《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
わたしはとてもイヤな女なんです――――――
わたしには何も無いから、いつも持っているみんなに嫉妬しちゃっているんです―――――――
なのに、欲しいモノが与えられようとしても遠慮してしまいがち――――――
それがわたしの悪い癖―――――――
いざ直そうと努力しても、遠慮してしまうし、またすぐに誰かに嫉妬しちゃうんです―――――――
わたしはこんなわたしが嫌いでした―――――――
そんなわたしに、生まれて初めて絶対に欲しいと思ったモノがありました―――――――
それは、蒼くんなの―――――――
蒼くんはわたしの初めてのお友達で、親友で、大好きな人なんです――――――
だから、いつも蒼くんの隣にいて、ずっとずぅーっと一緒に居ようって心に決めていたんです――――――
でも、月日が流れていく内に、蒼くんの周りにはたくさんの人たちがいて、気が付いたら蒼くんの隣にわたしじゃなくなっていたんです――――――
何で、なんで、蒼くんの隣がわたしじゃないの――――――?
もしかして、わたしに何も無いからダメなの――――――?
蒼くん、わたしだけを見て――――――
それからのわたしは、たくさんのことに挑戦しました――――――
蒼くんの服を直せるように、お裁縫も始めました――――――
蒼くんに喜んでもらえるために、お菓子作りも始めました――――――
蒼くんと一緒にいたいから、スクールアイドルも始めました――――――
自分をもっと変えるために、バイトも初めて挑戦してみました――――――
すべて、蒼くんと一緒にいられるため――――――
そのためなら、どんなことでもやるって決めていたの――――――
なのに――――――
なのに、蒼くんの隣にいたのは、わたしじゃありませんでした――――――
なんで、ナンデ――――――!
ナンデ、わたしが隣じゃないの――――――?!
もっと努力しないとダメなの――――――?
もっと自分を変えないといけないの――――――?
こんなにも、蒼くんのことが好きなのに――――――
誰よりも、蒼くんのことを愛しているのに――――――
全然、報われなかった――――――
だから、わたしはこの手を黒く染めてしまった――――――――
叶うことが出来ないなら、呼び込めるようにしちゃえばいいんだって――――――
最初はやるつもりはなかった――――――
でも、やってしまった時の事がうまく運んでいくことの快感を覚えてしまったの――――――
いけないことだとわかっていたけど、それでも止めることができなかった――――――
そして、気が付いた時には――――――
もう、止めることが出来ないところまで来ちゃってた――――――
残された道はたった一つ――――――
ミンナ、イナクナレバイイ―――――――
蒼クンガイレバ、ソレデイイノ――――――
もう、わたしはわたしを止めることが出来なかった――――――
誰かに止めてもらうほかなかったの――――――
でも、誰が止めてくれるの――――――?
わたしはこの手でみんなをめちゃくちゃにしたのに誰がわたしを止めてくれるって言うの――――――?
誰もいないよ………わたしはひとりぼっちになっちゃったんだもん――――――
何も見えない暗いところで、ずっとひとりのままなんだよ――――――
けど――――――――
それは違っていたんだって気付かされたの――――――
蒼くんがわたしの手を引いてくれて――――――
抱きしめてくれて、ようやくわかったの――――――
あぁ、わたしはひとりぼっちじゃなかったんだって――――――
わたしは、ずっと蒼くんの隣にいたんだって、今になってやっと気付いちゃったの――――――
ごめんね、蒼くん――――――
わたしが弱かったからこんなことをしちゃった――――――
どんなに謝っても謝りきれないよ――――――
それくらい、わたしは大変な罪を犯してしまったから――――――
もし、赦してくれるなら――――――
ことりは、蒼くんに――――――
―
――
―――
――――
よかった………本当に、よかった…………
ようやくだ。 ようやく、ことりが俺の許に帰ってきてくれた。
痛みや憎しみ、悲しみなど負の感情によって、酷く汚れた姿を俺に見せてきたが関係ない。 ことりが俺のことを真に求めていたのだから、それを断る理由なんかあるわけない、できるはずもないんだ!
