《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
[ ??? ]
あの日からちょうど10日の時が流れようとしていました――――――
すべての始まりは、あの写真を大量に購入した穂乃果ちゃんからでした。
今考えてみれば、あの時すでに感染は広がっていたのかもしれません………彼と彼を取り巻く環境に綻びが生じていたのです。
ずっと保たれていた均衡が破られたその時、物語が始まり――――終わりに向かって走っていくのでした。
しかし、そのような中において、渦中の人でありながらもそれに抗い続けてきた彼は、ようやくその手に希望を手にすることが出来たのです。 傷付き、泥まみれとなり、壊れかけた身体を引き摺らせながらも彼は未来への道に進むことが出来たのです……!
彼のその諦めない心が、私たちをここまで連れて来させたのかもしれませんね。 というより、彼のその姿勢に感化されてしまったと言ってもおかしくないでしょうね。 さすが、彼女たちが惚れ込むお人ですね、少しだけその気持ちが分かるような気がしました。
そして、10日目のこの出来事が、すべての終わりを告げることとなるのです――――――――
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[ 音ノ木坂学院 ]
本日の授業が終わったことをお知らせするチャイムが鳴り響きますと、私は穂乃果ちゃんたちの机の方に向かっていきました。
相変わらず、ぐでぇ~と顔を机と密着させて、授業に興味がまったくなかったことをアピールしているみたいでした。まあ、それでもこの1日の間に寝ることはしなかったことは褒めるべきなんだと思いますね。 今までは、グッスリ寝ているところを見ているわけですから………
「穂乃果! そんな格好をして、だらしないですよ!」
「だってぇ~……穂乃果には、この授業が全然楽しくなかったんだもん! いくら聞いてもちんぷんかんぷんなんだも~ん!」
「それは日頃の勉強を怠っているからこうなるのです。 そもそも、穂乃果は――――――」
ありゃりゃ……これは海未ちゃんのお説教タイムの始まりですかねぇ……? 永遠にクドクドと口から呪文なのやら暗号なのやら、こちらでも途中から何を話しているのかがわからなくなってしまうことを穂乃果ちゃんにするなんて、無駄なことだとは思わないのでしょうかねぇ……?
ほらぁ……穂乃果ちゃんなんて、もうあんなにイヤそうな顔をしちゃって、話し半分以上は心ここに非ずな感じですよ?
まあ、改善しようとしない穂乃果ちゃんに非はあるのですがね………
「う~みちゃん♪ えいっ」
もぎゅ――――――――
「ひゃぁ?!! な、何をするのですか、ことり!!?」
「えへへ♪ もう、穂乃果ちゃんが困っちゃってるよ? もうそのくらいしないとダメだよ?」
なんといつの間に!! 穂乃果ちゃんたちに気を取られてしまっててわからなかったのですが、ことりちゃんが気取られずに海未ちゃんの背後から胸をもぎゅっとワシ掴み出したではないですかぁ!? 慌てふためく海未ちゃんがこんな状態では、説教など出来ませんね。
それに、掴んだ瞬間に聞こえました海未ちゃんのあどけない声がなんともいやらしかったですねぇ~♪ 同性ですが、ちょっとドキッとしてしまいました♪
あ、いえ、決してそのような趣味はございませんがね………
「ことりちゃぁ~ん! 助かったよぉ~!」
「もぉ~穂乃果ちゃんたらぁ~♪」
「はぁ………ことりは穂乃果に甘すぎなんですよ………」
と言うような、親友3人によるいつもと変わらないやり取り――――それを見ているだけで、心がスッと落ち着つくような感じがしてくるのです。 多分、これが私の望んでいた日常風景なんだと思いますね。
「あ! そうだ、もう蒼くんが来る時間だった!」
「えっ! もうそんな時間なの!? 早くいかなくっちゃ!」
「ま、待ってください! 抜け駆けは許しませんよ!」
………とまあ、いつもとはちょっと違ったことになってそうなのですがね………
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「わーい! 蒼君みぃ~つけた♪」
「うおっ?! 薮から棒に………って、穂乃果かよ………」
「えへへ♪ 蒼君のことを迎えに来ちゃいました♪ ねえねえ、穂乃果と一緒に行こ?」
「……と言うより、もう既に俺の腕に抱き付いている時点で拒否権とか与えてくれないくせに……まったく………」
おや、これは………
教室を勢いよく飛び出ていった穂乃果ちゃんを追い駆けていくと、ちょうど蒼一さんが廊下にいるところに出くわしました。 穂乃果ちゃんったら、早速、蒼一さんの隣を陣取ってしまうとは中々……
それにしても、あの一件以降、穂乃果ちゃんの女性としての魅力が増し加わったような気がしますね。 なんと言いましょうか……色気……でしょうか? やはり、蒼一さんとナニかをしたからなのでしょうねぇ~うふふ……♪
できることなら、そこのところを聞いてみたいものです………
「あー! 穂乃果ちゃんだけずる~い! ことりも蒼くんにぎゅぅ~ってするの!」
おやおや……ことりちゃん、頬っぺたを風船のように膨らませて嫉妬しているご様子。 穂乃果ちゃんには負けないと言わんがばかりに、蒼一さんのもう片方の腕に抱き付いて行っちゃいましたねぇ~
ことりちゃんも可愛さが一段と跳ね上がったような気がします。 何でしょう、全身から可愛いオーラのようなモノまで感じられるところがあるのです。 それに、今日はやたらと肌に艶があるように見えるのですが……気のせいですよね?
