《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
翌日―――――
結樹さんが言った通り、俺はその日の午後に退院することが出来た。 とは言っても、盤石な状態ではないのは変わらない。 また数日後には、経過を診るために訪れなくちゃならない。
それでも、こうして自分の家に帰ることが出来ると言うのは、心が落ち着く。 結樹さん達には悪いが、あの病院にはあまりいい記憶と言うのは無い。 そして何よりも、飯がマズイ。 これは重要な案件故、さっさと家に帰り自炊してたくて溜まらなかったのだ。
それは兎も角として、もう家の前に来てしまった。 家の戸締りをしてしまったが肝心の鍵が無い。 だが、幸いなことに明弘が俺の持ち物一式を持っていてくれたようで、この時間ならば、家の中で待っていてくれているはずだ。
そして俺は、迷うことなく玄関の扉を開くのだった。
『おかえりなさい、蒼一(くん)!!!!!!!!!』
「……………は?」
家の中に入って早々、目に飛び込んできやがったのは、制服の上に白のエプロンを着たμ'sのみんなが待ち構えていたのだ!
そのあまりの光景に、目が見開いてしまったではないか。
「えーっと………これは一体どういうことなんだ………?」
「これはね! 蒼君が退院したら、この恰好でお出迎えしようってみんなで決めたんだ! どうかな、蒼君? 似合ってるかなぁ~?」
太陽のような満面の笑みで話してくる穂乃果は、俺のすぐ近くにまでやってくると、俺を下から見上げて、見事なまでに精錬された上目遣いで俺のことを見つめてきやがった! しかもそれだけでなく、スカートの裾を引っ張りながらクルリクルリと左右に回ってみせ、その何とも可愛らしい姿に無邪気さを含ませて見せつけてくるのだ。
くそっ……! 穂乃果の姿には見慣れていたはずなのに、どうしてこうも俺の心をくすぐってくれるのだろうか……!
思わずこっちから抱きしめてやろうかと一瞬だけ思ってしまった感情を堪えた。
「ま、まあ……いいんじゃないか? 穂乃果らしくって、可愛いと思うぞ………?」
「ホント! えへへ、蒼君にカワイイって言ってもらえたよ♪」
そんなに嬉しかったのだろうか、その場で小さく飛び跳ね始める。 その天真爛漫な姿に、また心がくすぐられるのだ!
「穂乃果! そうしては、蒼一が中に入れないじゃないですか!」
「はぁ~い……」
そう声を大にして穂乃果のことを叱るのは、海未だ。
さすがの穂乃果も海未には反論など出来なさそうだ。 もう、穂乃果の手綱を引っ張ってくれるのはお前しかいないようだ。 頼りにしていると心で伝えてみたり…………ん? そう言えば、海未の顔がいつも以上に紅くなっているような………んなわけないか。
「さあ蒼くん、中に入って! 残りの時間、ことりたちと一緒に過ごそうね♪」
「…………ん?」
ことりが俺の手を引いて、中へと連れ込んでいこうとするのだが、一瞬、何か変な言葉が聴こえたような気がするのだが……幻聴だろうか?
家の中に入った瞬間からどぎまぎさせられるようなことばかりが続いているのだが、何だか嫌な予感しないのは何故だろうか………
汗が噴き出てきそうだ――――――
―――――――――――――――――――――――
リビングに案内された俺を待ち受けていたのは、花陽と凛だった!
ことりの引っ張られる手から、そのまま花陽の手にバトンタッチさせられて、そのままソファーに座らさせられた。
おいおい……一体何が始まると言うんだ? と内心オドオドしながら待っていると、凛が俺の後ろに立ちソファーの背もたれに顔を乗せて、まるで猫みたいに俺のことをジッと見つめていた。 そして、花陽はと言うと―――――――
「蒼一にぃ♪」
ギュッ―――――
俺の右腕をしっかりとその身体でホールドしてくれるのだ! そのため、花陽のやわらかい身体(特に胸のあたり)の感触が直接腕から伝わってくるので、それだけで恥ずかしくて身体を熱くさせてしまうのだ!
「お、おい……これはどういうことなんだよ?」
「どういうことって言われても、凛は今日一日中は蒼くんと一緒にいるってことしか聞いてないにゃ」
「ちょっと待って、誰だ、そんなこと提案したの?」
「ん~……弘くん!」
「あの野郎………裏でこんなことしやがって…………」
この状況の背後には、やはりとしか言いようのない輩が潜んでいたとはな………何だ、アイツは俺に何させようとしていやがるんだ………?
この感じだと、ここにはアイツがいないということが明白。 知ろうにも、今知ることのできないこの状況に、ただ動悸を早まらせるしかなかった。
「ねぇ……蒼一にぃは……花陽と一緒にいるの……嫌だった?」
「うぐっ……………」
すると、花陽は抱きしめている腕に少し力を入れ、今にも泣き出しそうな瞳を潤わせ、切なさを含ませた上目遣いを使ってくるのだ! う、うわあぁぁぁぁぁ………花陽にこう言われてしまうと、罪悪感しか沸いてこないのですが……!!
………って、瞳の潤い度が増している……本気で泣きそうじゃん! ま、まってぇ!! お義兄さんが悪かったから泣かないで!!!
花陽を何とかして、もう片方の手でその小さな頭を撫でながら慰め始める。
「そ、そんなこと無いぞ。 花陽がこうして俺に抱きついてくれると、俺はとっても嬉しいんだぜ………!」
「ホントですか……!! えへへ♪ そう言ってもらえると、花陽は嬉しいです……!」
少々苦し紛れの言葉なのだが、それでも花陽は嬉しそうに俺の横でニコニコ笑ってくれている。
しかし、そんな素直な一面を見せてくれる花陽に、心が癒され始めていることに変わりはなかった。
「蒼一にぃ! もっと、ぎゅぅーってしたいです!!」
「……え、ちょ、ちょっと待っ……「え、えい………!」……って、うおおぉぉぉ!!!?」
「えへへ♪ 蒼一にぃの身体、あったかぁ~い♪」
「ちょっと……花陽……! 顔が……顔が胸で…………!!!」
俺の制止を出す前に、唐突に俺に抱きついてくる花陽。 しかも、その腕は俺の頭を抱えてしまうので、身体の位置的に、ちょうど俺の顔に花陽の胸が当たるわけでして………今すんごく息苦しいですがァァァ!!!
「ひゃあ! そ、蒼一にぃ……い、息が……胸に当たって………く、くすぐったい………////////」
うん、分かるよ。 そこに息を吹きかけられると、くすぐったいってことはよく分かる。 けどね、それぼどに俺の呼吸運動が深刻なのよ! お、おねがいだからぁ……お義兄ちゃんのおねがいを聞いてぇぇぇ………
「……で、でも……私、蒼一にぃのこと大好きだから………蒼一にぃのためなら、ずっとこのままでいいよ………♡」
うん、ありがとう………花陽、俺も大好きだ……花陽のことを愛しているから………だから、早くこのホールドと緩めてぇぇぇ…………!!
花陽の過剰なまでの愛情に、ガチで溺れそうになりそうだったのだが、意識がもうろうとする手前で離してくれたので大事には至らなかった。 胸の中で埋ずめられて死ぬって、こういう感じなのか………花陽、恐ろしい子………ッ!!