ことりが胸に飛び込んできて大きく泣いた時、俺も一緒に泣いていた。 声に出すことなく、静かに悟られることなく涙を流して、その気持ちに寄り添った。 それに嬉しかったんだ。 絶対に取り戻すんだって、決意を固めていたから余計に、気持ちが入って嬉しかったんだ。
そして、この時初めて、ことりにこの感情を覚えたんだ――――――
いや、多分以前から気が付いてはいたんだろうとは思う。 けど、気付こうとしなかったこと……この感情を忘れてしまっていたことが原因なのだろう………
でも、ようやく思い出すことが出来たのかもしれない………俺にずっと足りなかった感情がなんであったのか。 この感情の名前が何なのかと言うこともようやくわかったような気がするんだ。
それを……ことりに伝えたい………
あの日できなかった返事を、もう一度、ここで――――――――
―
――
―――
――――
しばしの抱擁が互いの気持ちを感じ合わせる――――――
ことりの強い想いを肌で感じると、俺もそれに負けないくらいの想いでこの気持ちを肌に乗せて伝えた。 言葉よりも何よりも、こうして肌で実感することの方が自分の気持ちを強く伝わると思っている。 素肌の擦れ合い、熱の伝導、心臓の鼓動、宝石のように輝く瞳……数えたらきりがないほどの触れ合いが、気持ちのやり取りを膨張させていったと言っても過言ではなかった。
しかし、これですべてが終わったわけではない。 最後の過程が残っていた。
ピンポーン―――――――――
呼び鈴が鳴った。
その音に敏感に反応したことりは身体を震わせていた。 それは、何かを悟って怯えているような、そんな様子だった。
「ことり、行かないのか?」
「……いや……だめだよぉ………」
ことりは、俺の腕の中で震えたまままったく動こうとはしなかった。
俺もその何かを何となく程度に察していたため、勧めたのだが、案の定である。
確かに、辛いものかもしれないが、これを乗り越えてほしいと強く願っていた。 ことりのためにも、これからのためにも…………
「大丈夫だ。 俺が一緒にいてやるからさ…………」
震えることりを慰めるように、その小さな身体を包み込む。 震えが止まらなかったことりも次第に納まりの傾向が見て取れるようになる。 そして、俺の言葉に対して「うん……」と小さく返事をしてくれたのだった。
「それじゃあ、準備しないとな」
お互いの格好をみ合いながら、今必要なモノは何なのかを改めて認識した。
互いの身なりを整え終えると、2人並んで玄関の前に立つ。 この前に立つとことりの緊張は、ライブを行う直前よりも酷く膨れ上がっていた。 風が吹いてしまえば、一瞬にして飛んで行ってしまうような、そんな不安定な状態にあったのだ。
そんなことりの手を握り締める。
極度に冷えて震え上がったその手をじっくりと温めるように包み込むと、覆っていた緊張も次第に和らいでいくのを感じさせた。
「もう大丈夫かい?」と囁くと、「うん……」と小さく頷いてくれた。
そして、2人で一緒にこの扉を開けたのだった――――――――
カチャ―――――――――
キイィィィ―――――――――
扉がゆっくり開かれ、外の眩しい日差しが目に入り込んできた。
――――――と、その時だった
ガシッ―――――――――
ことりの身体目掛けて抱きしめてきた1つの影がそこにあった。
そのあまりにも突然なことに、目を見開き、何が起こったのだろうかと戸惑う様子を見せていた。 俺も同じようなモノだった。
けれど、俺が抱いた戸惑いはすぐに安心感へと変換された。 それは彼女だったからこそ許されるものであったと言えるのだ。
「ほの……か………ちゃん………」
ことりをしっかりと抱きしめていたそれは、紛れもない穂乃果だった。 穂乃果はことりに抱きついたまま離れずにいたのだった。
「ごめんね………ごめんね、ことりちゃん………」
穂乃果の口から囁かれた言葉に、ことりは強い衝撃を受けた。 まさか、穂乃果の方からその言葉を聞くとは、夢にまで思ってもみなかったことだろう。 しかし、それはことりだけが知らなかったことだ。 もう既に、穂乃果の心は決まっていたのだから。
「穂乃果がことりちゃんのことを信じていたら、ことりちゃんがこんなに傷付くことが無かったと思う。 ことりちゃんがこんなに苦しまなくても済んだと思うの………だからごめん。 謝ってすむことじゃないことだってわかっているけど、どうしても謝りたかったの………本当にこめんね………!」
「ッ~~~~~~~!!!」
ことりは何も言葉にすることが出来なかった。 感極まって泣き出しそうになっていたからだ。
しかし、ことりの感情を大きく揺れ動かすのはこれだけじゃなかったのだ。
「ことり」
