《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち―――   作:雷電p

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Folder No.5『絶望』
フォルダー5-1


 

 蒼一さんが階段から落ちた――――――

 

 

 

 その情報を耳にしたのは、あの人と別れてから十数分も経たない時でした――――――

 

 

 

 

 その時、明弘さんと共に行動していた私たちに、息を切らし、血相を欠いた様子でやってきた凛ちゃんからそれを聞きつけたのでした。 まさかそんな!? という思いで私たちはすぐさま、あの人が運ばれた保健室に駆け走るように向かいました。

 

 

 私たちが到着した頃には、すでに他のメンバーが揃っていまして、あの人が眠るベッドを囲っていました。 しかし、それを眺める今の彼女たちの目に活力と呼べるようなモノなど持ち合わせてなどいない様子。 ある者は返答しない彼にずっと呼び掛け、ある者は彼の手を握り締めて泣き崩れ、ある者は目の前が真っ白になったみたく放心状態に陥っている……など、とても目も当てられない悲惨な状況にあったのでした。

 

 

 そうした絶望的状況の中で、たった1人で必死に彼を介抱している人がいました―――――――

 

 

 

 

―――――そう、真姫ちゃんです。

 

 

 真姫ちゃんは、悲しむことを必死に堪えながら、彼のケガしたところを消毒や包帯で止血するなどの作業を立った1人でこなしていたのです。 彼女が一番悲しいと思っているはずなのに………彼女の下唇にできた深い歯痕がその悲痛を私たちに訴えかけてきていたのでした。

 

 

 

「…………よし……これで大丈夫よ………傷口は何とか塞いだから、後は様子を見るだけでいいわ………」

 

 

 最後の包帯を巻き終えますと、真姫ちゃんはゆらりと立ち上がって治療の終了を知らせました。 さすが医者の卵というべきでしょうか、その見事な治療で彼が受けたあらゆる傷痕が綺麗に塞がれているのです。 この時ほど、彼女が居てくれて本当によかったと感じるのでした。

 

 

 

「ちょっと、外の風に当たってくるわ………」

 

 

 そう言って、真姫ちゃんは保健室の外に出て廊下を1人歩いて行きました。

 

 その時、彼女の姿に何かを悟った私は、彼女を追いかけるように廊下を走って行きました。

 

 

 しかし、彼女の姿をすぐに見つけることができませんでした。 いや、てっきり保健室のある1階フロアにいるモノだと思っていましたが………どこにもいませんね………

 

 

 

 

………もしかしたら…………!

 

 

 

 

 

 瞬間、以前彼女のことについて蒼一さんと話をしていた際に、彼の口から真姫ちゃんが1人になる時に行く場所を教えてくれましたことをふと思い出しました。

 すぐさま、その場所に足を運びますと………

 

 

 

 

 

 

…………ほら、ここにいました。

 

 

 

 

 音楽室の後ろの方にあった机の横に立っていたのでした。

 

 

 

 

「真姫ちゃん…………」

 

 

 私は中に入って彼女の近くに歩み寄りました。 彼女は私の事に気が付いていたらしく、背中を向けたまま私に相槌を送ってきました。

 

 彼女は、ある机に触れていました。 それは、まるで何かを懐かしむような……そんな悲しく切ない様子を伺わせていました。

 

 そんな彼女が唐突に口を開きました。

 

 

「………蒼一とね、再会したのはちょうどここだったの………私がいつものようにピアノを弾いていた時に、蒼一はこの机の下に隠れていたのよ………初めは、何かしらこの人? って思って警戒していたわ………けど、彼と話をしていて自然と心が穏やかになっていたの………ホント、あの時は不思議な人としか思っていなかったのに………今はそうじゃないの………蒼一は私の命の恩人で………私の愛している人………かけがえのない……たった1人のわたしの………わたしの…………!!」

 

 

 言葉を紡いでいくうちに、声が震えだし、息苦しく詰まり始めていました。 彼女の感情が大きく震え始めているのです。 その心境が私の方にも伝わり始め、身体がぶるっと震えるほどの恐怖と詰まるほどの息苦しさを感じ始めていたのでした。

 

 

 鼻を啜り、嗚咽さえも聞こえてくる彼女に、私は居ても立っても居られませんでした。 そのまま、真姫ちゃんの前に立ちまして、顔を合せました。 するとどうでしょう、つい先程まで平静を保ち、表情までも堅くしていた彼女のその顔は今、崩壊寸前のダムのように感情が溢れかえりそうな表情をしていたのです。

