《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
「今日も嫌な天気ですねぇ………」
太陽からの光が一筋も見えないほどに覆われた曇天の朝―――
今日も何事もないような気持ちで学校に登校しますが、心の中は穏やかとは言い難いモノが感じ取られます。
昨日の帰り際に見てしまったあの音声………
校舎の玄関口にて録音されたあの音声………
高らかに叫ばれたあの笑い声が今でも耳の奥で響いてくる。 心の奥底から叫んだであろうあの声は、とてつもない憎悪を抱かせる。 それが何故なのかは私にもわかりません……わかりませんが、とてもよくないモノなのだと言うことしか言うことができません…………
確実に何かが動き始めている私の日常に、影が落ちて来そうな………そんな気がいたしました………
「おや、あれは………」
校舎の玄関口で目に飛び込んできたのは、靴を下駄箱の中に入れている真姫ちゃんの姿でした。
何人もの生徒がいる中でも、真姫ちゃんの存在感と言うものは他の生徒と比べても高い方でありまして、見た目と言うよりか、直感的な意味で彼女を発見することができたのです。
早速、声を掛けさせていただきますか――――――
「おっはようございま~す! 真姫ちゃ~ん♪」
「――ッ!!!?」
私が声を掛けますと、何故でしょうか、言葉にならないような叫び声を発しました。
それに私の顔を見るなり、ポケットに手を突っ込ませ、2,3歩後ろに下がりますと、私から遠ざかろうとしたのです。 どうかしたのでしょうか? 疑問に思いますとすぐに行動に移してしまう私、ですから、尽かさず彼女に尋ねてみることに…………
「何かありましたか? 何か問題でもありましたら、私に相談してもいいのですよ?」
「い……いいのよ………洋子には関係ないの…………」
そう言って、真姫ちゃんはこの場から逃げるように去って行きました。
「おっかしいですねぇ~……悪い意味で言ったつもりはないのですが………」
私が発した言葉を振り返りながら現状を詳しく確認していこうとする私。 しかし、どう考えても私が悪いと言う点は、先程から現在に至るまで見当たりませんでした。
では、一体何だったのでしょうか………?
「ん……? なんなのでしょう……この紙切れは?」
それは真姫ちゃんが先程まで開けていた下駄箱に挟まっていました。 ノートの切れ端のような荒々しい破り方で構成された紙には、何やら文字が見えます………
私は箱のふたを開きますと、紙はひらひらと宙を舞って下に落ちていきました。 中身を見ますと、確かに真姫ちゃんの名前が書いてあります靴が見られました。 これが真姫ちゃんの下駄箱に間違いないと踏みますと、その落ちていった紙を拾いまして中身を見ることにいたしました。
手の平サイズに破かれていましたその紙には、大々と赤く太い文字でこう書かれていました………
『死んでしまえ!!!!』
「――――ッ!!!?」
目を疑ってしまうような内容に私は、胸を突かれるような衝撃を受けたのでした。
―
――
―――
――――
[ 広報部・部室内 ]
「はぁ………はぁ…………はぁ………………」
私はその紙切れを強く握りしめながら全力で走りだしまして、気が付きますと、いつも私が息を潜ませている安息の場所へと駆けこんでしまっていました。 ここに来れば落ち着くのだと無意識に感じちゃっていたようですね……
しかし、その選択肢を選んだ私の無意識はグッジョブです!
おかげで、先程、何があったのかを詳しく知ることができそうです。
私はパソコンの電源を入れまして、監視カメラの映像を確認し始めました。 特に私が注目したのは今朝の玄関が開き始めてからの様子です。 もし、この紙切れが入るのだとしたらその時でしかないと察したからです。 それに嬉しことに、玄関口に設置したカメラは、ちょうど真姫ちゃんの下駄箱近くであったと言うことです。 これならば、犯人がわりますね!
そう自信のこもった気持ちで映像を見始めました。
………が、何も映りませんでした。
玄関が開いてから現在に至るまで、あの下駄箱を開いたのは、真姫ちゃんと私しかいなかったということです。 一瞬、真姫ちゃんによる自作自演なのでは? と思ってみましたが、真姫ちゃんが開いて紙を中から取り出しそれに酷く驚いている様子が見られました。 さらに言いますと、現在、授業中の1年生の教室での映像を見ますと、真姫ちゃんの落ち着かない様子が見られるわけです。
これは彼女に寄るものではなく、第3者によるものである違いありません………!