「何をやっているのですか……蒼一が困っているではないですか?」
「まったくだ。 海未、コイツらをどうにかしてくれよ………?」
ほぉ、海未ちゃんは至って冷静な対応ですね。 と言うより、そうしていただかないと、この状況に収拾が付かないと言うのが現実ですからね。
「へぇ~海未ちゃんそんなこと言っちゃうんだぁ~」
「ウフフ、我慢している海未ちゃんたらかわいい~♪」
「んなっ?! な、な、何を言うのですか?!! 私は決して我慢など………」
「あれれぇ~? 蒼君の腕が塞がってて、前の方がガラ空きになってるね~ことりちゃん?」
「そうだねぇ~♪ 今だったら、簡単に抱き付くことが出来るのになぁ~? そしたら、蒼くんも大喜びするって言っているんだけどなぁ~?」
「っ――――?!!!」
「おい、そんなこと思っちゃいないぞ」と蒼一さんが言うものの、はぐらかすように蒼一さんをいじり始めて……えっ……なんです、今の空気? というか、海未ちゃん? 海未ちゃーん? あれ? これもしかして………
「………致し方ない……ですね………蒼一がそう言うのであれば………」
とか申しておりまして、恥ずかしそうに顔の真ん中あたりを紅くさせていますが、その瞳が尋常でないほどに輝いてまして………あらま、これ乙女の顔ですよ。
すると、蒼一さんの許に近付いていきますと、大胆にも正面から抱き付きだしたではないですか!
しかも、腕を胴に回した抱き付き方ではなく、両手を蒼一さんの胸元に添えるように置いて、とんっと顔を埋める奥ゆかしい仕草を見せるとは! むむむ、さすが海未ちゃん……華やかに見えます……!
「おい、コレどうするんだよ…………」
「私に聞かれても困ります…………」
3人の女の子に抱きつかれていい感じだと思うのですが……これで文句を言ってたら、全国の健全な男性諸君が憤慨してしまうので、何も言わずに受け入れちゃってくださいよ、と私は言いたいです。
「あら、蒼一じゃない。 もう来ていたなら教えてくれてもいいのに」
背後から気品あふれるやさしい声が聞こえたので、振り返って見ますと真姫ちゃんが髪をいじりながら立っていました。
「真姫か……よく俺がどこにいるのかわかったな」
「うふっ、聞かなくてもわかるモノよ。 これだけ、あなたと繋がったのですもの、もう私の勘で探り当てることだってできるわよ♪」
「おいおいおい!! 今若干不健全な発言をしなかったか?! それにまだ、そんなことしてはいないだろ!!」
「うふふっ……蒼一ったら、昨日は私と一緒じゃなかったから寂しいのね? いいわ、後で慰めてあげるから♪」
「誰もそんなこと考えていないし、頼んでないから!! いい加減にしろォォォ!!」
あはは………白熱していますね、この会話………
コレ、本当に昼間で話してもいい内容なのでしょうかね? ちょっとだけ、心配になってきたのですが………
そうこうしていると、真姫ちゃんに続いて他のメンバーが来たようです。
「蒼一の声が聞こえたと思ったら………まさか、アナタたちが原因だったとはね………」
「あーっ! ずる~い! にこがいない間に抜け駆けするなんてずるいわよ!!」
「あわわ……穂乃果ちゃんたちが蒼一にぃに抱き付いて…………いいなぁ………」
「うわぁー みんなで蒼くんに抱き付くって、何だか楽しそうだにゃぁ♪」
「ふふっ、修羅場やなぁ~」
頭を抱えて悩む絵里ちゃんに、ことりちゃんと同じく嫉妬しているにこちゃんと花陽ちゃん、そして、楽しそうに眺める凛ちゃんと希。
あはは……もう何でしょうか、止めようとする人がいないですねぇ………
明弘さんがいてくれたら心強いのですがねぇ………
「ほらほらぁ~! お前ら、兄弟が困っていやがるじゃねぇかぁ! これでも一応病み上がりなんだからよぉ、もうちょい気遣ってやれよ?」
なんとまあ、噂をすれば何とやらで、明弘さんが腕を組んで呆れながらやってきてくれました。
ちょうどいいタイミングで現れるなんて、特撮モノのヒーローみたいじゃないですか! 本当に助かります。
その明弘さんの一声で、蒼一さんに抱き付いていました穂乃果ちゃんたちは、わずかに顔色を悪くしながら離れて行きました。
「サンキュな、明弘……」
「いいってことよ。 そんなことより、まだ体調が悪そうじゃんか。 平気かよ?」