 

 真姫ちゃんはやさしい子なんです。みんなに心配かけまいと、必死に自分の感情を押し殺してしまう不器用な子なんです。 だから、こうした誰もいない場所に行って1人で悲しもうとしちゃうのですね………

 

 

 それ故にですかね……蒼一さんがここまで真姫ちゃんのことを気にかけていましたのは………

 

 純粋故に脆い感情の持ち主なんだと、彼女のことを見ていて、そう感じたのです。

 

 

 

「真姫ちゃん、もういいのですよ………そんなに自分を抑え込まなくともよいのです。 悲しい時には、思いっきり嘆けばよいのです。 自分を偽らないで本心を……曝け出すのです」

 

「っ……………!」

 

「今でしたら、私しかしません。 もし、私の胸でも構わないのでしたらお貸ししたしますよ? これでも、あなたの先輩なのですから、少しは先輩らしいふるまいを……と思いましてね」

 

 

―――――と、真姫ちゃんに伝えたところ、彼女は私に抱き付いてきて顔を埋めるのでした。

 私はそんな真姫ちゃんをよしよしと頭と背中をさすり、慰めるのでした。 そして、感情が高ぶりだそうとしていることを感じた私は、「もう……我慢しないで………」囁きましたところ、真姫ちゃんは私の胸の中に大声で泣き始めたのです。

 今まで抑え込んでいたモノが一気に溢れ返ったような感情の波が押し寄せてきたのです。 私はその波に呑み込まれそうになりながらも堪え続けて、彼女を慰め続けるのでした。

 

 

 

………まあ、なんとも柄でもないことを口にするのでしょうか、私は………こうして誰かのために行動するなど、以前では、ありえない話です。 それが今、こうして変わりつつあるのは彼のおかげなのかもしれませんね。 彼のその姿に感化されたからこうしたことが出来るようになった、そう考えてもよろしいと思います。

 

 今はただ、早く意識が戻ることを祈るのみです………

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 泣き崩れた真姫ちゃんを立ち直らせた私は、もう一度、彼が眠る保健室の方に向かいました。 すると、そこには絵里ちゃんとことりちゃんの姿しかなく、他のメンバーの姿が見えなかったのです。

 

 

「明弘たちなら、先に部室の方に戻ると言っているわよ。 ここに全員が長居してもいけないからって、私たちだけ残ったというわけよ」

 

 

 と絵里ちゃんは説明してくれました。

 

 確かに、この狭い部屋に何人も溜まってしまっては、いざという時に身動きが取れませんからね。 それに、生徒会長である絵里ちゃんと保健委員のことりちゃんをここにいさせたという判断は、まさに適材と言えましょう。 そこに真姫ちゃんも加えれば、なお良しなのですがね………

 

 

 私は床に伏せる蒼一さんの顔を見ることに――――顔全体が疲れ切っており、いくつもの小じわが見てとれるのです。 出血も要因の一つかも知れませんが、顔色が悪すぎます……つい先ほどまで明るい表情をしていたと思いきや、黒く沈んだ表情となっているのを見ますと、なんとも居た堪れない気持ちになります………!

 

 私の隣に立っています真姫ちゃんも同様に悲嘆に暮れる視線を眠り続ける彼に向け続けたのでした。 涙を流すことも、泣き叫ぼうとすることもまた耐え忍んでいるのです。 彼の前では、そうすることをしないとしているのでしょう、両手につくられた拳がギュッと絞られるような音だけが彼女の悲鳴となって、部屋に響かせたのでした。

 

 

 

 すると突然、「ちょっといいかしら?」と絵里ちゃんが私たちに声をかけてきたのです。

 

「洋子、真姫、よく聞きなさい。 今から大事なことを伝えるわね」

 

 

 絵里ちゃんの表情から真剣な空気を感じ取り、自然とこちらも気持ちを引き締めてその声に耳を傾けました。 絵里ちゃんは、周りの様子や扉の外などにも注意を払いながら、私たちに顔を近づけて言ったのです。

 

 

 

「この蒼一が階段から落ちたことなんだけど………どうやら、誰かに突き落とされたようなのよ………」

 

「「えっ―――――?!!」」

 

 

 絵里ちゃんの口から出たその意外な言葉に思わず驚嘆の声を2人であげてしまいました! だって、そうでしょ? 私たちからしてみれば、ただの事故でこうなってしまったのだと思っていましたし、大体、一体誰が蒼一さんを突き落としたのかなど検討つかないからでした。

 

 

 

 

「ッ――――――!!」

 

 

 その刹那、感情が激化してしまったのでしょうか。 真姫ちゃんが勢い余って絵里ちゃんの絵里を掴みだしたのでした!