そう踏んでみますが、確固たる証拠は見つかりません。
念のために、昨日の記録を開いてみることにしましたが、特に変わった様子は見受けられませんでした―――
――――――あの笑い声以外は――――――
(ブツン)
「あれ……?」
映像を見ていましたら、急に映像が消えてしまいました。
よく記録データを確認しますと、夜の10時ちょうど前に記録が止まっていることに気が付きました。
「おっかしいですねぇ………映像は、24時間体制で録られているはずなのに、どうして止まってしまったのでしょうか?」
また、全データを見てみますと、どうやら昨日の夜11時頃からの映像は録られているようなので、1時間だけの記録が無くなってしまったというわけなのです。 一体誰がそんなことを…………
しかし、この紙切れを入れた時間帯と言うのはハッキリしてきました。
データには何も異常が見られなかったということは、この空白の1時間の間で行われたのだと踏むことができます。 そして、この空白の1時間を作りだした者が今回の犯人であると言うことがわかりますね。
「ですが……肝心の犯人像が割れないのは何とも言えませんがね………」
カメラを設置しているにもかかわらず、その機能を果たせないことに呆れるしかありませんでした。
「………ん? そういえば、プリンターが光っているような………?」
私のいる近くにあります写真印刷用のプリンターが、チカチカと点灯していました。
広報部では、写真を印刷しなくてはなりませんし、裏営業のためには欠かせないですからね。 そのプリンターが点灯しているとなると、これは誰かが起動させたと言うことです。 はて、一体誰が………?
「おや? 前回までのデータが残っているようですね。 印刷してみましょう」
プリンターを起動させまして、残っているデータを写真として出力させ始めました。
ガチャガチャと独特の機械音を立てながら、印刷し出したのは複数の写真です。 それを一枚一枚拾ってみますと、先程とは異なる、電流が走り抜けたかのような衝撃を受けてしまいました!!
「こ……これは………!!!?」
そこに映し出されていましたのは、蒼一さんと真姫ちゃんのモノです―――――
――――ですが、それが2人とも蒼一さんの家にいまして、一緒に過ごしている様子が見受けられるのです。 それに、真姫ちゃんが蒼一さんにベッタリとくっ付いている様子も………!!
まさか……一つ屋根の下で、同棲しているのですか――――!!?
この時点で、もう頭がクラクラしてしまいそうでした………
ですが、極め付けだったのが――――――――――
「―――ッ!!? こ…こんなことが………あったのですか……!!!」
――――中庭にて……蒼一さんと………真姫ちゃんが……………
キスしている様子でした―――――――――
―
――
―――
――――
「いやいやいやいや!!! そ、そんなことがあったと言うのですか!!? そんなことが私の知らぬ間に起こっていたと言うのですか!!!?
私は酷く動揺していました。
何故ならば、蒼一さんと真姫ちゃんがそのような関係にあっただなんて思いもよらないことじゃないですか! μ’sの講師がそのメンバーと熱愛関係に!?…だなんてこと誰が予想したでしょうか?! これは早速、記事にしなくては………!!
久しぶりに執筆に力が入りそうな予感を抱き始めますと、パソコンの前に座りこのことを書き綴ろうと考えました―――――
―――――ですが、そう考えている場合でないことに気が付くと、手が止まってしまいました。
そう、現状が解決できていない状態で、このようなことを報じてしまったらどうなることでしょう? 真姫ちゃんに対する非難が、この紙切れどころじゃ済まないことになるでしょう………
特に、蒼一さんと幼馴染関係にあります3人や、それを含んだμ’sメンバーに話をすれば、只事では無くなるでしょう………
と言うのも、最近の写真の売上で蒼一さんの写真だけを買い漁るメンバーたちを見ていますと、少し狂気じみたものを感じてしまうのです。 この前の穂乃果ちゃんのように……………
ですから、今のところこの話は秘匿させていただくことにしましょう。
これ以上、問題が生じてはいけませんからね……………
(ドンッ!ドンッ!!)
「―――ッ!!!?」
部室の扉が激しい衝撃音を立て来ました。
そのあまりにも強い音だったために、私は恐怖を感じてしまいました。
一体誰なのでしょう………?
息を殺すように、気配を消していますと、扉の向こうから声が聞こえてきました。
「洋子、そこにいるのでしょう……? わかっているわよ……隠れてないで出て来なさい」
すぅーっと澄んだ声で話をしてきたのは、絵里ちゃんのようでした。
ですが、それはそれで困ってしまうのです……それは、絵里ちゃんは生徒会長でありますし……それに、今の時間は授業を行っているわけでして、結果的に私がサボっていることがバレてしまうではないですか! 絵里ちゃんに捕まれば説教だけでは済まされないような気がしてなりません!