ちなみに、
「凛も蒼くんのこと大好きだにゃ♪」
ソファーの上で横になっていた俺に声をかけてくれた凛が、この時ほど、めっちゃ優しいと感じたのだった。
凛の場合は、恋愛感情じゃなさそうだけどね。
―――――――――――――――――――――――
「あー………死ぬかと思った………」
花陽の胸の大海に呑まれそうになったが何とか抜け出し、そして今、俺の部屋に向かっているところだ。
やはり、家に帰ってきたってのを近に感じられるのは、自分の部屋以外にどこにもない。 ちなみに、台所に行こうとしても、真姫とにこに占領されてて行けなかったからというのが理由なのだが……まあいいさ、飯が出来るまでの時間は、のんびりと過ごさせてもらおうか。
そう思いながら、部屋の中に入って行っ――――――――
「なななななな!! 何ですか、この女性の人形の数は!! どうして蒼一はこんなにも多くのモノを持っているのですか!! 破廉恥です!!!」
「ハラショォ………前回、来て見た時よりも若干増えているような気がするわね………それにしても、すごい完成度ねぇ………」
――――――くことを辞めたいのですが、どうしたらいいのでしょうか………?
………どうして、俺の部屋に海未とエリチカがいるんだァァァ!!! しかも、しまっていたはずの俺のフィギュアをあんなにも並べちゃって………恥ずかしい……! 俺の趣味をほぼ暴露させられているようなもんじゃないかァァァ!!!
一瞬、中に入ろうかと思ったが、海未のあの様子からするとあまり宜しく無い感じがして、身を竦ませてしまう。
なので、ここは一先ず撤退させてもらうしかな…「どこへ行こうとするのですか……蒼一………?」
「うぉおおおおおあぁぁぁぁぁぁぁ!???」
扉の若干の隙間からギロリと覗いて見てくる海未の眼力が、凄まじいものであったために、ついさっきよりも身体を竦ませてしまう……!!
いや、怖ェェェよ!! どこぞのホラゲみたいなことになっているのだけど!!
………って、海未さん? なんで、俺の首根っこを掴んでいるのですか? ねえ、痛いのですが……ねえ!!! あぁぁぁぁぁぁぁ………………
自分の部屋のことを、こんなにも忌み嫌いたくなったのは初めてだよ………
「まったく! 蒼一はどうして部屋のスペースを無駄にするような買い物ばかりするのですか!!」
「ちょいちょい! 俺のそのフィギュアたちは、お前が出したもんだろうが!! スペースを失くしたのは自己責任だろ!! それに、この部屋はちゃんと綺麗になってました!! 清潔でしたからァァァ!!!」
海未に掴まれて部屋の中に引き込まれ、早速、口論になる俺たち。 海未の言い分を聞いても、どう考えてもおかしいはずなのに、頑として認めようとしない!
「いけません! そのような態度では、いずれ無駄の浪費ばかりして、家計を圧迫しかねません! これを機に、いる物といらない物を区別したらどうでしょうか?」
「お前は俺の母さんかァァァ!!!」
というか、俺の母さんはこんなことは言いません。 むしろ、奨励してくれた方なのです、はい。
「まあまあ、2人とも落ち着きなさいよ」
言葉を飛び交わせても収集が付かないと判断したエリチカは、間に入ってくれた。 そのおかげで、この口論に一旦は収まりが付いたのだ。
「……ったくよぉ……そもそも、なんでお前たちがここにいるんだよ?」
「あー……それは、蒼一が気持ちよく帰ってきてこれるようにって、海未が掃除し始めたのがきっかけでね。 家中を1人で掃除して、最後にここを掃除しに来たわけ。 私は途中から海未を手伝ってたのよ」
「そう……だったか………」
2人が俺のことを思ってしてくれたのだと思うと、高まっていた怒りも和らいでしまう。 そう言うことなら早く言ってもらいたかったものだ、おかげで海未と喧嘩しちまったじゃねぇか………
そんな海未は、こちらにそっぽを向いて未だにお怒りのご様子。 やれやれ、勝手に怒って、それを収めるのが俺とはねぇ………何とも面倒のかかるヤツだ………
「悪かったな、気を遣わせちゃってさ………」
「………いいんです。 私が勝手にやったことなんですから………」
そう声をかけてみると、やや振り向き様に返答してくれる海未。 若干、拗ねた様子を見せてくるのだが、決して怒っている様子ではなさそうであることに安堵した。
その様子をエリチカが、何故だかニヤけながら見つめているのだが………
「あらあら、海未ったら正直じゃないんだから。 もっと、素直になればいいのに」
「なっ?! な、何を言うのですか、絵里!! わ、私が素直じゃないって、どういうことなのですか!?」
何かを含ませたような言葉をエリチカが話すと、海未はそれに過剰なまでに反応し始めたのだ。 まったく、俺には分からんぞ?!
すると、エリチカはちょっと悪い笑みを浮かばせて、海未をいじり始めた。
「あらぁ~? だったら言っていいのかしらぁ~? 海未があんなことを考えていただなんてねぇ~♪」
「え、絵里!! そ、それだけは言ってはなりません!!」
「え~? いいじゃないの。 どうせ、バレちゃうんだし、早めに言った方がいいと思うわよ?」
「だ、ダメです!! ダメったらダメなのです!!!」
「なあ、エリチカ。 それってどういうことなんだ?」
「あぁ、それはねぇ~………」
「い、いけません!!!」
「……って、うぉおおぉ?!」
「えっ……きゃあああぁぁぁ??!」
あまり刺激しすぎてしまったのか、海未は顔を耳まで真っ赤に染めだしてしまう。 その勢いで、ちょうど近くにいた俺にぶつかってしまい、共に倒れこんでしまった………いや、これは海未がまた押し倒したって感じなのか………
「いてて……大丈夫か、海未?」
「ひゃっ、ひゃい!!」
大丈夫じゃないな、これ………
共に倒れてしまったため、俺の上に身体を重ねてしまっている海未は、もう顔のみならず身体全体を茹でダコのように真っ赤に染め、熱く発熱させていた。 そんな様子をエリチカは、顔を引き摺らせながら見つめているのだった。
「……ったく、一体何がこうなったって言うんだよ」
「え~っとね……まあ、海未が嫉妬しちゃってたのよねぇ………」
「嫉妬?」
「え、絵里っ!!」
エリチカは頬を掻きながら話出したその内容に、やや疑問に思うのだが、海未の方を見てみるとかなり戸惑っている様子だった。 そのまま、エリチカは続けた。
「海未はね、蒼一が持っていたたくさんのフィギュアに嫉妬しちゃっててね、蒼一の持っているモノが大体女の子じゃない? それを見て『蒼一は私よりもこっちの方がいいのですか!』って言ってね、対抗意識を燃やしちゃったのよ」
「………たかがフィギュアなのに、嫉妬するって………お前なぁ………」
「けどね、蒼一。 私だって嫉妬しちゃってるのよ?」
「はぁ!? お前もか?!」
「だって……私と言う彼女がいながら、こんなカワイイ女の子のフィギュアを持っていたら嫉妬しちゃうわよ。 そんなので、満足なんかして欲しくないって思うのが当然なのよ?」
「は、はぁ…………」
「だから、蒼一はもっと私たちのことを見て、意識して欲しいのよ! 分かったかしら?」
「あ、あぁ…………」
エリチカの言っていることに納得できてしまうのは確かだ。 しかし、以前から集めているモノにとやかく言われるとなると、ちょっとなぁ………と感じてしまう。 女心と言うのは、分かりにくいものだ。
すると、海未が囁くような小さな声で話してきた。
「わ、私だって……人形などに嫉妬などしたくはありません……ですが、もし私の方に目を向けてくれないと思うと心配になってしまうのです………」
「海未………」
海未は俺の胸の辺りを指でなぞるような仕草をしてみせる。 その嫉妬する姿が可愛く見えてしまい、まるで小動物を抱えているかのような、そんな護ってあげたくなるオーラに心を撃たれそうになった。
「私も……あなたの彼女となったのですから………その……もし、寂しいとお思いになるのでしたら……いつでも私があなたの傍に行きますから………私を見捨てないでくださいね………?」
「ッ~~~~~~!!!!」
その最後の一言が、俺の母性本能というヤツにドストレートにハマり込んでいく!! その涙目になりながらの、少々困ったような表情を見せながら「護ってください」と言わんがばかりの言葉は、卑怯過ぎだ!! 可愛い! 海未がこんなに可愛いと思ってしまったのは初めてだ!!!
