野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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セシリア超特急を読んだのでリメイクです。




第一部
第0話 死後からのリスタート(※リメイク版)


「先生のご容態はどうか?」

 

 集まった門下生の一人が悲痛な面持ちで問う。

 首を横に振られ、皆が涙を滲ませた。

 

「皆、入ってきておくれ」

 

 死の間際ですら、普段の凛とした先生の声が、そこに居る全ての者の耳へと届いた。

 

「よく来てくれた。もうほとんど見えないが気配で分かる」

 

「先生……!」

 

「ワシは己の全てを武に捧げた。この96年間、妻を娶る事も無く唯々、武にのみ生きた。人が聞いたら何と面白くない人生か、と笑うだろう。それでもワシは笑顔で逝ける。ワシのような武弁者を慕ってくれた者たちに最期を看取られるのだからの」

 

 それは悲痛な声ではなく、どこか弾んでさえいた。死を受け入れたというより、もっと……生の先へと進んでいこうかという表情だった。

 

「それじゃあ、あの世の強者と語り合ってくるか……の……」

 

「……せん…せい…?」

 

 この世で知らぬ者は無し。

 表の世界でも裏の世界でも、己を偽る事なく躍動し続けた『九鬼恭一』。いつの頃からか、周りから尊敬と畏怖の念をもって『武神』とまで称された男の死顔は、何処までも安らかであった。

 

 

________________

 

 

 

「……ここが死後の世界なんか?」

 

 見渡す限り白で覆い尽くされた空間にて、ワシは独り言ちた。死後といえば、閻魔大王やら天国と地獄の裁断者やらが居ると思ったが……ふむ…?

 

「おっ……来ましたね!」

 

「……童? まぁ良い、1つ聞かせておくれ。ワシは確かに死んだはずなのじゃが……ここはあの世で合っておるかの?」

 

 突然現れた10歳ほどの子供に内心驚きながらも、それを表情に出す事はせず、とりあえず思ったことを問うてみる。というか、驚いたとか思われたら少し癪じゃし。

 

「質問にお答えする前に自己紹介させて頂きますね! 僕は魂を司る者 " 転生神 " です」

 

 てんせい…しん…?

 てんせい神……転生の神、とな?

 

「神じゃと? そんなナリでか…と、言いたい所じゃが……うぅむ…信じるしかなかろうの」

 

「おや…? 意外な反応ですね。今まで来られた者の大半は、僕の姿から笑ったり呆れたりで、何れも簡単に信じたりはしませんでしたよ?」

 

 信じる信じないは別として、笑って済ます事など、コヤツの前でどうして出来ようか。

 

「ワシは武に生きた男じゃよ。対面した者の力量を測るくらい造作も無いわ」

 

 コヤツにも分かるように、わざと口角を上げて嗤ってみせるが、かつてワシにこれほど背中に汗をかかせる奴がおったか…?

 

 一体、何だと言うんじゃ…! この者から発せられとる圧迫感たるや……師匠レベルにまで達しとらんか……!? ワシが本気で殺り合ったら何合持つ? いやその前に、ワシはこの者を前にして動く事が出来得るのか…!

 

 生前、幾人もの武術家を屠り続け、気が付けばワシはいつの頃からか周りから称されるようになったモンじゃて。

 

 " 武神 "

 " 歩く姿から武の頂 "

 " 地上最強 "

 

 ククッ……童子に慄く『地上最強』か……笑えん冗談じゃ。

 

「へぇ……中々面白いですね貴方。でも僕が強い事と"転生神"って関係無くないですか?」

 

「"強さ"は絶対であり"力"は心を押し通す術。これが自論なもんでの。お主が放った言葉の真偽は問題では無い。ワシより強いお主の言葉を否定出来る強さを今は持っとらんわい……流石に認めるには歳を重ね過ぎとるがのぉ…」

 

「今は……ですか。貴方の思想はともかくとして、死してなお強さをお求めになるとは、感服しますね」

 

 この『神』とやらに驚き慄くのはもう良い、もう飽いたじゃろう。そろそろ違う感情、欲望が沸いてくる頃じゃ。

 

 ホンにまさかまさかじゃて。

 この歳で挑戦者になれるとはのぉ……と言うよりも、死してなお己の武を高める事が出来るとは、死んだ甲斐があったもんじゃろ…! 

 

 どうする? この強き者に教えを請うか? いやまずは死合うのが自然な流れな気がさえしてくるわ…!

 

「え~っと……何で臨戦態勢に入ってるんですか…? 僕は貴方と戦うために来たのでは無いのですよ」

 

「むぅ…」

 

「露骨にガッカリしないで下さいよ。僕の目的は貴方を転生させる事なんですから」

 

 そもそも、当たり前のように『てんせい』とか言っとるが、あの『転生』と勝手に捉えて良いのか? 

