野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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ウォン・フェイフォンを知ってるかい?
というお話



第99話 水能載舟,亦能覆舟

少年は確かに気付いていた。

グラスに注がれた水の中身が、お酒である事を。

 

デザートが出てくる前、ウェイターが注いでいったソレにイチ早く察知した恭一は、周りの自然な環境を不自然な環境として捉え始める。

 

(.....この仕切り)

 

恭一と箒の席は一番奥であり、さらに仕切りが施されている事で周りからは見えないようになっている。

が、言葉を返せば自分達からも周りが見えない。

 

(.......)

 

耳を澄ませば、先程までの賑やかな談笑が聞こえなくなってきている。

食べ終えた客が減るのは自然な事。

しかし、こうも一気に減るものだろうか。

 

そして目の前に出されたお酒の存在。

 

全て偶然と言ってしまえばそれまでである。

たまたま奥の席に案内され、たまたま自分達以外の客が一斉に出て行き、たまたま水と間違えて酒を注がれる。

 

そして、たまたま血の匂いをさせたホテルの支配人が、俺が入店を断られた時にたまたまタイミング良く登場する.....ね。

 

恭一はチラリと自分達を映す防犯カメラを盗み見る。

そして視線をグラスに戻す。

 

(俺の慧眼を試しているのか? いや、それならわざわざ客を引かせる必要はねぇ)

 

飲む飲まない関係無しに、どっちにしろ襲撃してくる気か?

それならこのグラスの中身は飲む訳にはいかねぇな。

 

.

.

.

 

そう、しっかり注意していたのだが。

 

(うぐっ.....飲んじまった.....ほ、箒のせいだかんな)

 

箒にジト目を向けたいのを堪え、すぐさま立ち上がる。

フラつきながらも、確認すべき事を確かめた。

 

「ちっ.....やっぱりじゃねぇか」

 

恭一の懸念していた通り、仕切りの向こうに居た客は既に全員居なくなっている。

当然のようにウェイター達の姿も無い。

 

(カメラの向こうで、ほくそ笑んでる金髪女が目に浮かびやがる)

 

「ど、どうしたんだ恭一? 急に立ち上がったりして」

「下がってろ.....そろそろ来る」

 

けたたましい足音を感じた恭一は箒を後ろへ下がらせ

 

「.....ッッ!!」

 

自分達のテーブルを入口の方へ投げ飛ばした、が

 

「ハッ!!」

 

入ってきた屈強な体躯をした男が、飛んできたテーブルを下から蹴り上げて防いだ。

 

「なっ.....なんだ、どういう事だ!?」

 

突然の事に付いて行けてない箒の言葉を余所に、屈強な男の後ろからも幾人の男達が入口を封鎖するように入り込んできた。

 

「渋川恭一だな?」

「違います」

「お前を甚振るよう命令を受けた。悪く思わんでくれ」

「話聞けよ」

 

有無を言わさず10数人が一気に恭一に襲い掛かる。

 

(コイツら.....何かやってやがるな)

 

状況を飲み込めて居ない箒を後ろへ突き飛ばし、襲い来る連中の身体を注視する。

足運びに、耳が潰れた者も居る。

それだけで素人の集まりでは無い事が分かった。

 

 

________________

 

 

 

「うふふ.....無警戒にお酒を飲んだけど、そこからのリカバーは流石に大したモノねぇ」

 

ワインが注がれたグラス片手に優雅に眺めるスコール。

 

「グラス一杯分とは言え、アルコールの入った状態では戦闘力は落ちる。しかも貴方は15歳。お酒を飲む機会なんて早々無いはず」

 

グラスに口を付け、美味しそうに喉を鳴らしてみる。

 

「『亡国機業』の中でも選りすぐりの格闘技精通者達よ。不利な状況で何処まで戦えるか見届けさせて貰うわよ、坊や」

 

策とは二重三重に張って初めて功を奏す。

恭一が不自然に感じたモノは、全てスコールの指示によるもの。

さらに客としてレストランに居た者も全員が『亡国機業』の一員だったのだ。

 

 

________________

 

 

 

スコールの推測は当たっている。

恭一は前世とは違い、この世界にて酒を飲んだ機会はこれで2回目。

当然、身体に強い免疫は出来ておらず、平衡感覚は失われ、平常なら真っ直ぐ伸びている正中線もブレブレ、反応速度も低下した状態であり、防戦一方を強いられていた。

 

「これは.....お酒の匂い!?」

 

