《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
それは多分、運命やったと思うんよ―――――
ウチが初めて蒼一と出会ったのは小学生の時、一緒に授業があったあの日や―――――
初めは、1つ上の学年の子とやるのはあんま気が乗らんかったけど、その時の蒼一がとってもやさしくってな、気付いたら一緒に笑っとってた―――――
嬉しかったんよ―――――
転校続きで人間関係なんてうまくできひんかったウチにとって、蒼一はホンマにヒーローやと思っとったわ―――――
ほんで、そのヒーローさんはウチに手を刺し伸ばしてきて『友達にならないか?』と言ってくれたんよ―――――
もちろん、断る理由なんてあらへんかった―――――
ウチはもう、あの時、見せてくれた強い眼差しに引き込まれとったんや―――――
それが、ウチにとって初めてのお友達―――――
そして、初めて恋したお人やったんよ―――――
ウチがまた転校せなアカンことになって、ここを去るっちゅうことになった時にウチは決めたんよ―――――
いつか、蒼一の傍でずっと過ごしたい、ってな―――――
それで高校に進学するときに、親に無理ゆうてな『1人暮らししてもエエから音ノ木坂に行きたい』って懇願したんよ―――――
そしたら願いが叶って音ノ木坂に戻って来れた時に、また出会ってしもうたんよ―――――
あの、ウチを引っ張ってくれたあの強い眼差しを輝かせる、ウチの想い人―――――
それからは何かあった時には、一緒に同じ時間を過ごしとった―――――
一緒に過ごせる時間が無かった分を取り戻すみたいに、めっちゃお話ししたり遊んだわ―――――
それで、他の人は知らんやろう蒼一の秘密とかをたっくさん知ったんよ―――――
それがめっちゃ嬉しくってな、ウチだけ特別なんやと思ってしもうとってたんわ―――――
けど、それは違ったんやって気付かされた―――――
蒼一が音ノ木坂に来てから、周りにめっちゃ集まって来て、ウチとの時間が減らされていくのが苦しく感じ始めとってた―――――
わかっとるつもりや、蒼一はウチの思い出となる学校を残すために動いとるんやから、こうなることは必然なんやって思っとった―――――
けど、しんどかったわ――――――
μ’sに入った後もそんなに一緒になれへんし、なんや、穂乃果ちゃんたちとの時間の方が多くないん? って嫉妬しとってた―――――
そんな時に、ウチは見てしもうた―――――
中庭で、蒼一と真姫ちゃんがキスしとるところを―――――
嘘や………蒼一が真姫ちゃんとそんな………うそや………ウチと蒼一は特別な関係なはずや………なのに、なんで?
なんで、ウチやないの? ウチがずっと蒼一の隣に居るんやないの? ウチは蒼一にとって特別なんや、こんなん絶対間違っとる!!!
そんでウチは、その時に写真を撮った――――――
それが悲劇を起こすことになるとは知らず――――――
あの時からウチの中に、みんないなくなってしまえばいいと思い始めておった―――――
せやから、手っ取り早く済ませるためにえりちを利用して、お互いが消し合ってくれるように仕向けた―――――
そしたら上手くいってなぁ、みんなお互いの事をそうやって憎しみ合っている間、ウチは蒼一と一緒に居れた―――――
蒼一がウチの事を頼りにしてくれとる、それがめっちゃ嬉しかった、それが長く続いてほしいと思っとったから表向きは蒼一に協力しとった――――――
けど、ウチの計画が次々と流れていくのを見てて焦っとったわ―――――
これじゃあ、アカンなぁって思っとったけど同時に、さすがウチの蒼一やって内心喜んでおった―――――
それで、最後はウチのこの手でみんなを消して、蒼一とえりちだけの生活を創りだそうとした、その時やった―――――
蒼一がウチにあんな憎悪に包まれた眼差しを向けてくるなんて、思ってもみなかった―――――
あれを見た時、心が握りつぶされそうになったわ―――――
蒼一のあんな顔が見たくってやったんやない、こうなることになるためにやったんやない―――――
けど、ウチのやったことは全部、蒼一を苦しめてしもうた―――――
そんで思ったんよ、ウチは蒼一にとって特別でも何でもない、ただの邪魔者やったんやって―――――
