《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち―――   作:雷電p

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 ふぅ、やって来て早々何なんだよこの状況はよぉ………?

 

 俺の懐かしき母校の慣れの果てを見ることになったと思ったら、こんな薄暗い部屋にやって来させられるわ、ことりと絵里が何でか縛り上げられているわ、希は地べたで這い蹲っているわ………

 

 そして何より……………

 

 

『ゥゥゥ………ウガアアアァァァァァァァァ!!!!!』

 

 

 蒼一がこんな状態に()()なっちまったってことが悩ましいわ………

 

 

 はぁ………しかし、手の平が痛ぇなぁ………

 

 大体、兄弟の全力全開を片手で受け止めることが、どんだけ辛いことかまったくわかってねぇヤツとかいるんじゃねぇか? あれだぞ、高校球児が投げる120㌔オーバーのストレートを素手で受け止めるって感じなんだぜ?

 

 わかるか? あっ………わかんない………そら残念だわ………例えとしてはわかりやすいと思ったんだけどなぁ………

 

 

…………まあ、いいさ。

 

 誰も俺の痛みや蒼一の抱いている痛みを共有してくれだなんて願っちゃいねぇし、むしろ、してもらいたくもない。 痛みを知るのは俺だけで十分だ。

 

 

 さぁて………

 

 

「悪い夢なら………覚まさせなくちゃぁいけねぇなぁ………さあ……いくぞ!!」

 

 

 

 おっぱじめようじゃないの………第三次世界大戦?

 

 いや………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の大切なモンを取り戻しにだよ……!!

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

[ 旧音ノ木坂小学校内 ]

 

 

「どぉぉぉりゃあああぁぁぁぁぁ!!! ブッ飛べええェェェェェェ!!!!」

 

 

 

 ドッ――――――!!

 

 

 

『ウグッ?!! グアアアァァァァァァ!!!!?』

 

 

 

 片手で蒼一の手を掴み止めたことで、その瞬間にちょうどいい距離とスキを作りだすことが出来たわけだ。 それを好機と言わないで何と言うか?

 俺はそのまま、蒼一の腹に目掛けて全力のキックをお見舞いさせてやったってわけよ。 そしたら、いい感じにブッ飛んで行きやがってさ、俺との間を7、8歩くらい空けたところまで飛んで、そこから背中から床に落ちてスッテンコロリンと2、3回くらい転がっていきやがったわ。

 

 いやぁ~、我ながらいい蹴りが出来たと褒めたくなっちまうモンだぜ♪

 

 

 

 ただ、悪いニュースも付いてくるもんだな………

 

 

『ウオオオオォォォォォォォォォォ!!!!!!』

 

 

 アイツ、ピンピンしていやがる…………さっきのが全然効いてなかったって感じだなこりゃぁ………

 

 

 地面を揺るがす咆哮を高らかにあげ、血走る真っ赤な両眼でこっちをギロリと睨みつけてくる。 口からは牙をむき出し、荒れる息と体液を垂れ流しときた。 なんだ、どこぞの汎用人型決戦兵器の初号機か? あれの暴走した時と瓜二つな姿をしているんだけど? 写真を並べて見比べたら「兄弟かよ!!」って、ビックリするかもしれねぇな………兄弟だけに…………

 

 

 まあ、そんな冗談は置いといて、こっからは真剣にやんねぇといけねぇ感じがしてならねぇ………! 蒼一の身体から、ヤベェって思っちまうほどの異様な空気が漂い始めてきやがるんだ………!

 

 多分さ、これは前回のようにはいかないかもなぁ………場合によっちゃあ、片腕を犠牲にしなくちゃぁならねぇかもな…………

 

 

 

 

 

「あき………ひろ………? どうして………?」

 

「ん? あぁ、そういやぁ希が居たんだよなぁ………いけねぇ、すっかり忘れていたぜ。 いやぁねぇ、俺も確信は無かったんだけどよ、洋子が『すぐにここに行ってください!』ってせがまれてやってきたって感じよ。 まぁ、さっきまで、お前さんと蒼一がどんなやりとりをしていたのかなんて、大方予想はつくけどさ………今のところは黙ってやるから、ちょっと後ろに下がってくれねぇか? 俺も久しぶりに本気でやらにゃぁいかんかもしれんからよ………」

 

 

 そう言ったらよ、ちょいと驚き様になりながらも身体を引き摺って後ろの方に下がって行ってくれたわ。 お~お、ありがてぇ……! 素直な子は好きだぜ♪ あっ……だめか、希はとっくに……………

 

 

 

『ウガアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!』

 

 

 ガッ――――――――!!

