズガゴォォンッッ!!

 

「――――――ッッッッッ!?!?!?!」

 

喰らったキョーイチは地平線の彼方まで吹き飛ばされていった。

 

(きょ、恭一が恭一に吹き飛ばされた!?)

 

「んで.....テメェはまだそんな腑抜けたツラしてやがんのか、あ?」

 

目の前の恭一は、未だ鬼の顔である。

 

「簡単に1000の技とかほざきやがって.....テメェの必殺技っツったら『零落白夜』だろうがッッ!!」

「れい....らく.....びゃくや?」

 

思い出せ。

目の前の恭一の姿をした男が口にした言葉を。

俺はその言葉を知っている筈なんだ!

 

「ううっ......ぐうっ......」

「.....そうか。口で言っても分からねぇなら身体で思い出させてやるしか無いな」

 

―――ダラリ....

 

「......?」

 

腕をだらんと下げた恭一に一夏の本能が反応する。

 

―――だら....ゆらり....

 

一夏自身は目の前の動きを思い出せない。

だが、細胞は既に思い出している。

その証拠に、記憶にない筈なのに全身から大量の汗が吹き出ているのだ。

 

ゆらり、ゆらり―――と

 

「殺傷力は低く.....苦痛は絶大.....」

「ッッッ!?!?!?!?」

 

.

.

.

 

それはまだ『たんれんぶ』という部活が出来ておらず、メンバーもシャルロットと鈴が加入していない頃の事だった。

 

「織斑も加わった事だし、恒例のあの技を教えるか」

 

軽い口調でそう言った恭一だったが、次の瞬間。

 

「お、おねぇーーちゃぁぁぁぁぁんッッ!!」

「だ、大丈夫! 大丈夫だから! 落ち着いて簪ちゃんッッ!!」

 

大泣きして楯無に抱き付く簪をしっかり受け止め、抱きしめ返す。

 

「えっ?」

 

急にどうしたんだ、と一夏は戸惑う。

 

「.....私の後ろに隠れてどうするラウラ」

「ううっ.....」

 

千冬の背中にしがみついて離れようとしないラウラ。

 

「.....ええ?」

 

(一体何で皆、そんな感じになってるんだ?)

 

「おーい、セシリアー.....帰ってこーい」

「........」

 

箒が身体を揺すってみても、白目を剥いたセシリアの口からは煙がモクモクと。

 

「.....嫌な予感しかしないんだけど」

 

一夏の心境は、驚きから既に恐怖へ変わっていた。

 

「空道秘拳『鞭打』。取り敢えず身体で学べ」

「へっ? ちょっ.....まっ」

 

ベチィィィィィッッッ!!!

 

「ほぎゃわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!」

 

皆の反応の意味をよく理解した一夏だった。

 

.

.

.

 

「思い出したあああああああッッ!! 俺は全てを思い出したから『鞭打』だけはヤメてくれ恭一ィィィィィ!!!」

 

―――ピタッ

 

目の前で揺らめいていた恭一の動きが止まった。

一夏の顔をジッと凝視する事、数秒。

 

「.....ふん、確かに瞳に魂が戻ったみてぇだな」

 

ゴゴゴゴゴ.....

 

一夏の記憶が正常に戻ったと同時に、周りの景色も崩れ始める。

 

「ちっ.....まずは此処から出るぞ織斑!」

「あ、ああ!」

 

景色と一体化していた扉に向かって2人は走り、光に包まれた。

 

 

________________

 

 

 

「此処は.....」

「どうやら最初の場所に戻って来れたみてぇだな」

 

2人が出てきた扉は光の粒になって消えた。

 

『大丈夫? 渋川君、織斑君』

 

サポーター役である簪の心配そうな顔がディスプレイに映る。

 

「おう、俺も織斑も大丈夫だが。一体ありゃ何だ? 簪なら分かるか?」

 

恭一の疑問に簪は少し目を瞑り、ゆっくりと自分の考えを語りだした。

 

『恐らく対象者の精神にアクセス.....心の奥底の秘めた願望を見せる事で外界と遮断させてしまおうという敵の攻撃、だと思う』

 

「.....お前は違和感は感じなかったんか?」

「いや最初は違和感あった筈なのに、気付いたら何も思わなくなってたんだ。何ていうかアレに似てる、夢を見てる感じだ」

 

確かに夢の中じゃ、有り得ない事も何故か受け入れてしまう傾向が強い。

 

『取り敢えず織斑君は一旦帰還して。何らかの影響を受けている可能性も否定出来無い』

 

「「 分かった 」」

 

簪の言葉に一夏と恭一が返事を。

 

『渋川君は引き続き他の皆の救助へ』

 

「絶対に確実に俺は影響を受けている。精神的苦痛を受けているッッ!! すっごいメンタルダメージを受けたんだッッ!! そうだろおりむ―――」

「助けてくれてサンキューな、恭一!」

 

笑顔で光の粒となり、電脳世界から消えていく張本人。

 

「.....躱し方が上手くなりやがったなアイツ」

 

友の成長が嬉しいような、この場では憎たらしいような。

 

「まぁ今は良いとして」

 

恭一は改めて、自分達が出てきた扉の場所を見てみる。

1つは先程消えたが、まだ6つも残っているのだ。

 

「......行きたくないでゴザル」

 

一夏の夢(?)を堪能させられた彼の正直な感想だった。

扉の前で恭一は体育座り状態のまま動こうとしない。

 

『ふぁ、ファイトだよ渋川君!』

 

ディスプレイの中で両腕をグッと前に出して応援してくれる簪。

そんな彼女の姿に応えねば、男が廃る。

恭一は勢い良く立ち上がり、気合を入れるために自分の頬を強く張った。

 

(次は誰の夢ン中か知らんが、もうあんなドン引く事はねぇだろう!)

 

「うしっ! んじゃ、行ってくるぜッッ!!」

 

『行ってらっしゃい渋川君!』

 

扉の先では、果たして誰の世界が待っているのだろうか。

 

 





恭一:もう十分だ。十分堪能したよ(満身創痍)
更識:いえいえ、まだまだこれからですよ(6つの扉)

原作・アニメを知らない人へのプチ解説。

描写がエッチ過ぎるという理由でOVAに回された『ワールド・パージ』編。
原作・OVAでは鈴がトップバッターであり最も描写が事細かく、すけべぇシーンも他のキャラ以上に濃いのだ!
が、何をどうトチ狂ったのか、この世界のトップバッターを飾ったのは我らが一夏君。

どうしてこうなった.....どうしてこうなった(以下AA)

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