みんな、蒼一のためにあんなに尽くしとるのに、ウチは一体何をやっとったんやって引け目に感じてしもうた―――――
せやからウチは、もう耐えられへんかったんや―――――
いっそ、もうこっからいなくなりたかった―――――
なのに―――――
蒼一はウチの手をまた握ってくれた―――――
あの……ウチを引っ張ってくれたあの強い眼差しで―――――
それだけやない―――――
こんなウチを抱きしめて、赦してくれて、そして……そして、ウチを――――――
蒼一のほんまの特別な人にしてくれたんや――――――
ウチはもう……幸せや―――――
こんなウチを愛してくれるなんて、ウチは世界中で一番幸せなんやと思うん――――――
せやからな、ウチのすべてを――――――
蒼一に―――――
―
――
―――
――――
まるで、嵐のような日々だった――――――
風が刃となり、雨が血と変わって俺に降り注がれていったあの苦痛の日々が、今その関係を断ち切られようとしている。
今思えば、この2週間という短い期間の中で、多くのことを知り、多くのことを学び、多くのことを得たような気がする。 つい先日までは否定したいモノであったのに、いざこうして向き合ってみると、どうも肯定してしまう。 その所々を知ると、むず痒い気分になるのだが………いや、こういうのが良いのかもしれないな。
その最後の試練に現れた希から得たモノは大きかった。
希こそ、今回起こってしまった一連の出来事の火付け人であると同時に、俺という存在に巻き込まれてしまった被害者であるということ。
彼女から感じた、これまでにないほどの虚偽、絶望、嫉妬、醜態、悲愴………人が数多持つ負の感情を総決算させたかのような、そんな想いが彼女に臨み苦しませていた。
その結末には、死という闇が待ち構えていた………
だが俺は、そんな結末など認めやしなかった。
この世にあるすべてのマイナスへの道の先には、絶望しかないのだと言う偏った考えに、俺は真っ向から否定した。 それは希だけに言えることじゃない。 ここまで負の感情を抱き、自らを苦しませてしまった彼女たち7人に対しても言える。
人は生きている限り過ちを犯し続ける。
その過ちの先に、絶望はある――――だが、それ以外の道もちゃんと備えられている。
懺悔というのは、まさに絶望への道とは真逆の関係に当たるモノ。 自らが犯した罪を認め、悔い改め、そして尚、生きようとするその姿こそが、人間のあるべき姿であると言えるだろう。
ただ、そんな者たちには、必ず受け入れてあげる人がいなければならない。 人は弱い生き物だ。 1人で生きることなど出来やしない。 だから、たとえ自らの罪を認め懺悔しても、そこから生きようと考える者は少ないことだろう。
彼女たちもそうだった。
自らが犯した罪に耐えきれず、命を絶とうとする者が少なからずいた。 荒み果てた心が拠り所を求めようとしても、それを求めるに値しないと自ら救いを断ち切ろうとするからだ。 そんな彼女たちを俺は受け入れた。 彼女たちの人格と共にその罪をも背負い、彼女たちの拠り所となれるようにと関係を築いた。
ただ、哀れみの延長として行動したのではない。
彼女たちのことが好きだからだ―――――
心の奥底から、その本心として彼女たちのことを愛しているのだ。 それまで、漠然としていたこの感情が今回の出来事の最中に目覚めた。 眠っていた―――いや、忘れていたはずの“人を愛する”と言う感情が、彼女たちのおかげで蘇ったのだ。
そして、その感情はそのまま彼女たちにへと向けられ、そのすべてを愛した。
結果、俺はアイツら8人と関係を結び築いた。
一般的には受け入れ難いような話かもしれない。 けど、現実が真実を語ってくれる。 それがどんな結末を俺に与えることになるのかわからない。
それでも、今あるこの一時を笑って過ごしたい――――
そのくらいの我儘くらい、押し通させてくれ――――
―
――
―――
――――
俺が目覚めた時、そこにはみんなの姿があった。
こぞって、涙や鼻水で薄汚れた酷い顔ばかりだったが、それでも、俺がここに戻ってきたことを心から喜んでくれていた。 それが何だか嬉しくって、自然と俺も泣いてしまっていたようだ。
この9人のおかげで俺はここに帰ってくれた。
この9人が俺を助けてくれたんだ。
俺は、この9人のために頑張らないといけないな………俺を支えてくれるみんなのためにも………!