 

 

「うぐっっっ!!! ……考え事をしている最中にやってくるんじゃぁねぇよ………!!」

 

 

 一瞬で、詰め寄ってきた蒼一から繰り出される一拳―――風音よりも素早いその拳―――が俺に突き付けられるが、俺も拳を突き出しぶつけ合い、からくも押し止める……!!

 

 ちょっとだけ、考え事で気を逸らしちまったそのスキを狙ってきやがった! さすが……と言いたいねぇ。 こんな状態になっても戦闘スキルは健在だとか、洒落に何ねぇなぁ……おまけに、身体能力も健在ときた………! あんなに距離が離れていたのに、一瞬で詰めやがって………やっぱ今回ばかしはマズイかもなぁ………

 

 

 拳と拳の鍔競り合いのような突き合い。

 ギシギシと互いの拳を軋ませて、力の比べ合いを行う。 どちらかが一歩後ろに下がれば、一瞬で有利不利が決まる大事な一時――――! 負けられるわけがねぇんだよ――――!

 

 

「はぁぁぁぁぁ………はあぁぁぁ!!!」

 

『ッ――――――?!!!』

 

 

 踏み込む足に力を込め、突き出した利き腕に衝撃を加える――――相手の踏み込む力を逆に利用して、蒼一の拳を一瞬だけ離させた。 俺の拳に向けられていた力は、その時だけ迷子になる。 それがバランスを崩すきっかけとなり、前へ倒れ込もうとする………そして、そこにィィィ………!!

 

 

「その土手っ腹にピッタリ収まる膝蹴りを喰らいやがれェェェェェェ!!!!」

 

 

 ドゴッ――――――――!!

 

 

『グブォワアアァァァァァ!!!?!?!?』

 

 

 う~ん、実にキレイに入った膝蹴りよ。 膝の皿から内臓のやわらけぇ感触がよく伝わってくるわ。 鳩尾に入ったって感じかな? だとしたら、これで終いかもしれ…………

 

 

 

 ニタリ……………

 

 

「ッ―――――!!!??」

 

 

 う、嘘だろ……?! コイツを喰らって笑っていやがるだとっ………!! ま、マズイ………!!

 

 

 一応説明しておこうか、俺が喰らわせた膝蹴りの事だ。

 わかっての通り、膝の皿を中心に力を込め、身体の軸をうまく利用して放たれるのが膝蹴りだ。 威力は拳の数倍――――膝の皿の面積が拳の倍であること、それを支える太ももの筋肉が腕の数倍の量を持っていることがその理由。 腹に入れれば即KOな一撃必殺だ。

 

 ただし、コイツには決定的な弱点がある。

 

 それは…………

 

 

『ゥアアアアアァァァァァァァァァ!!!!』

 

 

 ブンッ―――――――――!!

 

 

「うおああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!!!!」

 

 

 膝を入れたその瞬間、入れる側は片足だけで身体を支えなくちゃならない。 バランスを崩しやすい体制になるというリスクが生じてしまう。

 

 つまりだ。

 膝蹴りの一撃必殺が外れてしまった場合………その立場が逆転してしまい………

 

 

 

 入れた足を掴まれて、そのまま勢いよく投げ飛ばされてしまうってことさ…………

 

 

 

 

 ドシャッ―――――――――!!

 

 

「ぐふぉあぁぁ………!!!!」

 

 

 足を掴まれそのまま飛ばされ、背中から堅い床にアツいキッスだ。 そのあまりのしつこさに、背中の骨のいくつかにヒビが入ったような気がするぜ……!

