《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
う……ん………ここは…………?
意識が少しずつ回復していくと、目の前にある光景を見つめ直す。
暗い……現実のモノとは考えられないほどに、暗く凍えるような暗さがここにあった。
深い……まるで、水の底に沈んでしまったかのような、そんな窮屈さをこの身に感じるが、不思議と息苦しいと言うことは無かった。 ただ、その代わりにと言うことなのか、身体に抱く感覚と言うモノを一切受け付けなかった。
そっか……俺の身体は、俺から離れて行っちまったのか………
意識が途絶える直前、俺の意識の代わりに入っていく無意識の感情を見た。 それが見せる素顔と言うのは、なんとも薄っぺらいモノだっただろうか。 人間と言うのは、あんな感情の無い笑みをするモノなのか? と目を疑ってしまうような怖さを抱いた。
だが、そんなつくりモノのような素顔でも、ことりは満足そうな表情で見つめていたのだ。
では、今はどんなことになっているのだろうか?
身体から幽体離脱したみたいに浮遊するみたく、現実世界を目にする。
なんだ………これは…………!!
俺はそれ一目すると、異様ともとれる光景に戦慄する。
「ウフフフフ………もう……大好き………離れたくないよ………」
「おれもだ、ことり。 はなれたくなんかない」
うっ………………!!
それを見た瞬間、俺は思わず吐き気のようなモノを抱き始めた。 見てて気分が悪い。 妖気のようなモノを伴ったことりが、木偶の身体にまとわり付き離れないでいる。 それもだ、いつかの夜のように上半身には何も身に着けておらず、羽織っていたモノは床に投げつけられていた。
ことりも同じだ。
そもそも、ことりの場合は服を身にまとっていたような形跡は無く、色気が溢れ出るような黒のジュエリーを上下に付けているのみだ。 そして、その白く透明な身体をすべて使って、木偶を魅了しようと努めていたのだ。
自分の身体でありながらも第3者という視点からそれを見ていて、気分がとても悪い。 まるで、ことりが他の誰かと結ばれようとしているようにも見えてしまうからなのだろう。 モヤモヤとする気持ちは膨らんでいくばかりだった。
そんな俺の意識とは裏腹に、2人はさらに密接につながろうとしている。 腹立たしいにもほどがある。 今すぐにでもあの身体を取り戻してしまいたい、そう思ってしまうのだ。
あれ………? 俺はどうして、こんな気持ちになってしまっているのだろうか? 俺はただ、ことりがあんなふうになってしまっていることに腹だっているわけで………いや、待ってくれ………それじゃあ、俺は………ことりのことを……………
『今まで気が付かないふりをし続けていたのだろう―――――?』
いや、そんなことはない…………!
『なら、ずっと気が付かないままでもよかったじゃないか―――――?』
違う、そうじゃないんだ……………
『都合のいい生き方なんて、誰かを傷つけるってことを知っているくせに』
わかってるさ………ただ、怖かっただけだ………自分が弱かっただけなんだ………
『それですべてが赦されるとでも思っているのか?』
思っちゃいないさ………他者に対して文句は言うのに、自分に対しては甘いなんて考えは持ち合わせちゃいないさ………これは、そのツケが回ってきたんだ…………
けどな………それでも俺は………護ってみせる………救ってみせる………そして、俺のこの気持ちを打ち明かしてみせる………!!
今度は逃げない………立ち向かって見せるさ………それが、俺が見せる覚悟だ!!
『そう…………』
バキッ――――――――――
深い無意識の世界に歪みが生じる。 暗闇に覆われていた視界に光が灯り始めたのだ。
歪みは次第に大きく増長し、全体に亀裂を生じさせたのだ。 解放までの時間はもうすぐだ………
『もう、行っちゃうの?』
あぁ、そうだ。 俺は行かなくちゃいけない………アイツを……ことりを救うために、まだ立ち続けなくちゃいけないんだ。
さっきから俺に語りかけてくる声が段々と遠くへ離れて行くような気がした。 だが、それよりも何より、目の前のことに専念しくちゃいけなかった。
こじ開けてやる………こんな壁なんか………!!