俺は勢い余って海未のことを抱きしめ出してしまう。 「きゃっ!」と驚く声をあげるのだが関係ない、今は海未のことを思いっきり抱きしめてやりたかったのだ!!
「安心しろ、海未! 俺はお前のことを見捨てたりなんかしない! 俺はお前の大切な存在なんだ! 愛しているお前のことを絶対に見捨てたりなんかしないさ!!」
「―――ッ!! はい! 嬉しいです!!」
跳ね上がるような声で応える海未は、見るからにとても嬉しそうな顔をしていた。 そんな海未の事を俺は好きになった。 だからこそ、この嬉しく笑う姿を護るために俺は頑張っているのかも知れなかった――――――
「………私だけ……仲間外れ………」
その後、エリチカも拗ね始めてしまう。
だが、愛情をたっぷり注いで抱きしめてあげたら、すぐに機嫌を直してくれたのだ。
ただ、瞬時に夜の女豹モードになりかけ、襲われそうになったのはまた別の話―――――
―――――――――――――――――――――――
「みんなぁー! ご飯が出来たわよー!!」
にこの掛け声で全員がリビングに集まると、みんなそれぞれテーブルについて食事の準備をする。 みんな既定の位置があるのだろうか、俺の両隣だけ空いており、その周りを取り囲むように7人が席についたのだった。
「それじゃあ、早く食べないとね♪」
「にこたちが腕によりをかけて作ったんだから、たぁ~んと召し上がれ♪」
その声に合わせるように、俺の両隣から魅了する声がステレオとして響いてくる!
「それじゃあ、蒼一――――」
「―――一緒に食べましょ♪」
「あはは……お手柔らかに………」
右には真姫が、左にはにこが座り、それぞれスプーンもしくは箸を手にしながら待ち構えている。 これってもしかして………
「ほら、蒼一。 あ~ん………」
やっぱりかぁ――――!!!
真姫が先に手を出したのは、オムライスかな? ルビーのような紅く輝くご飯を丁寧に一口分に掬ったスプーンをこちらに寄せてくる! というか、それと一緒に映る真姫の小さく開ける濡れた唇に目がいってしまうので、動悸が早まってしまう!
くっ……飯を食うだけなのに、こんなにも緊張してしまうだなんて………逃げたい………
だが、ここまでしてくれた真姫に失礼だと思い、腹を括る。
「あ、あ~……ん」
スプーンを口の中に含めると、料理だけを取り出す。 それを噛みだそうとした瞬間に、タイミングよくスプーンを口からするりと取り除いてくれる。
さすがだな、と真姫の気遣いに関心しながら口にしたモノを深く噛み締める。
「んっ!! これはウマいじゃないか!! もしかして、これを真姫が作ったのか?」
「うふふ、そうよ。 喜んでもらえて嬉しいわ♪」
いや、驚いた………
ご飯のちょうどいい硬さから染み出す旨味が、噛めば噛むほど肉汁のように流れ出る。 それに、ケチャップのちょうどいい酸味がいいアクセントとなって食欲を引き立たせる……!
んんっ!! これはいいぞ……!
「ほら、もう一口どうぞ♪」
俺の前に出してくるその料理を食べないわけにはいかなかった。 口にすればするほど、旨味と共に嬉しさが広がっていく。 料理がおいしいだけじゃなく、あの真姫がここまで上達したことの嬉しさと俺が口にするごとに喜ぶ表情が堪らなく愛おしかったからだ。
俺もこんな顔をして料理を作っていたのだろうかと思うと、嬉しい気持ちになる一方で、ちょっぴり恥ずかしい気持ちになってしまう。
「ちょっとぉ~! 真姫ちゃんばっかじゃなくって、にこのも食べてほしいよぉ~」
背中から俺のことを求めるにこが、甘く艶やかな声で誘ってくる。 身体を振り返らせてみると、にこが切ない顔をして俺のことを見つめていたのだ。 そのあざといとも捉えられるそんな表情だが、ここにいる誰よりも似合っているにこだからこそ許される仕草なのだと実感してしまう。
「食べ難いかもしれないけど、ちゃぁんと口を開けなさいよ?」
そう言うと、皿に乗っていたハンバーグを小さくさせたモノを箸で摘んで口元に近付けた。 だが、それを見た瞬間、若干の引け目を感じてしまうのだ。
すると、にこはちょっと苦い笑みを浮かばせる。
「大丈夫よ。 今回のには、入ってないわ。 あんなことをしなくても、にこの気持ちは十分、この中に詰め込んであるからね」
少し申し訳なさそうな声で呟く、その姿が痛ましく感じると、俺はその箸に飛び付く。 餌を捉え奪う鷹のような勢いで食べたので、目を大きく見開かせて驚かせてしまったが、にこの寂しそうな姿を見るよりか、いくらかマシだ。
そして、口にしたそれを噛み締めると思わず笑みがこぼれてしまう。
「にこ、おいしいぞ」
とてもシンプルな感想だ。
それでも、口にした瞬間に広がった強い旨味とにこの愛情が、微熱を含ませて身体の中に入ってくるのを感じるのがとてつもなく嬉しかったのだ。
そんな俺の言葉に、瞳を潤わせ、実に嬉しそうな表情を見せてくれたのだ。 やはり、にこはその顔が魅力的なんだと、再認識させられるのだ。
「もう、蒼一ってば、次は私の料理を食べてほしいわ! メインの後には、必ずご飯は付きモノよ♪」
「何言ってるのよ、にこのを少ししか食べてないのだから、まだにこが食べさせるのよ!」
「いいえ、絶対わたしよ!」
「いいや、絶対にこよ!」
「「むぅ~~~…………」」
突如、両隣で勃発してしまったどちらを食べさせるかの論争。 俺のすぐ目の前に、お互いの顔を突き出して睨み合っている。 こちらとしては、早く食べたいと言うのが本心なので、早めの決着を付けてもらいたかった。
「「蒼一はどっちなのっ!!?」」
えぇ………どうしてこっちに飛び火しちゃうのかなぁ……? 多分、俺は関係ないと思うのだけど………でも、答えないと2人はずっとこのままなんだろうし………
「「さあ! 応えて頂戴!!!」」
むぅ……仕方ない、こう答えるしかないか!
俺はそれなりに考えた結果を述べようと口を開き話す。
「俺は両方とも食べたいんだけど………ダメなのか?」
どっち付かずの典型的な答え方。 ただ、俺自身は本当に両方とも食べたいと言う願望があって、どちらを先にという考えなど無い。 むしろ、両方を一気に食べられるのであれば、一挙両得な感じがして良いと思っただけのことだ。
しかし、俺の考えとは裏腹に、2人は頬を赤らめ始めて少々恥ずかしそうな表情をしてくる。 あれ? 俺は何かマズイことでも話したのか? 自分がまともな答えを話したと思ったのに、こうした反応が返ってくると、あたかも自分が間違ったような答えを言ってしまったのではないかという不安に駆られてしまう………
だが、俺のこの心配は現実のモノとなった。
「も、もう……蒼一ったらぁ………欲張りなんだからぁ………/////////」
「にこと真姫ちゃんを両方とも一気に食べたいだなんて………みんなの居る前で大胆だわ………/////////」
「おい、ちょっと待て。 何故に、そんな意味深な言葉に変換されるのかなぁ?!」
どうしてこうなった……? いや、いかがわしさ万点の発言にどう対処すればいいんだよ?! 俺はただ飯を食いたいだけなのにィィィ!!!