 

 かあぁぁぁ………俺は女だけじゃなくって、石床にも愛されているのかよ、こんちくしょうめェェェ………!!! おかげで、身体のあちこちが悲鳴をあげてお祭り騒ぎだわ………!!

 

 

 くっ……だが、まったく動けなくなったわけじゃねぇ………全力を出す前にやられちまったらカッコつかねぇしよ………!

 

 

 

「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」

 

 

……とは言うが、息が上がっていやがるなぁ………最近、鍛錬を怠っていたのが祟ったのかなぁ………? こんなことなら、もうちょい鍛えておくべきだったわ………

 

 

 今、ここで後悔しても始まらないんだけどね…………

 

 

 

 

 

 

 

「――――――明弘さん!!!」

 

 

………おっ? ようやく来たようだな …………

 

 

 俺よりもかなり後ろを追いかけてきていた洋子たちがこっちに来てくれたようだ。 ちょっと遅いが、しょうがねぇか……

 

 

『ゥググググ……………』

 

 

「えっ………そう……くん…………?」

 

「蒼一……! ど、どうしたのです………?!」

 

「な、何よ……あれ……!?」

 

「あれが………蒼一………?!」

 

「そういち……にぃ………な、なんで……?」

 

「……うぅ……なんだか、こわいにゃぁ…………」

 

 

 他のメンバーたちが蒼一の姿を一見すると、揃って身震いさせていた。 そりゃそうだ、あんな姿になっちまった兄弟を初めて見て怯えねぇヤツなんざいねぇよ。 たとえ、それが幼馴染の穂乃果たちでもな………

 

 

 

『ウグッ―――――――』

 

 

「ッ――――――!!」

 

 

 おいおい……何アイツらの方を見ていやがるんだよ………まさかと思うがよぉ…………

 

 

 

『ウワアァァァァァァァァァ!!!!』

 

 

『ひっ―――――!!!!!!!』

 

 

 やっぱり、襲い掛かりやがったかぁ!!!

 

 

 兄弟は、さっきと同じように足をバネにして飛び出し、穂乃果たちに一気に近付こうとしやがった!! しかも、腕を振りかざして、今にも殴りかかりそうな体制をしていやがるんだ! もう見境なしにやるつもりかよ!!!

 

 

 そんな姿を見て、みんな揃って身をすくませてそこから動けないでいるじゃんか! 逃げてくれねぇかねぇ………そうしてくれればさ…………

 

 

 

 

 

 

「俺が無駄な体力を消費しなくて済むんだよなァァァァァ!!!!」

 

 

 ドゴッ―――――――――!!!

 

 

『グエアアアァァァァァァァァァ!!!!』

 

 

 身体のギアを三段階くらい跳ね上げて一気に近づく!

 蒼一が穂乃果たちの目の前に来る手前で、脇腹目掛けて体当たりを仕掛ける。 距離を詰めた時に掛かった勢いを乗せて当てたおかげで、いい感じにブッ飛んでくれたよ、まったく………

 

 また、身体を転がせて、しばらく倒れたままだ。 ようやく、ダメージ受けたらしい反応をしてくれたよ………やっとだが、ホンット疲れるわ…………

 

 

 

「……っとぉ……ケガしてねぇか、おめぇら?」

 

「う、うん大丈夫………」

 

「そ、それよりも明弘……アレはなんなのです? 蒼一はどうしてあんなことになっているのですか?」

 

 

 コイツらの戸惑いと驚きの眼差しが俺に掛かってくるんだが、どうしてこうなったかなんて知らねぇんだけどなぁ…………

 

 どういう状態かは、説明できるけどな………

 

 

 

 

「ウチのせいや………」

 

「希?」

 

 

 俺たちの近くに来ていた希が、ぽつんと口を零す。 何か事情を知っているようだな………

 

 

 

「ウチが………ウチが蒼一を追い詰めてしもうた………ウチがこんなことをせんとけば、こんな………こんなことに…………!」

 

 

 涙ながらに話しだす希を見て、俺と洋子、真姫以外のみんなは、まったくわからないといった表情を見せる。 かく言う俺は、洋子のさっきの話を照らしあわせたことで合点がいった。