恭一の様子がおかしくなったのは、水を飲んでからだ。

自分にも注がれていたグラスの中身を嗅ぐと、仄かに酒の匂いがした。

 

「くっ.....そういう事か!」

 

漸く状況と恭一の状態を把握した箒は拳を握り締める。

 

「私も助太刀するぞッッ!!」 

 

そう言って前に出ようとした箒の腕を掴む者。

 

「く、クロエ? そ、そうだ。お前も居るんだったな! 一緒に恭一を助けるぞ!」

「その命令には聞けません」

 

クロエは箒の腕を掴んで放さない。

 

「何を言っている!? は、放せ!!」

「恭一お兄様が売られた喧嘩です。私達が出しゃばる道理は御座いません」

「そんな事は分かっている! しかし、酒が入った者を10人以上で襲うのはあまりに卑怯過ぎるだろう!」

 

それでもクロエは頑として箒を放さない。

 

「一般論的には正論なのでしょうが、恭一お兄様の言葉をお借りすれば0点です」

 

 

人間生きてりゃ飯も食う。

酒も飲むだろう。

怪我もするし、病気にだって罹る。

ベストコンディションなんざ望むべくも無し。

何時でも、何処でも、誰とでも。

それこそが武術であり、俺の生きる世界だ。

 

 

「―――と、恭一お兄様は言われていました」

「.....ちなみに何時頃、それを聞いたんだ?」

「確か恭一お兄様が11歳の頃かと」

「11歳が話す内容では無いだろう......はぁ」

 

箒は溜息と共に抵抗していた力を抜いた。

クロエは箒の腕を放すと、事の真相を話し始める。

 

「私が此処で働いていたのは、社会勉強のためでは御座いません。束お姉様の指示によるものです」

「どういう事だ?」

 

クロエは箒に一つ一つ説明していく。

 

此処のホテル『テレシア』の支配人は『亡国機業』の幹部である事。

名はスコール・ミューゼルといい、恭一に大層ご執心である事。

そんな者が今日という機会に何もしてこない筈が無い。

そう読んだ束はある指示をクロエに託したのだ。

 

「私が此処に居るのは、箒お姉様を守護するためです」

 

専用機を持たない箒は、もしもの時の護衛の術が限られている。

箒の安全を確保すると同時に、彼女の安否を気兼ねる事無く恭一が戦えるように、束が配慮したものだった。

 

「なるほどな.....言いたい事は色々あるが、まぁ今は何も言うまい」

 

それよりも気になるのが、クロエの足元にある幾つかのボトル。

どうやらお酒が入ったボトルのようだが。

 

「あの男達も並みじゃない.....恭一」

 

クロエから必要な事を聞き終えた箒は心配そうに恭一を見守るしか無かった。

 

 

________________

 

 

 

クロエと箒が見守る中、フラついた身体で何とか立ち回ってみせる恭一だが

 

(かーーーっ!! 思うように身体が動いてくれやしねぇ!!)

 

「うおっ.....あぶっ....ねぇだろがッッ!!」

「ぐうぅぅっ!? 酒が入ってなお、これ程の拳を放ってくるか!?」

 

スコールが自信満々に送り出してきただけあって、中々の猛者揃い。

何時もの恭一なら訳無いのだが、このままでは分が悪いのは確かである。

しかし、どうも恭一のキレが悪すぎる。

確かにお酒をグラス一杯分一気に飲み干したとは言え、此処まで動きが悪くなる筈が無い。

 

(だぁぁぁ!! くっそウザッてぇ!! イライラするッッ!!)

 

思うように身体が動かないのはアルコールだけのせいでは無かった。

彼の心情にも原因がある。

 

この窮地はまさに自分が招いたもの。

しかし、恭一はわざと追い込まれる事を好むタイプである。

自分を窮地に追い込んでこその戦いを楽しむのが、この男の1つの在り方だ。

 

今回に関して、恭一はどうやら過程が気に入らないらしい。

酒が注がれた時にスコールの画策を見抜いた恭一は、どう切り返そうか考えていた。

 

それがどうだ。

箒を褒めようとして、情けなくも言い間違えを起こし、更には見抜いていた酒をガバ飲みしてしまう始末。

完全に浮き足立った己のミスである。

 

(弛んでる証拠だ.....くそったれが)

 

氣が身体中に行き渡っていれば、五体が融通無碍を得ていれば。

口に入れた瞬間に酒だと気付き、飲む事はしなかっただろう。

 

(九鬼なら飲み込みはしなかっただろう)

 

《当たり前じゃ》

 

当然、渋川のじいちゃんも。

更に言えば、師匠も。

んん?

