野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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もうダメだ....おしまいだぁ....というお話



第103話 次元の違い

とある軍基地。

 

「ふざけんなッッ!! 聞いてねぇぞ、そんな話!」

 

アメリカ代表操縦者イーリス・コーリングは壁に拳を叩きつけた。

 

「仕方ないでしょ。同じ軍でも私達と『アンネイムド』は畑違いなんだから」

 

苛立ち声を上げるイーリスを宥めているのは『シルバリオ・ゴスペル』操縦者ナターシャ・フィルス。

 

「それに、私達の国が奪取しなくても他の国が同じ事をすると思うわよ?」

「そんな事で怒ってんじゃねぇよ! なんでコソコソやる必要があんだよ、堂々と真正面から行けば良いじゃねぇか!」

 

好戦的なイーリスらしい言葉だが

 

「あのねぇ.....そう云う訳にもいかないでしょうが」

 

声高にコアをくれ、などと言えるのなら最初から何処の国も言っている。

何処の国も虎視眈々とISの増産機会を伺っている。

そして未登録コアが手に入れば、それも夢では無くなる可能性が芽生えるのだ。

 

「ケッ.....気に入らねぇぜ」

 

イーリスはポケットから携帯を取り出し

 

「誰に電話するつもり?」

「私が何処に掛けようが別に良いだろ」

 

アドレス帳から

 

「千冬に電話しても無駄よ」

「は?」

 

ナターシャの指摘に手が止まった。

 

「どうやらIS学園は電波ジャックも受けてるみたいなのよ、電話しても繋がらないわ。勿論メールもシステムエラーで送れないし.....なに?」

 

ニタニタ笑みを向けてくるイーリスに、つい怪訝な顔になってしまう。

 

「何でンな事知ってんだ? お前も随分お節介じゃねぇか」

「べっ、別に心配して連絡した訳じゃないんだからね! 勘違いしないでよね!」

「いや急にツンデレになられてもリアクションとれねぇって」

 

呆れながらもイーリスは、何と無しにとある人物へ電話を掛けてみる。

 

プルルルル

 

「あれ.....普通に繋がったぞ」

 

 

________________

 

 

 

「こっちはそろそろ肌寒い季節だが、あの世じゃどうだい?」

 

膝を折って恭一が話しかけているのは『渋川剛気』の名前が刻まれたお墓。

自分を拾い育ててくれた、感謝してもしきれない恭一の恩人。

今日は剛気の命日だった。

恭一は毎年欠かさず、この日は墓参りに来ている。

それは束とクロエと過ごしていた時からずっとだ。

 

「信じられるか、じいちゃん。地上最強を目指してたらよ、何時の間にか学校に通ってんだぜ俺」

 

旅に出る時は、自分の今の姿など想像もつかなかった。

 

「退屈しねぇ毎日を送ってるよ」

 

恭一はゆっくりと入学してからの事を話した。

思い出すように、決して忘れないように。

 

「ふぅ......」

 

あらかた話し終えた恭一は一息付いて瞑目する。

 

「.....なぁ、じいちゃん。家族って何なんだろうな」

 

剛気と恭一の関係はどうだったのか。

確かに生まれ落ちて9年の月日を共に過ごした。

育てて貰いはしたが、2人の間柄は家族とはまた違うような気がする。

共に鍛え、競い合ったライバルのような、友のような。

その方が恭一としては、しっくりくる。

 

ブブー、ブブー

 

「ん.....? 珍しい人からの着信だな」

 

着信音が鳴り響く中、恭一は携帯を耳に当てた。

 

『少年か!? 今、学園に居るのか!?』

「へ? いや今日はちっと用事で学校から出てきてるんですよ」

 

電話を掛けてきたイーリスの緊迫した声が伝わってきた。

 

『なら早く戻れ! 学園が軍の連中に襲撃を受けてんぞ!』

「っ.....分かりました。わざわざありがとうございます」

 

短いやり取りだが、すぐに飲み込めた。

恭一は軽く首を回し、その場で屈伸に伸脚を。

真っ直ぐ見据え、トントンと足踏みし

 

「......飛翔軽功」

 

豪脚に物を言わせた恭一特有の移動術である。

 

「......」

 

移動しながら携帯で箒と千冬に連絡してみるが、どちらにも繋がらない。

 

「ちっ.....もっとだ、もっと疾くッッ!!」

 

恭一は有らん限りの速さで学園に向かう。

それ程まで箒や千冬は勿論の事、皆の安否を気遣っているのか。

 

「俺が居ねぇとこで楽しんでんじゃねぇぞ、コラァァァァ!!!」

 

どうやらそんな事は無かったらしい。

 

.