青く透明に澄んだ声が、そよ風のように耳に触れるとことりは顔を上げる。 すると、その光景を目にした途端、驚きのあまり言葉がまったく出てこなかった。
それもそのはずだ。 俺たちの前には、海未をはじめ、μ’s全員がそこに立っていたんだから……
ことりはそれを目にすると、半歩後ろに下がるような素振りを見せた。 怖いと感じているのだろう。 それもそのはずだ。 ここにいる全員は、ことりによって何かしらの被害を被った者たちなのだから、加害者であることりがたじろがないはずもなかった。
「待ってください、ことり!」
近付いてくる海未の一言が、強引にもことりの行動を制止させた。 その場に留まり、自分の顔を見せたくないのか、穂乃果の陰に隠れようとしていたのだ。
ただ海未は、そんなことに気に留めることなく、落ち着いた口調で語りかけてくる。
「私もあなたに謝らなければなりません。 あの時、私はあなたのことを疑ってしまいました。 真偽を
「海未ちゃん………」
言葉を1つひとつ重く語る海未。 一呼吸ずつ置かれたその言葉から、海未が感じている想いが深く伝わってくる。 俺ですら、こんなにも手に汗握るほどに感じているのだ、当然、ことりはそれ以上の想いを感じとっているに違いなかった。
「ことり、私もよ……! 私もあなたに謝りたいの……! あなたを傷つけてしまって………本当に、ごめんなさい………!! 私が余計なことをしなければ、こんなことにはならなかったの…………」
「絵里……ちゃん………」
海未に続いてエリチカもことりの前に出て謝り始める。 特に、ことりに対して酷い仕打ちをしてしまったと自覚いていたため、今すぐにでも、その場に土下座しかねないような状態だった。
呼吸することが出来ず、窒息してしまいそうな表情が3人を覆う。 その息苦しさをこちらでもひしひしと感じてしまう。 とても、この場にいられないような雰囲気が漂う中、俺はその様子を見守っていた。 決して、目を逸らしちゃいけない瞬間なんだ。 彼女たちが思い悩みながらもどうあるべきかを見出そうとしているのだから、それを最後まで見届けなくてはいけないのだ。
「穂乃果ちゃん………海未ちゃん………絵里ちゃん………」
ことりの口から3人の名前が呼ばれると、3人とも顔を見上げた。 するとどうだろう、ことりは涙をボロボロと流して泣いているではないか。 俺を含むここにいるみんなが、それに驚いていたのだった。
「どうして………どうしてみんなことり謝るの………? 本当は、ことりがみんなに謝らなくちゃいけないんだよ……? ことりがみんなのことを傷つけたんだよ……? なのに………どうして………どうしてみんなことりにやさしくしてくれるの…………?」
泣きむせびながら、ことりの口から言葉が紡がれていく。
膝の方から泣き崩れて、今すぐにでも倒れてしまいそうだ。 風が吹いてしまえば、身体ごとどこかへ誘われてしまいそうな、そんな弱々しい姿をしていたのだ。
周りが見えなくなるような沈黙の時間が流れだし、まるで時が止まったような感覚を抱いた。
「はぁ………面倒な人なのね、ことりって」
「えっ……」
時計の針が動きだす音が聞こえた――――――
沈黙を打ち破ってしまうそんな一言が、この場に振り落とされた。 その一言を言い放った人物に視線を送ると、その子は、髪を指で弄って絡ませていた。
ことりもその子に驚きの表情で見つめていた。
なぜなら、ことりが一番初めに傷付けた―――あの真姫だったからだ。
「ことりは勘違いしているんじゃないの?」
「かん……ちがい…………?」
「あなた、私たちがことりのことを本気で怨んでいたりしているって思っているのでしょ? でもそれは、とんだ錯覚よ。 この中に、あなたを怨んでいる人なんていやしないわよ? もちろん、私も含めてよ」
キッと引き締まった表情で話す真姫から、多分、この中にいる誰よりも強い想いを感じていた。
「確かに、ことりは色々なことを私や他の子たちにもやってきたのかもしれないわ。 けどね、私たちもまた同じくらい色々なことをしてきたの。 嫌われること、傷付けること、何でもやったかもしれない。 でもね、そんな私たちはみんな赦されたのよ。 自分たちが犯してしまった罪を咎められることなく赦されたのよ。 だからね、私たちもことりのことを怨んではいないのよ」
「まき……ちゃん………!」
真姫からの思いがけない言葉に、潤んだ瞳から滂沱の涙が流れ落ち出した。 まさか、こんなことがあるのだろうか? 自分が恨みを置いていた相手から自分を赦してくれると言われるなんて、誰も想像しちゃいなかった。 あくまでもそれは理想としか考えておらず、現実的にありえないだろうとされていた。
