《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち―――   作:雷電p

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 蒼一さんたちが………いなくなった………?

 

 

 真姫ちゃんからの連絡を受けた私は、そのあまりにも衝撃的な内容に、身体が石のように固まってしまいました。

 

 ありえません……どうしてこのようなことが起きるのです……? つい先ほどまでいたはずですのに、どうしていなくなったりしたのですか? これは蒼一さんに寄るモノとは考えられませんね……あの場にいた2人の判断か……もしくは、第三者の介入か………

 いずれにしても、よろしくないことです。 一刻も早く見つけ出さなければ……!

 

 

 

『………洋子! 聞いているかしら?!』

 

「……あっ、はい! すみません、考え事をしてまして………」

 

『そう……兎も角、洋子はすぐに蒼一たちがどうやっていなくなったのかを調べて! もしかしたら手掛かりが見つかるかもしれないから!』

 

「わかりました。 先程の件と共にすぐに調べますので、しばしお待ちください!」

 

『そうしてくれると助かるわ。 早くしないと、この子たちがまた………』

 

「えっ? それはどういうことなのですか?」

 

『いいから、早くしなさいってことよ!!』

 

「は、はいぃぃぃ!!」

 

 

 

 真姫ちゃんが大声で叫んだ後、ブチッと引っこ抜かれるような勢いで回線が途切れてしまいました。 一体、何が起きたと言うのでしょうか……真姫ちゃんがあんなにも焦っているなんて………

 

 まさか………!

 

 

 私の脳裏に駆け走る焦燥感にも似たこの感覚――――全身に危険だと言う電気信号を幾度となく送信されてくるこの感覚――――間違いなく、あの場で何かが起ころうとしていることを暗示しているみたいでした。

 

 

「くっ………!」

 

 

 早くせねばという一心に駆られ、そのまま何か手掛かりになるモノは無いかと、パソコン上のあらゆる情報を手当たり次第漁りだしているのです。

 

 

 

 

 そして、見つけました――――――

 

 

 

 

 

 絵里ちゃんたちが蒼一さんを担いで学校の外に行く様子が――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

[ ??? ]

 

 

「よし、と。 ことり、ここでいいわよ」

 

「本当に、ここでいいの?」

 

「ええ……というより、ここ以外に安全な場所は無いでしょ?」

 

「確かにそうだけど………なんだか気が進まないなぁ………」

 

 

 蒼一を担いできた絵里とことりは、誰にも気づかれないだろうこの場所に隠れた。 まだ太陽が昇っているモノの、どうしても影となる個所が多くなってしまう場所なのである。

 

 そんな場所に置かれてあった壊れかけのソファーに、彼女たちは意識が戻らないでいる蒼一をそこに寝かせた。 ここに至るまでの動作で、傷口に響いてしまったのだろうか、痛みを堪えるように顔を引き摺らせていた。

 

 

「ごめんね蒼くん………蒼くんを護るためには、こうしないといけなかったの………」

 

 

 痛ましい姿を見せる蒼一に、ことりは瞳を滲ませて彼の手を握ったのだった。 必ず、意識は戻る……また、あのやさしい顔で私のこと呼んでくれるはず、という希望を乗せていた。

 

 

「けど、意外だったわね。 まさか、私の方にメールで連絡が来るなんて………」

 

「うん、てっきり私の方に来るものかと思ったけど、やっぱり、ここを知っている絵里ちゃんだったから来たんじゃないかなぁ?」

 

「う~ん……そうだといいのだけどね………」

 

 

 絵里は自分宛てに来たメールの内容をもう一度確認しながら、ここに来させた理由を知ろうとした。 彼女の中では、ただ彼を護るだけならば、ここでなくてもよかったのではないかと疑問に感じていた。

 

 それに、伝えるのならば直接話をしてくれればいいのに、とも考えていた。 それはメールの文面に『事情はここで話す』と書いてあったからだと推察しても間違いないだろう。

 

 

 ただ問題なのは、誰からのメールだったのかであった………

 

 

 

 

 

 

「ねえ、ことり……今この状況で聞くようなことじゃないのだけど………」

 

「どうしたの絵里ちゃん?」

 

 

 気難しそうに話しかけてくる絵里に対して、ことりは少し心配そうな顔で聞き返していた。 その絵里は、視線をあちこちにやったり、手をあやすなど落ち着きの無い様子だった。

 

 

 

「あの……ね………ことりは……その………私のことを怨んでないかしら………?」

 

「えっ………どうしてそれを………?」

 

「だ、だって……! 私がことりにあんな挑発的な態度を示したのよ? それに……ことりにけし掛けて、すべての責任を負わせようと企んだのは私だったから………それに、あなたの身体も…………」

 

「絵里ちゃん………」

 

 

 

 絵里が話し出したのは事の発端について。 すべての始まりはこの2人によるモノだった。 その中でも、この2人の間で起きた出来事が、今回の一件の進展を加速させたものだとも言えるからだ。

 