.

.

 

学園が見えてきた頃、すぐさま違和感を覚える。

 

「防壁か!? ワクワクするじゃねぇかオイ!」

 

ぐんぐんスピードを上げ

 

 

「恭一くーん! 美味しいステーキご馳走するわよーーーッッ!! キンキンに冷えたコーラも付けるわよーーーッッ!!」

 

 

「ぬぁにぃ!?」

 

常人には決して聞こえない楯無の澄んだ声が、ハッキリと恭一の耳に入ってきた。

 

「―――そこかッッ!!」

 

ドガァァァンッ!!

 

分厚い壁を錐揉み脚で突き破る。

 

「本当か会長!?」

 

我らが部長、渋川恭一のご帰還である。

 

 

________________

 

 

 

壁の向こうから当たり前のように生身で現れた男に対し『アンネイムド』達は戸惑いを隠せなかった。

 

「うふふ。今日の夕食はお姉さんがたっぷり奢ってあげるからね♪」

 

兵士達を余所に楯無も先程からまるで態度が変わっておらず、一貫して余裕な表情を貫いている。

 

「.....貴様は2人の起動者、渋川恭一だな?」

 

渋川恭一の身体能力の高さは、当然アメリカ軍でも知れ渡っている。

そして、専用機を持っていない事から隙あらば此方に引き入れる、若しくは研究所でモルモットにしてしまうかの二論が絶えず上層部で交わされていた。

 

特殊部隊『アンネイムド』の班長が語り掛ける。

警戒と脅す意味も込めて恭一の背中に銃剣を突きつけて

 

「......あ゛ぁ?」

 

振り向き様に銃のバレル部分を握りヘシ折った恭一は、一瞬で班長の衿羽根を掴み上げ

 

「なんだァ? てめェ.....」

 

班長は宙に浮いたまま、衿羽根を掴まれた状態。

そして高速で顔面を左右にを揺さぶられた。

 

「ッッ!?」

 

他の兵士達は後にこう語ったという。

人間の頭部が、あれ程スピーディーに振れるのを初めて見た、と。

 

既に班長は超が付く程の脳震盪を起こし意識を失っているのだが、恭一は掴んだまま楯無に聞く。

 

「コイツら全員喰って良いんだな?」

「んー.....私も参加したいから1/3は残して置いてね♪」

 

 

―――なら、奪ってみるんだな

 

 

「「「「 ッッッ!??!? 」」」」

 

ISが誕生して女性が強くなった時代でも、彼らには自負があった。

ISを除外すれば我々特殊部隊が最強である、と。

自分達は数え切れない程の剣林弾雨を駆け抜けてきた。

湾岸ではミサイルの雨だってくぐり抜けてきた。

他の連中とは、場数が違うのだ。

 

なのに―――

 

『アンネイムド』達は全身から汗が吹き出るのを感じた。

目の前の男は一体何なんだ。

男が纏う陽炎のようなオーラはまさに鬼、まさに悪魔。

顔面を直立させ、射竦めるが如く我々全体を正面から直視している。

 

―――次元が違い過ぎる

 

闘争いを生業とするが故に彼らは闘う前から、格の違いがはっきりと伝わってしまった。

 

恭一は何も言わずに唯、掴んでいた班長を無造作に落とした。

これから狩りを始めるために。

それがある意味で彼らの合図となった。

 

数々の歴戦で鍛えられた『アンネイムド』は一斉に下がるや、蜘蛛の子を散らすように後方へダッシュ。

 

『この男は危険危険危険危険危険......』

 

歴戦の猛者達の本能は細胞に命じたのだ。

 

ニゲロ、と。

 

「「「「 ッッ!? 」」」」

 

「喧嘩売っといてハンパな真似してんじゃねぇぞ」

 

彼らの前には既に恭一の姿在り。

 

「前ばっかり気にしてちゃ、私の餌食になっちゃうわよ~?」

 

後ろには楯無が。

 

廊下に木霊する耳障りな悲鳴と肉体が破壊される嫌な音。

アメリカが誇る『アンネイムド』は瞬く間に蹂躙された。

 

 

________________

 

 

 

(何なんだ.....何なんだこの女はッッ!!)