それゆえ、それが現実に起こったことに嬉しくなって仕方なかったのだろう、こうして自分の素顔を見せてしまうのだ。
「「「ことり(ちゃん)」」」
ことりの前に出た3人が手を差し伸べて、声を合わせて語りかける。
彼女の名前を呼ぶ、ただその何気ない行為が彼女の心に大きく響いていく。
「っ…………!」
ことりの手が彼女たちの手に向かって伸びていく。 少しずつ、時間をかけているが確実にその手が伸びていくのには変わりは無かった。 ことりは変わろうとしている。 足がすくみ、震える指先を突き出して、彼女たちが見せるやさしい世界へと進んでいこうとしていた。
そして―――――
キュッ―――――――
その手が穂乃果の手の中に納まったのだ。
それを見て、ニッコリと微笑んで見せる穂乃果たち。 すると、海未とエリチカは差し伸べた手をことりの背中に触れて引き寄せると、耳元で小さく囁いていた。
「私たちはみんな同じ気持ちを持っているんです」
「ことりも私たちもみんな同じ痛みを感じたのよ」
「そして、穂乃果たちと同じ幸せを手に入れたんだよ」
俺に聞こえないほどの小さな声だったので、何を話しているのか分からなかったが、ことりのあの嬉しそうに泣いている姿を見ただけで安心してしまう。
これで、ようやく終わったのだという脱力感も抱くこととなる。
―
――
―――
――――
あの出来事から数時間が経ったのだと思う。
俺はあの直後に、急に眠くなってしまったので、リビングのソファーに横にならせてもらった、ってとこまでは覚えているのだが、それ以降の記憶はまったくない。
あー……多分アレだ。 最近、いろいろあったから、その疲れが一気に出て来ちまって意識しないうちに眠ってしまったってことかな? さっきまで陽が昇っていたはずなのに、気が付いたら月が出ているんだからそうなのだろう。
けど、眠ったおかげで身体の疲れが一気にとれたような気がする。 ちょっとだけ、気分に楽になったような気がする。
「あっ、蒼くん起きたの?」
おっとりとしたやさしい声と共に、少し赤み掛かった顔をのぞかせることりは、少し嬉しそうな表情を見せていた。 ついさっきまで泣いていたのがまるで嘘みたいだ。
身体をゆっくり持ち上げて正常な座り方でソファーに腰掛けると、思わずあくびが出してしまう。
「うふふ、あくびが出ているってことは、ちゃんと寝た証拠だね―――――」
――――と両方の手にガラスのコップを持ちながら俺の隣に座ると、「はいどうぞ♪」と俺に1つだけ手渡してくれたので、すかさず飲みだす。
あぁ……氷の入ったキンキンに冷えた麦茶が身体に沁みてうまい! 眠っていた感覚が一気に目覚めたぜ! と、どこぞのオッサンみたいな言い回しを脳内で再生させながらそれを飲み干してしまう。
「ごちそうさま」とコップをテーブルに置くと、「御粗末さまです♪」と隣で陽気な声で応えてくれる。
そう言えば、ことりのこうした声を聞くのは久しぶりかもしれないな……と、しみじみに感じながら ことりの方を見てみると、コップを両手で抱えながらチビチビ飲んでいる途中だった。 それがまるで、小動物が餌を頬張る可愛い姿によく似ていたため、微笑ましく思いながらその横顔をジッと眺めていた。
「……ふぇっ?! そ、蒼くん!? ど、どうしたの……?」
俺の視線にやっと気が付いたのか、俺と顔を向き合わせると、慌てふためきだしてしまったため、持っていたコップを落としそうになった。 俺はただ、そうしたあどけない姿を見せてくれることりをずっと眺めていたいからこうして見ているんだ、と堂々と言えたらいいのだが……と喉まで出掛けた言葉を腹に押し戻して「見ていただけだよ」と短縮させた言葉で返した。
「そ、そうなんだ……」と、耳まで真っ赤にさせながら返答することりだが、そのちょっと恥ずかしく思いながら顔を合わせないようにしている姿にも見入ってしまっていた。
なんでだろうな……ことりのことをずっと、見ていたいって思ってしまうのは………と数週間前とは、まったく違う心境に変わっていた自分に驚きながらも、それでも止めることなく見続けている自分がいた。
俺の中で何かが変わってしまったんだろうな……海未や穂乃果の時もそうだったが、ことりに対する気持ちと言うモノが変わってしまったような気がする。
そのまま、ジッと見つめていると、ことりのコップがようやく空となってそれを俺と同じくテーブルの上に置いたのだが、それからずっと何も言わずにうつむいて、ジッと座り込んだのだ。
そのあまりにも無言でいたために、何か悪いことでもしてしまっただろうか? と自分の行いを思い返すために胸に手を当てて考えてみた。 しかし、案の定、何も思い付くことなど無かったのだ。 では、一体何を考えているのだろうか?
