野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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しぶちー、学校休むってよ。
というお話



第101話 這い寄る影

「ブクブクブク......」

「鈴ってば、はしたないよ?」

 

オレンジジュースに刺さったストローでブクブク言わせている鈴にシャルロットが注意する。

 

「『たんれんぶ』が休みって初めてでしょ? なぁーんか、逆にかったるいのよ」

「まぁ確かにな、俺も何となく分かるぜ?」

 

一夏達『たんれんぶ』のメンバーは食堂で寛いでいた。

そう、今日は初めて『たんれんぶ』が完全に休みを言い渡されたのだ。

此処に今居ないのは、生徒会長の仕事で忙しい楯無と最近生徒会に加入するんじゃないか、と噂されている簪。

 

そして我らが部長、渋川恭一の3人である。

 

「アリーナは使えても、ISが使用禁止なら意味ないしな」

「仕方ないですわラウラさん。それだけ篠ノ之博士の無人機は強敵でしたもの」

 

先の束によるゴーレム実践襲撃訓練。

彼女達は勝利を掴んだが、それぞれのISに深刻なダメージを負っていた。

それ故、自己修復のために当分の間はISの使用禁止が言い渡されたのだった。

 

「しっかし、ISが使えないってのは怖いモンがあるわよね。もしも何かあった時とかにさ」

 

鈴の言葉に各々が身に付けている専用機アクセサリーを見る。

現在、皆の専用機にはパーソナルロックモードが掛けられており、ISを展開する事は出来るが通常よりも時間が長い。

 

「何より問題は、このモードの時は操縦者緊急保護も通常時より遅い事だよね」

 

鈴の言葉にシャルロットが、そう付け足す。

 

「でもさ、今みたいなISが使えない時のためにも俺達は『鍛錬』してんだろ? 狼狽えてたって仕方ないぜ」

「ひゅぅ~♪ 一夏の癖に中々良い事言うじゃないっ♪」

 

軽く鈴が茶化しに入るが、皆も一夏の言葉には大きく頷いていた。

 

「それに、そう何度も襲撃なんて起こりませんわよ?」

「ふむ。確かにセシリアの言う事も一理あるな」

 

だが、万が一の時に備えて今は専用機持ち全員二人以上で行動する事を義務付けられている。

今、此処に居るのは一夏、鈴、シャルロット、セシリア、ラウラの5人。

そして専用機を持っていない箒を加えて6人だ。

そう、6人居るのだが先程から一切会話に入ってこない者が1人。

 

(......誰か早く突っ込みなさいよ)

(いや、でもさ......何て声掛けたら良いの?)

(ふむ.....吹けば飛びそうな程、ペラペラになっているな)

(原因は予想付きますわ。十中八九恭一さん絡みでしょう)

 

女子達4人は会話に入ってこない、ただ座っているだけの箒に目を向ける。

一夏は恭一から学んでいるが故、決して触れようとしない。

 

「ぽひぽひ......」

 

一体何処を見ているのか。

まるで焦点が合っていないエクトプラズマーな箒。

 

(恭一が居ないだけで、こんな重症にはならないわよね?)

(もしかして恭一と喧嘩でもしたのかな?)

 

少女達は思い浮かべてみる。

恭一と箒が喧嘩?

 

(恭一殿と箒が喧嘩するなど、私には想像出来ん)

(そうだね。言ってなんだけど僕にもちょっと想像出来ないかな)

(絵に描いたバカップルだもんねコイツとアイツってば。自重しろっつーのよ)

(羨ましいですわ! 羨ましいですわッッ!!)

 

「......ぽてろんぐ」

 

(((( お菓子? ))))

 

「......ぽてろんがー」

 

(((( 比較級? ))))

 

プルプルプル

 

箒の身体がワナワナ震えだし

 

 

「ポテロンゲストォォォオオオオオオッッ!!」

 

 

「ひょわぁ!?」

「ほ、箒さんに恭一さんが憑依しましたわァァァァ!?」

「アホな事言ってんじゃないわよセシリア! ちょっと箒、落ち着きなさいよ! って一夏ァ!! 何でアンタそんな離れた場所に居んのよ!?」

「処世術だ」

 

スマイル&サムズアップが憎たらしい。

 

「えぇい! 気をしっかり持たんか箒ッッ!!」

 

バチコーンッ!

