《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち―――   作:雷電p

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「あははは!! ことりちゃんは、あと何個食べたらかわいい反応をみせてくれるのかなぁ……?」

 

 

 不気味な高笑いをあげながら、彼女は悪魔の菓子をもう1つ囚われの彼女の口の中に押し入れる。 それを口に入れた彼女は、気分が悪そうに顔を真っ青して、今にも吐き出してしまいそうに頬を膨らませた。

 

 しかし、そんなことを彼女は赦すはずもなく、口を押さえて顔を上に向かせ、口の中のモノを強制的に胃の中にへと流し込ませたのだった。

 

 

「げほっ……げぼっ………!」と喉を通り抜ける物体に息を詰まらせようとすると、強い咳をしてむせかえす。 涙と唾液が入り混じる体液が顔から滴り落ち、床に小さな水たまりを生み出す。 苦悶する彼女の様子をそのまま反映させているようにも思えた。

 

 次第に、彼女の意識がぽつぽつと途切れがちになりつつあった。 あの菓子に含まれたモノの毒素が身体中に回り始めてきているようだ。 つまり、あともう1つ口にしてしまえば、身体中から拒絶反応に似たショック症状が引き起こるのだろうと言うことを彼女は理解した。

「あぁ、だめ……これは私のやってきたことの罰なんだ」と彼女が堕罪してから今日に至るまでのあらゆる出来事を振り返り、その過ちを1つ1つ走馬燈のように思い起こしていた。 どれに付けても決して赦されることは無いものばかりだ、これは当然の報いなのだと彼女の心の中はそう悟ったのだった。

 

 それなのに……あの時、彼女のことをやさしく包み込んでくれた彼の温もりが今でも忘れなかった。 そればかりか、叶わぬ夢とばかり思っていた彼との密接な関係を築くことが出来たのだ。 あの夜、彼と繋がった時のことを美しい想い出として心の中に秘めた。

 

 

「さあ、これでお終いかなぁ……?」

 

 

 彼女の手から最後に口にする贖罪の菓子を目の前に出される。

 もはや、それを拒むことが出来るほどの力は残ってなどいなかった。 彼女は為す術もなく、それを口にしてしまうのだろうと、誰もがそう感じた。

 

 

 

 

 

 その時だった―――――――

 

 

 

 

 

 

 バキィ―――――――――

 

 

 

『ッ―――――!!!』

 

 

 金属が引き千切れる鋭い音が耳鳴りのように響き渡った。

 そのあまりの衝撃にここにいる全員の視線が1点に集中する―――――

 

 

 その視線の先に、彼がゆらりと立ち上がっているのが見えた………

 

 

「そんなばかな……!」と、希はそんな言葉を発するかのような驚愕の表情で彼を凝視する。 無理もないことだ、なぜなら、彼の手足には鉄の鎖を施した手錠がはめられていた。

 なのに、その手錠に繋がれていた鎖が千切れ落ち、手首足首に本体を残すだけとなっていたのだ。 誰がどう見ても、彼が力任せに引き千切ったとしか思えない様子だった。

 

 

 心をぞわぞわとざわめかせる圧迫させられる空気が、彼女たちに襲いかかった―――――

 

 そんな彼は、うつむきながら希の方にゆっくりと近づいて来ようとしていた。 迫られる彼女は、そのあまりの出来事に脳の処理が追い付かず、手にしていた菓子を無意識に落としてしまうほどに狼狽し出していた。

 

 

 

『………ぅぅぅ………ぁぁぁぁ…………』

 

 

 彼の口から発せられる地を這いつくばるような声が彼女たちの耳に入りだす。 奇妙すぎるその姿と相まって、恐怖心をさらに駆り立たせるのだった。

 

 

「………そう………いち…………?」

 

 

 先程から身体を震撼させていた希の口からようやく彼への言葉が述べられる。 つい先ほどまで、余裕と愉悦の表情を見せつけていた彼女の表情が、氷水に浸けられた後の白く冷え切った顔色に変色し出していた。 身体の臓を抉られるような異常なまでの恐怖が彼女を殺しに来た。

 

 

 

 

 

「…………っ!! 希、逃げなさいっ!!!」

 

 

「ッ――――――!!」

 

 

 透明に透き通る絵里の声が希に臨んだ。

 この状況で、何故、絵里が彼女に向かって警告の言葉を発したのか、一瞬わからず戸惑ってしまった。

 

 

 

 しかし、その意味を次の一瞬で知ることとなった――――――――

 

 

「えっ……………」

 

 

 彼女が一瞬、彼から目を逸らした時、彼は希のすぐ目の前に接近していた。 まさに、0距離――――逃げ場などどこにもない――――避けることなど不可能な状況だった。

 

 

 そして、彼女は――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ドゴッ――――――――――!!