すると、様々な詮索を働かせている中で、ことりは顔を上げたのだ。
「蒼くん………! あ、あのっ………!」
何かを思い立ったような感じで声を上げると、俺との開いていた間隔を縮めようと少しずつ移動してくる。 そして、お互いの肩がピッタリと合わさるくらいに近付くと、今度は身を乗り出して顔を近づけてくる。
一体、なにをするつもりなんだ?! と思いながら恥ずかしそうに紅く染める顔をジッと見ていた。
すると、思いもしなかった言葉を口にしたのだった――――――
「私、蒼くんとね――――――――
もっと、イチャイチャがしたいんですぅ――――――!!!」
「ぶほっ!!?! は、はあぁぁぁ――――――!!!?」
一瞬、何を言っているのかが全然わからず、思わず吹き出し、その場で唖然としてしまったのだ。 突然の衝撃に圧倒されそうになるが、心の状態を取り戻すと、その真意を知ろうと言葉を選んだ。
「お、おい……それは……一体、どういうことなんだよ……?!」
「だ、だから! ことりは蒼くんともっとイチャイチャしたいの………」
お、おう……ダメだ、まったく理解できない………何をどうやったらそういう結論に至ったのかが知りたいんだよ、こっちは!!
……と、こちらが色々と考えている最中に、ことりはずいずいと顔を迫らせてくるので、自然と身体がソファーの上で足を投げ出すような体制へと変わってしまうのだ。 だが、まさにそれを狙っていたのかと言わんがばかりに、ことりの身体が俺の身体の上に這い寄ってきたのだ!
力任せにやればすぐにでも退かすことは可能なのだが、今はまだ体力に自信が無い状態であるため、持ち上げている最中に誤って落としてしまうかもしれなかったので、已む無く諦めてしまう。
しかし、それは表向きの理由であり、本当の
夜空に瞬く星のように煌めく瞳に引き寄せられ、甘く香る芳醇な匂いに酔わされ、羽毛のような髪をかき上げるちょっとした仕草にすら魅了されてしまっていたのだ。
つまり俺は……ことりに見惚れてしまったのだ――――――
頭の中ではようやく理解出来たことなのだが、それよりも早く、俺の身体がことりに反応していたことに自分でも驚いていた。 いや、違うんだ。 反応していたんじゃない、俺自身がことりのことを求めていたのだと言うことに気が付いてしまったんだ。
数週間前の俺だったらありえないことだと高笑いしていただろう。 しかし、今の俺はまったく逆の想いを心に秘めてしまった――――俺は、ことりのことが好きなんだと言うことを―――――この気持ちを否定することなんかできないんだ。 もう、抑えられないんだ………!
「蒼くん………ことり、もう我慢できないの………お願い……私を解放して………!」
身体が溶けてしまいそうな熱い吐息を漏らしながら、ネコのように媚びるような撫で声で俺に迫ってくる。
心臓が破裂してしまいそうなほどに打ち立てる鼓動が、今の俺の高鳴る気持ちを代弁しているみたいだ。 もはや、自分を偽る理由など無かった。
俺は、近付くことりの顔に向けて手を伸ばすと、紅と白の2色で彩られた頬に触れる。 マシュマロのようにモチモチとしたやわらかい感触と、クリームみたいに触れるとすぐに型崩れしてしまいそうになるデリケートな肌に息が上がってしまう。 それに、触れた瞬間「あっ…♡」と甘い声を漏らすので、それだけで充分すぎてしまうのだ……!
