《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち―――   作:雷電p

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「ハァ………ハァ………ハァ…………」

 

 

 身体が軋む。

 一歩前に踏み出すごとに、痛みが襲いかかってくる。

 

 

「………もう少し………あと、もう少しでことりのとこに着くんだ………」

 

 

 これまでのことでかなりの負担を身体に与え続けてきたことへの報いだろう。 こんな時に限って……絶対にやらなくちゃいけないと言う時に限ってコレだ。 ホント、都合のいい身体だよ、まったく………

 

 

「うぐっ………あぁ……ハァ………ハァ………くそっ………」

 

 

 どっかの家の塀に寄りかかり、一先ず休ませる。 できることならば、床についてそこでグッスリと眠りに付きたいものだな………

 

 くっ……今度は頭も痛くなってきやがった………

 

 

 満身創痍ってのは、ホント、こういうことを言うのかねぇ……もう、このままぶっ倒れてしまいたいくらいだ。

 

 

 

「………だめだ……そんなのダメに決まってるじゃないか………! こんな……こんなところで諦めたら一生後悔することになる……!!」

 

 

 歯に力を込めて塀を叩く。 この手に痛みがしっかりと感じられる………

 

 そうだ、痛みだ。 今ある痛みはこんなもんかもしれない。 けど、諦めた後に受ける痛みはこんなもんじゃ済まされないだろうよ。

 

 そして、それを受けるのが俺だけじゃない………明弘、洋子、穂乃果……そして、ことりたちみんなが同じ痛みを感じることになる………

 

 それだけは、絶対にやらせねぇよ………こんな痛みを感じるのは、たった1人で十分だ………

 

 

 

 

 全身に力を込め直すと、また歩き出す。

 そんな俺を嘲笑うかのように、光一筋も見えない曇天が見下ろしていた。 まるで、希望などどこにもないと言わんがばかりの空だ。

 

 

「ふん……てめぇがそんな姿で見下ろそうが……その希望は、俺自身が突き通して手に入れて見せるさ……!」

 

 

 天高く手を掲げると、また自分に能力(負荷)を与えるのだった。

 

 

 

「これで最後なんだ………保ってくれよ………俺…………」

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

[ 南家 ]

 

 

 ようやくことりの家に付いた俺は、早速玄関の扉の前に立つ。

 通常ならば、呼び鈴を鳴らして入るのだが、今回ばかしは何も言わずに中に入らなくちゃいけない。 なんせ、相手はことりだ。 それに、今この家の中にいずみさんはいないはず………

 

 だとしたら、なおさら警戒を持たなくちゃいけいのだ。

 

 

 玄関の扉に手をかける―――――

 

 

 すると、意外なことに玄関の鍵は外れていて、簡単に中に入ることが出来たのだった。

 

 

「変だな」と一瞬感じたのだが「もしかしたら、ことりは俺が来ることを予見しているのかもしれない」と結論付けると、より意識して中に入っていった。

 

 

 

「うっ………! こ、この匂いは………!!」

 

 

 中に入った瞬間に鼻に付く甘みの強い匂い―――――感じは違えど、これは以前嗅いだあのジャスミンの花の匂い! それも、かなり強力なモノが漂っていたのだ。 思わず鼻を布で覆わせて何とか凌いでみせるが、それでもわずかに匂いが鼻の中に入ってくる。

 

 

「マズイ。 こんなところに長居していたら身体がまったく言うことを聞かなくなっちまうじゃないか……!」

 

 

 前回コレを嗅いだ時と言うのは、ことりの髪に付いていた程度の匂いに過ぎなかった。

 けれど、今回のはケタ違いだ。 花の匂いの源となる成分をギュッと圧縮したモノを直接、鼻に流し込むようなモノに等しい。 そんなモノを吸い取っちまったら、この匂いに含まれる媚薬の成分で頭が逝っちまうしれねぇんだ……!

 

 それに警戒しながら俺は、中を進んで行くのだった。

 

 

 

 1階の部屋全体を調べてみると、至る所に香を焚く機材が至る所に配置されており、順次そこから排出されているようだった。 そこで俺はこの機材の機能をすべて停止させて、一階のみを空気循環させた。

 

 しかしその際に、一瞬だけ布を外して作業を行ったために、わずかに匂いを吸ってしまったようだ。 それを吸っただけで、すぐに目眩がして倒れそうになってしまう。 まさか、ここまで強力なモノとは思わなかった………

 

 

 わずかに、力が緩んできているように感じてくるのだ。

 

 

 

 1階を検分し終えると、ようやくことりがいるだろう2階に上がっていく。

 階段を一歩一歩上がっていくごとに、あの匂いが鼻に付いてくる。 だがこれは、1階よりもさらに強力な匂いとなって襲いかかってきている! どんだけのモンを垂れ流すつもりなんだよ……アイツは………

 

 

 文句を思いつつも根源となる場所に足を運び出す。

 

 

 ことりの部屋―――――

 

 もしいるのだとしたらこの部屋に違いないだろうと踏んだ俺は、ドアノブを回して入っていく。

 

 しかし、そこにことりの姿は見当たらなかった。

 あるのは、机とベッドとそれから……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ―――――?!!! なっ?!! なんだ、これは!!!?」

 

 

 

 部屋の明かりを付けて辺りを見回したその時、目に入ってきたその光景に度肝を抜かされる!

