《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち―――   作:雷電p

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[ エリチカの部屋 ]

 

 

 

「しかし、ちょうどいい時に来てくれて助かったな。 礼を言うぞ、亜里沙ちゃん」

 

 

 無常なる手錠による拘束から解放された俺は、手首をぐるぐる回しながら助けてくれた亜里沙ちゃんにお礼を言った。

 

 

「い、いえ……私は別に大したことをしたわけじゃないので………」

 

 

 そんな亜里沙ちゃんは、オドオドしながらもハッキリと受け答えている。

 けれど、まだこの状況の情報処理などが追い付かないのだろう。 不安そうに強張った表情を見せながら、その場から足を動かすことが出来ずにたたずんでいた。

 

 

 そんな亜里沙ちゃんの頭に手をおいた。

 

 

「大丈夫だ。 そんなに怖がる心配なんて無いさ」

 

 

 頭に触れた瞬間、亜里沙ちゃんはビクッと肩を震わせていたのだが、俺の言葉を聞いてからなのだろうか全身を覆っていた緊張が解れていくようだった。

 

 ただ、それでもその不安そうな表情を拭い去らせることはできずにいた。

 

 

 直感的に、何かを抱えているのだと感じた俺は、亜里沙ちゃんに何を心配しているのか? 最近のエリチカの様子はどうだった? などの質問を投げかける。

 

 

 

 そしたら見事に的中していた。

 

 亜里沙ちゃんの話の冒頭にまず飛び出て来たのは、彼女の姉であるエリチカのことだった。 ここ数日に掛けてのエリチカの行動や仕草と言ったものに、かなりの違和感とを抱いた。

 

 まず第一に、俺の名前が日常会話内でもかなりの頻度で飛び交っていたと言う事。 姉妹との会話の中でもそうした話題が頻繁に出てくることに、違和感を抱いてはいるようだ。 ただ、当初はとても嬉しそうにエリチカの話を聞いていたそうだ。 何せ、あの時のエリチカを助けた俺のことなのだから現在でもその株は高いままのようだった。

 なれど、さすがに限度と言うものは必要である。 事あるごとに同じことを話してくるのだから、さすがの俺だって参ってしまう。 それが亜里沙ちゃんなのだから、よっぽどだろうよ。

 

 第二に、彼女の行動がいささか不自然であると言う事。 亜里沙ちゃんから見て、最近のエリチカの姿はまるで以前の硬派な生徒会長のままだったそうだ。 一心不乱になにかに没頭し続けている姿が、類似して見えたそうだ。 ただ、以前とは感じられない余裕と笑いが常にあった、と言うことが疑問である。

 

 

 どれを取ってしても決してまともじゃない。 今では、ことりを傷つけた張本人として俺の中に刻まれている。 何とも不名誉な称号だろうか………それ故に、俺はエリチカに対して怒りを覚えてしまっている。 一度、この怒りをぶつけてやりたいと思うほどだ。

 

 

 だがそんなことよりも、どうしてこうなってしまったのだろうかと思い悩んでしまう。

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんは大丈夫なのでしょうか………?」

 

 

 悩みしかめる俺の顔を見て心配そうに声をかけてくる亜里沙ちゃん。 今回の件に関して、亜里沙ちゃんはエリチカの妹でありながらも立派な被害者だ。 自分の意図しないことが、現状にまで発展してしまったのだから彼女に非など無い。

 

 だから、安心させてあげるために彼女にやさしく撫でてあげるのだった。

 

 

「大丈夫だ。 今度もエリチカは俺が何とかしてやるさ」

 

 

 その言葉を聞いた彼女の表情に、わずかばかりの希望が見いだせたようだ。 この希望を絶やしてはいけない―――――ここに来て、また決意を固めるのだった。

 

 

 

 

 

 エリチカを探しに行くために、部屋から出て行こうと歩きだした瞬間だった。

 

 

「ん? これは………?」

 

 

 机の上に書類が散らかされてあった中に、一枚の紙を見つけ出す。

 それを手にした瞬間、違和感を覚える。

 

 何故、パソコンで作成され印刷されている書類の中で、この書類だけが手書きなのかと言う事。 それに何度も書き直した痕がいくつも見られると言う事。 そして、それを手にした時に感じた、このゴワゴワとした手触りが疑問を抱かせる。

 

 

 その紙に何度も触れ続けていたと言うことが良く分かる、そんな一枚だった。

 そんな一枚の紙の中に書かれてあるモノに目を通した。

 

 

 

 

 

「…………ッ!!? こ、これはッ…………?!!」

 

 

 その紙に書かれていたモノ―――――文章が俺の頭の中を駆け巡ると、雷が落ちてくるような衝撃が走った!

 

 つい数秒前までエリチカに抱いていた怒りが一瞬にして消え去ってしまう。 いやそうじゃない。 変わってしまったんだ―――――――エリチカを助けなくちゃいけなくてはいけないのだと言うことに。

 

 

 それほどまでに、コレに書かれてあったことは衝撃的すぎたのだ。

 

 

 

 もし、これがエリチカ本人の手で書かれたものだとしたら――――――まだ、間に合うかもしれない!!