 

 

「絵里!! 一体誰よ!! 一体誰がそんなことをしたって言うのよ!!!」

 

「落ち着きなさい真姫………!! 落ち着いて!!!」

 

「いけません! 真姫ちゃん、それ以上はいけません!!!」

 

「真姫ちゃん! 絵里ちゃんに飛び付いても何も始まらないんだよ!!!」

 

 

 荒れ狂う真姫ちゃんに私と絵里ちゃん、それにことりちゃんも加わって止めに入りました。 幸いなことに、大事には至ることはなく、真姫ちゃんを沈めることが出来たのでした。

 

 

 

「………ごめんなさい………ついカッとしてしまって………」

 

「いいのよ、真姫がそうなるのも無理も無いわ。 ことりだって、同じような反応をしていたから」

 

 

 ことりちゃんも? そう言えば、ことりちゃんがここにいるのに絵里ちゃんがこんな大事な話を進めることが気になってはいましたが………なるほど、そう言うことでしたか………

 

 ことりちゃんの方に顔を向けますと、かなり暗い表情でうつむいたままです。 ショックが大きすぎて未だに抜け出せないでいるのでしょう。 それもそのはずです、何せ、蒼一さんの手を握って泣き叫んでいたのは、ことりちゃんだったのですから………

 

 

「それじゃあ、続けるわよ……」と緩んだ襟を整え直して、話を続け出しました。

 

 

「蒼一が落ちた直後の姿を見たのだけれど、どうも自然に足を滑らせたと言うようなモノじゃなかったのよ」

 

「………といいますと?」

 

「蒼一は落ちる寸前、手摺りに掴まって降りていたらしいの。 普通、手摺りに掴まっていたら滑ってもその場で止まるか、仮に滑って放してしまってもここまでの重傷を負うことは無いのよ」

 

「なるほど……それで突き落とされたという結論に出たのですね」

 

「ええ。 あと、他にも蒼一の身体が踏み場に接触した場所が下段からだったと言うこと………つまり………」

 

「……つまり、階段を降りはじめたところから落ちた……と………?」

 

「…………ええ…………」

 

 

 喉に何かがつっかえたように語る絵里ちゃんは、しかめた表情でその鋭い視線を落としました。 その顔からは、元に戻る以前に見せていたあの背筋が凍るナイフのような眼つきをしていました。 絵里ちゃんもこの怒りをどこにぶつけたらよいのかがわからないようです………

 

 

 

 

「ことりのせいだ………」

 

「っ…………!」

 

「ことりが………こんなことを起こさなければ………蒼くんは……蒼くんはこんな目に合わなかったのにっ………!!」

 

 

 ことりちゃんは、ボロボロと涙を流し、胸が張り裂けそうになる悲嘆の声をあげました。 そのあまりの悲しみに膝から崩れ落ちてしまいそうでしたので、その身体を支えようと駆け寄りました。 肩に手をかけてなんとかという感じですが、ことりちゃん自身の気力が少なく、いずれ私の支えがあっても倒れてしまいそうな状態でした。

 

 

 すると、そんな私たちの姿を見てなのか、絵里ちゃんが近付いてことりちゃんの前から支え出したのです。

 

 

「ことり、あなたのせいではないわ………元々は、私があなたにけし掛けなければこんなことにならなかったのよ………だから……怨むなら私を怨んで………」

 

 

 涙声になりながら、絵里ちゃんは涙を流すことも泣きだすこともせずに、支えていました。 けれど、その少しでも触れてしまえば泣き崩れてしまいそうなその顔が、見ているこちらの胸をも締め付けるのです。

 

 

「違うわよ、絵里、ことり………そもそもの話は、私から時始まったこと………私が蒼一のことを好きになったからことからすべてが始まったのよ………」

 

 

 悲嘆に暮れていた2人に真姫ちゃんが語りかけました。

 真姫も何だか悲しそうな声を出すので、絶望的な空気を生み出すものと考えていました………

 