「あぁ……平気とは言い難いな。 しゃぁねぇから、この後は、保健室のベッドでちょいとばかし休んでくるわ」
「そうか。 そんじゃ、その間は俺たちで何とかしとくから、兄弟はゆっくり休んどきな」
そう言って、蒼一さんは保健室の方に向かって行こうとしていました。 確かに、まだ体調がすぐれなさそうな感じですね。 このまま倒れてしまっては大変ですからね、良い判断だと思いますよ。
「蒼くん……ごめんね………」
少しうつむきがちになっていたことりちゃんが、小さくそのようなことを言っていたようにも聞こえました。 すると、蒼一さんはことりちゃんの方に向きました。
「何言ってんだよ、ことりが謝ること何かないさ。 気にすんなよ」
「で、でも……ことりのせいで体調が悪くなったら………」
「大丈夫だって、心配すんなよ。 それに……昨日はお前と一緒に寝たから気分はいいんだぜ?」
「ふぇっ!!?」
「ふっ、時間がきたら起こしに来てくれよな……」
「っ!! うん! 約束するよ!!」
蒼一さんがことりちゃんとお話しをしていたようなのですが、途中から声が小さくなってて、ちゃんと聞き取り辛かったですねぇ………一体何をお話ししていたのでしょうか?
蒼一さんのあの穏やかな表情からしますと、なかなかに興味深そうな話を……ふふっ、割とお元気そうでなによりです。
蒼一さんがここから立ち去りますと、明弘さんの合図でみんな部室の方に行くことになったようです。 ただ、みなさんはまだ自分たちの荷物などを持って来ていなかったようでして、自分のモノを持って来てから活動を始めることになるようです。
久しぶりに、活動が再開されるのですか。 感慨深いところがありますね。
その際、ことりちゃんがとてもご機嫌な様子でしたので、蒼一さんから何を聞かされたのかを聞きましたが「ひ・み・つ♡」と艶やかな笑顔をするだけで、何も教えてはくれませんでした。
私はそれが知りたいのですよぉ………!!
まあ、そうしたことは、みなさんにもう一度取材をする際に聞くとしましょう。
今は、この心落ち着く平穏な時をじっくりと味わっていきたいモノです。
(次回へツヅク………
ジジジ……………
【監視番号:47】
【再生▶】
(ピッ!)
とんっ―――――
とんっ―――――――
『くっ……身体がっ……思うように動いてくれねぇ………!』
ことりたちと別れた蒼一は、身体を引き摺るように1人廊下を進んでいた―――――――
しかし、見たところとても大丈夫とは言えない状態だ――――――
誰かに手を貸してもらわなくちゃならないほどのモノに見える――――――
『……ふっ……さっきは、あんなことを言ってたのにな………これじゃあ、余計に心配かけちまう……っいてて……』
未だに、身体からは軋む音が出ており、少しでも激しい運動や衝撃を与えればバラバラに砕けてしまいそうな感じだった――――――
何とかして、身体を休まなくてはならなかったのだ――――――
『よし……あとは、この階段を下りるだけだ…………』
壁に取り付けられた手すりを用いながら一歩一歩下っていく――――――
ぎこちない動きをしていて、危なっかしく見えてしまうのだ――――――
『っ――――――!! 誰だ――――?!』
何かを気取ったのか、後ろを振り返り辺りを見回した――――――
しかし、影も形も見えないために何でもないと片付けてしまう――――――
そして、また一歩踏み出そうとしていた――――――
ドンッ―――――――――
『はっ………………………?』
何かの衝撃を感じた蒼一は、思わず反応を示してしまったのだが――――――
これが間違いだった――――――
『っ………………………!!!』
次の瞬間――――――
彼は空中を飛んでいた――――――
だがしかし、それはほんのわずかな時間に過ぎなかった――――――
そして、気が付いた頃には―――――――――
ドッ―――――――!!
ガッ―――――――!!!
ゴッ―――――――!!!!
グシャ――――――――――――――――
生肉が叩きつけられたような、血生臭い音が――――――
聞こえ………………―――――――――――
(プツン)
【停止▪】
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
これにて、Folder No.4は終わり、Folder No.5に入ります。