 

 完全に閉ざされてしまっていたはずの希望へと繋がる道標がようやく見つかったような喜びを抱いてしまう。

 

 

「なあ、亜里沙ちゃん。 ちょっと確認したいことがあるんだが―――――――」

 

 

 この道標が正しいモノなのか、それを確かめるべくとあることを尋ね出す。

 

 

 

「――――――――と言う事なんだが、あってるか?」

 

「は、はい……! お姉ちゃんは絶対にそんなことを口にしていませんでした! それに、これを見てください!」

 

 

 そう言われて、亜里沙ちゃんから手渡された1枚の写真――――――これはリビングに大事に飾られてあったモノなのだと言う。 きちんと手入れがなされ、今朝もホコリをふき取ったような跡が見受けられるのだった。

 

 

「見つけたぞ―――――――最終目標地点(エンディング)がッ―――――!」

 

 

 唐突に思い浮かぶあの主人公の言葉が脳裏を駆け抜け、思わず口に出てしまう。 そんな俺を亜里沙は、ポカンと口を開けて見つめていた。

 

 

「ありがとう……これで、エリチカを助けられる…………」

 

 

 そう言い残して、俺はこの部屋から出て行く。

 先程、手にした紙をポケットの中に突っ込ませて、この家のドアを開けて外に出た。

 

 

「―――――――――!!」

 

 

 部屋の中から亜里沙ちゃんがこちらに向かって何かを叫んでいた――――――

 何のことを言っているのか分からなかったが、俺は今思っていることをそのまま返答として叫ぶ――――――

 

 

「安心してくれ! そして、キミのお姉ちゃんが戻ってくることを信じて待っててくれ―――――!!」

 

 

 この声がと届いたのだろうか。 亜里沙ちゃんは、穏やかな表情となって深々とお辞儀したのだった。

 

 

 それが彼女からのメッセージなのだと心にとめて、駆け出したのだった―――――――

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

[ 旧音ノ木坂小学校・校舎内 ]

 

 

 すでに、校舎としての機能を果たさなくなったこの廃墟に2つの影が射す。

 

 

 絵里が入って行った扉から忍ぶように入る2人は、懐かしの母校に足を踏み入れていく。

 ただそこで見たモノは、自分たちがかつて目にしていた美しく煌めいた景色ではなく、錆び付き廃れてしまった過去の思い出しかなかった。

 

 

 

「まさか……ここまで酷いとはね………」

 

 

 顔をしかめながら埃や塵まみれになった廊下を歩き始めるにこ。 至る所に散在する扉や壁の破片を踏みつけながら進んでいく。 真姫もにこを追いかけるように後ろを歩き、共に進んでいくのだった。

 

 

「ここに通っていた時は特別な思いとかなかったけど、いざこうした姿を見せられると、どうも心が痛むわね」

 

 

 亀裂が入った壁に手をなぞるようににこは語る。 その語る姿から哀愁のようなしんみりしてしまう雰囲気を感じてしまう。

 

 

「私もあまり愛着なんて感じてなんかいなかったわ。 むしろ、あまりいい思い出なんかなかったわ………」

 

 

 髪を指でいじりながら語る真姫からも同じような雰囲気を感じさせる。 ただ、その言葉自身に強く圧し掛かるモノを感じとれた。 当然、それは彼女の過去とリンクすることとなる。

 それを察したにこは「ごめんね、なんか嫌なことを思い出させちゃって」と謝る。 「別にいいわよ…」と真姫は少し申し訳なさそうに言い返した。

 

 

「以前はね、過去のことを振り返ることはあまり好きじゃなかったの。 私のせいで傷つけてしまった人のことを他の記憶と共に思い出してしまうから………ついこの間までは、過去が嫌で仕方無かったわ………」

 

 

 当時のことを振り返る真姫の表情が一段と暗くなる。 彼女にとっての過去とは、自らが犯してしまった過ちを振り返ることでしかなかった。 その過ちを長く背負い込んだために、心に突き刺さるトラウマでしかなかった。 それも、自らの命すら危ぶませるほどに酷いものだった。

 

 

「でも―――」とその一言を口にすると、彼女の表情が一新する。

 

 

「でも、蒼一と出会ったことですべてが変わっていった。 蒼一が私に希望を与えてくれた。 蒼一が過去に束縛されていた私を解放して救ってくれた。 そして今、こうして過去と向き合えるようになったわ……悪い記憶も、いい記憶も含めてね…………」

 

「そう………ならよかったわ」

 

 

 わずかに微笑みながら語る真姫の表情を見て安堵したのか、にこは綻んだ表情で応えた。 にこは真姫の過去のことを聞いていたので、すべてとは言わないが、大まかなことまでは理解できていた。 それ故に、真姫に同情したりやさしく接してあげようと気遣っていたのだった。

 

 

 

「それにしても、真姫ちゃんは本当に蒼一のことが好きなのね♪」

 