 

「へっぷぅッ?!」

 

ラウラがトチ狂った箒の頬に闘魂注入。

 

「は、はれ.....? わ、私は一体何を......」

 

箒は正気に戻った!

 

 

________________

 

 

 

それは今朝の事。

昨晩『たんれんぶ』活動が休みの知らせを聞いた箒は、登校時間あたりに恭一の部屋に訪れた。

恭一の部屋から学校までは中々の距離がある。

寮に住んでいる者同士には決して出来ない、登校デートが出来るのだ。

 

「恭一、一緒に登校しないか?」

 

箒が部屋に入ると、私服姿で何やら出掛ける準備をしている恭一の姿が。

 

「何処か行くのか? 今日も授業があるぞ?」

「おう、箒か。前々から今日は外出届けを出していたからな。学校休ませて貰ってんだ」

 

恭一が怪我以外で学校を休む事など珍しい。

当然、気になった箒は聞いてみる。

 

「学校が許可するなど、よっぽどの事なのか?」

「あー.....まぁ、な」

 

何やら歯切れが悪い。

 

「.....私が聞いてはいけない部分か?」

「いや.....そんな事はねぇんだが、な」

 

やっぱり要領を得ない返事だ。

 

恋人同士でも言いたく無い事の一つや二つあって当然である。

箒だってそれくらい分かっている。

だが、これまで恭一は何でもあっけらかんに箒に話してくれていた。

このような事は初めてだったのだ。

 

(思えば、私は恭一の事は姉さんと会ってからの話しか聞いた事が無い)

 

箒は恭一の家族構成すら聞いた事が無かった。

そう云えば恭一は夏休みも実家に帰省する事はしていない。

家庭内的な意味で帰省を拒んだ鈴を除けば、皆が一度は帰っている。

 

「家族に会いにでも行くのか?」

「っ.....まぁそんな処だ」

 

初めて見せる恭一の弱々しい笑み。

その表情が箒の胸を酷く締め付けた。

 

(ッッ.....わ、私はなんて無神経な事を)

 

箒は思わず自分を殴りたくなった。

 

今でこそ姉さんの事を聞かれても何も思わなくなったが、少し前までの私ならどうだった?

 

『あの人は関係ないッッ!!』

 

嘗て自分が喚き散らした言葉を思い出す。

後悔と自責の念でギュッと拳を握った。

 

「す、すまな―――」

「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」

 

ポンポンと優しく頭を撫でられた箒は、謝る機会を失う。

 

「夜には帰ってくる予定だからよ」

「あ、ああ.....」

 

結局、箒は黙って見送るしか出来なかった。

 

 

________________

 

 

 

「なるほどね.....まぁ恭一にだって突っ込まれて欲しくない事もあるわよねぇ」

「確かに僕も家族の話はあまりされたくないかなぁ.....あはは」

 

鈴とシャルロットがしみじみと語る。

 

「で、ですが恭一さんは心もお強い人ですわ。箒さんの考え過ぎって事も」

「ううっ.....だってあんな悲しそうな顔、見た事ないもん。私は恭一を傷付けたんだぁぁぁぁ.....うぉぉぉぉ」

 

(((( うぉぉぉぉって言われても ))))

 

取り敢えず、隣りに座っているセシリアが悲しみに昏れる箒の背中を、励ますように摩っていた。

 

「あたし的には箒の気持ちも分かるけどね。今まで深く考えて無かったけどさ、恭一って結構謎キャラじゃない?」

「千冬姉ぇすら勝てないって言ってるし、束さんとも知り合いだったしなぁ」

 

鈴の言葉に一夏も少なからず同意してみせる。

箒を除いた其々が恭一の過去を想像して話す中、1人の少女がテーブルを叩いた。

 

「他人の過去をアレコレ詮索して一体、何になる?」

「ら、ラウラ......」

「今在るがままの姿が恭一殿。それ以上でも以下でも無い。違うか?」

 