 

 さっき洋子が話してくれた内容というのは次の通りだ―――――

 

『――――これまで収集しました情報を合わせた結果、どうやら今回の一件の真犯人は、希ちゃんのようなんですよ。 一番の理由が、絵里ちゃんが―――気が付いたら写真が下駄箱の中に入っていた―――と話してくれた時にピンッと来たのです。 そして、過去の映像を探ってましたら、()()()()()()()()()()()映像を発掘し、復元しましたら絵里ちゃんの下駄箱に何かを入れる希ちゃんの姿を捉えたのです。 それに、私の追跡マップの履歴や校内映像を接続させた履歴にも希ちゃんのモノが確認できましたので、間違いは無いでしょう―――――』

 

 

――――と言った話をしてくれたわけだ。 無論、穂乃果たちには内緒だが……

 

 

 真相どうであれ、今やんなきゃならねぇのは、蒼一をどうやって元に戻すかなんだよ。 手段としては、気絶させることが手っ取り早いが……あの耐久力といい、スキが無いといい……一筋縄では収まらん感じだよ。

 

 

 すると、穂乃果が俺の手を握りだし、何か言いたげな顔をしてこちらを見ていた。

 

 

「ねぇ、弘君……蒼君はどうしてあんなに悲しそうな声を上げてるの………?」

 

「なにっ……? お前、怖いとか思ってるんじゃねぇのか……?」

 

「ううん、怖いよ……怖いけど……なんだか悲しいそうなの………あの声を聞いてると、胸が痛くなってくるの………」

 

「穂乃果…………」

 

 

………まさか、それに気が付いたとはなぁ………

 

 それは穂乃果だけじゃなさそうだな。 他のみんなの顔を見ると、穂乃果と同じような表情を見せていやがる。 察したか、アイツの心情を………

 

 

 

「そうだな………コイツは、お前達に話すのは初めてかもしれねぇな………」

 

 

 一旦、一呼吸を置いてからゆっくりと話しだす。

 

 

 

 

「アイツ………蒼一はな…………裏切られたんだよ、蒼一を慕っていたヤツらから………」

 

 

『えっ………?!!』

 

 

 突然の告白で、そりゃあビビるだろうよ。 しかしだ、これでビビっていたらこの後の話なんざ、聞くに堪えんぞ?

 俺は続けざまに話しだす。

 

 

「約1年前のことだ。 俺と蒼一は長きに渡ってとある活動を行い、そこで大きな成果を上げた。 それに伴って、俺たちのことを慕ってくれる仲間が大勢集まってくれた。 俺たちはただ、趣味の延長としてやっていたことがこんなにも多くの人に認められたことに、とても誇りを持っていた。 そして、心の底から楽しいと感じていたんだ………

 

 

………だが、そんな俺たちのことをよく思わない連中が俺たちを陥れやがった。 ヤツらは、俺たちの悪評を偽情報として方々に垂れ流し、評判を下げようとした。 俺たちはそれを払拭しようと働きだし、あと一歩のところで終焉を迎えさせるつもりだった………

 

 

 そんな矢先だ

 

 

 蒼一が襲われたのは…………

 

 

 

 しかも、襲った相手というのが、俺たちのことをすっと慕ってくれていたヤツの1人だったんだ。 それが原因で、蒼一は左肩を壊し、俺たちの悪評がまた一気に広まっていったというわけだ。 それがアンチと呼ばれるヤツらによるものと思いきや、中身を空けてみたらそうじゃねぇ………俺たちのことをこうしたのは、何を隠そうその慕ってくれていたヤツらだったってわけだ。 ここまで来たら、もう手も付けようもないほどに酷くなった。 この状況を見て、俺たちは雲隠れした。 事が鎮静化するまで、すっと………な。

 

 それから数週間経って、俺たちを陥れようとしたヤツらは捕まり、襲ったヤツもそのまま務所送り。 事態も沈静化し終えて、すべてが終わったと思った………けど、それで終わらなかったんだ………

 

 俺は気付かなかった……蒼一の心に宿った深い闇の存在を…………

 