「うふふ♪ 冗談よ、まさかそんなわけないじゃない♪」
「蒼一も過剰に反応し過ぎよ? もしかして、にこの可愛さにドキドキしちゃったかしら?」
「し、してねぇよ! と、というかそう言うことだろうってわかってたし……!」
いいや、わかってませんでした………いかがわしい方向性を考えていましたから………そう考えると、俺の方がイケないことを考えていた人にしか見えないな、これ。
「それじゃあ、早く食べましょ♪」
「両方食べたいって言ったから、一緒に入れるわよ♪」
そう言うと、2人はそれぞれ先程と同じモノを俺の口元に近付けてくる。
スプーンと箸……これは、両方とも口に入れることが出来るだろうか? 大きく開ければ可能ではないかと思うが………ちょっとキツイかもな………
目の前に出されたモノをどうやって食せば良いか目算していると、2人が目を細め出して、怪しげな目付きをし出すと、甘ったるい吐息を混ぜ合わせた嬌声を俺の耳元に直接囁きだした!
「「ちゃぁ~んと、
両耳から聞こえる色気たっぷりの艶めいた声が俺の官能を震撼させ、その吐息が耳だけじゃなく心までも弄ばれてしまう! この2人のダブルハニーサウンドが頭から離れることが出来ず、飯を食べ終わった後もしばらく魅了され続けてしまった……!
卑怯だ……! あんな感じに言われてしまっては、動悸が収まらないじゃないか………!!
結局、2人の食べさせ合いに最後まで付き合ったのだが、さっきのが気になり過ぎて、口に入ってくるモノの味がすべて甘ったるく感じてしまった……! 塩分……! 苦味を……!!
ちなみに、そんな俺たちのやり取りを他6人の突き刺さるような視線を受けていたのは内緒だ。
―――――――――――――――――――――――
「ふぅ……やっと、落ち着けそうだ…………」
さっきから事あるごとに、アイツらに振り回され続けてしまって、動悸とかがまったく収まらない状態だ。
そう言う時は、風呂の熱いお湯を全身に浴びせて、疲れを癒すのが俺のヒーリングタイムである。 全身裸になって、世の中の煩わしさや理不尽さなどから解放されるような気分になるこの一時は、何よりも大切にしたいモノだ。
病院では、検査続きで身体を洗う機会すら与えられなかったから、こうしてゆっくりと風呂を堪能することが出来ると言う尊さを十分に噛み締めながら浸かるのは、とても気分の良いモノだと感じられるだろう。
さて、まずは身体を洗わないと…………
バンッ―――――――!!
「…………へっ?」
身体を洗おうとしたその瞬間、いきなり浴室の扉が勢いよく全開になる! 不意打ちのように、開かれたその先に待ち構えていたのは、まさかのアイツらだった……ッ!!
「わーい! 蒼君とおっふろだぁー!!!」
「てへへ♪ 蒼くんと一緒に入れるなんて……ことりはもう……キャー♡」
2人揃って入ってきたのは、寄りによって、穂乃果とことりだった!!
しかも、タオルで身体の前のところだけを隠しているだけで、持っている手を退かしたら、すぐさま生まれたての姿に大変身してしまうと言うオマケつきと来た! そこは意地でも身体全体を隠してこいよ!! そうすりゃあ、まだマシなのに………あっ、あん時の真姫よりはマシなのか…………
「キャーって叫びたいのは、こっちだァァァ!!? どうして入って来ているんだよ?!」
「いいじゃぁ~ん。 穂乃果は蒼君と一緒に入りたかっただけなんだよ!」
「ことりは蒼くんが1人じゃ寂しそうに思ったから、こうしてきてあげたんだよ。 どう、嬉しいでしょ?」
「お前ら2人からは、個人的な思惑しか感じられんのだが………!」
この2人のこれまでの経歴を遡ってみても、ロクなことがありゃしない。 それに加えてのここでの鉢合わせは、嫌な展開しか思い浮かばないのは何故だろうか……?
「それじゃあ、穂乃果は蒼君の前の方におじゃましまーす♪」
「じゃあ、ことりは蒼くんの後ろにおじゃましちゃいまーす♪」
それだけはマズイ……ッ!!
特に、穂乃果が前に来られたらマズイ!!
俺は、お前らと違って何も身につけていないのだ! 辛うじてあるとするのなら、風呂用イスに座っていることくらい………だ、ダメだダメだ!! これでは、俺の前にあるアレが丸見えになってしまうじゃないか!!! こんなところで、セリヌンティウス並の羞恥は晒すわけにはいかん!!!
瞬間的な洞察をここで発揮させ、辺りにあるモノの中で使えるモノは無いかと探ってみると、ちょうどいいところに身体を洗うための手拭いがあったため、それで難無くアレを覆い隠すことが出来たわけだ。
ある意味、寿命が縮まったような気がした………
「あれ? もしかして、まだ蒼くんは身体を洗ってないの?」
「えっ……! あ、いや、というか、今さっき入ってきたばっかだからな………」
「それじゃあ、穂乃果たちが蒼君の身体を洗ってあげるよ!!」
「あ! それいいかも♪」
「じゃあ、穂乃果は前を洗うから、ことりちゃんは後ろをお願いね♪」
「はぁ~い♪」
陽気な声をあげつつ、ちゃっかり、身体を洗うための準備をし始める穂乃果。 身体にお湯をかけ、身体に着けているタオルを濡らして、身体とちょうどいい感じに密着させていた。 ちょっと動けば、ポロリと取れてしまうのではないかという緊張感と、髪を降ろして色気が増したその姿に感情が高まっていたのだ。
「はーい、じゃないよ!! なんでそう言うことになるんだよ!!?」
「だって、今日の穂乃果たちは、蒼君のためにいっぱい御奉仕することを決めているんだもん♪」
「はい? え、今なんて言ったんだ……?」
「ほ、穂乃果ちゃん! だ、ダメだよ!」
「あっ、そうだった……!」
瞬間、穂乃果が何か変なことを口走ったような気がしたのだが、ちゃんと捉える事が出来なかった。 ただ、もう一度聞いてみようとすると、後ろからその豊満な身体を押し付けてくるので、そちらの方に気を取られてしまった。
「こ、ことり?! お、お前、何かとってもやわらかい感触と硬い突起物のようなモノが当たっているようなのだが……?!」
「うふふ♪ もしかして、蒼くんは感じちゃったのかなぁ? ことりのこの胸の感触を♪」
「まさか……タオルを外して生で押し付けてきているのか………?!」
「正解だよ♪ 蒼くんはこういうのが好きなんでしょ? 今だって、こんなに胸をバクバク言わせちゃって……ことりに興奮しちゃってるのかな……♪」
ぐぬぬぬ……何も言えねぇ……!!
背中から感じることりの生の感触が直接伝わってくる。 そのやわらかな胸の感触とコリッと固くなっている乳首の2つの感触が同時に伝わってくるのに、興奮を止めることなど出来やしないじゃないか!!
「それじゃあ、蒼君の身体を洗っちゃうね♪」
穂乃果の手の中で、しっかりと泡立った石鹸を俺に見せつけながら、ゆっくりと俺の身体に向けて手を伸ばしていく。 そして、胸の辺りに触れ始めると、そこを中心に円を描くように滑らかな手つきで俺の身体を洗い始め出した。
「どうかなぁ? 気持ちいい?」
「あ、ああ、いい感じだぞ………」
「えへへ♪ そう言ってもらえると、穂乃果、もっと頑張っちゃうからね」
嬉しそうな表情を見せてくる穂乃果の洗い方は、お世辞ではないがかなり上手だ。 やさしく触れてはゆっくり丁寧に泡を表面上にしっかりと広げていくだけでなく、シワや影となって見えにくくなっている部分にまで手を伸ばしては、しっかりと洗ってくれている。
ガサツな性格なのに、こうした丁寧な仕事をする穂乃果に驚きを感じていた。
「それじゃあ、ことりも洗いに入りまーす♪」
背中の方からも甘い声が聞こえ出すと、石鹸を泡立てるような音をし始める。 穂乃果と同じように背中も満遍無く洗ってくれるのだろうと、信じて待っていた。
しかし、驚いたことに背中に感じたのは、手や指の感触ではなく、さっき感じたばかりの胸の感触だったのだ!