亀裂に指を差し込み、それを無理矢理にこじ開け始める。 ずっしりとくる重さだが、決して不可能なものなんかじゃない。 すぐに開いて見せる……!
ミシミシと音を立てながらこの世界が壊れ始める。 もうすぐそこにまで現実が見えている。 あと、もう少しだ………!
『あなたならできるよ』
ふと、その声がスッと心の中に入ってくる。 なんだ、この感じは? 知っているんじゃないのか、俺は? それが気になって振り向いてみると…………
それは、俺がよく知るあの笑顔だった―――――――――
ことっ…………!!
『わたしを見つけてね………蒼くん………♪』
くぅぅぅっ……………!!!
俺は胸込み上がってくるモノを抑えつけながら正面を向き直す。 ありったけの力を込めて、亀裂を広げこの世界を壊した。 そして、帰るんだ………俺の元の場所に………!!
振り返ることなどしない……ただひたすら真っ直ぐに突き進んでいくほか何も無い。 その先に、誰もが求める世界が待っているからだ。
絶対に取り戻す……取り戻してみせるからな、ことり!! だから……だから…………!!
「とっととてめぇは俺から……出ていけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! そこは、俺がいる場所だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺の身体に摂り付いた木偶に強烈な一打を加えて追い出す。 そしてようやく、俺の意識が身体に戻ろうとしていた。
今度こそ………今度こそ…………!!
未だに軋む体に言い聞かせながら、俺は目覚めた。
―
――
―――
――――
「えへへ♪ そうくん………そうくん♡」
蒼一の身体に夢中になっていたことりは、彼のことを弄り回し続けていた。 身体の至る所に触れてみては、自らの欲求を満たすための感部を探し当てていた。 それと同時に、自らの身体にも指を当て、その快楽を実感していたところだった。 この部屋に漂うこの匂いが、彼女の官能的な感情をさらに高ぶらせていたのも要因の一つとして挙げられるだろう。
誰にも邪魔されない、そんな中で愛しの彼を自分の虜にさせたことは、彼女にとって非常に有意義なことだった。 長年募らせていた想いがようやく叶った瞬間だと、感じているのだった。
それが本心からなるモノであるかなんてわからなかった―――――
ただ、1つだけ言えることは、そこに愛など無いと言うことだ――――――
しかし、そんな彼女の計画にほころびが生じ始めようとしていた―――――
ビクンッ―――――――!!
彼の身体が異常な震えをしだしたことに驚きが生じる。 ただの震えかと思うことが普通だと思うのだが、彼女の中では違った捉え方を見せていたのだ。
彼女の額から汗が零れ落ちる――――――
これは明らかに動揺している様子であった。
その心境をこちらでは知ることはできない、だが、彼女の中で何かが崩れかけているのだと言うことを察することが出来るようだった。
「うっ………うぅ………うぐぐぐっ…………」
表情にまったく変化を見せなかった彼に、しかめるような表情が加わると、彼女の動揺が一層大きくなる。
曇っていた彼の目に光が戻ってくる。
「くうぅぅぅ………あぁ……!! ッ~~~~まだ、身体は思うように動かねぇなぁ………」
目覚める蒼一。
一旦は、彼女が仕掛けた術にハマってしまうものの、彼の秘めたる強い意志がそれを打ち破り、自らの肉体を取り戻した。
「そんなっ………!」
驚愕する彼女から動揺とも捉えられる言葉が口から漏れ出す。 彼女は彼を完全に支配することが出来たと思いこんでいた。 それ故に、この状況を受け入れ難く感じていたのだ。
だが、この状況に不確定要素が紛れ込んでいたことに彼女は知るよしもない。
まず、彼には薬物に対する耐性が出来ていたと言う事。
彼女が以前、彼に嗅がせた匂いと同類のモノを今回も使用したことや絵里から服用された薬物とが、彼に耐性を生み出していたのだ。 さらに彼は、ここに来る途中で自らの肉体、精神をも含めた強化を行ったことで打ち破ることが可能となれた。
しかし、最も決定的な不確定要素が彼の中に生じていたことが、この状況を生み出したと言っても過言ではなかった。
それは―――――――――
―
――
―――
――――
「ことり!」
軋む身体を力任せに動かし、上体を起こし始める。
意識が眠っていた間に、たくさんの匂いを体に取り込んでしまったらしい……あちこちに痺れや感覚が鋭くなっているのはそのせいなのだろう。
だが、意識だけはすこぶるハッキリとしていた。 これは、俺自身が抱く意志が強く現れているからだと思われるが、そんなこと分かるわけが無い。
ただ、分かることは………目の前にいることりを何とかしなくちゃいけねぇんだなってことかな?
