野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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イクゾー、というお話



第102話 緞帳

「揃ったな。では、状況を説明する」

 

IS学園地下特別区画、オペレーションルーム。

秘密区画故に、本来なら生徒は知らされない場所なのだが、緊急事態のため現在学園にいる専用持ち全員、と言うより『たんれんぶ』部員が集められていた。

 

一夏、箒、シャルロット、ラウラ、楯無、簪、タンコブ頭のセシリアに鈴が立って並んでいる。

その前には、千冬と真耶だけが居た。

どうやらこのオペレーションルームは、他のシステムと違い完全に独立された電源で動いているらしく、ディスプレイはちゃんと情報を表示している。

 

「現在、IS学園では全てのシステムがダウンしています。恐らく何らかの電子的攻撃、ハッキングを受けているものだと断定します」

 

何時ものようなのんびりした声では無く、少し堅さが見える事から余程の事態である事が伺えた。

 

「今の処、生徒に被害は出ていません。防壁によって閉じ込められる事はあっても、命に別状があるような事は無いです」

「問題は、このIS学園が何らかの攻撃を受けているという事にある」

 

静かに、だが怒気の含まれた千冬の言葉。

 

「敵の目的は?」

「.....敵の正体が分からん以上、何とも言えん」

(まぁ、大よその見当は付いているがな)

 

今現在の被害状況は、システムダウンに電波ジャックと言った処である。

 

「他に質問がある者は?」

 

箒が挙手し

 

「あの.....恭一はやっぱり?」

 

その言葉に皆も身体をピクリとさせる。

そう、こういう非常事態で最も頼りになる男が、此処には居ないのだ。

 

「.....アイツは今日、所用で学園外に出ている。此方の電波をやられてるため連絡も取れん」

 

恭一が居ない。

この事実がどうしても皆に伸し掛った。

強い後ろ姿、強い言葉で自然と皆を引っ張っていた恭一は、何時からか彼女達の精神的支柱にもなっていた。

 

そんな恭一が居ないというだけで、少なからず不安にさせてしまう。

皆の表情が硬くなったのに気付いた一夏は

 

「恭一が帰ってきたら、きっと悔しがるだろうぜ」

「一夏?」

 

皆の視線が集まる中

 

「俺達の大活躍で、アイツが大暴れ出来る処が無くなっちまうんだからな!」

 

(......ほう)

 

一夏なりに皆を鼓舞する言葉。

千冬は表情にこそ出さないが、弟の精神的成長に心を震わせた。

 

「この中で一番弱っちいアンタに言われちゃ.....奮い立つしか無いわねッッ!!」

 

バチンッ

 

「いでぇっ!? な、何でしっぺ!?」

 

鈴からの熱い返しに一夏は声を上げ、周りの目がキラリを光る。

 

「流石は私の幼馴染だ。お前の言葉のおかげで私も不安が吹き飛んだ」

「お、おう.....そりゃ何よりなんだけど、何で近づいてくる....?」

 

ニンマリ笑う箒に後ずさる一夏。

 

「僕も気合入ったよ一夏っ♪」

 

バチンッ

 

「ほげっ!?」

 

後ろから忍び寄っていたシャルロット。

 

「軍人式気合注入だ、織斑ァ!!」

「うそつけっ!?」

 

ドイツ式しっぺ。

 

「お姉ちゃん!」

「ええ、簪ちゃん!」

 

「「 クロス・ボンバーッッ!! 」」

 

「もうしっぺでもねぇえええええッッ!!」

 

.

.

.

 

「それでは、これから織斑君、篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんはアクセスルームへ移動。そこでISコア・ネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます。更識簪さんは皆さんのバックアップをお願いします」

 

真耶のサラッとした説明を前に

 

「電脳ダイブって.....もうSF映画の世界よね」

「ふふっ.....ISそのものがSFですわよ、鈴さん」

 

「「「「 そういえばそうだ 」」」」

 

セシリアの言葉で皆も妙に納得してしまった。

 

「今回の作戦は、電脳ダイブによるシステム侵入者の排除だ。やれるかお前達?」

「戦う前からボロボロなんですがそれは.....」

 

「「「「 はいッッ!! 」」」」

 

一夏の挙手&言葉、華麗にスルー。

力強い返事と共に、箒達はオペレーションルームを出て行った。

 

「さて、更識楯無。お前には別の任務を任せる」

「なんなりと」

 

扇を片手に静かに頷く。

 

「もうすぐシステムダウンさせた者とは別の勢力が学園に来るだろう」

「その目的は―――」

 

「「 無人機コアの奪取 」」

 

二人の声が重なった。

 

「何処の国でもISのコアは喉から手が出る程のモノだ。こんな機会逃しはせんだろう。厳しい防衛戦になるとは思うが.....」

「ご心配無く。ある意味、白兵戦の方が鍛えられてますから、負けませんよ♪」

 