 

 その後が大変だった。 急に暴れ出したと思ったら、人間とは思えないほどの咆哮を上げた。 そう、今の状態みたいな……獣のような姿でな………アイツはありとあらゆるものを壊しまくった。 目の前にあるモノが何であろうと、粉々に砕き落とした。 それほどまでに、アイツは苦しみ、もがき、悲しかったんだろうよ………信じていたヤツらから裏切られたことのショックがさ…………

 

 

 それが、今回のことと類似しちまったんだろうよ………

 

 お前らには辛いことのように聞こえるかもしれねぇけどよ、蒼一があんな状態になっちまったのは、お前らの心の弱さがああさせちまったんだ。

 

 アイツは……お前らが暴走し始めた時から身を挺してまでも元に戻す気構えだった。 てめぇの身体の機能を失ってもお前らのことを大切にしていたんだろうよ……アイツの背中を見る度に、ボロ雑巾のようにしわくちゃに汚れていくのが辛かった………何もしてやれねェ自分がここまで不甲斐無いとは、思わなかった………

 

 

 

 それでもな、俺は蒼一の力になりたい………

 

 

 テメェの抱えている重荷の一つくらい背負えるくらいの度量を見せつけてやりてぇんだよ………

 

 

 だからさ………

 

 

 俺がここで、アイツを止めるんだよ…………」

 

 

 

 俺の話を最後まで黙り聞き、時に涙を流し、鼻を啜らせながら聞き続けたコイツらから距離を取り、アイツの前に立つ。

 

 作戦なんて、何一つ考えちゃいねぇ…………俺は、俺にしかできないことをここでやるのみよ………

 

 

 

「それは単純明快ィ!!! 蒼一ィィィ!! 俺はお前と止めるぞォォォ!!!!!」

 

 

 

『………ウゥゥゥ………ウガアアァァァァァ!!!』

 

 

 来いよ、兄弟…………そして、もう終わらせようぜ、悪夢なんてもう見飽きただろう? 現実戻って、アイツらの胸ん中に飛び込んで、誰もが羨むハーレムエンドを飾って見せやがれ、コノヤロォォォォォォ!!!!!

 

 

 ガツンッ――――――!!

 

 

 俺は両手に拳を作り、胸元で付け合わせて力を込め始める。 全身の力だけじゃねぇ、全身に流れる水分、酸素、血液それらを身体の中心……丹田に集中させ、1つの大きな気の塊を生み出す!!

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 李崩(リ・ホウ)の旦那ァ………アンタ、天界力ってのもあれば、もっとすげぇ力を発揮できると言ってたが……んなもん、知ったこっちゃねぇわ………けど、アンタが教えてくれた、この気を集中させて力に変えるこの技を教えてくれて感謝するぜ………!

 

 今回は、アンタの手助けなしで蒼一を止めることができそうだわ………!!

 

 

 

『ウオオオォォォォォォォ!!!!!!!』

 

 

 空気すら震撼させるような轟きを発しながら、蒼一が俺に向かって飛び出す!! 拳を握りしめて、覚悟を決める!!

 

 

「行くぞォォォォォォォ!!!!!!!」

 

 

 

ガキィィィィィィン――――――――――!!!

 

 

 お互いの全力全開の拳が火花を散らしぶつかり合う!!

 金属同士がぶつかり合うような鋭い音だが、痛みなど感じやしない!!

 

 痛覚がイカレちまっているのかもな。 けど、それでちょうどいい! ちょっとした痛みが俺の集中を欠けさせることになるのなら、必要のないことだ! あとで、フィードバックが来ることになるかもだが、この一瞬のためなら惜しまねぇさ!!

 

 

『ジャアアアアァァァァァァァァ!!!!!』

 

「……っ!! 来るかぁ!!!」

 

 

 蒼一の腕が小さく折りたたまれ、そこから無数の拳が放たれる!!

 俺もそれに合わせ、その拳に向けて正確に打ち付ける!!

 

 

『ジャアアアアァァァァァァァァ!!!!!』

 

 

ドガガガガガガガガガガガガガ―――――!!!!