ことりに目を向けると、至って平静な様子を伺わせる。 動揺していたような素振りを見せていたようだったが、今はこんな感じだ。
しかしあれだ、こう見ていると目のやり場に困ってしまうのは俺だけなのだろうか? ことりが生まれたての姿でなかったことには、ちょっと安心感は覚える。 だが、その代わりに刺激的な色気を演出させる黒のジュエリーが曝け出されているので、全体的に見てもコレは安心できるものではないようだ。
目を逸らすことは容易いことなんだろうが、それじゃあ、ことりを説得することなんて何年かかっても出来やしない。 それに俺はもう、ことりから目を逸らすことは止めた。 ちゃんと、向き合わなくちゃいけないんだ………だから、どんな格好だろうが、その前に立って堂々としていなくちゃいけないんだよ。
ジッと、ことりの姿を見続けていると、その黒く濁った瞳をこちらに覗かせて笑って見せた。
「へぇ~失敗しちゃったかぁ~……ちょっと残念だなぁ、折角簡単に蒼くんをことりのモノにできると思ったのにぃ~」
人差し指を口元に近付かせてニタリと含み笑うことり。 その内に秘めている黒い部分を未だに晒そうとはせずに様子を伺わせているのを見ていると、やはり、先程の動揺らしきものは関係なさそうだ。
それとも、まだ何か策でもあるのだろうか?
「でも、まあいいや。 もうアレだね。 ここまで来たら力付くでも蒼くんをことりのモノに――――ことりのおやつにしちゃいます♪」
その言葉を合図に、ことりは大きく飛び跳ねて襲い掛かってくる! 避けようと身体を動かそうにも、まだ痺れは効いているままのようだ。 この場から一歩も動かないまま、ことりの受けとめることとなる。
「よっと! ウフフフ、つかま~えた♪ さあ、ことりのおやつになってくれる準備はできたかな?」
そんなの準備できているわけが無い、そう言いたいところだが、絶対に墓穴を掘ってしまいそうになるために一度口の中に閉じ込めておく。 そもそも、こちらがことりに反応したり、甘い言葉をかけたりすることは火に油を注ぐような危険なことである。 ことりの本心を知る以前に、こちらがくたばってしまうだろう。
ならば、これまでと同じように、あえて痛点を突くような言葉で揺らすしかないようだ。
「そんな訳あるかよ。 俺はお前のモノにもおやつにもなるつもりはねぇ、こっちから願い下げだ」
甘いことりの言葉とは、真逆の少し辛目の言葉を用いて応える。 すると、一瞬だけキョトンした顔を見せると、また薄気味悪い笑みを浮かばせる。
「ふ~ん……そう言っちゃうんだぁ………へぇ~………」
なんだ……何が起きようとしているんだ?