「んななななっ?!!! 何をしてるんだことり!!!?」
「あはっ♪ もしかして、もう感じちゃったの? そうだよ、ことりは今、私の胸で蒼くんの背中を洗っているところなんです♪」
マジかよ、お前――――ッ!!!
さっきからむにむにと背中に伝わるこのやわらかな感触は、やっぱり胸だったのかよ!! しかも、その場で留まるんじゃなくて、いい感じに上下に動くから気持ち良すぎるんだよ!!
というか、よく理性がブッ飛ばないな、俺!!!
普通ならば、ここまでの事をされてしまったら、いい感じに吐血してしまうものなのだが、どうしてかその気配など微塵もない。 もしや、これまでの出来事の中でいろいろと経験し過ぎたから耐性が出来てしまったと言うのか……! 何だよ、嬉しいようで悲しいようなこの気持ちは………!!
興奮と哀愁に浸っている中、目の前を見てみると、穂乃果がムスッとした顔で俺のことを見ていた。
「もぉ! ことりちゃんばっかでずるいよ! 穂乃果も一緒にやる!!」
「なにぃっ?!!」
何を思ったのだろうか、穂乃果は躊躇なく身体に密着させていたタオルをはらってしまう! するとどうだろう、目の前に現れたのは、生まれたての姿をした穂乃果がそこにいるのだ! つい先日、その姿をバッチリ目の中に収めてしまったと言うのにも関わらず、またこうして見てしまうと顔を熱くさせてしまう。 にも関わらず、俺はまた穂乃果の女性らしくなったプロポーションに惹かれてしまい、息を呑んでしまうくらいにまじまじと見てしまうのだ。
「えへへ♪ どうかな……? 穂乃果の身体は……?」
そう聞いてくる穂乃果の顔は、頬の辺りを紅く染めて恥じらって見せる。 しかし、前回と違うのは、穂乃果は腕で胸元や女性の秘所を隠すことなく大胆にも全身を見せてきたのだ。 その度胸に感心してしまうところだが、改めてその見事な全身像に見惚れてしまうのだった。
「あぁ………きれいだ……綺麗だぞ、穂乃果」
「うん……そう言ってもらえて、嬉しい/////////」
お互い顔を紅くさせながらの感想の言い合いは、ちょっと恥ずかしい。 自分の羞恥を晒されるよりかは幾分もマシだが、心を揺すられるような、それなりの恥ずかしさはあった。
「それじゃあ……いくね……?」
「あ、あぁ……お手柔らかにな………」
穂乃果は自分の胸で泡立たせると、そのまま俺に抱きつくように身体を密着させた。 穂乃果のやわらかな胸の感触が伝わり始める。 ことりほどの大きさではないものの、ちょうどいい大きさで整えられたその胸が、俺の胸から腹にかけてを上下に移動してくれるので、この上ない気持ち良さに理性が崩れ掛けそうになる。
「んっ……んんっ………どう……かな……? 穂乃果、上手に出来てるかなぁ……?」
「お、おう……とても……上手に出来ていると思うぞ……実際、気持ちいいんだし………」
「そう…! えへへ♪ それじゃあ、もっと気持ち良くさせてあげるからね♪」
初めての行為なので、とてもぎこちない動きをしているからか、心配そうな顔で俺に聞いてくるのだが、そのちょっと困ったような表情を今見せつけられると、本当に理性がヤバいことになるので顔を逸らしてしまう。
そして多分、そこからめちゃくちゃ明るい表情に切り替わったんだろうと思うのだが、そこまで見てしまったらお終いなんだと感じながら、どうにか堪えて逸らし続けていた。
「もぉ~! 蒼くんってばぁ~! 穂乃果ちゃんばかり見ないで、ことりのこともみてほしいよぉ~!」
見ろと言われても後ろにいるのではわからないじゃないか、と言おうとしたが、いつの間にか穂乃果の隣にいるではないか! 顔を逸らして気が付かなかったのか、その隙にやってきたのだろう。
しかし、この光景はかなりおかしい。
何故なら、2人とも俺の太ももに座っており、左に穂乃果、右にことりという逃れることのできない布陣を置いてきたのだ! さらに、今度は俺の太ももに2人のちょうどいい感じに肉付けされたやわらかなお尻の感触も伝わり始めたのだ!! や、やわらかい……! 胸とは違ったやわらかさと気持ち良さをこの一瞬で十分なくらいに堪能してしまったのだ。
「「ねぇ、蒼君(くん)―――――」」
すると、色付いた表情を浮かばせ、緩んで少し開いた唇から嬌声といいたいほどの艶かしい声で俺の名前を呼ぶ。 2人とも疼き出している感情を抑えるかのように身体をよじらせ、物欲しそうな目で俺を見つめだしたのだ。
「「穂乃果(ちゃん)とことり(ちゃん)とどっちがいい――――?」」
「――――ッ!!!」
2人のその言葉が俺の留めていた理性に一撃を喰らわし、崩壊させていく。
選択肢が2択しかない………? そんなはずはないだろう………ここにもう1つあるじゃないか………
ゆらりと頭を揺らすと、咄嗟に出た俺の腕が2人の身体をとらえ出す。 そしてそのまま、身体を引き寄せて抱きしめる。 「きゃっ……!!」という子犬のような驚く声をあげながらも、俺にその身体を預けると素直な様子に変わる。
そんな2人の耳元に小さなこえで――――
「穂乃果とことりのどっちもに決まっているじゃないか――――」
――――と囁く。
すると、2人は身体をビクンとさせて火照り始める。 どうしようもなく
そして俺は、2人に―――――
「なにがしたいのかな――――?」
――――と、悪戯な心を剥き出しに囁いた。
そして2人は―――――
「「そ、蒼君(くん)の思うがままに………シテ………♡」」
そして俺は、2人の欲望を満たす限りのコトを行ったのだった――――――
―――――――――――――――――――――――
湯船に浸かるよりも熱い一時を過ごしてしまったために、若干、疲労が溜まってしまっている。 しかし、精神的には、満たされたと言うか、潤ったと言うべきか……病み上がりであるはずなのに、こう言うことをして大丈夫なのだろうか? と思うところもあるが、今のところ支障は無い。
今のところ、俺は元気です。
それはそうと、夜も段々と更けてきた。 もうそろそろ寝なければならない時間となるはずなのだが、アイツらは未だにここにいる。
何故なら、アイツらは一晩だけ泊まっていくと言うことをちゃっかり決めちゃっていたのだ。 そこに俺の干渉は届くことが無く、半ば強制的にそうなってしまったのだ。
ちなみに、各家庭には事情は伝わっているらしいのだが、何とも不安でしかないような気がして溜まらない………これで俺にとやかく言われたらどうするつもりなのか、是非ともそこん所を聞いておきたいものだ。
………あれ? そう言えば、さっきから希の姿を見掛けないぞ? というより、帰って来てから希と顔を合わせたのは、最初のお出迎えや食事時くらいだ。 あとは、何故かすれ違うこともなくこの時間にまでなってしまったのだが、本当にアイツはどこに行ったんだ?