不敵に微笑んでみせるが、千冬の顔色は優れない。

 

「すまんな更識。本来ならお前達生徒を戦場に立たせるなど、あってはいけない事だ」

「適材適所。織斑先生にもやるべき事があるのでしょう?」

 

申し訳なさそうな顔の千冬に、楯無は強い決意が秘められた瞳で応える。

 

「それに.....私、結構滾っちゃってます。IS学園.....いえ『たんれんぶ』に喧嘩売りに来る訳ですから。うふふふふ」

「.....フッ、その通りだ。何処の国かは知らんが、キッチリ落とし前つけさせてやらないとな」

 

恭一を除けば、世界最強に学園最強の2人。

龍虎交わる笑みは、何と頼もしい事か。

 

「それに恭一君も駆け付けてくるでしょうし、ね?」

「ほう.....お前もそう思うか?」

 

連絡もつかないこの状況でも、千冬と楯無は確信している。

 

火種在る所に渋川在り。

 

「ええ、だって恭一君ですよ? 俺も混ぜろーって飛び込んで来ますよ♪」

「ククッ.....違いない」

 

楯無は軽い足取りでオペレーションルームから出て行った。

IS学園生徒会長に相応しい後ろ姿がドアに閉ざされてから、千冬と真耶も気合を入れ直す。

 

「山田君は更識簪のサポートを頼む」

「はい!」

 

そうして2人も準備に取り掛かった。

 

「.....やはり使う時が来たか」

 

千冬の視線の先には、鞘に収まった状態で立てかけられている2本の剣。

 

目を奪われる程の氣を放つ日本刀『月下美人』

刀身が紅に染まったブレード『幻魔』

 

2本共、束がプレゼントした物だ。

世界でたった2人の男性起動者入学、遅かれ遠かれ必ず今のような事態がやって来るから、と。

 

(白兵戦は任せたぞ更識。私はIS乗りに刻んでやる)

 

「―――誰に喧嘩を売っているのかを」

 

パシュッとドアが開く。

千冬は暗闇の中を黙々と歩き続ける。

僅かな灯りは足元の非常灯のみ。

 

一瞬刃に映った千冬の顔は、薄く微笑んでいた。

 

 

________________

 

 

 

「此処は......」

 

無事、電脳ダイブに成功した一夏達。

 

「何か幻想的な場所だね」

 

辺り一面は黒に覆われているのだが、星のような煌きが多く宙に浮いている。

 

「それより、問題はこれでしょ」

 

一夏達6人の前には同じく6つの扉。

 

「.....どう思う? 初めからあったと考えるべきか、それとも」

「私達の存在に気付いた侵入者が出現させた、か?」

 

そう話した箒とラウラは後者の可能性を疑っている。

 

「んー.....俺達全員で1つ1つ入って行く時間は無いよな?」

「そうだね、そんな猶予は僕も無いと思う」

 

皆が目を合わせ、コクリと頷く。

 

『この先は多分、私からの通信は途絶えると思う。貴方達の判断に委ねる......ファイト』

 

「「「「 了解ッッ!! 」」」」

 

6人は扉の前へ。

 

「せっかくだから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ!」

 

何がせっかくなのかも分からないし、そもそも扉は全部白である。

 

「じゃあ、行くわよッッ!!」

「幸運を祈る」

 

当然他の5人はこれをスルー。

其々が意気軒昂に入って行く中

 

「恭一が居たら突っ込んでくれるのになぁ」

 

扉を潜る一夏の背中だけは少し寂しそうだった。

 

 

________________

 

 

 

「全校生徒の避難は完了したみたいね。それなら心置きなく.....あら?」

 

『侵入者アリ。侵入者アリ』

 

学園のシステムから独立したカメラに、歪な形をした5つの影。

 

「あれは最新型の光学迷彩? って事は.....ふむん」

 

楯無は扇子を顎にやり、うむむと唸る。

周囲風景を投影して、迷彩効果を発揮させる『光学迷彩』。

このような最新装備させた特殊部隊を惜しげも無く突入させる事が出来る国。

 

(小国には無理ねぇ.....相手は間違い無く大国。まぁ大体何処か想像付くけどね♪)

 

彼女が推測を立てていると、暗闇の中から銃声音。

何も見えない、足音もしないからの攻撃だった。

 

パララララッ!

 

特殊合金製の弾丸が楯無に向かって飛んでくる。

しかし、楯無はニンマリ扇子を前にし

 

「「「「 ッッ!? 」」」」

 

「どう? 私ってばマジシャンみたいじゃない?」

 

見えない壁により、楯無の目の前で弾丸は止まった。

楯無は予め『ミステリアス・レイディ』のアクア・ナノマシンを空中散布していた。

完全展開出来ないISでも、通常兵器の弾丸程度なら問題無い。

簡単に遮る事が出来る。

 

(くっ.....何故、我々の姿を感知出来る?!)