ここまでは俺の思い通りの展開、次はさしずめ言葉で更なる威圧をかけてくるに違いないだろうと踏んだ。 けれど、この時だけ、今までとは違った感覚を抱いたのは多分初めてかもしれなかった。 故に、この先の展開が分からなかった。
そしたら――――――
バヂッ―――――――――
「う゛がはっ――――――!!!!?」
ことりが再接近して俺の身体に何かを突き付けた!
全身に駆け走る電流。 身体中に廻ってた痺れとは異なる痛烈な痺れが、突如として襲い掛かってきたのだ! そのあまりの出来事に、思わず苦悶してしまうのだが、痛みが全然納まることが無かったのだ!
これは一体………!?
痛みに耐えることが出来なかった身体は、そのまま力尽きるかのように、また布団の上に仰向けになって倒れ込んでしまう。
そこに畳み掛けるように、ことりが俺の身体の上に圧し掛かり、俺のことを見下す。 その興奮に包まれた紅い表情を見せると裏腹に、その瞳から感じられる冷淡な感情が、俺の神経を震え立たせる。 これはことりに喜ばれようが嫌われようが、どちらに転んでも危険であることを脳裏で警鐘させていた。
「酷いなぁ~蒼くん。 折角、ことりが蒼くんのためにいろいろやってきたのになぁ~………そっかぁ、まだことりのこの愛が伝わっていなかったんだね! そうなんだぁ~………ウフフフフ、それならたぁ~ぷりと教えてア・ゲ・ル♡」
艶めかしいほどに甘ったるい女の声で俺の脳に直接囁くと、不気味な笑みを含んだ淫らな表情をこちらに向けてくる。 甘く乱れた吐息が俺の顔に降りかかるくらいに近付くと、身体全体を使って俺を誘惑し始める。
――――が、それには俺の意志関係なく、半ば強制的に事実を形成させようとしているモノに過ぎなかった。 ことりのその手には、バチバチと割れるような音を響かすスタンガンが用意されていた。 先程の痺れはまさにそれだ。 それを俺に見せ付けることで脅しに掛かってきているのだろう。
だが、それでも俺は屈することはしなかった。
「ふ、ふん……折角だが、その誘いを断らせてもらうぜ………お前のそんな偽りの愛情なんかこれっぽっちも欲しくないぜ……」
「へぇ~……まだそんなことを言っちゃうんだぁ~………御仕置きだね♪」
バヂッ―――――――――――
「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
誘いを断った俺に対して、躊躇することなく突き付けられる電流に身体が強く反応する。 全身に伝わる痺れ……と言うよりか、痛みが激しく襲い掛かる。 殴り蹴られると言った外傷モノとは違って、内臓などに直接痛みが伝わるこのやり方は、耐えがたいモノがあった。
「ほらほらぁ~、早くことりのモノになってくれないと……蒼くんの身体が壊れちゃいますよぉ~?」
クスクスと笑い声さえ聞こえてきそうな様子を伺わせることりは、まだ脅しに掛かってくる。 それでも尚、俺は耐えに耐えその誘いを断り続けた。
すると、どうだろうか? 俺のこの態度に対する返答とは何だっただろうか?