 

 

「でりゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 掘削機で岩を削るような鈍い音が秒速単位で鋭く打ち鳴らす!

 少しでも気を緩ませれば、アイツの連打が俺の身体に無数の穴を空けてくれそうだわ。 だがしかし、そいつは勘弁願いたいがため、針の穴に糸を通すような神経で打ち返す!

 

 だが、全身に流れる神経のほぼすべてをここに集中しているために、自然に呼吸が疎かになりつつある。 いかに、この力を持ってしても息苦しいことに耐えることなんざできねぇ……酸欠になるのは、時間の問題かもしれない………!

 

 冷汗を垂らしながら、現在の深刻な状況に目を閉じざるをえなかった。

 

 

「てぇりゃああああぁぁぁぁ!!!」

 

 

 ダァァァン――――――!

 

 

『ウググッ―――――!!』

 

 

 連打する一発の拳に強力な一撃を混ぜ込ませて、拳を弾かせる。 うまく入ってくれたことで、蒼一の身体はよろけ出し、後ろに数歩の後退に成功させた。 ここで追い打ちをかければ……と考えるモノの、こちらはかなり息が上がってそれどころじゃなかった………

 

 折角のチャンスを水に流してしまったな………この次あるとは到底思えない…………

 

 

 息を整えて、もう一度向き直す。

 

 

 

 しかし、蒼一は俺の方に顔は向けるものの、違うところに目をやっていた。

 

 

『………………』

 

「……ん? どこを見ていやが………」

 

 

 チラッと蒼一が見た方向に目をやると、そこには希の姿が………!

 

 

「……まさか、またっ!!」

 

 

 そう思った瞬間、蒼一は希に向かって床を蹴り飛ばしていた!

 

 マズイ……! 一歩出遅れた!!

 

 反応しきれなかった俺は、出遅れながらもその後を追いかける。 だが、中途半端な距離が生じたことで追い付けない!

 

 

「逃げろ、希!!!」

 

 

 叫んだものの希はそこを動こうとしない……いや、怯えて動けないのか……! くそっ、これじゃあ!!

 

 

 ジワリジワリと近付く蒼一を止めることが出来ぬまま、最悪な光景に出くわしちまう!!

 

 

 そう思っていたその時だ――――――

 

 

 

 

 

 

「蒼一っ!!!!」

 

「ま、真姫?!!」

 

 

 希の前に真姫が立ったのだ!

 しかも、希を助けるが如く、両手を広げて仁王立ちしたのだ!!

 

 

「やめろ! 無茶はよせ!!」

 

 

 そう言ってもすでに遅かった…………蒼一は、もうすぐ目の前に来て腕を振り降ろそうとしていたのだったから…………

 

 

 

 マズイ、もうダメか………!!

 

 

 諦めかけて目を背けようとした………

 

 

 

 

 

 

 

 

………その時だった

 

 

 

 

 

 

『――――――――――――』

 

 

 

 

 ギュルンッ――――――――

 

 

 

 ドゴッ――――――――――!!

 

 

「ッ……………?!!」

 

 

 蒼一の拳は真姫に当たることなく、逆に身体を大きく捻らせて、真姫の横にすり抜けてそのまま壁に大きな音を立てて直撃したのだ!!

 

 

 

『………ゥ………アァァ…………』

 

 

 強い衝撃音だったからだろうか、蒼一は壁に直撃してからその場に倒れ込み、ふらふらと覚束ない様子でなんとか立ち上がろうとしていた。 自身にかなりのダメージが加わったのだろうが、あそこで避けたのは偶然か、それとも必然だろうか………? いずれにせよ、真姫に当たらなくってよかった。

 

 

 俺はそのまま真姫に駆け寄り、状態を確認する。

 

 

「おい、大丈夫か?!」

 

「え、えぇ……私は何ともないわ…………」

 

「……ったくよぉ、無茶しやがって……あれでケガしたらどうするつもりだったんだよ………」

 

「それは………その時はその時よ………」

 

「あのなぁ……そんな行き当たりばったりなことしないでくれよ。 こっちの寿命が縮むところだったじゃんか」

 