 

 

 

 

 

 なんと、部屋の壁一面に……俺の写真がずらりと貼っているではないか…………!!

 

 それによく見たら床にも俺の写真がバラまかれているじゃないか………!!

 

 

 何だ! このおぞましい部屋の有様は?!! こんなところにいたら気が狂っちまいそうになる!!! 360°を俺に囲まれ、尚且つ、見られているんだと言う状況に、ただ震えるほかなかった。 こんな部屋にいて何が愉しい?! その神経を疑ってしまいそうになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒタッ――――――――――――――

 

 

 

「ッ………………!!」

 

 

 その刹那、背後から俺に忍び寄る影を感じとる――――!

 

 ゾッとしてしまうような威圧感――――

 

 一瞬で凍らせる氷霧のような身体―――――

 

 そして―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逢いたかったよ――――そ・う・く・ん♡」

 

 

 

 

 

 人を魅了し、その生気を吸い上げるサキュバスのような艶気の含んだ声が、俺を捉えた!!!

 

 

 

「うぐっ――――!! こ、ことり―――――!!!」

 

 

 どこから現れたのか分からないその一瞬の出来事に焦りを感じてしまった俺は、不覚ながらに隙を見せてしまう。 その隙を見逃さなかったことりは、白く透き通ったか細い腕を伸ばして、俺の身体にまとわりついたのだ!

 

 生温かい感触を全身から感じられる―――――

 

 ことりは腕だけでなく、その全身体をも使って俺の動きを封じ込めたのだ!

 片足が俺の脚に………その胴が俺の背中に………そして、その手が俺の顔に差し迫っていたのだ!! 動けない……まったく、動けないのだ………!! ことりに対しての恐怖からか? いや違う、それだけじゃないんだ。 この部屋の空気、ことりから出る妖気と狂気とが入り混じって襲いかかってきているのだ! それに、背中にピッタリと胴を押し付けてくるので、羽交い絞めのようにされているのも原因の一つと言える。

 

 

 そして、その腕、その足を見て気が付いたことがあったのだ………

 

 

 

 まさか………コイツ、何も身に付けていないのではなかろうか?! と。

 

 その思考は更なる焦りと隙を生み出させてしまう。

 

 

「ウフフフ……口にこんなモノをつけちゃって………コレ、いらないよね?」

 

「しまっ………!!」

 

 

 腕の力が緩んでしまっていたのか、口を覆っていた布をいとも容易く取られてしまい、口元が露わになってしまったのだ!

 これに危機感を感じずにはいられなかった。 この部屋に漂っているこの異様な匂いを直接感じることになってしまっては、身体の自由が聞かなくなってしまうことにも繋がるのだ! 「何とかしなくては!」と行動してみるモノの時すでに遅し―――――――

 

 

 

「うっ…………!!!」

 

 

 身体の中に、匂いが侵入し始めていたのだ。

 鼻や口から入ってくるそれが、俺を蝕み始めていく! だめだ………次第に身体の言うことが聞かなくなってくる……!! 息苦しい………気分が悪くなって………ぐうぅぅっ…………!!

 

 

 自身を制御する神経がバチバチと音を立てて切り落ちて行くような感覚を、嫌でも抱いてしまう。 俺の身体が、俺のモノじゃなくなっていくような感覚だった。

 

 

 全身から力が抜けて行くと、膝からガックリと床に付いてしまう。

 それを皮切りに、幾つもの器官と神経がことごとく俺の意識から離れて行く。

 

 

 そして、俺の身体から力が無くなった―――――

 

 

 意識だけがまだ生き続けているが、俺の意識から離れたこの身体は、もはや人形と言ってもおかしくは無いだろう。 その身体(人形)をことりは陽気な声で弄り始めるのだった。

 

 

 

「ウフフフフ……これで蒼くんをことりだけのモノにすることが出来ちゃった……♪ この大きな身体全部がことりのモノに………♡ ウフフフ……アハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

 

 歓喜に近いその声を高らかに上げている最中、とうとう俺の意識までもが浸食され始めてきたようだ。

 

 

 眠るな………留まってくれ………!

 

 そんな俺の願いも儚く、意識は段々漆黒の淵にへと沈んでいくのだった。

 

 

 

 ちくしょう………! こんなところで………終わるわけには…………!!!

 

 

 どう叫ぼうが、どう足掻こうが関係なかった。

 

 なぜなら、この身体はもう………俺のモノじゃなくなったからだ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞳から光が消え失せると同時に、彼の意識もまた、消え失せてしまった――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、蒼くん? わたしのことをどう思ってるかな――――?」

 

 

 

 そして――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だいすきだよ、ことり―――――」

 

 

 

 

 

 木偶のココロが入り込んでしまったのだった―――――――

 

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。


さて、盛り上がってまいりました()

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