それは言うまでもなく―――――――
「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
無慈悲に突き付けられる電流の痛みがその答えだった。
だめだ……このままじゃ、埒が明かない。 その前に、俺の身体が先に参っちまうかもしれないな………
全身に痛みが走り続ける中においても考え続けるが、思考が低下している中においてまともな判断など出来やしなかった。
「………はぁ……はぁ………ことり……このままじゃ、俺は死ぬかもしれないぞ……? それでも、構わないとでも言うのか……?」
すると、それを聞いたことりは一瞬だけピクッと身体を震わせてこちらを見た。
「大丈夫だよ、ちゃんと死なない程度に抑えているからね♪ それに……蒼くんはことりのモノ……ことりだけのモノ………蒼くんなしじゃ、私は生きていけないの……蒼くん無しの人生なんて、何の意味もないんだからね………♪」
微笑みながらそんなことを言うことりだったが、少しばかり余裕が無いと言うか、さっきとはまた違った表情を見せるようになったような気がした。 もしや、と思うと俺はそれを切り口としてことりの心を揺さぶりにかける。
「ことり! お前は、いつだってμ’sのために頑張ってきたじゃないか! みんなのためにと言って働いていたこともあったじゃないか! そのお前はどこに行ったんだ?!」
その言葉を口にすると、またしても反応を示そうとする。 そして、変化の無かった表情に曇りが掛かり始め、眉間にしわが寄って見えたのだ。
「あんなの偽りに決まっているじゃん! みんなのため……? みんなって誰のコト? μ’sって何のコト? それって、私から蒼くんを奪い取ろうとするヤツらのことだよね………!」
露骨に見せる嫌悪な姿勢。 これが始めて見せる拒絶反応。 こうした反応を示してくれたおかげで、ことりの心の内が段々と露見して行く様子が見てとれる。
「忘れたか、ことり! お前には、μ’sという仲間がいたことを! そして、お前はそれを穂乃果と海未と一緒になって立ちあげたことを忘れたか?!」
「ッ…………!!」
「初めは3人しかいなかったが、行動で行ったあのファーストライブを機にメンバーが増えていったじゃないか! 凛に真姫に花陽、にこに絵里に希……そしてお前を合わせた9人で一緒に活動していきたじゃないか?!」
「……………さい………」
「お前の作ってくれた衣装はどれも素晴らしかった。 お前の作ってくれた衣装が、これまでのライブを成功に導いてくれた要因だと感じている。 そして、それを作っていた時のお前の姿は、誰よりも生き生きとしていた! そんなお前に俺は惹かれていたんだ!」
「………る……さい………」
「ことり、お前は前に言ったよな、自分には何もないってさ……確かに、
「うるさいっ――――――!!!!」
ビリビリと空気を震撼させるような威圧がにじみ出ている。 どうやら、裏で見え隠れしていた感情が露見し出してきたということか。
「さっきからどうしてそんなことばかり言うの?! しつこいよ! それにどうしてことりのことを嫌っちゃうの……? ことりに魅力が無いから? それとも、私のことがそんなに嫌いだった………? そんなことないよ、だって蒼くんのことを誰よりも知っていて、誰よりも愛しているんだから、そんなことないはずだよ………」
ことりは頭を抱え出し始め、自問自答の苦悩を抱え込むことになる。 虚ろになり掛かることりには、何が正しく何が正しくないのかすらの判断もできないでいるようだった。
しかし、予想もできない状況に見舞われてしまう。
「あっ、そっか………蒼くんは騙されているんだ……蒼くんの周りにやってくる汚い女たちが蒼くんのことをたぶらかして、私から離れさせようとしているんだ………それとも、あれかな? ことりがいながらも他の女に手を出しちゃっているのかなぁ………?
