束さんが恭一くんキチになっちゃうかもしれないお話
「笑いすぎだぜ姉ちゃん」
ジト目で見てくる恭一に
「あっはっは、ごめんよもう笑ったりしないよプクク...」
「しっかり笑ってんじゃねぇか...」
「むふふ。それじゃあキョー君を笑ったお詫びに、この束さんがISの事を教えてあげよう!」
エッヘンと胸を張る束に
「いや、その前に何だよキョー君て」
「えっへへ~、きょういちだからキョー君だよ!」
束を知る者、例えば織斑千冬がこの光景を見たらありえんこれは夢だな、と起きようとするかもしれない。
篠ノ之束は基本、他人に対しては徹底的に無関心な人物である。
両親ですら辛うじて判別できるかな、くらいのレベルであり、彼女が正確に認識している人物は数名しか存在しない。
彼女が他人をあだ名で呼ぶ行為は一種の信頼の証でもあるのだ。
「まぁ呼びたいように呼べばいいわな。んで、なんだっけ?いんふにゃっと「インフィニットね」すとらいき「ストラトスだってば!!」えぇいうるさいなっ、名前より中身を教えて....く...れ.....?」
恭一はあんぐりと口を開けたまま固まってしまった。
一瞬で鋼鉄の鎧を纏った束の姿を見て---
「言葉で説明するよりも実際見せた方が早いよね!これが束さんの発明したISだ「すっげええええええええええええええッッッッ!!!!!!!」はうっ?!」
「なんだああああああああ?!このメカメカしい物体Xはああああああああ!?カッコいい!!!!かああああああっこ良すぎるぜえええええええええ?!!!アレか?『蒸着ッッ』ってヤツか、そうなのか!?そうなんだろ!?姉ちゃんってばすっげえええええええええええッッッ!!!!!」
恭一がここまで驚くのも無理のない事だった。
武を極める事に邁進した前世。
IS世界に来ても、同じく俗世を遮断し、ひたすら武を極めんとした男である。
そんな恭一にとって目の前の束の姿は非現実であり、正しく漫画やファンタジーの世界だった。
目をキラキラさせ、今も「ふおおおお」と叫び、驚いている恭一の一方で束もかなり面くらっていた。
---こんなに混じりっ気無しに褒めてもらったのって何時ぶりだろ...
.
.
.
篠ノ之束はあらゆる存在を超えていた。
実際、何でも出来たし何でも解った。
しかし、そんな束を周りの人間は決して褒める事は無かった。
「ちょっと頭が良いからって」
「アイツ何考えてんのか分かんねぇよ」
束に向けられていたのは負の感情だけであった。
両親ですら束を気味悪がり、距離を置いていた。
唯一、態度を変えなかったのがいずれ出てくる『織斑千冬』であり、束の数少ないありのままで話せる存在の1人である。
「ーい...おーい、どうかしたのかぁ?」
目の前で手を振っていた恭一に気づく。
「っ...ごめんごめん!なんでもないよぉ、危ないからキョー君少し下がってねぃ」
恭一が下がるのを確認した束は
「それじゃあ、お披露目だよっ!とくとご覧あれっっ♪」
そう言い、空を自由に駆け巡る束の姿を見て
「飛んだああああああああ!?いや翔んでるううううううううううッッッ!!!!!!すげええええええええええ!!なんていうかもうアレだすげえええええええッッッ!!!!!」
興奮しすぎてここにきて、語彙力とリアクションが歳相応になる元武神。
うおおおおお、と飛び跳ね両手を振ってくる恭一に
笑顔で手を振り返す束---
(私、今すっごい笑顔だ...それになんだろう。胸がすっごいポカポカする...なんでなのかな?)
ゆっくりと空から降下してくる束に走って近づいてきた恭一。
「すっげぇな姉ちゃん!!!完全に『翼』じゃねぇか!いいなぁ自由に空を翔ぶってどんな気持ちなんだい?」
---チクリ
胸が痛んだ気がした。
束は反応してしまった、恭一の言葉の中にあった『翼』に...
そうだよ...束さんの作ったISは『翼』なんだ!
私は戦い争うためにISを作ったわけじゃない。
空を翔け、宇宙を翔けるためにに作ったんだ。
『兵器』なんかじゃないんだ!
...でも
束は羨ましそうにしている恭一をチラリと見る。
...男の子だもんね。
戦う姿とか見たらもっと喜ぶよね...?