 ことりは改めてそうしたことを思い返し、難しい表情を見せた。 ことりにとって、あそこで経験したことすべてが忌々しいモノだと言ってもおかしくなかった。 あの時受けた憎しみ、悲しみ、痛み、喪失を今でも忘れることが無かったのだ。

 

 それを承知の上で、絵里はことりに問いかけていた。 それに対する覚悟もあることも――――――

 

 

 

「………絵里ちゃん」

 

 

 

 ことりはいつ度となく真剣な表情で臨んだ。

 

 

 

 

「ことりはね………確かに、絵里ちゃんからたくさん酷いことをされました。 今でも、胸のあたりやお腹のところ、そして、あそこも……ちょっと触れるだけでもあの時の痛みを思い返しちゃうの………

 

 

でもね……でもね、絵里ちゃん。 ことりね、絵里ちゃんのこと、怨んでないんだよ」

 

 

「えっ………うそ……でしょ………?」

 

 

「ううん、嘘じゃないの。 本当に思っていないんだよ?」

 

「だ、だって、ことり……! 私はあなたにあんなにしたと言うのに、どうして………」

 

「うん。 確かにね、絵里ちゃんのことをすっごく怨んでいたこともあったよ。 でもね、教えられちゃったの。 そうすることが無駄なんだってことを………」

 

 

 後ろに腕を組みながら、どこか遠くを見つめるように、静かに語りだす。

 

 

「実際にね、怨みを晴らすためにいろいろなことを考えてやってみたけど、私が得たのは虚しい気持ちだけ……その虚しい気持ちを晴らすために怨んでは、やるってことの繰り返し………そして、残ったのは虚しい気持ち………こんなに悲しいことを繰り返していたの………」

 

 

 もの寂しそうな雰囲気に包まれながら、虚空を仰ぎ見ながら自らの過ちに向き合うことり。 しかし、その表情は決して悲しい様子など見えなかった。

 

 

「それでね、やっと気が付いたの。 誰かを怨むことじゃ、自分を変えられないんだって………それに気付かせてくれたのは、蒼くんなの。 蒼くんがね、私を包んでくれた時、私のことを全部赦してくれたの。 そしたらね、今までずっと抱えていた虚しい気持ちとかがね、無くなったの。 何かの間違いじゃないのって思ったけど、やっぱり、蒼くんが私を赦してくれたことが一番大きかったんだって感じたの。 だからね、同じように怨むんじゃなくって、赦してあげようって思うようになったの」

 

「ことり………!」

 

「絵里ちゃんも蒼くんにやさしくしてもらった1人なんでしょ? だったら、ことりも絵里ちゃんのことを全部赦すよ。 だって、絵里ちゃんは私の友達で、同じ蒼くんのことが大好きな大切な仲間なんだもん」

 

「ッ~~~~!! こ、ことりぃぃぃ!!!」

 

「ぴゃっ?!! え、絵里ちゃん!?!」

 

 

 ことりの想いに触れた絵里は、感極まってことりに強く抱きついた。 そのあまりのことに、ことりは驚き現わしてよろけそうになったが、なんとか抑えて絵里のことを抱きしめ返した。

 決して赦されることが無いだろうと覚悟していた絵里にとって、ことりからのこの言葉は、何ものにも代えがたい感喜であった。 それが堪らなく心に響くので、絵里の瞳からは滂沱の涙が流れ出てしまうのだ。

 

 しかし、それはことりにも言えることだった。 ことりも絵里が感じていることよりも同等、それ以上かもしれない罪悪感を抱いていた。 むしろ、ことり自身が赦されるはずもないと考えていたのに、絵里たちはそんな彼女のことを赦し、手を差し伸べてくれたのだ。 その時受けた感謝をことりは一生忘れることが無い。

 そんな思いもあって、ことりは絵里のことを赦したのだ。 自分が赦されたように………

 

 

「もう、泣かないでよぉ……私まで泣きたくなってきたよぉ………」

 

「うぅ……ごめんなさい………私、こう言う時歯止めが利かなくって………」

 

「うんうん、わかるよ……絵里ちゃんも辛かったもんね。 蒼くんと真姫ちゃんのあの様子を直接見ちゃったんだもんね。 とっても、辛かったよね………」

 

 

 絵里の涙を見て、瞳を滲ませて貰い泣きしそうになることり。 それでも、絵里のことを慰めようと努めたのだった。

 

 

 

 だが―――――

 

 

 

 

「………えっ? 私は見ていないわよ?」

 

「えっ、だって、絵里ちゃんが私の靴箱に写真を入れたんじゃないの?」

 

「確かに入れたのは私よ。 でもね、あの写真は私が撮ったモノでもないわ。 いつの間にか、靴箱の中に入っていたのをそのまま入れただけよ」

 

「それって………!」

 

 

 ことりの表情に余裕が消える。 絵里の話した内容がどうしても引っかかり、腑に落ちない気持ちになってしまうのだった。

 

 

 

 

「………うっ……うぁ……あぁ…………」

 

「蒼くん!!」

 

「蒼一!!」

 

 