もしかして、避けられてたりするのだろうか? いや、まさか………
そう考えてしまうと、気になって仕方なくなる。
というわけで、ちょうどリビングに集まっていたみんなに希がどこにいるのかを聞いてみることにした。
「なあ、希を見かけなかったか?」
「え? 希ちゃんなら多分、上にいると思うよ♪」
「ええ、蒼一の部屋で待っていると思いますよ♪」
「まあ、いるかどうかなんて確かめないと分からないけどね♪」
「希ちゃん、どうしているんだろうねぇ~♪」
「絵里やことりも一緒にいるみたいだし、言ってみたらいいんじゃないかしら♪」
「希ちゃん、顔を真っ赤にさせてとっても可愛かったにゃぁ~♪」
………ん? それは一体どういうことなんだ? みんな口をそろえて意味深な言葉を発しているのだが、その意図が読み取れない。 というか、言われるまで、ここにエリチカとことりがいないと言うことにも気が付かなかった。
つまりは、俺の部屋で3人が何かをやっている………? 少し気になるところだな、行ってみるか。
そう思い立った俺は、そのまま自分の部屋に向かっていくことに――――その際、穂乃果たちが意味ありげな笑みを浮かばせながら俺を送っていったのが、不自然に気になっていた。
階段を上がって俺の部屋の前にやってくると、ちょうどそこに、俺の部屋から出てくるエリチカとことりの姿があった。 2人のその手には、何やら大きな袋を下げているのだが、何が入っているのだろうか? 気になってしまう。
「あら、蒼一。 もう来てしまったのね」
「何のことだ、エリチカ。 というか、ことりも俺の部屋で何をしていたんだ? そして、希は?」
すると、2人はお互いの顔を見合わせるとクスリと笑っていた。
何か面白いことでも見つけたのだろうか? 俺にはすぐに話すことなく笑っていたのが印象的だった。
「希ちゃんならこの中で待っているよ♪」
「かなり、可愛く仕上がったからちゃんと隅々まで見てあげてね♪」
2人はそれを捨て台詞のように言った後に、俺の前からいなくなる。 そして、残ったのは俺とこの扉――――さて、何が待ち構えているのだろうか……早速開けてみることに―――――!
「………おじゃましま~す………」
自分の部屋なのにどうしてこんなことを言わねばならないのか、俺にもサッパリわからないのだが、多分、雰囲気でそう言ってしまったのだと思っている。
しかし、中に入って見ても、肝心の希の姿が見えなかったのだ。
「あれ? どこにいるんだ?」
アイツらは、ここにちゃんといるって言っていたから間違いないとは思うのだが、こうも見当たらないと考えモノだな。 俺の見える範囲にあるところはすべて探しては見たモノの、居ると言う気配すらないとは………さて、どうしたものだろうか………
少々、落ち込んで下を向いてしまいそうになるのだが、ふと、顔をあげるとまだ探していない場所があるところを発見する。
「確か、まだクローゼットの中は探してはいなかったはず…………」
思ったらすぐに行動に移すと、早速、クローゼットの扉を開いてみる。 ジャケットなど幾つもの俺の服が掛けられているその中に、とても不自然な衣服が………
明らかに俺の服でもない。 となると、考えられるのはただ1つだけだった。
「………何やってんだ、希………」
少々、呆れがちになって声をかけてみると、それに反応するように服を揺らす。 あー……これはやっぱり希なのか……と思いながら、服の中を探るように伸ばしていくと、やわらかい感触に当たる。 「ひゃっ!」という声が聞こえると、触れたそれをそのまま引っ張り出して俺の前に明らかにさせた―――――
「の、希………その格好………」
あたふたと覚束ない足取りで俺の前に現れた希の姿に、目を見開いてしまう。
何故なら、さっきまでの制服エプロン姿をしていたはずなのに、とても刺激的なメイド服姿となっていたからだ!
「い、いやぁ……見んといてやぁ………」
少し涙目になりながら赤面する希。
見るなと言われても、その姿を一目見た瞬間から離れようにも離れないのだ。 極限にまで短くされたスカートに、腰に回る大きなリボン、そして、何よりも一番目立つのは、首元から胸元にかけてまで大きく開いた素肌だ。 しかも、希の大きな胸を包むブラが思った以上に小さく、ブラが胸を包むのではなく、胸がブラを包むという大胆なモノとなっているのだ!
そんな俺に見せつけるような大きな胸を出して、見るなと釘を刺すのは難しいことだ。 それだけじゃなく、全体的にも肌の露出が多いのに、どうしろというのだよ。
逆に、こっちが戸惑ってしまう始末だ。
「な、なんでお前がそんな格好をしているんだよ………」
「そ、そないなこと言われても……えりちとことりちゃんに呼ばれてきたら、急にウチの服を脱がされて、この服に着替えさせられたんや………」
「あー……だからあんな袋を………」
あの大きな袋の中身は、希の制服だったってわけか……なるほど、それはひどい。
だが、いい仕事をしてくれてありがとう、エリチカ、ことり。 おかげでいいモノが見れました。
この時ほど、お前らの事をありがたいと思ったことは無いぞ………!
「しかしだ、そんなに恥ずかしがる必要なんかないじゃないか? 結構、似合ってると思うんだけどな?」
「………ほんま………?」
「ああ、かわいい。 めっちゃかわいいぞ、希」
「ふぇっ……?!! そ、そないなこと言わんといてよぉ~! めっちゃ恥ずかしくなってきよったわ………」
かわいいと言われたことがそんなに恥ずかしかったのか、希は俺に背を向けてうずくまってしまう。
………って、背中の方も背筋とか肩甲骨とかがハッキリと分かるくらいに肌を露出させてるのかよ! ………なんかエロいな………
「………今、ウチの事をやらしい目で見いひんかった?」
あれ、バレた? こちらに顔だけを向かせて、ジト目で俺を見つめる視線が少々痛いのだが、事実なので仕方ない。 俺は腹をくくる気持ちで、暴露する。
「ああそうだよ! お前のことをとてもイヤらしい目で見ちゃってたよ!!」
「ええっ?!! そ、蒼一!!?」
「背中のスベスベの肌とかさ、見たらちょっと触りたくなっちゃう衝動に駆られたくなっちゃうじゃん! 肩甲骨のところとかめっちゃエロいじゃん! それに何なんだよ、その見せつけるような胸はさ! 誘ってるのか? もしかして、本当に誘っちゃってるのか?? そんなエロかわいい姿を見せつけているのに、どうして見るなって言うんだよ、無理だよ!! てか、めっちゃかわいいから!!」
「ふぇっっっっっ!!!! や、やめてえぇぇぇぇぇぇ!!!! 恥ずかしいから、それ以上言わんといてや!! 恥ずかしさのあまり、爆発してしまいそうやん/////////」
希の言う通り、今の希は、頭のてっぺんから足のつま先までのすべてがリンゴのように真っ赤になっており、頭からは蒸気のようなモノまで立ち上っている始末。
ただし、俺は悪くない。 俺はただ、自分の気持ちに素直になって語っただけなんだ……だから、悪くない!