……いかんいかん、俺が1人溺れてしまうわけにはいかないんだ。 ちゃんと、応えなくちゃいけないんだ。
頬に手を当てたまま、上気する顔を見つめながら―――――――
「俺も……ことりとしたい………だって、俺はことりのことが好きなんだからな」
―――――と、熱くなる顔を抑えて受け入れたのだ。
それを聞くと、ことりは一瞬目を見開いて、本当なの? と言わんがばかりの表情で尋ねてくるので「ほんとさ」と応えてみせた。 そしたら、目を潤わせ始めて、今にも涙を流しそうになっていた。
「うれしい………うれしいよ………蒼くん…………」
さらさらと風吹くような小さな声が聞こえると、ゆっくりと顔が近付いてくる。 同時に、俺を見つめていた瞳もゆっくりと閉じていた。 俺もまた、それに応えるように瞳を閉じてゆっくりと顔を近づけた。
『んっ―――――♡ ちゅっ――――んんっ――――ちゅっ――――♡』
互いの唇が重なり合い、気持ちの絡み合いが始まりだす。
やわらかな唇の感触を肌で感じると、口の中に甘い愛情が注ぎ込まれて一気に広がりをみせていた。 その味は乱れる心を安心させて、堅くとがらせた緊張を和らげてくれる。 その味をもっと堪能したいと欲するようになると、唇をもう少しだけ強く押し付けて吸い付く。
『んっ――――ちゅ―――――ちゅる――――レロッ――――――んんっ―――――♡』
ことりの方も熱くなってきたのだろうか、繋がる口と口との間にゆっくりと舌を入れてきて俺の舌に絡み付こうと懸命になる。 目を開いて確認すると、その必死に口付けしようとする姿がとてもかわいらしく、ついつい強気に出てしまう。
『ちゅる―――――んちゅっ―――――んっ――――――んんんっ――――――♡』
今度は俺の方から舌を捻じ込ませて、先程まで俺の中で動いていたその舌に襲いかかり絡みだす。 舌同士を絡ませて舐めますと、先端部同士を突っつき合わせたり、時折、舌裏に滑り込ませてそのまま奥の方に向かって舐め回すのだった。
『んはっ―――――はぁ―――――はぁ――――――』
息苦しくなり始める瞬間に唇を引きはがして、そのまま様子を伺わせた。 この時すでに、ことりの顔は茹でダコのように真っ赤に染め上がり、顔からは蒸気のようなものすら出ているように見えたのだ。 口からは甘い吐息を出しながら、息切れ寸前だった身体に酸素を送り込んでいる様子だった。
「やん………♡ もう……
とろけ落ちそうな顔で甘々な言葉を口にするのだが、あまりにも軟弱になってしまった舌では呂律が回らなくなっていた。 それほどまでに、ことりの身体は出来上がってしまっていたのだった。
もう、このくらいでいいだろうと身を引こうとするが、ことりがそれを制止させた。
「ダメだよ、蒼くん………ことりともっと、もぉ~っとイチャイチャするの……♪」
どうやら、先程の行為でことりの中にあるリミッタ―が解除されてしまったらしい。 ことりは仰向けになっていた俺の身体の上に乗っかり、熱くなった身体を無理やり押し付け始めていた。
「お、おい………! これ以上は、止めた方が………」
けれど、俺の制止を聞かずに、ことりはそのまま来ていた服を脱ぎ始めて、また下着を露出させたのだ。 それも、先程と同じ黒のジュエリーで…………
「蒼くん。 ことりは知っているんですよ? これまで蒼くんは、穂乃果ちゃんたち6人とイチャイチャしていたことをね………」
げっ……! バレてるし…………なんでそんなことを知っているのだろうと、疑問に感じてしまうな………
「………もちろん、蒼くんが寝ている間に、穂乃果ちゃんたちから聞いたんだけどね♪」
……って、またアイツらが情報源かよ!!! どんだけ、俺とのやり取りを公開したいんだよ! 俺はどちらかと言えば、非公開にしてひっそりとしたいのに………!!