 

 

 

「ごふっ――――――?!!!」

 

 

 彼の手から放たれる強烈な一撃を脇腹に入れられ、力任せに横に吹き飛ばされたのだった。

 

 強い衝撃と共に飛ばされる彼女の身体は、床を蹴飛ばすように何度も転がり、全身に傷を負いながら倒れ込む。

 

 

「あぁぁ…………うぁぁぁぁ……………!」

 

 

 腹部に抉られるような痛みと、全身に打ち付けられた痛みが同時に襲い掛かり、耐えきれない苦痛の呻き声を上げる。 予定に含まれていないかったあまりの苦痛が、彼女の身体のみならずその精神をも弱らせていく。

 

 

 その彼女に向かって、ゆらりゆらりと彼が近付いてくる―――――

 

 

「ひっ……!」

 

 

 つい先程まで、嬌声を上げながら彼のことを弄んでいたのが、一瞬にして恐怖に怯える叫びとなって彼に向けられた。

 彼女自身もこんなことは望んでなどいなかっただろう………しかし、こうなることにしてしまったのは、紛れもない彼女自身によるものだった。 彼女が彼の中にあった箍を外してしまい、彼の眠っていた狂気を呼び出してしまったのだ。

 

 

「ゥゥゥ………ウワアァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 

 狂気を含んだ叫びが彼の口から発せられた。

 それはまるで獣――――狩りを行う猛獣――――のような叫びが、彼女たちの内臓に直接響く。

 

 誰も彼を止めることが出来ない………

 誰も彼を止めようとすることが出来ない………

 

 動こうにも身体は言うことを聞かず、目を逸らそうとしてもその目は彼の狂気を凝視する………このまま凝視し続けてしまえば、心が破裂しそうになると言うのに、逸らすことが出来ない………まるで、催眠術にでもかかってしまったかのように、彼を捉え続けていたのだ………!

 

 

 その彼が、また彼女に近付こうとしていた………

 

 

「……そういち………私だよ………? 私を忘れたの……? ほら……私はそういちの………」

 

 

 怯えた声で細々と語りかけ始める希………だが、

 

 

 

 

 

 ギロッ―――――――――

 

 

「ひっ………ひ、ひやあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 彼が見せつけたその表情に、彼女は身体中の血液が逆流してしまうような戦慄に叫ばずにはいられなかった。 それは、いつか見せた威圧の籠った殺人的な怒りの表情よりも、遥かに凌ぐ凄まじいほどの怨恨の表情が彼女に臨んだのだった。

 

 その戦慄に泣き叫ばずにはいられない。 彼女はありったけの声量と涙をもって、この恐怖を体現する。

 

 しかし、それは彼にはまったく通じることもなく、彼女に迫ったのだった。

 

 

 

 

「希!! 早く逃げなさい!!! 希ぃぃぃ!!!」

 

 

 絵里の声が希に向けられるが、彼女の耳には到底及ぶことは無く、ただ流れていくのみだった。 恐怖が…戦慄が……彼女を覆い尽くして一切を遮断させてしまっていたのだ。

 

 

「ウアァァァ………ウ………ウガァァァ…………」

 

 

 禍々しいモノと変貌してしまった彼が、彼女の目の前に立とうとしていた。

 

 痛みと恐怖で倒れ込んだままの彼女は、もう1歩も動けないでいた。 そして、こんなことになってしまったのは、すべて自分のせいなんだと、今更ながら後悔することになる。

 

 

 やめればよかった………しなければよかった………

 

 ガタガタと身震いする彼女の心の内に、こうした思いが沸々と湧き上がり始める。 その中には、彼のことが好きだった、と言う純粋なる気持ちも含まれていた………

 

 

 だが、彼女はそれを跳ね退けてしまい、欲望が赴くままに邪の道に進んでしまった。 それが間違いであることにも気付きながらも、彼女はそれを実行してしまった。

 

 そして、その結果がこれだ。

 

 

 愛する者を狂気と化してしまうのみならず、その手を彼女によって穢してしまうことになるのだ。 それがあまりにも、悲しく、残酷なことだと心に思いつつも、それを止めることが出来ない自分の不甲斐無さに、ただただ嘆くばかりだ。

 

 

「………ごめんね……蒼一………わたし………ウチのせいで………」

 

 

 床に垂れ落ちる肢体に力が入らず、抜け落ちた殻のようなその身体で彼を見上げる。 彼の身体で作られた影が彼女に覆い被さると、彼女は呆然と身体を震撼させ、涙を流すばかりだった。

 

 

 

「……ゥゥゥウウアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 

 天をも突き抜ける絶叫が高らかにのぼるとともに、彼女に向かって轟音が唸りを上げて迫りだす。

 

 

「ッ……………!」

 

 

 避けることが出来ないと察した彼女は、息を呑み、目を瞑った――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パァァァァァァァァァァン!!!!!

 

 

 

「ッ……………?!!」

 

 

 どういうことだろうか。 彼女に向かうはずだったその轟音が、届く直前に、何かに阻まれるようにして止まったのだ。 その際、鼓膜が破れそうになるくらいの劈く音が鳴り響いたが、彼女にとって苦痛に感じることは無かった。

 

 一体何が起こったのか、恐る恐る目を開いていくと、そこには―――――――

 

 

 

 

 ミシッ――――――ミシッ――――――――

 

 

 

 

「ゥゥゥ……………?!!」

 

 

 

「~~~~~っつぅぅ………お~お~、痛ぇパンチをよくも喰らわせてくれるじゃなねぇ~の………」

 

 

 

 彼と同等の背丈とボサボサっとした癖っ毛のような髪、ヘナヘナと笑いを含ませたかのような軽い口ぶりと時折聞かせる鋭い声。 一見どうしようもなさそうな姿を晒すその男は、風をも叩き斬る蒼一の拳を片腕だけで受け止めた。 そんな芸当ができる人間など彼女が考える中でもたった1人しかいなかった………

 

 

 

「おう兄弟よ、ひでぇ面構えしやがって…………また、悪夢に悩まされていやがるのか………?」

 

 

 

 

 

 

 宗方 蒼一の親友にして悪友、そして、相棒である――――滝 明弘である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い夢なら………覚まさせなくちゃぁいけねぇなぁ………さあ……いくぞ!!」

 

 

 

 

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主デス。


ヤンデレ希を多く書けなかったのは、残り話数の問題でした

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