…………多分。
「もおぉぉぉ……蒼一のあほぉぉぉぉ………もう、まともに見れへんやないの…………」
さっきよりも悪化してしまったか、希の塞ぎ込みようは一層深くなっていた。
さすがに、やりすぎたのだろうか……? とちょっとだけ反省する。
その時、あることをハッとなって思い返した。 そうだった、これについて聞かなくちゃいけなかったな………
俺は、希に近づくと、同じ視線の高さにまで屈んで希に尋ねてみる。
「なあ、希。 お前はどうして、俺を避けるようにしているんだ?」
その声にビクッと肩を震わせると、ゆっくりとこちらの方に顔を向けてきた。
「そ、それはやなぁ………その……恥ずかしかったし……めっちゃ申し訳ないなって思っとったんよ………」
「申し訳ない……? なんだそら?」
「あ、あんな………ウチ、みんなに迷惑かけたやん? そん中でも蒼一にはめっちゃ迷惑をかけたと思っとる。 そう思うとな、ウチはどないな顔をしたらええんか分からんのや………」
覇気のない声で延々と悔やむ言葉を探す希。 まだ、自分のやったことに後悔の念を抱く悲愴感を漂わせていた。
希がここまで引き摺ってしまう訳は、多分その性格にあるのだろう。 希は幼い頃から転校ばかりを続けいたために、自分の感情を押し殺してしまうモノがあった。 たとえ自分が欲しいと思っているモノがあってもねだることもせずに我慢してしまうのだろう。
そのため、持っているモノだけは大切にしようという考えを抱くようになったはずだ。 それは友人関係にも言えることだ。 以前、エリチカが希を突き放した時、希はその関係を何とか修復しようと努めていた。 それはエリチカの事をとても大切にしていたからだ。
それも含めて、今回のことを考えると、今までの希では考えられない行動を行っている。 μ’sの内部崩壊を目論んだことこそ、ありえない話だった。 まして、アイツにとって初めてと言えるたくさんの仲間を得たのもμ’sのおかげでもある。 自分で命名するほどに大切にしていたμ’sをその手で壊すなど、自分の首を絞めるに等しい。
そんなジレンマを抱えながら行動していたと考えると、心に来るものがあったのだろう。
そうした心の重荷が今の希に強く圧し掛かっていたのだ―――――
―――けど、俺はそれを見て見ぬ振りなど出来るはずもなかった。
「希……」
「えっ……そう……いち………?」
俺は希の背中からその身体を包むように抱きしめた。 そのことに、少々戸惑う様子を見せるのだが、さっきよりも悲しい気持ちが和らいでいる様子だった。
俺はその耳に囁く―――――
「大丈夫だぞ、希。 俺は迷惑だなんてこれっぽっちも思っちゃいないさ。 というより、今こうして希と身体を寄せ合っていられることに喜びを感じているんだ」
「よろこび……? どうしてなん……?」
「そんなこと、決まっているじゃないか――――――俺は希の事が好きなんだから」
「~~~~~ッ!!!」
俺の囁きを耳にすると、また耳をポッと紅くし始める。 正面から見ていないため、今どんな顔をしているのか分からないが、きっとリンゴのように全体を紅くしていることだろう。
「ほんま……? ほんまに、ウチの事好きなん………? ウチ、めっちゃめんどいよ?」
その時見せた、希の最後の不安――――それを解かしてやる。
「奇遇だな、俺も明弘から認定されるほどのめんどくさい男だ。 それに、欲張りな男でもある。 だから案ずるな、俺はお前がどんなヤツだろうと、ちゃんと受け止めてやるからさ………」
そう言った途端、腕に熱いモノが流れ落ちた。 それが何かを知ろうと、正面に身体を寄せると、その目からたくさんの涙を滂沱に流していたのだった。 その涙は止まることを知らずに、着ている服までも濡らしてしまうほどに流れ落とした。
そんな赤ん坊のように泣き出す希を今度は正面から抱きしめてあげ、その涙を拭い始める。 そして、気が休まるまで泣かせると、顔と顔を向き合わせてニッコリと微笑んで見せた。
そしたら、ぐずっていた希も次第に頬が緩み出して、最終的に俺と同じように微笑んで見せてくれた。 笑いながら涙を流していたが、それが逆に美しくさせるのだった。
「………希………」
そんな姿に魅了させられてしまったのか、俺は段々と顔を寄せていった。 希も頬を真っ赤にさせながらも俺の気持ちに応えるように顔を寄せてきて来る。
「………そういち………」
お互いの名前を呼び合い、気持ちを確かめ合った俺たちは、唇を重ね合わせた―――――
『んっ――――――――』
ラベンダーのような濃い匂いと涙のちょっぴりしょっぱい味が口の中でとろけ出す。
押したり、引いたりしない、自然な口付けで今度は生に触れ合ってお互いの感情を確かめ始めた。 ドロッとした希の唾液が口の中に入り込むと、俺の唾液と混ざり合う。 すると、どうだろう。 混ざり合った唾液が溶け合い、さらさらとした水のようになって口の中を満たした。 俺はそれを迷うことなく喉を通らせると、ほのかなあたたかさを含んだまま、俺の一部となっていくような気がした。
『ちゅっ―――――んちゅっ―――――ちゅるっ――――ちゅ―――――』
唇を様々な角度を付けて何度も吸い付け合わせると、互いの身体が火照り始める。 俺はそうでもないが、希は顔から流れるほど汗を垂らし、肌蹴た胸元に滴り落とす。 その様子が、希の色っぽさをさらに掻き立たせるので、この行為に勢いを加え始めてしまう。
『んんっ、ちゅぅ――――――ちゅるっ―――――あぁん、ひゃ―――――ちゅ―――――』
溺れさせてしまうほどの濃厚な口付けと、気を失わせてしまうほどの甘い吐息が合わさり、俺の感情と理性とをこれでもかというほどに弄ばされる。 それに、物足りなく感じたのだろうか、希は熱い舌を口の中に捻じ込ませ、絡められるものなら何でも舐め回してくるのだ!
控えめに見せていたのとは裏腹に、貪るほどの強欲さを表に出してきた。 これが希の本性なのだと悟ると、抑え込まれていた体制から一気に覆そうとする。
『んんんっ!!! んあぁ、あぅ、んちゅ―――――んちゅるる―――――はぁっ――――はぁっ―――――』
希の入れてきた舌に吸い付くと、これまでにないくらいに苦しそうに暴れ出す。 ただ、それがとてもよかったのか、とろけた目でねだるように見つめてくる。 だが、して欲しいと言う欲求に応えることはせず、代わりにそこからどんどん強気な口付けで押し通し、悶絶させるほどにまで吸い付いたのだった。
「はぁ――――ひやぁ―――――ひゃ―――――はぁ―――――はぁ――――――」
顔の形が変わってしまうほどにとろけてしまった希は、これまでに見たことが無いくらいに嬉しそうな笑みを浮かばせていた。 俺はその腑抜けた身体を抱き寄せた。 希もなんとか力を込めて腕を俺の身体に絡ませて抱きしめ出す。
そんな希の口から耳元に向かって囁きだす。
「蒼一………ウチ……今、とっても幸せや………愛しとるで………♡」
甘ったるい愛情を注ぎこまれ、すれに溺れ掛けそうになる俺も、たっぷりの愛情を持って囁いた。
「俺も、愛してるよ……希………」
そうして俺たちは、身体と身体を触れ合わせて互いの気持ちを感じ合ったのだった――――――――
―――――――――――――――――――――――
『うわあああぁぁぁぁぁぁぁ??!!!!!』
「「!??」」
俺たちが互いに抱き合い続けていると、急に扉が開きだして、そこから他のみんなが流れ出てきたのだった!