 

動揺する見えない侵入者達。

答えは簡単。

空中散布しておいたアクア・ナノマシンに感知粒子を混じらせておいたのだ。

無音だろうが、姿が見えなかろうが、空気に触れている限り彼女には丸見えだ。

 

「貴方達の姿が見てみたーいなっ♪」

 

パチンッ

 

指を鳴らした刹那、

 

ズォォォォン.....

 

彼らがいる廊下を大爆発が飲み込む。

ナノマシンを発熱させる事で水を瞬時に気化させ水蒸気爆発を起こらせる技。

『クリア・パッション』が侵入者達の光学迷彩を破壊した。

 

 

________________

 

 

 

「........」

 

上階の爆発音を聞きながら、女は1人真っ暗な通路を突き進む。

IS『ファング・クエイク』を纏った米軍特殊部隊『名も無き兵達(アンネイムド)』の隊長である。

 

「........」

 

隊長はひたすら黙々と進む。

目標は、先日の無人機コアの奪取。

このコアは未登録コアであり、手に入れれば、ISの数を秘密裏に増やせるのだ。

そうなれば、米国がトップに立つ事も夢では無い。

 

(ふん.....上層部の人間はアラスカ条約の事など知った事では無いのか)

 

感情はともかく、自分は軍人だ。

ただ、与えられた任務を遂行するのみ。

 

「......なんだ?」

 

真っ暗な通路の先に、センサーが人の姿を捉えた。

 

「殺るか」

「ッッ!?」

 

短い言葉と鋭い殺気。

隊長が感じた時には、既に一陣の風が駆け抜けていた。

 

「ぐぅっ!?」

 

右足に衝撃が走ったと思えば、影は隊長の後ろに佇んでいる。

すれ違い様に、挨拶代わりの斬撃を喰らったという訳だ。

 

「ブリュンヒルデ.....」

 

灯りのついた廊下で、自然体のまま立っている女、織斑千冬。

 

(巫山戯ているのか?)

 

隊長は千冬の姿を何度もISセンサーで確認する。

ISを纏っていない事は勿論、ボディースーツすら着用していない。

学校で教鞭を振るう時に着ている何時ものスーツに2本の剣のみ。

 

(ブリュンヒルデというのは死にたがりなのか?)

 

「寝付きは良いほうか?」

「......?」

「フッ.....これから貴様は悪夢に苛まれるからな」

 

そう宣告した千冬はニヤリと嗤う。

ブリュンヒルデとしてでは無く、織斑千冬としての絶対的言葉。

 

(さて.....さっさと終わらせるか)

 

ISを前にしても、そこには圧倒的な強者の余裕があった。

 

 

________________

 

 

 

「ん~.....こんなものかしらね」

 

特殊ファイバーロープで特殊部隊の兵達を縛り上げ終えた楯無は、ようやく一息ついた。

 

(予想してた通り、アメリカの連中ね)

 

これからどうするか。

簪ちゃんのバックアップにいくか。

それとも、このまま侵入者達の相手をしておくか。

 

「居たぞ、こっちだ!」

「あら?」

 

奥の廊下からけたたましい足音と共に、兵達が雪崩込んでくる。

 

(ちょっ.....ちょっとちょっと。多くない?)

 

楯無の前には目算で30人超えの特殊部隊の男達。

ISが完全展開出来るのなら訳無いが、今の状況だと流石に分が悪い。

 

「ふん.....流石に顔色が変わったなロシア代表」

「ええ、そうね。私ってばどうなっちゃうのかしら?」

 

銃を突きつけられた楯無は、軽い口振りで聞いてみる。

 

「貴様のISは当然、貴様もモルモットになるのだろうな」

 

淡々とした口調で告げられた言葉。

 

「それは嫌だなぁ.....とっておきのカード出しちゃおっかな」

 

軽くウィンクしてみせるが、兵達は怯まずに距離を詰めてくる。

 

「ハッタリはよせ。もう貴様のISエネルギーは、ほとんどゼロである事を知っている」

 

男は手を上げ

 

「殺すなよ。貴重なサンプルだ」

 

襲い掛かってくる寸前、楯無は大きく息を吸い

 

 

「恭一くーん! 美味しいステーキご馳走するわよーーーッッ!! キンキンに冷えたコーラも付けるわよーーーッッ!!」

 

 

「「「「 ッッ!? 」」」」

 

「何言ってんだこの女、気でも触れぶへらっ!?」

 

ドガァァァンッ!!

 

外壁を破壊し現れし者。

 

「本当か会長!?」

 

狂者の帰還である。

 

 





楯無:兵士30体を生贄に恭一君を召喚!
兵達:やめてくれよ(絶望)

しぶちーが何処行ってたかは次話にて(`・ω・´)

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