 

(.....師匠なら敢えて飲むか? それどころか......ッッ)

 

「ククッ.....それはそれで面白ぇな」

 

何かを閃いた恭一は、男共から少し距離を取る。

 

(バカ正直に闘り合うのは此処までだ)

 

「クロエッッ!! よこせッッ!!」

「はい!」

 

恭一の声に、クロエは待っていましたと瓶ボトルを2本投げる。

それを両方共、上手くキャッチした恭一は嗤う。

 

リーダー格の男、ジョンは

 

(武器に使うつもりか? させぬ!!)

 

「距離を取らせるな、行けッッ!!」

 

すぐさま部下に指示し、予測に入る。

 

(投げてくるか、鈍器として扱ってくるか?)

 

「「 うぉぉぉ!! 」」

 

「へっ」

 

バリンッッ!!

 

「ぬおっ!?」

「ッッ?!」

 

向かってきた男2人の前で、瓶の頭同士をぶつけ割り、後ろへ数歩下がりながら

 

「ングングングングっ......んぐんぐんぐんぐんぐッッ」

 

「「「「「 ッッッ!? 」」」」」

 

恭一は2本のお酒、赤ワインと白ワインを同時に飲みだした。

 

「な、何をやっている恭一!?」

「ああすると力がビンビンになるのです」

「嘘つけ!? 何だそのデマ情報はッッ!?」

 

皆の目が点になる中で、イチ早く復帰したジョンが何かに気づき周りの者に声を上げる。

 

「何をしているお前達!? やれっ!!」

 

「「「「 ッッ!! 」」」」

 

言われた4人の部下が、未だ飲んでる恭一へ駆け攻める。

 

「んぐんぐっ......んふっ? んふふふふッッ!!」

 

4人に気付いた恭一は、両手に持っていた瓶を目の前で勢い良くぶつけ割る。

 

「うわっ!?」

 

そのまま破片に怯み屈んだ男の背中に転がり乗り

 

「おぶっ?!」

 

対面の男の胸元に蹴りを

 

「ほぁい!!」

 

左隣りの男に背中を預けるようにもたれかかり、右隣りの男にも蹴りを喰らわし

 

「このっ」

 

羽交い絞めされる前に抜け出し、今度は後ろの男にもたれかかって

 

「そぅら!!」

「うぶっ!?」

 

同じように顎へと下から蹴り上げた。

 

「おいしょー!」

 

体勢の整っていない男の胸元を掴み引き寄せ、エルボー型タックルから顔面への肘打ち。

 

「ん~~~? んふふふ」

 

吹き飛んだ男を尻目に、恭一は『月牙叉手』の構えを見せる。

親指と人差し指を広げ、杯を持った形を取る拳に、円を描く腕の撓り。

そしてフラフラ千鳥足に任せ、重心を悟らせない足運び。

 

(....!.....酔拳か!?)

 

1人、ジョンの目が光る。

 

「ほら、ほいよぉ~?」

「ッッ!!」

 

恭一は襲い掛かる左拳に対し、腰を捻り回避すると同時に自分の腕を相手の首に巻きつけ、無理矢理顔を上げさせた処で掌打。

 

「このヤロウ!!」

「んふっ」

 

左に回り込んだ男の裏拳を腕で防ぎ、そのまま自分の腕を絡め取り関節を破壊。

痛がる男を蹴っ飛ばした恭一を背後から拘束しに掛かるが

 

「ふややややッッ!!」

 

無理矢理背後に肘打ち連打、腕の拘束が解けた処でダメ押しの背中を使った体当たり『鉄山靠』が炸裂。

 

「ふぼぉっ?!」

 

後方へ倒れ込む男の死角から、恭一が再度構えるよりも早く

 

「シッ!!」

「おでっ」

 

側頭部へのハイキック、から

 

「フッ!!」

「おぶぶっ」

 

腹部への前蹴りを完璧にキメてみせたジョン。

 

「恭一ッッ!?」

 

よろけながら、蹴られた部分を痛そうに押さえる恭一を見て、思わず箒が叫んだ。

 

「ふごごご.....いたひ.....ような気がする」

「君のような少年がまさか『酔拳』を使えるとは思わなかった。悪いが隙を突かせて貰ったよ」

 

ジョンを前に、未だ恭一はフゴフゴ唸っている。

 