「んなっ!? なにやってんだ、お前たち?!!」
突然のことで驚きながら、俺は倒れ込むみんなに問いかけた。
「えっ……ええっとぉ………あははは………もう、そろそろいいかなぁって思って来てみたら……ちょっとお取り込み中だったみたいで……その……見ちゃってました♪」
「み、見ちゃってましたって………お前ら……どっから見ていたって言うんだ………?」
「そのぉ……希ちゃんがクローゼットから出てきた時から……かな?」
「それって………一部始終見ていたってことじゃんか…………」
「い、いやぁ………その……ごめんなさい」
穂乃果を含んだ7人が揃って引き摺った表情を浮かばせているのを見ていると……みんなにさっきまでのすべて見られていたのかよ………何それ? 公開処刑なのか? 俺の羞恥を見られるとは思ってもみなかった………穴があったら入りたい………
「で、でもぉ~蒼くんがことりの作った衣装を気に入ってもらえて嬉しかったなぁ……なんて?」
「それは許す……おかげでいいモノが見れた………」
「蒼一と希が……あんな破廉恥な……!!」
「いやいや、お前とした時なんかそっちの方が幾分か酷かったぞ?」
「希にあんなに激しく………羨ましい………」
「おい、エリチカ。 何をほざいていやがる?」
「あんな全身を絡みとられるような濃厚なキッス……にこもしてみたいなぁ~♪」
「する以前に、気絶しそうになってたヤツが何を言う………」
「あんなに舌使いが上手になっちゃって、うふふ♪ 次やった時が楽しみだわ♪」
「お、お手柔らかに頼む………」
「そ、蒼一にぃの濃厚なキス………ど、どんな感じなのかなぁ………?」
「花陽、お前は知らなくていいんだ。 純粋のままでいてくれ……!」
……とまあ、口々に感想やら今後のことについて語るやら、ほんと、とんでもない感じになってしまったなぁ………
数週間前では、到底考えられない光景だわ………
「しかし、お前たちは何を企んでいたんだよ………順々に、俺とこういうことをしようなんて何が目的なんだよ?」
「あれ? もしかして、バレちゃってた?」
「バレるもなにも、お前たちなら一気に襲い掛かって来るだろうと思ってたのにそうしようと言う気配すらない。 バレないと思っている時点でバレちまうのさ」
「あはは………まいったなぁ………」
穂乃果たちは少々焦るような表情を見せる。 そして、腹をくくったような表情をし出すと、俺に語りかけた。
「あのね。 こういうことをするようにって言いだしたのは、弘君なんだ」
「明弘が――――!?」
ここで意外な人物の名前が出てきたことに驚いた。 しかし、その気持ちに浸るよりも穂乃果の話が続いた。
「弘君からね、蒼君が私たちのことを信頼してないんじゃないかって話を聞いてね、穂乃果たちちょっとショックだったの………蒼君の大切な存在――――恋人になったのに、まだ私たちの事を信頼してくれてないことが、ちょっとイヤだったの―――――」
「穂乃果………」
「でも、ことりたちも仕方ないなって思ってたりするところがあったよ………だって、ことりたちは蒼くんのことを傷つけちゃったんだもんね―――――」
「ことり………」
「あなたに負わせてしまった傷というのは、数えることが出来ないほどでした。 それを行ってしまったのに、信頼して欲しいなど……あまりにも虫が良すぎです―――――」
「海未………」
「私たちはあなたを苦しめた………あなたの想いを踏みにじってしまうことを何度もしてしまった―――――」
「エリチカ………」
「そして、ウチらは蒼一の心の闇を蘇らせてしもうた……忘れたかったはずの記憶を呼び起こしてしもうたんや―――――」
「希………」
「でもね、だからと言って、私たちは蒼一の前から逃げたりなんかしないわ。 何があっても蒼一のために頑張るって決めたんだから―――――」
「にこ………」
「まだ、私たちの事をちゃんと信頼しなくてもいいよ……でも、花陽たちは蒼一にぃの事を信頼しているよ! 誰よりも強く思っているからね――――――」
「花陽………」
「だからね、蒼一。 これだけは覚えておいて。 私たちは、あなたの事を決して忘れない。 あなたの事をもう決して裏切ったりなんかしない。 あなたが傷付いた時は必ず私たちが助けに行くから―――――」
「真姫………」
『だって、私たちは…………そういち(くん)のことが大好きだから………愛しているから………!!』
「~~~~ッ!! おまえ…ら………!!!」
穂乃果たちの生の感情を直接受け取ると、思わず涙が出てきてしまった。 これほどまでに、俺の事を思っていてくれていただなんて………俺は知らなかった………
俺は、明弘に言ったように、コイツらの事を心から信頼することが出来ていなかった。 裏切られたことの怖さが脳裏から離れること無く、ただ苦しむばかりだった。
だが、こうしてみんなの本心を感じると、悔しくって思わず泣き出してしまう。 こんなに俺のことに真剣になってくれているのに、どうして俺は避け続けていたのだろうか………それが堪らなく悔しくって、苦しくって、どうしようもなかった。
どうしようもないくらいに、みんなの気持ちが嬉しかった………心を救われたような気がした………そして思うんだ、みんなと一緒ならきっと俺も変われるだろうって………
だから、応えたい……みんなの気持ちに………!
「穂乃果」
「!」
「ことり」
「!」
「海未」
「!」
「エリチカ」
「!」
「希」
「!」
「にこ」
「!」
「花陽」
「!」
「真姫」
「!」
「お前たちの気持ち……受け取らせてもらった………とても熱くって、あたたかくって、とてもやさしい……そんな気持ちたちが俺の中で喜んで駆けまわってくれている………ありがとう………」
静かにみんなの名前を呼ぶと、みんなの顔が俺に向けられた。 切なそうな顔をしているのに、その目は情熱的に燃えていた。 それがとてもあたたかく、頑なな心を溶かしてくれた。
もっと触れたい……もっと感じていたい………そんな気持ちが俺の中で膨張し、そして、みんなに打ち明ける。
「そんなみんなに……伝えたいことがあるんだ………いいかい?」
みんなゆっくりと頷いて、耳を傾けてくれた。
俺は大きく深呼吸すると、心を落ち着かせた。
そして、あの言葉を思い返した―――――
『どんな結果を得ようとも決して後悔するな―――』
――――爺さん……俺は自分を貫き通すよ………
「俺は、お前たちの事を――――世界中の誰よりも愛しているんだ―――――!」
『!!!』
「そして、俺は欲の強いヤツで……何か一つだけを取るってことが出来ない………だから、俺の我儘かもしれないけど………みんな、俺の隣に居てほしいんだ………!」
『!!!』
「俺の我儘を……聞いてくれるか………?」
ふざけているかもしれない……本当に我儘なヤツだと罵られるかもしれない………けど! それでも、これだけは譲りたくない………これが……俺の本心だからだ………!
「ふふっ♪ 蒼君らしい答えだね」
穂乃果は少し微笑むと、やわらかな声をかけてきた。 それに合わせるように、みんなも同じように微笑んでいた。
そして―――――
「蒼君。 私も蒼君のことを愛してるよ。 だから、穂乃果の彼氏になってね♪」
「穂乃果………!」
「ことりは最初っから蒼くんのことを愛しているんだよ! だから、ことりのことをもっと愛してね♪」
「ことり………!」
「あなたが我儘なのは昔から知っておりました。 不束者ですが、これからも私の事をお慕いして下さいね♪」
「海未………!」
「うふふ、私の愛に呑み込まれないようにね。 私のダーリン♪」
「エリチカ………!」
「ウチの愛情をこれからもたぁっぷり注入するからな♪ 覚悟しといてな?」
「希………!」
「今日から蒼一もこのにこにーの彼氏になるんだから、にこのことをもっと大事にしないと許さないにこ♪」
「にこ………!」
「私のお兄ちゃんとして……私の彼氏さんとして………私も我儘だけど、これからもずっと蒼一にぃの傍にいるからね♪」
「花陽………!」
「私はいつまでも、蒼一の傍を離れたりしないから………約束するわ。 あなたは私の恩人。 そして、私が愛した唯一の人なんだからね♪」
「真姫………!」
みんなのそれぞれの気持ちが俺に集まった。
俺の我儘に応えてくれたことがとても嬉しかった………嬉しすぎて……ちょっと、涙が出て来てしまったようだ………
けど、まだ終わってない……最後に伝えなくちゃいけないもんな………
「ありがとう――――そして、これからもよろしくな―――――」
これから、どんなことが待ち受けているのかなんて分かりやしない。 けど、決して辛いものばかりじゃないと俺はそう思っている。 何故なら、俺には……みんなが付いているから………1人じゃ乗りきれないこともみんながいれば乗り越えられると信じている。
だからこそ、俺は歩んでいくことが出来る。
もう、後悔なんてしない………負けたりなんかしない………今ある、最後の壁もいつかは乗り越えられると信じている……!
運命は………いつだって、抗って乗り越えるものなんだと、教えてくれたから………
俺の―――
――――
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
長過ぎてすみませんです。
今回で、蒼一視点の話はおしまいになります。
そして、次回で最終回です。