キョー君はISを『翼』だって言ってくれた。
でも、これからの姿を見せたらそんな考えは無くなっちゃうだろうな...武器?兵器?
それでも...こんなにも私とこの子(IS)を褒めてくれたキョー君をガッカリさせたくない...。
「え、えへへ!!それじゃあ今度はもっと凄いモノを見せちゃうからね!ブレードにレーザーに何でもござれだよっ!」
先程、空で見せた時以上に束の顔は笑顔で溢れていた。
「...?.....いや、それはいいや」
突っけんどんに言う恭一に
「へっ?ど、どうしたのキョー君?何か気に障った?」
「質問に質問で返しちまうが、何か思うトコでもあんのか?」
---ドキッとした。
「なんのことかなぁ?束さん分かんないや」
「明らかにさっきまでとは、感情のノリが違うじゃねぇか」
「そんな事ないよ、会ったばかりの君に何が分かるのさ?」
自分が次第に不機嫌になっているのが分かる。
「分かるよ。で、なんなんだ?武器が嫌いなのか?それとも武器扱い「憶測で適当な事言わないで!!!!!!!!」
つい叫んでしまった。
でももう止まれない---
「したり顔しちゃってさ、君いったい何様のつもり?初めて会った人の感情の起伏が、ましてやこの束さんが、君みたいな子供に!!分かるわけがないッッッ!!!!」
---恐ろしいまでに静寂な空気が流れる。
束は目を閉じた---
数分前に戻れたらな...後悔しても、もう遅い。
あんなにも褒めてくれたのに。
あんなにも認めてくれたのに。
そんな子に対して自分は...。
もう終わりだ。
束は大人気なく恭一に全開の殺気を放ってしまった。
先程までの自分に対する尊敬の眼差しは、もう恐怖で染め上げられているだろう。
---ゆっくりと目を開ける...と。
そこには平然としている少年の姿があった。
「分かるよ」
その声はどこまでも優しく
「確かに完璧に分かる事なんて無理だ。それでも、相手が嫌な気持ちになった事くらいは感じられる。まぁその原因が何なのかは確かに姉ちゃんの言った通り、適当に思いついたまんま口にしただけなんだけどな」
---信じられないかい?と言いながら
「俺は確かに姉ちゃんからすれば子供にだろうさ」
---恭一はゆっくりと近づいていく。
「それでも分かる。俺だから分かる。理屈なんかじゃねぇんだ」
---恭一の手がそっと触れる。
ピクッ
つい反応してしまう束「...どうして?」そう思ったが、それでも恭一が言わんとしている事を最後まで聞いていたかった。
---ゆっくりと握り締め---
「俺は... " 渋川恭一は最強 " だから」
---ブブーッ
「やっぱり壊れてるじゃないか!!!!!!!フザケンナッッッ!!!!!!」
先程握り締めた『嘘発見器』をプンスカと怒りながら、束に返す恭一。
「ぷっ...ぷふふ」
(どうして、この子はこんなにも私を熱くさせてくれるんだろう)
「うふふっあははははっっ」
(どうして、私はこんなにも笑顔になってるんだろう)
「おっお腹いたひっっ...ひーっ、ひーっ」
(この子になら全て話しても良いかもしれない)
「何笑ってんだテメェ!!」
「だってだって!カッコつけて歩き出して何するのかなって思ったら『嘘発見器』て!」
(違う。この子に聞いて欲しい)
「キメ顔で言ったのに!!おでは最強だぁって!それなのにまた、ぶぶーって!ぶぶーって言われてるし!!」
「そんな訛った言い方してねぇよ!!!!!!だから壊れてるっツってんだよそのポンコツ!!!!」
「むむむ!?この天才博士が作ったんだよ?壊れてるわけないじゃないかぁ!!」
「じゃあ何で否定すんだよ!?」
「最強じゃないからでしょ?」
「うがあああああああああ!!!!!」
「あはははははっ!!」
実際の処、何故嘘だと判断されているのか?
至極簡単な事である。
自分は最強、と言いながら心の中ではちゃっかり師匠が最強だと思っていたからである。
「ねぇキョー君...。良かったらさ。束さんの話、聞いてくれる?」
「...ここまで来たら、最後まで付き合ってやらぁな。時間はたっぷりあるんだろ?」
---っ....うんっっ!
束さんがショタコンだったなんて、幻滅しました。
これからは千冬さんのファンになります。