「「「「 うっ 」」」」

 

4人は、殺気の篭ったラウラの瞳に思わず迫力負けしてしまう。

唯一、恭一の事を前世を含めて知っているからこその怒りだった。

 

「箒も何時まで沈んでいる? 自分に非があると思うのなら恭一殿が帰ってきてから全力で謝れば良いだろう。気になるというのなら全力で聞けば良いだろう。違うか?」

「.....そうだな。クヨクヨしてたって始まらないもんな!」

 

箒は自分の両頬をパンパン叩いて、沈んだ感情を吹き飛ばす。

そんな彼女を見て満足気にラウラは頷いた。

 

「.....む? なんだお前達?」

 

自分に視線が集まっている事に気付いたラウラは、首を傾げる。

 

「さっきのラウラってば、恭一みたいだったよ」

「ああ、俺もそう思った」

「こ、今度はラウラさんに憑依を!?」

「セシリアも恭一に似てきてるわよね、アホさ加減が」

 

皆が口を揃えて言った。

まるでさっきの台詞は恭一のようだった、と。

その言葉に悪い気はしない。

むしろラウラにとっては、誇らしい事である。

 

ふふん、と胸を張り

 

「当然だ。恭一殿は私のパ.....」

 

「「「「 パ? 」」」」

 

(むむっ.....危ない危ない。パパとの約束を破る処だった)

 

恭一をパパと呼ぶのは2人だけの時。

恭一との約束である。

最も、約束する前まではガンガン皆の前で呼んでいたので

 

(何とか誤魔化さねば.....パ....パ.....パ......)

 

別に誤魔化す必要など無かったりする。

 

「パラッパラッパー」

 

「「「「........」」」」

 

―――バチッ

 

突然食堂の灯りが一斉に消えた。

食堂だけでは無い。

廊下、教室、電子掲示板など全てが一瞬で消えた。

 

「ラウラ.....あんた中々やるじゃない」

「私のせいじゃないだろう」

 

灯りは消えても、昼間なので日光の存在が敷地内を暗くさせない。

と、思いきや。

 

「なっ、防御シャッターが!? どうして降りてくるのさ!?」

 

ガラス窓を保護するように、全ての防壁が閉じ、校舎内は完全に真っ暗闇となった。

誤作動ならそれで良い。

だが既に専用機持ち達は、各々のISをローエネルギーモードで起動。

視界を暗視界モードに切り替え、今の環境に合った機能をセットする。

すると千冬からの回線が入ってきた。

 

『専用機持ちと篠ノ之箒は、地下のオペレーションルームへ集合しろ。今からマップを転送する。防壁に遮られた場合、破壊を許可する』

 

千冬からの静かでありつつも強い声。

何が起こったのかは分からない。

だが、またしてもこのIS学園を襲う事件が発生した事だけは確かだった。

 

.

.

.

 

「んもうっ! セシリアがフラグたてるから、事件発生よ!」

「んなっ!? 私がいつ立てたと言うのですか!?」

 

鈴の言葉にプンスカ怒るセシリアだったが

 

『そう何度も襲撃なんて起こりませんわよ?』

 

こんな事を確かに言っていた。

 

「ぐぬぬぬ.....で、ですが鈴さんだって!」

 

『ISが使えないってのは怖いモンがあるわよね。もしも何かあった時とかにさ』

 

確かに鈴も言った。

 

「うぐっ.....でもあたしはまだ情状酌量の余地ありよ! アンタの言葉なんてモロじゃない!」

「そんな事無いですわ! 鈴さんの方がより具体的ですもの、お認めなさいな!」

 

火花を散らす2人は互いに一歩も譲らず、埒が明かない。

 

「多数決よ!」

「望む処ですわ!」

 

「「 どっち!? 」」

 

2人が振り向いた先には、既に誰も居ない。

 

「「........」」

 

オペレーションルームに着いた2人が、千冬からゲンコツを喰らったのは言うまでも無い。

 




この学園いっつも襲われてんな(恐怖)

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