その後、病室に結樹さんが訪れてきた。
どうも、俺の治療や検査に当たってくれたようで、とても丁寧な対応とをしてくれてとても助かった。 俺の退院はいつ頃になりそうかと聞いてみると、結樹さん曰く、早くて明日だと言ってくれた。 それに付け加えるように、『キミの回復力は異常だよ。 以前、入院した時とは比べものにならないほどの自然治癒力に驚いているよ』と首をかしげながら診断カルテと睨み合っていた。
さすがに、自分が持っている能力によるものだと話しても信じてはくれなさそうだし、たとえ信じたとしてもその後が面倒だったりするから苦笑いして誤魔化すほかなかった。
だが、身体の傷は早く癒えても、そう簡単に癒えない傷もある―――――
それから時間が少し経って、俺はベッドから起き上がり辺りを散歩し始めた。 全身打撲したと言う話だったのに、まだ少し身体が軋む程度で歩けないわけではなかったようだ。
しばらく病院内をウロウロ探索し続けると、さすがに疲れてしまい、屋上庭園の小さなベンチに腰掛けることにした。 そこから空を見上げる。 未だに梅雨が終わりきっていないと言うのに、雲ひとつない快晴とは一体どうしたことだろうと呆然と眺めていると、隣に誰かが座る雰囲気を感じた。
まあ、少し気になったから横を振り向いてみると、顔のあちこちに絆創膏を貼って、呑気にボトルのドクペを一気飲みしている輩がそこに………
「……ぷはぁ!! やっぱドクペはさいっこうだなぁ!!」
「おい、なんでここにいる。 ドクペ飲んでるのを自慢しに来たのか?」
「おいおい、そんな連れないことを言うなよ兄弟。 ちゃんと、持って来てあんだからよ」
そう言って、缶タイプのモノを手渡す明弘。
それを貰って、まあいいかと思いつつそれに口を付け始める。 あっ、やっぱウマいなこれ……
「そんで、それからどうなんよ?」
「ん、一体何のことだ?」
「もちろん、アイツらとどう付き合っていくかだよ」
「!!」
急に話題を変え、やや真剣な口調となって話し始める明弘。 どうやら、ただ俺と飲みに来たのではなさそうだ。
缶を一旦口から離して考え込み、頭をかきむしりながら話しだす。
「あー……逆に、お前から見てどうよ? 俺とアイツらは?」
「そうだな………いい加減その立場を逆転してもらいたいところだな、ハーレム野郎……!」
「そんな憎しみ掛かったような目で俺を睨むな………あと、絶対私怨混じってるだろ?」
「そうだよ、当たり前じゃんかよ!! 世界中の数多の男性たちが挙って追い求める性欲の頂点であるハーレムが現実に起きてしまっているだ、発狂しなくていつするって言うんだァァァ!!」
「うるせぇ!! お前の欲情の話なんざ聞きたくねぇわ!!」
こんな時でもコイツの思考がまったくブレていないことに正直尊敬してしまう。 そんなに女の子たちに囲まれる生活を望むのならお前だってやればいいモノを……と、心の中で呟いてしまう。
「まあ、冗談は置いといてだな――――」
「冗談にしては私怨が濃厚すぎなんだがな……」
「蒼一の今の状況というのは、俺が当初に考えていた理想の形にスッポリとはまっているって感じだな。 まさに、ハーレムエンド。 誰もが喜び、幸せになれる究極の選択だと俺は評価している」
「そう……か………」
めずらしいことだな、まさか明弘がこう言う評価をするモノとは思ってもみなかった。 むしろ、何か指摘されるものかと思っていたが、俺の見当違いだったか。
しかし、俺個人としては、この内容にあまり良しとは思ってはいなかった。
「なんだ、兄弟? 浮かねぇ顔をして何か不都合でもあんのか?」
「あぁ、いやなんだ。 本当にこれでよかったのだろうかって、悩みだしてきているんだ………」
「悩む? 悩むことなんかどこにもないと思えるけどな?」
「いやぁ……お前はいいかもしれない。 ただ俺は、他に選択肢があったんじゃないかって思うんだよ」
「選択肢が他に?」
明弘は少々気難しそうな声を上げて俺の方を見ている。 明弘が今の俺の立場にあるとするならば、アイツはこの選択肢を喜んで受け入れるだろうと思っている。
だが、俺はそうは思っていない。 むしろ、後悔したく思うところもあったりするのだ。
「俺は確かに、みんなを元に戻すために男女の関係を築いた。 だがそれは、一般的には認められないことであり、倫理に反するものだ。 俺がもう少し知恵を働かせたら違う道があったのだろうと思うんだ」
青く澄みきった空を仰ぎ見ながら話し続けているが、俺の目に映って見える空が霧が掛かったみたいに薄暗く見えていた。 心にはびこる思い悩みがこうして視界にも影響されているかのように思えた。