「ううっ.....何時もの恭一ならあんな蹴り二発も喰らわないはずなのに」

「それは、中途半端に酔っているからです」

 

クロエが言うにはこうだ。

 

『酔拳』とは諸刃の剣。

酔えば酔う程に強くなるがシラフ状態、微量または普通以下の量だとむしろ弱体化してしまう。

失った平衡感覚を逆手に取り、変則的な動きで相手を追い詰めるのが『酔拳』の真骨頂。

しかし、中途半端に酔った状態では、それが却って分かり易い動きになってしまうのだ。

 

「何故、そんな事をお前が知っている?」

「恭一お兄様から聞きました」

「.....ちなみに何時頃、それを聞いたんだ?」

「確か恭一お兄様が12歳の頃かと」

「12歳が話す内容では無いだろうッッ!?」

 

 

________________

 

 

 

「随分コミカルな動きをするのねぇ」

 

ワイン片手に楽しそうに笑うスコールは、モニターから目を離さない。

 

「それでもまだ貴方の力量は、測り終えて無いわ」

 

彼らを撤退させるつもりは、まだ無いらしい。

 

 

________________

 

 

 

「が、頑張れーーー! 恭一ィィィ!!」

「うむむむ.....も、もう少し飲めばきっと勝つるゥ......」

 

クロエの足元には最後の1本が。

 

「そ、それならッッ!!」

 

箒はボトルを拾い上げ、恭一へと向かって投げた。

 

「むっ.....させるかッッ!!」

 

ジョンが手を伸ばすが

 

「んにゃろめぃ!!」

 

それよりも早く、飛び込んだ恭一はボトルをキャッチ。

 

(易々と飲ませる訳にはいかん!)

 

振りかぶるようにボトルを奪おうとするが、右手から左手、また右手へ。

恭一はボトルをジャグリングさせ、機を伺う。

 

「んりゃ!!」

「うぐっ!?」

 

飲み口を掴みボトルの底ををジョンの腹へ突き出す。

腹への衝撃に耐えつつそのままボトルを両手で掴む事に成功し

 

キュポンッ♪

 

小気味の良い音と共に、恭一の手には飲み口に付けられていた栓蓋コルクのみ。

 

「いらんわこんなモンッッ!!」

 

コルクをジョンの顔目掛けて投げると同時に、ボトルを持つ手を蹴り

 

「しまった!?」

「もーらいっ!!」

 

空中へ飛んでいったボトルを再びキャッチした恭一は

 

「んぐんぐんぐんぐっっ......」

 

一気に飲み出す。

 

「このっ.....!」

 

何とか飲むのを抑えようと、蹴りを放つが恭一は腰から回転して避ける。

 

「んぐんぐんぐ」

「くっ.....セァ!!」

 

左拳を繰り出すも、空いてる右腕で防がれ

 

「ハァ!!」

 

右拳も同じく、ボトルを持っている左腕をアッパー気味に上げる事でジョンの体勢を崩した。

 

「ングングングングッッ......ブウウウウゥゥゥゥゥッッ!!」

「ッッ!?」

 

口に含んだ酒を噴き付けられたジョンは間一髪で避ける。

 

「おっぶぁぁぁぁぐぉぁぁぁぎっづい酒だなァ」

 

箒の足元にまで転がってきたボトルを拾って確認してみる。

 

「えっと.....バッテンマルって書いてあるぞ?」

「ブフッ.....そりゃXOだろがッッ!!」

 

『XO』ブランデーの高級品である。

ハイになった恭一は改めて構えて笑う。

 

「うひゃひゃひゃ!! くぉい!!」

「ぬぉおおおお!!」

 

ジョンは矢継ぎに拳と蹴りを放つが、腰をクネらした恭一は避けて避けて避けまくる。

 

「んヒヒヒッ!!」

 

モーションが大きくなった処で、一瞬にして懐に入り込み肘鉄砲からの裏掌打。

 

「ぐうっ!?」

「むふふっ.....今のは『何仙姑』の技だじぇい。むへへへへ」

 

魅惑溢れる腰付きでクネクネしだす恭一。

 

「何だその動きは!? ナメているのか!?」

「にゃやましぃ姿と身振りで、相手を惑わす『藍采和』の巧みな足運びでっ♪」

 

恭一曰くセクシー娼婦チックな腰付きらしいのだが

 

(( あれは確かにムカつく ))

 

女性陣にも不評だった。

 

「うっ?!」

 