 痛みに苛まれる苦しい声を上げつつ、深い眠りについていた蒼一の意識が徐々に取り戻されていく。 薄っすらと目蓋が開き始めると、おぼろげな視線を中空に漂わせた。

 

 

「蒼くん、しっかり!!」

 

「蒼一、私たちの声が聞こえる?!」

 

 

 目覚め始めた彼の身体に触れながら、彼の意識がハッキリするのを待ち続けた。 彼が目覚めてくれたことは、彼女たちにとって多大な喜びと安堵を与えたのだった。 それ故、彼女たちの表情に掛かっていた陰鬱なモヤが段々と晴れ出てくるのだった。

 

 

 

「……うぅ………こと……り………えり……ちか…………」

 

「うん、ことりはここにいるよ、蒼くん!」

 

「大丈夫よ、蒼一。 あなたのエリチカもここにいるからね!!」

 

 

 彼女たちに震えながらも差し伸べられたその手を彼女たちはしっかりと掴んで、彼の声に応えたのだ。 嬉しさのあまり泣き出しそうになるのを抑えながら、笑った顔を見せようと努める彼女たち。 もうすぐだ、もうすぐで彼が起き上がれる状態になれると、期待を持って見守っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、

 

 

 

 

 

「………にげ………ろ…………」

 

 

「「えっ――――?」」

 

 

「おれをおいて………はやく………にげるんだ…………!」

 

 

 

 彼の眼が急に鋭くなると、同時に彼の手に力が入ったのだ。 握りしめられるほどの強い力ではなかったのだが、それなりの力で2人の手を握り返して警告したのだ……!

 

 

 

 まるで、何かが来ることを予兆するかのように……………

 

 

 

 

「蒼くん、どういうことなの?! どうして逃げないといけないの!」

 

 

 ことりが抱いている焦燥感が、危険な方向へと一気に加速しようとしていた。 先程から感じていた違和感が彼女に重苦しげに掛かり始めていたのだ。

 しかし、未だに意識がはっきりしない彼から聞き出すことは困難であり、例え彼の言う通りに逃げようとしても、彼を置いていかなければならないと言うジレンマに彼女は膠着してしまう。

 

 

 薄暗くなり始めたこの環境が彼女たちの心に影を落とし始めていた――――――

 

 

 

 

 

 

 その時だった―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(バヂッ!!)

 

 

 

「あ゛あ゛っ―――――?!!!」

 

「絵里ちゃん!!?」

 

 

 何かが炸裂したと思った瞬間、絵里の甲高い声が叫びと変わり残響させた。 何事か!? と絵里に目を向けたことりは、身体をピンッとのけ反らしたのを見たと思いきや、そのまま腑抜けたように蒼一の身体に向かって倒れ込むのを目撃したのだ。

 

 そのあまりにも唐突な出来事に、ことりは冷静さを欠き、近寄って絵里の状態を確かめようとしたのだった。

 

 

「絵里ちゃん! 絵里ちゃん!! どうしたの? 何があったの!??」

 

 

 絵里の身体を揺らしても返事は聞こえず、ただ寂しげに響く自分の声を耳にしていた。

 

 

 

 

 

 

 自分に迫ってきていた危険に気付かぬまま―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(バヂッ!!!)

 

 

 

「きゃあああ!!!?」

 

 

 彼女の身体にも炸裂した音と共に、電流のように鋭い痛みが彼女の身体を駆け巡った。 そして、彼女も反射的に背筋に伸びる自律神経が刺激されて、身体をのけ反らせる。 そしてそのまま、全身に脱力感を伴い始め、絵里と同じく彼の身体目掛けて倒れてしまったのだった………

 

 

 

 

 

「………うぅ……えりちか………ことり…………!」

 

 

 何も出来ずに、ただ意識が無くなっていく彼女たちを眺めながら、歯痒い気持ちを段々と膨れ上がらせていくのだった。

 

 

 

 

 

 そんな彼の前に、薄暗い闇の中から1つの影を見た――――――

 

 

 

 

 

「まさか……おまえだったとはな……………」

 

 

 彼はその影に対して言い放った後、また意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 影はその様子を見て、ニタリと口が裂けてしまうほどの笑みを浮かばせていた。 それはまさに、計画通りだと言わんがばかりの顔をしていた。

 

 

 そして、ポケットから取り出したスマホに流れる音声を聞くと、さっきよりも闇深い笑みを浮かばせて気持ちを高ぶらせていた。

 

 

 

 

 

 

「これで全部そろった………わたしの望みがようやく………ふふふっ…………♪」

 

 

 

 

 電源を切ったスマホをポケットに仕舞いこむ。

 

 その際に、誤ってそこから一枚のカードを落としてしまう。

 

 

 そのカードは、我々がよく目にするカードよりも細長く、あまり馴染みのない不思議なモノ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そこに描かれていたのは――――――

 

 

 

 

 

『DEATH』

 

 

 

 

 

 その意味は、『死神』だった――――――

 

 

 

 

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。


物語が急速に走り出す。

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