アイツらの情報秘守の脆さに呆れていると、ことりが切ない表情で俺に語りかけてきた。
「蒼くん………ことりはね、蒼くんともっと色々なことをしたいの……ことりの身体を見てほしい……性格も見てほしい………ありのままのことりを見てほしいの………! でも、みんながやったのとは違うやり方のを蒼くんにしてあげたいの………それが、蒼くんにしてあげられることりの
ことりは、来ていたスカートを下ろし、胸元を覆っていたブラのホックを取り外したのだ―――――――
「………ことりの………
「ッ―――――――?!!!」
目の前に晒されることりの
隠れることが出来ない明かりに照らされたその身体を、下になって見上げる俺にこれでもかと言う感じに見せつけてくる。 日頃の練習で鍛え上げられた引き締まった身体は、無駄な肉を見せることなく美しいラインを形成させていた。
また、真珠のように白く滑らかに透き通ったその肌が、この部屋の明かりを吸収して自ら輝いて見せているようだ。
そして、もはや隠すこともしなくなった、たわわに実った2つのやわらかな果実が綺麗な丸を生み出して俺の気を引かせようと揺れ動く。
それらの身体と今ある感情すべてをかけあわせて、ようやくことりが生まれることが出来るのだ。
その完成されたことりを観た俺は、そのあまりの大胆さに驚嘆してしまう――――――
だが、その反面。 その姿を見て、美しいと感じていた。 それは、もう俺と共に育ってきた幼馴染としてではなく、大人の魅力を引き立たせた1人の女性という印象を俺の頭に植え付けたのだった。
同時に、俺の女性へ対する男の欲望を増長させることとなった。
ことりの甘い誘いに感覚はマヒ寸前だった。 そんな格好をされて言われたら、いやでもやってしまいそうになる。
堪えろ………堪えるんだ………まだ早いのだ………俺も……ことりも………
自分との葛藤の中で、なんとか自らの欲求を抑え込む。 それだけはまだしてはいけないと、自分に強く言い聞かせた。
俺はことりの下になっていたこの身体を起こし、ことりと同じように座って向き合った。
「ことり………無暗やたらに、身体をあげるだなんて言うもんじゃない。 ましてや、ココまでをあげるだなんて………」
「いいの………蒼くんにだったら、ことりのハジメテをあげてもいいと思ってるの………」
「それでも、ダメだ………俺はそれまでを奪うつもりはない、とって置くんだ。 いつか訪れる日のために………」
そう言って俺が断りを入れると、頬を少し膨らませて不満そうな顔をして見せるものの、「蒼くんがそう言うなら……」と諦めてくれたようだった。
正直、まったく興味が無いというわけではない。 ただ、それを行うに匹敵する人間に俺はなれていないのだと感じていたために断ったのだ。 それに、簡単に自らの身体の一部を明け渡すようなことをしてほしくなかったのだ。
「それじゃあ……代わりになんだけど………」と言って、俺の手を握り締めた。
そしたらなんと、それを自分の膨らんだ乳房に押し当て始めたではないか! その実り豊かに膨らんだ果実の感触が俺の手から感じ始めると、圧し溜めていたあらゆる感情・欲望が最骨頂へと増長していくのだった!
「ことりっ―――――?!」
俺は思わず声を荒げてしまう。 だが、ことりはそれに気にもせずに、自らの果実をどんどん俺の手に強く押し付け、指が餅のようにやわらかく弾力のある肉に埋もれてしまいそうになる。 しかし、埋もれたことによって得られる感触は、今までに手にした何よりも魅力的であり、犯罪的な快感である。
否定することなど出来ないこの感触は、この俺ですら虜にさせようとしている!!
「ひゃっ―――――んんっ――――――♡」
ぶるっと身体を震わせて、甘く厭らしい声が漏れ出る。
顔のいくつもの筋肉が解れてとてもだらしない表情となってしまっていたが、触れられることで俺が感じている以上の快感を味わっているのかも知れなかった。
「蒼くんのっ……おっきくって……あったかいのが………ことりの……ことりの胸に当たって………んんっ……!! き…気持ちいいの………♡」
閉じることすら忘れてしまっただらしない口から淫らな言葉が溢れ出て来る。
ここまで限りなく理性を失わないように努めていたのだが、そろそろ限界に近付いてきているようだ。 俺の理性と呼ばれるワイングラスのような器には、さっきから性欲と呼ばれる果実汁がボトボトと音を立てて注がれていたのだ。
そして現在、汁が器に並々に浸りながらも表面張力で辛うじて保っているような危険な状態にさらされていたのだ。 もはや、汁一滴さえも入らない状態だ。 こんな状態からコインを入れるギャンブルをするようなことはしてほしくないし、もしそんなヤツらがいたら即刻エジプトに行って、そこで魂でも賭けてしまえと言ってやりたい!