 

『ファング・クエイク』を纏った隊長は、もうずっと苦虫を噛み潰したような顔だった。

 

(何故ハイパーセンサーで捉えきれんッッ!?)

 

捉えきれないというのは些か語弊がある。

センサーに反応はするのだが、自分が感知した時には既にその場に居ないのだ。

 

「ハッ.....ぐぅっ!?」

 

千冬からの斬撃を受け止める。

絶対防御に守られているため、自分が傷を付く事は無い。

しかし、衝撃を押し殺せないのだ。

 

(バカなバカなバカなッッ!! 相手はブリュンヒルデとは言え生身だぞ!?)

 

それに加え隊長は千冬の持つ刀を凝視する。

 

(何故、刃こぼれ一つ起こさない!? ありえんありえんありえんッッ!!)

 

苛立ちと共に奥歯を噛み締める。

 

「ISは世界最強。そう思っているのではないか、米国人」

「......」

 

隊長は応えない。

代わりに、薄く笑う千冬を睨む。

 

「確かに世界最強だろう。この世の3人を除いてな」

「......3人だと?」

 

漸く隊長が反応を見せる、が。

 

「フッ.....律儀に教える気は無いが、なッッ!!」

 

鞘に収めたまま『月下美人』を前に突き出し、縮地法からの突進術。

下半身で地から勢いを、上半身に溜めた力を解放させる。

嘗て恭一の頬を抉った最強剣突技

 

" 無拍子 "

 

『ファング・クエイク』の斬撃を避け間合いに入った千冬は『月下美人』に螺旋のような捻りを加えた。

 

(恭一の得意技『金剛』を私流にアレンジさせて貰ったこの剣技)

 

狙うは心臓部分。

拳でも剣先でも無く、鞘の先端分で一点集中衝撃を。

 

「―――螺旋無拍子」

 

ドグンッッ!!

 

「あぐっ......」

 

心臓に寸分違わず喰らった隊長は、糸が切れたマリオネットの如く崩れ落ちた。

 

「ふむ.....まだまだ煮詰めないと駄目だな」

 

気絶している者を拘束しつつ、技のキレに満足していない千冬だった。

 

 

________________

 

 

 

「お姉ちゃん、渋川君!」

 

特殊部隊兵を拘束し終えた2人は、簪と真耶が居るオペレーションルームへやって来た。

 

「状況はどうなってるの、簪ちゃん」

「うん.....不味い事になってる」

 

電脳世界へ進入した箒達だったが、何らかの攻撃を受けたようで連絡が付かなくなっていた。

このままでは、現実世界に帰って来れなくなり目覚める事も無いと言う。

 

「それでね、渋川君も電脳世界へダイブして皆を救出して欲しいの」

「良く分からんが、ワクワクさんが待ち構えている事だけは伝わったぜ!」

「......うん、まぁ.....だいたいそんな感じ」

 

瞳をキラキラさせる恭一を前に、否定するのも面倒になる簪だった。

早速恭一はアクセスルームへ移動し、ベッドチェアの端末に『打鉄』を接続させ意識を沈ませていく。

 

.

.

.

 

瞼を開くと、幻想的な風景が恭一を歓迎した。

 

「.....此処が電脳世界」

「どうやら、そうらしいわね」

 

恭一の隣りで周りを興味深そうに見渡す少女の姿。

 

「.....何で会長が居るんですか?」

「簪ちゃんは山田先生が守ってくれるから大丈夫。だからお姉さんも付いて来ちゃった♪」

 

開かれた扇子には『重見天日』

とりあえず2人は一本道を突き進んで行く。

広間に出ると2人を迎えたのは2つの扉。

 

「.....どうしよっか、恭一君」

「アイツらの安否も気になる。此処は別々に入りましょう」

「なら恭一君が先に選んでも良いわよ?」

 

楯無の言葉で恭一は2つの扉に視線を向け、悩む事数秒。

 

「せっかくだから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ!」

 

白い扉に向かって意気軒昂な恭一。

 

『......それ、織斑君も言ってたよ?』

 

「ぬぁ!?」

「あらあら、うふふ」

 

簪の控えめな突っ込みに、含みある笑みで扉に入って行く楯無。

何とも言えない表情で入って行く恭一。

 

扉の向こうで彼を待ち受けていたのは

 

「多いなオイッッ!!」

 

新たな7つの扉だった。





学園トップ3は伊達じゃない!( *`ω´)

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