あぁ、そうなんだ……だから、蒼くんの身体中から嫌な女たちの匂いがしたんだ………唇からもそんな匂いがしたよ? だって分かるもん、ことりは蒼くんのことを何でも知っているんだから、当然だもん。 あっ、でも、もういないんだもんね……みんなみんな、ことりの仕掛けた最後の罠に引っ掛かったもんね。
アハハハハハハ!!! もう、私から蒼くんを奪う人なんかいないだもんね! ことりは蒼くんの隣にずっといられるもんね!! アハハハ………アハハハハハハハハ!!!!」
トチ狂ったような叫びを上げだすと、不気味な笑いで俺を見つめ直した。 そこには、もうことりはいなかった………あるのは、ことりの姿を借りた狂気そのモノだった。
「うぐっ―――――――!!?」
すると、一瞬の不意を突かれて、俺の首を締めあげ始めた! ミチミチと締めつけ付ける音が生々しくにじみ出す中、俺は抵抗することもままならずそのまま息が出来なくなるのをずっと堪えるほかなかった。
「アハハハハハ、ねえ蒼くん。 ことりはとても怒っています。 蒼くんがことりのことをキライって言ったからですよ? そんな悪い子には御仕置きしないといけないのですよ♪」
不気味なニタリ顔で言ってくるのだが、どう見ても正気ではない。 子どものような無邪気なことを言っているようにも聞こえるが、そんなことは無い。 これこそまさに、狂気そのモノだと言えるだろうよ……
「でも、もし蒼くんが、ことりのことを『愛している。 ことりのことしか見ていられない』っていってくれたら赦しちゃうよ?」
息苦しい最中にあってのその誘い………通常ならば『はい、そうです』と言いたくなってしまう状況にあるのだが、この状況下にある中で、その通りに応えてしまえばそれこそ思うつぼだ。 どうあがいても、その先にあるのが絶望ならば、受難の道を進むしかないじゃないか………!
「………残念だが………今のお前の言う通りになんか………しないからな………!」
俺はことりの誘いを断った。
そしたら、思っていた通りに、ことりは首を絞める力を強くし始める。 息苦しさもさっきと比べてさらに強まっていた。
「しかたないなぁ……こうやってもわからないなら、わかるまでこうしちゃうからね………? あぁ、大丈夫だよ……もしも息が止まりそうになったら、私が人工呼吸で息を吹き返させますからね? あっ、そしたらキスもできるから一石二鳥だね♪」
いや、そうじゃないだろ………発想が狂っていやがる……! 息を止めると言うことは殺すと言う事、それを平然とやってしまうことに何の躊躇もないのかよ……! この手の狂気と言うのは、まさにこういうことを指すモノなのか? ホント、御免被りたいね。
しかし、ことりにそんなことをさせるわけにはいかなかった。 一度でもそんな経験を身に付けてしまえば、元には戻らなくなるだろう。 ことりのような性格の持ち主ならなおさらだ。 二度と立ち直れやしない……!
そうならないためにも、俺は…………!!
痺れる腕に力を込め始める。
一度、肉体強化で身体機能を向上させていたが、それでももの足りない部分が生じている。 では、どうするべきか?
答えは簡単だ。 さらに、能力を書き加えて身体を元の状態に戻す。 そうしなければ、どうにもならないのが現状と言ったところだろうよ。
息苦しみながらも俺は身体に念じ始める。 自らに更なる力を書き足すことを………!
ドクン―――――――――
この念じに身体は応えてくれた。
身体に痺れが無くなり、元の状態に戻ったような感覚を抱いた。
よし、これならばと確信を抱いて、首を絞めるこの腕に手をかける。 なんとしてでも引きはがしてやる! そんな意気込みを持っていた―――――――
ブツン―――――――――
「ッ――――――?!」
体内から今まで感じたことのない異変を察した。 なんだ? この感覚は……? ドロッとした……いや、何かが壊れたような……………
「ゲボッ――――――――!!!」
「ッ~~~~~~~?!!」
あ………れ…………? どういう………ことだ…………? か、からだが………いうことを…………
その刹那、異変が俺の身体を稲妻のように走り抜けていた。 まるで、俺の身体の何かが弾け飛んだみたいな……そんな感覚を抱いていた。 口元に触れてみると、手にはドロッとした真っ赤な血がこびり付いていたのだ。 どうしてこんなことが………考えてみてもわからないことだった。
そして、目の前をよく見ると、身体を真っ赤に染めたことりの姿がそこにあった。 ことりも何が起こったのかわからないような、石のように固まったみたいに思考が停止したようだ。 思考が戻った時には、ことりは…………
「あぁ………ああぁぁ…………い、いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
絶望に満ちた声がすべての音を打ち消したのだった。
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
久しぶりの吐血ですが、シリアス時の吐血と言うのは………