 

「お主の言う転生とは一般的な輪廻転生と解釈して良いのか?」

 

「少し違いますね。これから説明していきたいのですが構いませんね? 構いませんよね?」

 

 チッ……別に念を押さんでも、手前勝手に襲わんわい。

 んまぁ、今はコヤツの話を聞くのも一興か。

 

「とりあえず簡単に言ってしまうと、生前の記憶を継承し別の世界で新たな人生を生きてもらいたいのです」

 

「ふぅむふむふむ……単純に気になったんじゃが、今まで死んだ者は全員がお主の施しを受けておるのか?」

 

「いえ、ただの私の気まぐれです。たまたま貴方が選ばれた。ただそれだけです」

 

「ちなみに拒否権は?」

 

「ありません」

 

「抗っても(死合っても)良いと?」

 

「抗う暇もなく送りましょう」

 

「むむむ」

 

 コヤツが言うのだから、本当にそれくらいの事を成してしまうのじゃろう。それだけの凄みを感じさせとるのじゃから。

 

 しかし『転生』か。素直にコヤツの言を理解したならば、ワシはもう一度、生を謳歌出来るという事になるのか。

 

「お主の言葉を信じるとして、別の世界……というのがちと気になるの」

 

「おや、武にしか興味無い方だと思ってましたが、さすがに気になりますか? それとも何処か行きたい世界でも?」

 

「む? もしやワシの行きたい世界に送ってくれるのかの!?」

 

「いえ、もう貴方が行く世界は決まっておりますが、もしかしたら貴方の望む世界かも

しれませんよって、テンション高いですね」

 

 年甲斐もなく、昂ってしまうのは仕方なかろう。

 

 ワシの性格は何処だろうが、何時如何なる時だろうが変わらんと自負しておる。

 人並な遊びらしい遊びには見向きせず、恋人も一切作らず、唯一の趣味らしい趣味である漫画集めも娯楽目的というより、師匠に倣ったモノと言えよう。

 

 理由だってそうじゃ。創作なる物語を楽しむ為ではなく、あくまで己が使える技を探す為じゃった。武に興味のない者からすれば、きっとワシの人生は何とつまらん事か、と笑うかもしれんな。

 

 誰に言っても恥ずかしくない武一辺倒モンじゃ。そんなワシにも……いや、ワシじゃからこそ、生前は確かな『夢』を胸に抱いておった。弟子達には恥ずかしくて言えんかったがの。

 

 漫画は二次であり、創作。

 創作物には浪漫が溢れている。

 

 それらを読むたび、幾度思った事か。

 超人的な強さを誇る創作キャラクター達が、画の中で躍動している姿を目に焼き付けると同時に、ワシはいつも感慨耽ったモンじゃ。 

 

 コヤツらと闘りてェ……と。

 

 地上最強の親子喧嘩に混ざりたい。

 超人オリンピックに出てみたい。

 男塾に通ってみたい。

 一子相伝の北斗神拳を自分も学びたい。

 

 頭に浮かぶのは、どれもこれも非現実な願いじゃった。浪漫の塊達と死合った果てに友になる。夢にまで見た世界が今、現実になろうとしておる……!

 

「貴方が行く世界は『インフィニット・ストラトス』です」

 

「……それはアレか? 創作物のタイトル、と受け取って良いのか?」

 

「はい」

 

「……ふむ」

 

 知らん。

 知らんぞ、そんな漫画…!

 

 闘い在らば九鬼も在り。

 そう自称出来る程に、生前は武ある創作物をこれでもかと読んできたと自負しておったが……むむぅ…。

 

「もしかして割と無名なんじゃ…?」

 

「あっはっは! 爆発的な人気を誇ってますよ、ええ本当に!」

 

 高笑いが何とも嘘くさいが……さて、どうしたモノか。 

 

「強い奴はおるんか?」

 

 結局はそこに尽きる。

 己を惹きつけてくれる人物が、果たして居るのかどうか。

 

「強さ云々はともかく、男性である貴方に取っては間違いなく生き辛い世界でしょうね」

 

 答えになっとらん。

 それに加えて何ともボカした言い方じゃが。

 

「その物言い……そそられるのぉ…!」

 

「ふふふ、それでは『インフィニット・ストラトス』通称『I.S』の世界に関する知識を授けましょう」

 

「知識、か。いやそれは別に要らんわ。何も知らん方がのめり込めるじゃろ?」

 

「なら、貴方の意思を尊重しましょう。あとは転生特典について、です」

 

「転生特典?」

 

 よく分からんが、何故かワクワクする響きじゃ。

 

「生前の記憶とは別に、貴方が望むあらゆる能力を3つまで付与させて頂きます」

 

 これは……太っ腹な提案だ、と喜べば良いのかの。転生なんぞ、生まれて……いや、もう死んどるけど、取り敢えず初めてじゃから相場が分からん。

 