しかし、そんな俺の考えに明弘は鼻で笑う。
「はっ! 違う道があったって? ないない、そんなもん最初っから存在しなかったんだよ」
「な、何を根拠に言うんだ?!」
「兄弟は何か思い違いをしているようだが、今回の一件はアイツらのお前に対する求愛感情が拗らせたもんなんだぜ? それを他のどんな方法で切り抜けようとしているのか、逆に聞いてみたいもんだぜ」
「うぅっ………」
逆にそう言われてしまうと、俺も答えることが出来ない。 と言うのも、こうした考えを選び出したその理由というのは、ただ単にちょっとした不安があったからだ。 そんな漠然とした理由で事を言い出すのには、やはり無理というものだ。
そんな俺の曖昧な態度が気に食わないのだろう。 明弘は、やれやれと言った感じに呆れた表情をして頭を抱えていた。
「やっぱ、お前は超絶ヘタレ野郎だな」
「うぐぐぐ…………」
ぐうの音も出ないような発言に俺自身どうしようもなくなってきた。
「はぁ……しかしよぉ、なんでそんな頑固になるんかねぇ………って、まさかと思うけどよぉ……おめぇはまだアイツらの事を信頼してねぇんじゃねぇの?」
「!!!」
「はぁ…………だろうと思ったわ………」
俺のそんな反応に対して、これまでにないほどの溜息を漏らす。 何で今さらそんな事を…とでも言わんがばかりの呆れようだった。
俺自身、アイツらのことをまったく信頼していないわけではない。 むしろ、そういう意味では他の人よりかは高いつもりだ。
ただ、俺の中で引っ掛かっているのは、今回の一件のことだ。
アイツらは確かに俺のこと慕ってくれている。 明弘が言うように、誰もが羨むくらいにだ。
しかし、それ故にアイツらからああいう裏切りに近いことをされたことが、どうしても脳裏から離れることなく漂っている。 それが、俺を取り巻く不安の理由だった。
けれど、明弘はそんなことを些細なことのように思いながら話し出す。
「兄弟が感じている不安というやつは分からんでもないが、アイツらなら大丈夫だ。 アレはもう意地でも兄弟のことを信頼しようと思ってるぜ」
その口振りはまるでアイツらのことを知り尽くしているかのようだった。
「アイツらは今回のことでかなり反省している。 そして、それでも尚、兄弟のことを慕おうとしているのは、兄弟のおかげなんだぜ?」
「俺の……?」
「兄弟は傷ついたアイツらのことを受け止めた、それがアイツらにとって新たな生きる希望を見出したきっかけみたいなもんだ。 アイツらには、蒼一、お前が必要なんだ。 お前が眠り続けていたあの時、お前が目覚めることを強く切望していたんだ。 そんな純粋なアイツらを無下に扱うことなんざしない方がいいと思うぞ?」
「明弘………」
その言葉を聞くと思い当たる節がある。 俺が眠りから覚めたあの時の顔を思い返すと、アイツらが俺のことをどう思っていたのかがよく分かるような気がした。 アレを見た時の安心感というのは、比類無きものであった。
もしそれが、俺の不安を打ち消してくれるというのであれば、俺はアイツらのことを………
「まあ、兄弟がアイツらのことを遠避けるというのなら、俺がその代わりになっても構わんのだがな♪ それか、どこぞの馬の骨かわからん男がアイツらの心のスキマを塞いでくれるかもしれねぇなぁ」
「冗談じゃない!! そんなのだめに決まってるじゃないか!! アイツらは俺の……ッ!!」
明弘のその言葉に頭をブッ叩かれるような気分を味わうと、思わず声が出てしまっていた。 しかしそれは、明弘の巧妙な手口であることに気が付くと顔を熱くしてしまう。
「ふっ、なぁんだ、何やかんや言って、蒼一はアイツらのことを手放すつもりなんざこれっぽっちもねぇんじゃねぇか。 この欲張りめ」
「ッ~~~~!!」
何とも癪に触るような言い方なのだが、実際その通りなのかもしれない。 突き放したいという気持ちと受け止めてやるという二重の感情が、俺のなかに存在している。 しかも、両者とも強い感情として俺に働きかけてくるから厄介なのだ。
「面倒な男なんだな、俺は………」
こんな自分を不甲斐無いと感じながら、呆けた目付きでまた空を仰ぎ見てしまう。
それに対し、明弘は躊躇なく――――
「あぁ、女とおんなじくらい面倒なヤツだ」
―――と平然と口走る。
また―――
「それが、蒼一だ」
―――とニヤついた顔を浮かばせて言ってくれたのだった
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
訳あっての分割。後半は夕方頃になりそうかも……?