「だって!! こうでもしなくっちゃ、希がやられていたかもしれないのよ!!」

 

「真姫……! おまえ………」

 

 

 意外なことに、真姫の口からその言葉が出てくるとは思いもしなかった。 それに驚いたのは俺だけじゃなく、他のメンバーも、そして希本人もだ。

 

 

 

「私はね、何があっても、みんなでここから帰るって決めたんだから………蒼一が元に戻った時に、1人でも欠けていたら、きっと蒼一は自分のせいだと悲しんじゃうに違いないの! もう、これ以上苦しませたくないの………だから、何が何でもみんなで帰るの! 帰らなくちゃいけないのよ!!!」

 

 

 必死な叫びだ。

 震えながら、涙を流しながら、わめくように、必死に叫んだ。

 

 それが心に強く突き刺さる。 これが真姫の想いなんだと感じるとさらに、だ。 さっきの俺の話を聞いて尚、こうした想いを抱いてくれると考えたら、アイツはホント恵まれていやがるんだと心の底から羨ましく思うぜ。

 

 涙を流すその瞳から滴を指で拭い、着いた滴を振り払った。 女に涙なんてにあわねぇさ、笑った姿を見せてくれりゃあ……アイツだって喜んでくれるだろうよ…………

 

 

 俺はまた、アイツに向き合う。

 鍛え抜いたこの右の拳を握りしめる。

 

 これで決める………コイツで引導を渡してやる…………!

 

 この決意を胸に、俺はもう一度闘う。

 

 

「おい、お前ら。 そっちは、そこに囚われていることりと絵里を連れてココから離れるんだ。 俺は、蒼一を取り戻す………!」

 

 

 アイツらに背中向かせてるから、反応してくれているのかなんて見てわかりやしない。 だが、感じるのさ……アイツを助けたいって気持ちが、背中にジンジンと伝わって来るんだ。 アイツらにも、迷いはなさそうだ………

 

 

 

「そんじゃあ………行かせてもらうぞ!!!」

 

 

 利き足にありったけの力を込めて弾き飛ばす――――

 放たれた弾丸のような速度を付けて、一気にアイツの正面に立つ!

 

 

『……………!!』

 

「今度は、こっちから行かせてもらうぜ………!」

 

 

 懐の中に身体を沈ませて、一気に跳ね上がる――――!

 

 

 ガッ―――――――!!

 

 

『グアアァァァァァァァ!!!!』

 

 

 胸のど真ん中、直球の右のアッパーカットが、ボールがミットの中に吸い込まれるように見事に決まる――――!

 口を大きく開けて叫ぶ様は、深くえぐるように入っていくこの拳のダメージを十分に味わっているようだ!

 さっきのダメージ反動がでか過ぎたのだろうか、体制を整える暇もなく無様に当り飛びやがった。

 

 だが、あの程度の攻撃なら避けられたはずなのに、何故避けなかった……?

 

 いいや、考えている暇なんて無い。 そのまま、連続でいかせてもらう!

 

 

 左足を軸として、身体をコマのように左1回転―――!!

 遠心力と共に繰り出す右の蹴りを顔に喰らわせる…………

 

 

『………………!』

 

 

 だが、そこは反応するようだ。 左腕で頭部をカバーしようとしていやがった! ええい、かまわねぇ! そのまま、腕ごとふっ飛ばしてやるさ!!!

 

 躊躇することなく身体を半回転以上回して足に勢いを加え始める。 これくらいならば、いくらガードしてもひとたまりもねぇはず!

 

 そして、足先が頭部に向かおうとしていた時だった………

 

 

 

 

 スッ―――――――

 

 

 

「ッ―――――?!?!」

 

 

 一体どういうことだぁ?!

 コイツ! 俺の攻撃をガードするために構えていた腕を下げやがった!!

 

 つまりだ、アイツの頭部には護るものが………くっ! もう減速なんざ出来ねぇ!!!

 

 

 

 ガッ――――――――――――!!!