私はそれでも息を潜ませるようにしました………………
「洋子……出てこないのであれば、あなたのことを理事長に報告しますし、この部も廃部にさせてもらうわよ? それでもいいかしら?」
「そ、それだけは困ります……!!」
私は、すぐさま扉を開きまして顔を出しますと、確かにそこには澄んだ笑みを浮かべる絵里ちゃんの姿がありました。
そんな無慈悲な通達を出されては、出てこざるをえないじゃないですか………やり方がエグイですよ………
「あら、洋子。 本当にいたのね」
「本当にって……嘘ついていたんですか………?」
「一度言ってみたかっただけよ。 それに、あながち嘘ではなかったし………」
「最後の言葉は聞かなかったことにします………それで、何かご用でしょうか?」
「用も何も、あなた、今は授業の時間のよ? 早く教室に戻りなさい」
「は、はい………」
そう言いながらも内心はホッとしております。 また何か言われそうでしたからね。 さあ、早く支度を済ませましょう………
「ああ、そうだったわ。 洋子、あなたに伝えないといけないことがあったわ」
「はい? なんでしょうか?」
「あなたの行っている取引を即中止しなさい」
「えっ………?」
一瞬、何を言っているのかがわかりませんでした。 しかし、絵里ちゃんの言っていることが、私が行っているあの取引のことなのだと言うことを理解することができました。
「な、何か問題でもあったのですか?」
「それが……あまりにも写真が学校中に広まり過ぎちゃってね、理事長に目を付けられそうになっているのよ………だから、彼女たちとの取引を中止してもらいたいのよ」
うぐぐ………理事長のところにまで話が言ってしまうのはさすがにマズイですねぇ………こちらの首が怪しくなってしまうのだけは避けたいところです…………
「そうでしたか……わかりました、すぐ止めるようにしますね………」
「そうね、それが一番いいわね」
絵里ちゃんも納得した様子で頷くと、私はその通りに行っていこうかと考え始めていました。
「それじゃあ、洋子――――――
――――あなたの新作はまだかしら?」
「はい………?」
またしても、何を言っているのかわからないことを口走るのですが………
「何を言っているのですか? 先程、取引を止めろと言ったのは絵里ちゃんじゃないですか?」
「ええ、確かに言ったわよ………彼女たちとの……はね?」
「ま、まさか…………」
「そうよ、あなたの写真はすべて私が買うことにしたわ。 これは生徒会長命令よ? 逆らえばどうなるかわかるわよね?」
そう言って、ニンマリと笑顔を見せて来る絵里ちゃんですが、その言っていること、やっていることは決して穏やかではありません!! 絵里ちゃんは私に脅迫を掛けているのです! それに従わないのであれば、私はこの学校からいなくなることになる……!! そんな権限を振りかざしてしまっては、こちらは手も足も出ないじゃないですか!!
「し、仕方がありません………そう言うことにしておきましょう………」
「ふふっ、素直で結構よ♪」
さらに、いい笑顔を作って見せてきますが、私にとっては企みを抱く悪魔のように見えてきました………
「それとね………もし、他の子に渡すようなことがあった場合には………ね?」
その言葉の奥に含まれている意味に悪寒を感じますと、私は戸惑うことなく「はい……!」と答えてしまいました。 何をされるかわかりませんから………
「そ、それでは……こちらになります………」
「……うふふ……ありがとね。 この調子で頼むわ♪」
そう言って、例のモノを手渡すとそれに見合った金額を受け取り、絵里ちゃんは去って行きました。
終始、冷汗をかかずにはいられない状況に、息苦しくてたまりませんでした。 それがようやく解放されて、落ち着いた感じがします………
「い……一体………どういうことが起ころうとしているのでしょう…………」
ここ数日間に立て続けに起こっている異変―――――それは確実に、負へとつながるものとなりつつありました。
【監視番号:11】
【再生▶】
(ピッ)
『…………うふふふふh……………』
『かなり、動揺していr……………』
『でも、それは受けて当然なn………………』
『真k………g、そんなことをしなければ、そうはならなかっt……………』
『………うふふふふふふh………………』
『真k………が、どんなふうに苦しm……………楽しみd……………』
『そして…………蒼…………しのモノになる………………』
『待ち遠しi……………あはははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!』
『あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
(―――――プツン――――――)
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
最後のところがとても気になってしまうところです。
次回もよろしくお願いします。