「いまいちピンとこないんじゃが、どのようなモノを皆は欲しがるもんなんじゃ?」

 

「統計上『ニコポ』『ナデポ』な能力が人気ですね」

 

「な、なんじゃそれは?」

 

「ニコッと微笑むだけで女性を恋に落とせる。頭ナデッとするのも同じです」

 

「あ、それはいいや」

 

「生前まるでモテなかった故に、労せず女性にモテたがる転生者が何故か多いのですよ」

 

「恋愛というヤツか。雄らしい考えとも言えるの」

 

 ワシにはまるで無縁じゃったから、そういう発想が出てこんかったわい。じゃが、死して生まれ変わるのなら、俗世に塗れたいという願望を否定する気にはならんの。 

 

「あとはですね……―――」

 

 それからも色々と人気(?)らしい能力を紹介されたが、どうしてもこれだと思えるようなモノは聞けなかった。

 

「う~む……手間賃無しにホイッと『力』を渡されてものぉ…」

 

「おや…? 貴方の美学に反しますか?」

 

 否、そんなカッコいいモンじゃないんじゃが。単純にパパッと思い付けないだけなんじゃが……ううむ。

 

「でしたら、適当に僕が見繕いましょうか?」

 

「いや……すまん、やっぱりワシに決めさせとくれ」

 

 96年間生きてきた。

 新たな世界など皆目見当も付かんが、同じく96年を生きると仮定するなら、やはり自分で思ったモノと共に在りたい。

 

 しかし……生まれ変わる……か。

 

 

.

...

.....

 

 

「お心は決まりましたか?」

 

「ああ、勿体ぶる事も無し。ざっと言っていくぞ? 1つ、病気にかからない健康な肉体が欲しい。1つ、疲れるという概念をワシの体から消して欲しい。1つ、ワシの頭のネジを何本か外して欲しい、の3つでどうか?」

 

 ふむふむ、とメモを取りながら、転生神とやらが思考する事数巡。

 

「1つ目は解りました。良ければ2つ目と3つ目の意図をお聞かせ頂きませんか?」

 

「質問に質問で返すようでアレじゃが、ワシのこれまで培ってきた武術は転生後すぐに使えるのか?」

 

「このままの特典内容であれば、不可能ですね。イメージは出来るでしょうが

単純に肉体が追いつかないでしょう。特典内容の1つを『全盛期の身体能力持ち越し』にすれば解決しますが、どうされますか?」

 

 地上最強の赤ん坊とな…?

 それはそれで、存外面白いかもしれん。新たな生を歩むのじゃ、この際それくらいはっちゃけてしまうのも有りと言えば有りと言えよう。 

 

「……いや、魅力的な提案じゃが、それも無しで良い。イメージさえ出来るのなら0からの復習でさらに技の改善が見い出せるかもしれん。2つ目の特典内容の意図は、身体を生前よりもさらに濃厚に仕上げたいからじゃ。3つ目はワシの師匠の言葉じゃの」

 

 師匠……か。

 懐かしいの……ワシが唯一頭の上がらぬ偉大なるお方。あの世で再び相見えるモノかと思っておったが、その前にまさかのぉ。

 

 いやはや何とも数奇な出会いが在ったもんじゃて。

 

「お主も既に分かっとると思うが、ワシは武にのみ生きた男。それに元来人付き合いが苦手なのも拍車を掛けてなぁ……」

 

 恥ずかしくはないが、遊びに興じる友らしい友は居らず、恋人など夢物語と言っても過言ではない人生じゃった。

 

「そんなワシを見て師匠はよう言っとったよ。『武に対しては誰よりも柔軟なお前さんが、武が関わらないとなるや、まるで別人のように視野が狭くなる。頭を固くしちまってるネジを緩めるどころか外しちまったら、また違うもんが視えて来るんだろうけどねぇ』ってな」

 

 自分は何処までも武に殉ずる存在。その想いは今も変わってはいない。しかし、『九鬼恭一』の人生は終えた、確かに終えたのだ。

 

 これから始まる新たな人生は『九鬼恭一』のモノでもあり、同時に『九鬼恭一』でないとワシは思っておる。

 

「96年間も続けてきた思考じゃ。今更ワシだけじゃ変える事なぞ出来んよ。第2の人生はワシであってワシでない者に楽しんでもらいたい。3つ目の要望も叶えてくれるかね?」

 

「なるほど、そういう事でしたら僕のさじ加減になりますが可能ですよ」

 

「ならこの3つでお願いしようかの」

 

「……それでは目を閉じてください……今から貴方を転生させます……新たな人生を...お楽し……くだ……い」

 

  

 

 意識が薄れて行く中。

 微かにそれでも確かに聞こえた転生神の声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……ネジ外しすぎたかも…」

 

 




軽く修正するつもりが、割とがっつり修正(加筆)してしまいました。
書き直した話はタイトルにリメイクを付け足しておきます。

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