クネクネした動きの中で確実にジョンとの距離を詰めていた恭一

これ以上入れさせまいと拳を振りかぶるが、尽く彈かれる。

間合いに入った恭一の狙いは

 

「どーしてそんなあぶにゃいモン付けて~~~~んのっ!!」

 

激しい攻防の中で、揺らめいていたネクタイを掴み自分へと引き寄せ、即頭部へ裏拳

 

「うごっ!?」

 

ちなみに、恭一は戦闘前にネクタイを外してある。

衝撃で後ろへ下がるが、ネクタイを掴んだ恭一はそれを許さずに、もう一度引き寄せ逆頬を掌打、さらに腰を落とし再度引き寄せると同時に、鳩尾へと肘打ち。

 

「ぐふぅっ」

「まだまだァ!!」

 

ジョンの腹にめり込んだ腕を股の間に入れ、ファイヤーマンズキャリーの体勢で担ぎ上げ

 

「ん~~っホイッ!!」

 

自分の背後へ横回転させながら地面に落下させた。

 

「がっ......」

 

自分達の隊長が完膚無き迄にやられた事で、動揺してしまう男達。

そんな隙を恭一は見逃さない。

 

「『張果老』の旋風脚でぃ!!」

 

低い姿勢から腰を鋭く回転させ、的確に顎とテンプルを踵で打ち抜き回る。

 

「うぐっ.....」

 

1人、また1人と倒れて行くが恭一は止まる気配を見せない。

 

「酔拳ってのはなァ.....八人の仙人の型から成り立ってンだよぉ.....うっぷ」

 

フラフラしながらも獲物を探す。

 

「まだ3人しか紹介してにゃーぜ.....おぅっぷ......」

 

吐きそうで吐きそうに無い恭一。

そんな彼に対して、ジョン達は後ろへ下がるしか無かった。

 

『―――此処までよ。撤退なさい』

 

其々のインカムにスコールからの指示が入る。

 

「.....引くぞ」

 

ジョンの言葉で男達は入口の方へと駆けて行く。

 

「何処へ行くってんでぇぇぇぇ!!」

 

逃がさんとばかり追いかけようとする恭一の背後から

 

「恭一」

「恭一お兄様」

 

声を掛けられて

 

「あ゛ぁん?!」

 

振り向いた恭一の目に入ったのは、ヒタヒタに水が入れられている大きな鍋を2人で抱える姿。

 

「「 せーの 」」

 

「あっ、おい待てぃ」

 

ザッ.....ぱぁ~~~~ん

 

「おごふぁっ!?」

 

真正面から勢い良くぶっかけられた恭一は、後ろへ倒れ込んだ。

 

「.....ぽひぽひ」

「これで本当に大丈夫なのか?」

 

倒れたまま目を回している恭一を心配そうに覗き込む箒。

 

「大丈夫です」

 

そう言ってクロエは恭一を肩に担ぎ

 

「長居は無用。まずは恭一お兄様の部屋へ帰還しましょう」

「.....そうだな」

 

箒もクロエに続くが

 

「ん? どうしたクロエ?」

 

急に立ち止まったクロエは防犯カメラに向かってニコヤカにサムズアップ。

 

「???」

 

不思議そうに箒が見つめる中、クロエは笑顔のまま首をカッ切るように親指をスライドさせた。

 

「さぁ行きましょう。箒お姉様」

「う、うむ.....」

(ちょっと怖い)

 

表情と動作のギャップに少し怯える箒だった。

 

「IS学園に着いたら私は恭一お兄様の看病をしますので、箒お姉様は千冬様に説明をお願いします」

「う、うむ.....」

 

触らぬ神に何とやら。

言わんともし難いクロエの迫力を前に、箒は首を縦に振るしか出来なかった。

 

 

________________

 

 

 

「あんなやり方での見事な逆転劇、ね」

 

確かにオータムが敗られ、エムが手玉を取られたのも頷ける。

 

「渋川恭一.....面白い、本当に面白いわ。うふっ....うふふふ」

 

それと

 

「あの子は誰かしら? IS学園の生徒欄には載っていないようだけれど」

 

ウェイター服を纏っていた銀髪の少女。

スコールは、目聡くもカメラに挑発したクロエの事も気になる様子だった。

 

「ほんと.....ゾクゾクしちゃうわぁ」

 

退屈を嫌う彼女は、苛烈な生こそが生きがい。

微笑む彼女は何時も以上に妖艶だった。

 





お酒は二十歳になってから!(`Δ´)

今回で7巻は終わりかな(#゚Д゚)y-~~

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