 

 

『ぐあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 

 止まることなく付き走っていった強烈な蹴りが左側頭に直撃し、悲痛の叫びを高らかにあげた! おいおい、今のはかなりマズイだろ………いくらアイツの正気が失っているからって、あそこまでのする必要はなかったような気がするな………

 

 

 

 

 

………って、なんか雰囲気が変わったような……………?

 

 

 先程まで、アイツの身体から放たれていた禍々しい妖気のようなもんが、一瞬だけ途切れたような感じがした……! それに、何だか懐かしいような……いつも感じているような風を受けたような気がするんだ………これは一体………

 

 

 

 

 

 

『………ってぇジャネェか……このやロォ…………』

 

 

「ッ――――!! 蒼一ッ!!」

 

 

 一瞬、何が起きやがったのかさっぱりわからなかった………急に、蒼一の普段の声が聞こえてきたから空耳じゃないかと考えた………

 けどよ、この感じは紛れもない蒼一本人だ!!

 

 

『うぐっ………グガアァァァ……ぐギギギぃ………!!』

 

「蒼一! どうしたって言うんだ?!」

 

 

 蒼一の声がやっと聞けたと思ったら、頭を抱え出して苦しみ悶えていた。 アイツの中で何が起こっているのか、わかるはずもなかった………

 

 

 

『………あき……ヒロ………おれを………うて………』

 

「な、なにを!!?」

 

『ちゅうちょ……するんじゃねぇ………はやく……しろ………おれの……いしきがあるうちに………!!』

 

「蒼一………わかった……ただし、後悔すんじゃねぇぞ………!」

 

 

 そう言ってやると、アイツは疲れた目をしながらも薄らと笑って見せやがった。

 

 アイツの想いを………無駄にしねぇさ………!!

 

 

 

 俺は拳にありったけの力を込め始める――――

 丹田に込めた気の塊をこの手に集中させるんだ。 この一撃で、アイツを解放してやるんだ……!!

 

 

 

『……ゥゥゥ…ウガアァァ………うぐぐっ……だすもんかよ………!』

 

 

 

 アイツもアイツで必死に闘っているんだ………覚悟を決めるんだ………アイツのために……みんなのために………!!

 

 

 

「ふっ………! よしっ………!」

 

 

 気が溜まった……! これで………いける…………!!

 

 

 今から解放してやる………

 

 

 

 

「いくぞォォォォ!! 蒼一ィィィィィ!!! 俺の全力全開最大出力の拳を喰らわせてやらぁぁぁ!!!」

 

 

 

 ジリッと体制を取り、再度、足に力を込め出し………

 

 

 

 ドッ――――――――――!!

 

 

 

 

………放つ!!!

 

 

 

 

 

「1歩!!」

 

 

 この1歩目で加速を付け――――――

 

 

 

 

 ドッ―――――――――!!!

 

 

 

「2歩ぉ!!!」

 

 

 

 この2歩目で勢いを付け――――――

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 ドゴッ――――――――!!!

 

 

 

 

「3歩ぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 この3歩目ですべての力をアイツの顔に目掛けて叩きこむ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………よく……やった…………』

 

 

 

 

 

 バギッ――――――――――――――!!!!!

 

 

 

 えぐい音を残響させながら、蒼一の身体は軽々と吹き飛ばされ――――――

 

 

 

 

「ぐぼはっ………!! かはっ…………」

 

 

 

 

 壁に直撃して、そのまま倒れた

 

 

 

 

 

「はぁ………はぁ………どうやら……なんとかなったみたい………だな………」

 

 

 すべてが終わったのだと言うことを悟ると、全身から力が抜けてゆき、その場で膝をつく。 すべて使い果たしたと言うか……完全燃焼したっていうか………もう、体力の限界だったってわけさ………

 

 

 

 だからさ………もう………

 

 

 

 

 

 どさっ――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 そこから俺の意識は無くなり、そのまま熟睡してしまっていたそうだ。

 

 

 その代わりに、なんとか蒼一を元に戻すことが出来たため、なんとかホッとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、蒼一は原因不明の病により、入院していたということを俺が目覚めた後に知ることとなる――――――

 

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。

戦闘シーン……描きにくっ!!めんどっ!!

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