なんとか保っていてほしい……と懇願するように、息を荒げながら自らを制していたのだった。
そんな余裕がまったくない俺に対して、ことりがジッとこちらを見つめだしたのだ。 何かをねだるような小動物や子どもがよくやるような、キラキラと輝かせる瞳でこっちを見てくる。 それが何とも魅力的かつ愛くるしい姿を見せるのか……! 俺の理性に訴えかけるような強烈な刺激だった。
だが、この時俺は忘れていたことがあった。 これ以上に、ことりが魅力的な行為をすることに………!
左手でギュッと胸元を掴み………瞳を涙で潤わせて………これまで以上に、とんでもないくらいの甘い声で………
「蒼くん……お・ね・が・い♪ ことりを……めちゃくちゃにして……♡」
ドボン―――――――
自分の理性がブッ飛んだ瞬間である。
理性という名の器の中に、一滴の果実汁ではなく果実そのモノが沈んでいき、器の中を満たしていた性欲という液体が大洪水を起こして感情を曝け出させてしまう。
「ことりっ―――――!!」
自らの性欲を抑えきれなくなった俺は、そのままことりを押し倒し、触れる手に力を込めてその果実に頬張り付く。 「やぁん♡」と淫らな声が漏れ出す中でも、俺はそれに執着するように何度も揉みしだく。 まさに、言葉通りにめちゃくちゃにしようとしていた。
そして片手だけでは飽き足らず、もう片方の手でもう一方の果実を掴みだすと、こちらもあらゆる方向に揉みしだく。 ことりの嬌声を聞きながら、その身体を弄ぶこの行為が、俺の中の情欲を満たそうとしていた。
「そう……くぅん……! も…もう……ことりはっ………やんっ………♡」
快楽に溺れ熱く火照り切った表情、吐息、汗ばむ身体がことりの性欲の限界値を指し示しているようだった。 そして、ことりが期待している通りにするために、果実の中でも敏感な突起物をグイッと摘んだ。
「ひやああぁぁぁぁぁぁぁぁん♡」
この時のことりは、俺が今までに見てきた中で、最も淫らで、活き活きとした表情と声を喘ぎ出したのだった――――――
―
――
―――
――――
行為に一段落付けた俺たちは、未だに肌を重ね合わせるように抱き合っていた。 ことりの身体から滴る甘く香る汗が、俺の官能部にまた刺激を与えてきていた。
もうこれ以上はしたくない……と俺の身体はバテてきているが、ことりは何ラウンドきても大丈夫みたいで、すぐにでも続きをしようと待ち構えているようだ。
本当に勘弁してほしい………身体もそうだが、今回は精神的にもかなりキているから辛いんだよ…………
気が付けば夜も深まっていた。
そろそろ帰らなければいけないなと思いつつ、抱きつくことりを離そうと努める。
「だぁ~め、今日は帰っちゃヤダもん♪」
しかしことりは、さらに強く抱きしめてくるので、見動きなど一切できるはずもなかった。 すると、ことりの顔が俺の耳に近づくと、小さく吐息を吐くような声で――――――
「今日、お母さんは帰って来ないんだぁ~………だから………ね………♡」
――――――第二の誘惑を仄めかすのだった。
結局、俺はことりの家で一晩過ごすことになり、その途中途中では、身体をくっつき合せながら食事をしたり、風呂に入ろうとしたり、ベッドで一緒に寝ようとしたり………などと悩ましすぎる夜を過ごすこととなってしまった…………
けど、就寝前に語って聞かせてくれた俺に対する気持ちは、ずっと忘れることが出来ない想い出となったのだった――――――――
「ことりは………蒼くんのことを愛しています………ずっと……ずっと一緒だよ………♪」
そして、終わりの刻が――――――――
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
………………………………………………………