 

 

 

 

「……でもね、それとこれとは全く違うと思うのよ。 これまでのことと、今のこれとの因果関係が見いだせないわ」

 

 

 その一言が、この場の空気をがらりと変えた瞬間でした。

 

 

「確かに、今回の一件の延長線上で起こったことだって言ってしまえば片付いてしまうかもしれないわ。 けど、私たちが何かしたからこうなってしまったなんて、関係が曖昧すぎるわよ」

 

「真姫………」

 

「真姫ちゃん………」

 

 

「それに、蒼一がこうなってしまったのはあなたたちのせいではないのよ。 まあ、誰がやったのかわからないけど……けど、蒼一のことが好きなのなら早く彼が目覚めることを祈るのが、私たちにできることだと思うのよ。 そうでしょ?」

 

「「!!!」」

 

 

 真姫ちゃんの口から出てきたその言葉が深みのある言葉として自然と心に入ってきました。 それは、これまでのあらゆる艱難を乗り越えた真姫ちゃんだからこそ言えるモノでした。

 

 

 

「そう………ね……確かに、真姫の言う通りね。 悔やんでいても蒼一は戻ってきてはくれないわ。 私にできることはできるだけ、蒼一の傍にいることよ………そして、いつでも声をかけられるようにしておくのよ」

 

 

 絵里ちゃんの表情に明るさが取り戻ってきたようです。 鋭い眼つきが緩みだし、頬笑みを含んだ声色でおっとりと語りだしたのです。

 

 

 

「ことりだって、蒼くんのこと大好きだもん………絵里ちゃんにも真姫ちゃんにも負けないくらい大好きだもん……! だから、ことりも蒼くんが目覚めるのを祈って待っているもん………!」

 

 

 ことりちゃんも泣きくしゃりながらも暗い表情が抜けて、穏やかな表情を垣間見ました。

 

 

 なんとか、3人とも立ち直ることが出来たようで何よりです。 しかし、こうして見ますと、異様な光景ですよね。 思考を巡らせて、互いに憎しみ合っていた者同士がこうして1人のために心を一つにする………このような結束を生み出させたのは、紛れもない当人なのですがね………

 

 

 

 憎しみ変わって愛となる、ですかねぇ?

 

 

 こんな素晴らしい彼女さんたちに囲まれて………ホント、罪なお人なんですね………

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 

 蒼一さんの容態を伺った後、私と真姫ちゃんはこの場から去ることになりました。

 

 真姫ちゃん自ら離れると言ったのは意外なことで、てっきりこのままずっといるモノと思っていましたが「絵里とことりだけで十分よ。 あの2人ならもし何があったとしても何とかしてくれるはずよ」と堂々とした様子で答えてみせたのです。

 

 普通、残りたいと言うものかと思いましたが、いやはや、かなり大人びているのですねと、彼女の評価をまた改めないといけないようですね。

 

 

 その足で私たちは部室の方に向かいました。 中では他のメンバーが揃って待っていまして、こちらも酷い落ち込みようでした…………

 

 

 

「おう、洋子か。 どうだ、兄弟の様子は?」

 

「特に変わった様子はありません。 今は絵里ちゃんとことりちゃんの2人に任せていますのでご安心を」

 

 

 腕を組みながら立っていました明弘さんの顔からは、余裕があるわけもなく、とても落ちつかない様子でした。 無理もないでしょう、共に歩んできた明弘さんにとって、蒼一さんはもう1人の自分―――――最も信頼できる存在――――――として見ていたのですから………

 

 その彼が現在、ああなってしまっては、どうしようもない気持ちになるのは当然のことのように思えました。

 

 

 

 

 

「ねぇ……洋子ちゃん…………」

 

 

 突然、穂乃果ちゃんから私に向けて話してきたので、私は「はい、何でしょう」と当然のように応えました。 すると、思いもよらない言葉が…………

 

 

 

「あのね……どこからか聞いたんだけど………蒼君は、事故でああなったんじゃなくって、誰かにやられてああなったんだって聞いたんだけど………それって……ホント?」

 

「っ…………?!!」

 

 

 その言葉を耳にした瞬間、身体中に電流のような動揺が走り抜け、ビクッと反応してしまいました。 何故、そのことを穂乃果ちゃんが知っているのか、そして、それがタイミング悪くこの場にいる全員に浸透させてしまったことに頭を悩ませました。