「ふふっ……それはもう、言葉では言い表せられないくらいに………ね♪」

 

「へ~、言うじゃないの? にこだって、真姫ちゃんに負けないくらい蒼一のことが好きなんだから!」

 

「うふふ、わかっているわよ、にこちゃん。 にこちゃんも蒼一のことが大好きで、特別な人なんだから」

 

「わかってるじゃな~い♪ だったら、早く何とかしなくちゃいけないわね」

 

「そうね。 絵里をどうにかしないと………絵里だって、蒼一のことが………」

 

「ええ、そうよ。 あのお硬くなってしまった生徒会長さんをかしこいかわいいエリーチカちゃんに戻してあげないといけないわね。 蒼一のためにも………」

 

 

 綻んだ表情を見せ合う2人から決意を新たに誓う緊迫した空気がにじみ出る。 彼女たちのこの強い想いの根底には、仲間のためという純粋な気持ちと自分たちが慕う人との絆とが、その強さを表していた。

 

 この気持ちが届くことが出来るためにも、2人は歩みだすのだった。

 

 

 

 

 階段を上っていくと、広い部屋のある階に止まる。

 そこはかつて、図書室と呼ばれていた部屋だった。

 

 

 そこに何かがあると直感が働き、2人して中に入る。

 外の光が差し込んできて、やや明るくなった印象だが、それでも雰囲気的な暗さは払しょくすることはできなさそうだ。 空になったいくつもの本棚が廃校になる前の状態で、ずらりと並んだままそこに置かれてあった。

 

 2人は一段一段調べていくために、2手に分かれて探すこととなる。

 それにあまり乗る気にはなれなかった真姫は反対しようとしたが、にこの強い意志に負け、あえなくその通りに行動することとなる。

 

 

 

 1人で本棚との間の道を調べる真姫。 まだ部屋の中は明るいモノの1人になってからの不安と言うものは、自然とわき出てくるモノであった。 わずかに震え始める肩に力を入れながら恐る恐る調べることに――――――

 

 空になった本棚でも反対側を確認できる吹き抜けた状態ではないため、実質1人という気持ちになってしまう。 こうした不安と言うものは、過度に恐怖を抱いてしまいがちとなるのだった――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドサッ―――――――――――

 

 

 

 

「ッ―――――――――――?!!」

 

 

 何かが倒れ込むような音がする―――――――

 

 

 真姫はその音にビクッと肩を大きく震わせた。

 

 

 

「にこちゃん………今の音はなに…………?」

 

 

 見えない本棚の向こう側にいるにこに尋ねてみる―――――――

 

 

 

 

 

「にこちゃん…………?」

 

 

 しかし、一向に返事が無い。

 

 

 

 

 

「ッ――――――!!」

 

 

 嫌な予感がする、と直感が働きだすと同時に身体が動いていた。 ゆっくり歩いていた足を急に早く動かして走りだす。 返事の無い親友のもとに一秒でも早く駆け付けたいという一心だった。

 

 数段抜けたところの床に、黒い何かが倒れ込んでいるのを目視した真姫は、息を切らせながら駆け付けた。

 

 

 

「にこちゃん!! にこちゃん!!」

 

 

 倒れ込む親友に対して、真姫はその名前を強く呼ぶ――――――だが、返事がなかった。 嫌な予感がさらに脳裏に過る。 今度は身体を揺さぶらせながら返答を待つが、それでもなお返答が無かった。

 

 焦りがじわじわと高まっていく中、今度は大胆にもにこの胸に耳を当てる。 ドクン―――――ドクン―――――という鼓動を聞いてからようやく肩の力が一旦抜けたような感じになる。 真姫の見たてではただの気絶。

 

 

 しかし、不自然すぎる。

 なぜ、倒れ込んでしまったのかがまったく分からなかった。 にこ自身に何か持病があったのならわかるが、当の本人はしたって健康体なのである。

 

 

 

「それじゃあ、一体誰が――――――――――」

 

 

 

―――――と顎に指を据えておいていると――――――

 

 

 

 

 

「ふぐぅっ――――――――?!!!」

 

 

 口元を何かに抑え付けられて呼吸がしにくくなったのだ!

 

 真姫はその場でジタバタと抵抗するも、次第にすべての感覚がマヒしていくことに気がつく。 意識も飛び掛かってしまいそうになる。

 

 全身から力が無くなっていくのを感じると、真姫はその場に倒れ込んでしまう。

 

 

 

 

 ドサッ―――――――――――

 

 

 その音は、にこのとまったく同じであることを理解すると、これを行った人物の顔がすぐに思い浮かぶ。

 

 それもありがたいことに、その人物は彼女の目の前にいたのだ―――――!!

 

 

 

 

「ゆっくりおやすみなさい―――――真姫―――――♪」

 

 

 

 ブロンドの髪をなびかせながら、絵里は意識が落ちていく真姫を見下していたのだった―――――――

 

 

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。


生誕話を書いてて、少し間があいてしまいました。

次回もよろしくです。

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