 

 事実、それを初めて耳にしたメンバーたちの顔つきが一変し、私が抱く疑念が現実のモノとなりつつありました。

 

 

「残念だけど、それが本当かどうかなんてわからないわ。 仮に誰かの手によるものだとしても、私たちでその子をどうこうしようだなんてことはしないことよ」

 

「ど、どうしてですか、真姫!? 蒼一をあのような目に合わせたのですよ! ましてや、それをそのまま見逃せと言うのですか!!?」

 

「落ち着きなさい、海未。 言ったでしょ? ()()()では、手を下すようなことはしないの」

 

「っ………! それはつまり………」

 

「そうね、あの温もりを知っているあなたならその意味が分かるでしょ?」

 

 

 真姫が言い放ったその一言が部屋中に浸透していき、その意味を理解した方々は、こぞってその鋭い顔つきを緩ませたのです。 私には理解できないことですが、はてさて、その言葉にはどのような意味が隠されているのか………少々気になるところですね………

 

 

 

「………ねえ、洋子………」

 

 

 すると、真姫ちゃんが囁くように語りかけてきまして、何やら真剣な表情をしていましたので、自然とこちらも気を引き締めて聞くことに。

 

 

 

「あなたの部室に戻って調べてきてちょうだいの。 私も今回のことでちょっと腑に落ちないところがあるからわかるだけの情報を教えてほしいの………」

 

「なるほど、そのことですか………わかりました。 すぐに調べに行きますね」

 

「もし、こっちに何があっても私が何とかするから安心しなさい。 私はもう迷わないから……」

 

 

 平然とした口調で語りかける真姫ちゃんは、髪をかきあげる仕草をして見せましてから私に余裕をにじませるような頬笑みを見せました。

 

 何と心強い言葉なのでしょうか。 言葉がその態度と相まって、私の心に響いてくるのです。 何と言いましょうか……聞いているこちらも余裕を感じてしまうのです。

 

 

 その雰囲気が誰かに似ているような気が…………

 

 

 

………いえ、考えている暇などありませんね。

 

 

 

 

 

 私はその場を後にしまして、そのまま我が部室へ駆け込みました。

 もし、私の勘が正しければ、あの時あの場所で撮影されたモノが残っているはずです……! それを解析することが出来れば、この一件もすぐに片が付くはずです………!

 

 そう意気込んでパソコンの前に座りました………

 

 

 

 しかし、またしても違和感を抱いてしまったのです。

 何と言いましょう……イスの座り心地や手にするキーボードの馴染み具合がイマイチであったりするのです。 おかしいですね……私しか使っていないはずなのに、まるで、ほかの誰かが使ったような形跡があるのが、違和感の根幹とも呼べるものでしょうね。

 

 

「おや………?」

 

 

 ふと、いくつかのフォルダーを探っていましたら、気になるメッセージが出ていましたので、自然と視線がそちらの方に向いてしまいました。

 

 

「なになに………『あなたのアカウントが別の機種で使用されました』……って、ん?」

 

 

 これは……アカウントの乗っ取りなのでしょうか? いやしかし……そのようなことがあるのでしょうか…? こちらのセキュリティーは万全な状態にありましたし、第一、乗っ取られるようなことなどしていないはずですが……これは少々気になってしまう内容です。 何せ、このメッセージに寄りますと、つい数分前の出来事だったらしいのです。

 

 

 

 気になるところは十二分にありましたが、一旦隅におきまして、やらねばならないことを引き続き行うようにしたのです。

 

 

 

 

 

 

 

(bbbbbbbb―――――)

 

 

 

 

「ん、何でしょうか?」

 

 

 スマホのバイブが激しく揺れまして、誰かからの電話かと思い手にしますと、すぐに電話に出ました。

 

 

 

 

 

「はい、もしもし」

 

『もしもし、洋子……?』

 

「ああ、真姫ちゃんでしたか。 どうしたのですか、電話などしてきまして?」

 

 

 

 

『………いないのよ………』

 

 

「はい? 何がいないのです?」

 

『だから……保健室に誰もいないのよ……絵里もことりも……それに、蒼一も…………』

 

 

「はい………?」

 

 

 

 次から次へと、思いもよらない出来事が………私たちに降りかかってくるのでした………

 

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。


最後の闘いが始まります。

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